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今月の知恵<This month's Wisdom>

NYからひとこと 第5回 AI(人工知能)は悪魔か天使か (1)

知求図書館 5月7日号WEB雑誌「今月の知恵」コラム

第4次産業革命の一つとも称される人工知能(AI)開発により、我々の日常生活管理や産業生産性が飛躍的に向上した。労働代替のみならず、考える/学ぶという対応が可能となったAIは、コニュニティー・サービスや教育カウンセリングといった分野でも人間支援ができる。その一方、AIを駆使した犯罪も増加し続ける。例えば、デイープフェイクというアプリを使うと、簡単に顔や音声を組み合わせられるので、オンライン上で有名人や他人になりすますことができる。詐欺行為の犯罪に使われることも多く、その内容も巧妙化する。(日本では、ロマンス詐欺として大金を盗られた女性被害者の報道でよく知られるだろう)ウクライナ/ゼレンスキー大統領に成りすましたAIが自国兵士へ武器投棄を呼びかけたという悪質な例や、オバマ前大統領がトランプ前大統領を批判してこき下ろした模倣インタビュー配信なども報道されており、その影響力を考えると空恐ろしい。かつて、ターミネーターという映画(ロボット対人間の戦争)を初めて見た時、背筋がぞっとしたが、あのサイエンス・フィクションと思っていた世界がじわじわと迫ってくるような恐怖感すら覚える。このまま技術革新が進めば、4百万人もの仕事がAIに奪われるだろうと、フォーブス誌でも報道された。日進月歩の様を示すAI技術開発であるが、果たしてAIは人間にとっての悪魔なのか、あるいは天使となるのか。

AI技術が日常生活に取り込まれてからすでに数年が経過しており、我々は知らないうちにその恩恵を日々受けている。スマートフォンが最もよい例であろう。Siri, Alexaといった会話対応型のAIが搭載されており、様々な要望に応えてくれる。スケジュール管理、E-Mailの下書き、外国語の翻訳、部屋の電気消灯などもできる。デジタル・アシスタントすなわちパーソナル・アシスタントと言える。技能開発は年々高度化し、Chatbotと言われるAI機能では、店頭での接客や受付、電話での問い合わせなど、幅広くかつ的確に対応できるまでに向上した。オンラインバンキング詐欺を防止する為、不明な出入金をすぐに教えてくれたり、届いたメイルがスパム(迷惑・誘導詐欺メイル)がどうかもチェックして知らせてくれたり、車の運転では、道路状況に合わせてライトやスピードも即時に調整してくれたりなど、AIに頼っている消費者も増え続ける。

Open AI社は、2022年にChatGPTを発表したが、稀にみる速さで世界中に普及している。今年4月には、GPT-4版の日本語カスタムを目玉商品にアジア拠点第1号として日本支社も設立された。アジア市場販路拡大をターゲットとしているという。ChatGPTを使うと、様々なリクエストにAIが即時に対応し、アルゴリズム的に解説してくれる。例えば、学生にとっては、宿題やレポート作成が容易にできてしまう。その為、カンニングや論文コピーに使用するなどの行為が後を絶たない。学生の約半数近くが、ChatGPTをすでに使っているともいわれ、アプリ使用禁止としている学校も多いが、高等技術の習得だとして推奨しているクラスもあるという。訴訟資料に実例でない判例をChat GPTで偽造した(米国民事裁判での実例)という例は行き過ぎであるが、ITシステムエンジニアが、バグの処理やプログラミング開発に使うなど、その使用頻度は専門家の間でも日常化してるのだから、もはや人間とAIの共存と言えるだろう。

AI技術革新を受けて飛躍的に進化した分野も多い。特に、医療システム、ソフトウエア開発、軍事産業での発展がめざましいとされる。例えば、新薬開発や有毒バクテリアへの抗生物質を製造するには、これまで膨大な数の物質検査や臨床が必要であったが、AIを使うことで時間の大幅短縮が可能となった。CAT Scanや MRIといった機器を使えば、細部に潜在する病気の発見も可能である。BIO分野では、遺伝子レベルで病気の発症源を探る研究にも活用されている。AI技術のお陰で、人間の命を伸ばすことすら可能となったのだ。カルテの即時保存/共有化がさらに進化すれば、遠い外出先や緊急時でも必要な手当てがすぐに受けられる。街角でも気軽にAIドクターが医療アドバイスを答えてくれる。キオスクで治療薬や医療機などが即時に購入できたり、インスタント写真ブースのような設備でレントゲン検査が受けられる、そんな時代も間もなくやってくると言われている。

ソフトウエア面での開発進化も目覚ましい。コロナ蔓延以降、オンライン会議は常識化したが、今後はバーチャルオフィス(仮想オフィス)へアバターが出社する、本人はリモートで仕事しながら、仮想空間でアバターを通して同僚とも即時コミュニケーションをとる。そんな風にどこからでも「出社する」ことが可能となり、世界の距離感はさらに短くなるとも予測されている。

軍事面でのAI革新も進化し続けている。ドローンやロボットを使って危険地域を探索するのはもちろんであるが、戦略オペレーション、侵攻ルート、環境破壊の度合いなども即時にシミュレーションできるという。合理的で無駄がなく、犠牲者を最小限に留めることにも役立つ。しかし裏を返せば、それは高性能な戦闘能力でピンポイント対象攻撃が可能になったことでもあり、高性能ドローンが潜入不可能とされていた場所でも侵攻できるようになった事をも意味する。合理性と危険性が表裏一体で進化しているとも言えるのだ。

人間の延命に役立ったりとプラス面も多いAI開発であるが、犯罪や戦争に悪用されるという側面も同時に進行する。しかしながら、そういった悪用の結果、責任をとらされるのは人間の方であり、ロボットやAIではない。開発と使用には、確固たる基準、法的規制、倫理判断/制限が必須となるだろう。人間の管理能力や判断力が問われる側面でもある。AIによるフェイクニュースが巷にあふれているのも事実だが、フェイクか否かを見極める力も重要である。幼児期から、紙の本ではなくコンピューターで勉学してきた現代の若者たちは、自分の目や頭や時間を費やして検索するという行動が身についておらず、即時に答えが見つかるインターネット情報に頼りすぎたり、情報を鵜呑みにしやすいとも言われており、いわゆるZ世代ならではの問題点として指摘されている。

武田鉄矢さんが、「三枚おろし」という書籍紹介トーク・ショウをYou Tubeで配信しているが、その中で面白いコメントをされていた。AIにできないこと、それは、「間違った解釈」というものである。AIは膨大な量の知識を蓄積されたアルゴリズムと言えるが、そのミッションは、ベストアンサーをいかに早く導くかである。逆の見方をすれば、人間だけが持つ、少し的を外れた解釈や考え方、第六感的な意識などというものは搭載されていない。しかし、道の外や一見関係無いような場所に代替え案や突破口があったりするのは、我々(特に年齢を重ねた人々)には周知の事実でもある。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が、生前、スタンフォード大学卒業生に向けてスピーチを行ったが、その中で引用した有名なフレーズがある。“Stay Hungry、Stay Foolish”、貪欲なまでに物事を見たり経験する、愚かなように見える道でも自らの力で追及し続けることが大事、というものである。紆余曲折が多く、時には奇人扱いもされた、今世紀最大の発明家とも称されるジョブズ氏であるが、自らの経験から、いかなる過去の「寄り道」も自分には然るべき必要な道であったとも語った。果たして、こんな「寄り道」は、今のAIにできることだろうか。

(書籍紹介):Tomorrow's Artificial Intelligence 【2023年7月初版】
(書籍紹介):Tomorrow’s Artificial Intelligence (仮題:AIの明日)Kindle 書籍【2023年7月初版】

A futurist’s Guide to Understanding & Harnessing the AI Technology that is Shaping our World (副題) 世界に広がるAI技術を熟知して自分の片腕のように使いこなすガイド

本書は、現在のAIが持つ技術を一つずつ項目ごとに説明しながら、それぞれの分野でどのように最大活用されているかを、初心者にもわかりやすく解説する。AIとは何かという基本理論から学びたい人や、コンピューター・サイエンスを学ぶ学生の副教材としても適切と思われる。現在のAI にできること、そのキャパシティーを解説しながら、将来どのようにAIと向き合い関係を築いていくべきかという点に筆者は注目する。AIが対応できる限界、ダークサイド(負に転じる可能性)や背徳的な面も解説しながら、AI技術をいかに最大限に利用することが可能なのか。本書は、肯定的な目線からAIとの共存を説いている。また、本書には、現在市場に出回るAI搭載のアプリ名も多く記載されており、その数の多さに圧倒された。まさしく日進月歩の分野である。

(著者紹介):Kris Ball

システム・エンジニア。AIエキスパート。エンジニアとして、医療業界で長く働いた経験を持つ筆者は、AI技術開発がどのように医療システム改革に貢献したか、身をもって体験してきた。AI開発による恩恵がいかに人間生活向上に役立ってきたのか。という肯定的な面を解説する一方、AIが対応できる限界やダークサイド(負に転じる可能性)も指摘する。AIは人間が作ったものであり、その暴走に歯止めをかけられるのも、また人間である。何しろ、AIは、意志や感情を持たないロボットであり、数式やプログラムされたコードの集積であり、単なる道具なのだ、とも筆者は言い切る。AI技術をただ怖がって、悪用される面ばかりを強調するのではなく、AI技術をいかに最大限に利用することが、後世の人間にも役立っていくのかを分かりやすい文調で説いている。

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谷口知子
バベル翻訳専門大学院修了生。NY在住(米国滞在は35年を超える)。米国税理士(本職)の傍ら、バベル出版を通して、日米間の相違点(文化/習慣/教育方針など)を浮彫りとさせる出版物の紹介(翻訳)を行う。趣味:園芸/ドライブ/料理/トレッキング/(裏千家)茶道/(草月)華道/手芸一般。