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米国ブックショーへ:ブックエキスポからの進化

アメリカの出版業界にとって長らく中心的なイベントであった「ブックエキスポ・アメリカ」(BookExpo America、BEA)は、1947 年にアメリカ書店協会コンベンション & トレードショーとして始まり、1995 年にブックエキスポ・アメリカと改名されました。この展示会は、多くの出版社、著者、書店員、図書館員が参加する主要な業界イベントとして、出版業界に多大な影響を及ぼしてきましたが、2020 年、新型コロナウイルスのパンデミックの影響により開催が中止となりました。ちなみに、ブックエキスポの運営会社であるリードエグジビション社は、東京国際ブックフェアやフランスのサロン・デュ・リーブル(Salon du Livre)など、他の大規模イベントも中止しています。

アメリカは世界最大の英語出版市場です。ブックエキスポが消滅したあと、その後継イベントとして、2021 年に「米国ブックショー(US Book Show)」が Publishers Weekly によって新たに立ち上げられました。Publishers Weekly は、1872 年に創刊されたアメリカの週刊雑誌で、出版業界の国際的なニュースプラットフォームです。このイベントは、最初の二年はオンラインでの開催となりました。三回目となる昨年 2023 年には、サラ・ジェシカ・パーカーらの有名人をゲストに迎え、ニューヨークの会場とオンラインとのハイブリッドイベントとして実施されました。

今年の米国ブックショーは、2024 年 5 月 22 日、ニューヨーク市のニューヨーク大学キンメルセンターで開催されました。歴代 CEO や現職の社長、大学院生、エージェント、出版社、メディアなど、出版業界の幅広い層が参加した今回のイベントは、Publishers Weekly とアメリカ・リテラリー・エージェント協会(AALA)との協力により開催されました。

イベントでは、サイバーセキュリティ対策のためのコスト増加、オーディオブックの将来性、新しい才能の発掘や書籍シリーズの維持といった課題について多くの議論が交わされました。特に人気の高かった若手出版関係者向けのセッションでは、業界でのキャリア形成やトレンドの把握、ハイブリッドワーク環境でのネットワーク構築、燃え尽き症候群の防止についてアドバイスが共有されました。また、出版業界のリーダーシップや個人的資質について議論するパネルも人気でした。今回特に論議の焦点となったのは、AI 技術の出版業界への影響です。出版社の経営者らは、AI が著作権侵害や仕事の喪失という問題を引き起こす可能性がある一方で、業務の効率化や新しい創造的な可能性を開くとも指摘しています。この一日は、有意義なセッションとディスカッションで構成され、参加者にとって非常に有益なものでした。

米国ブックショーは、主に北米市場に焦点を当て、出席者の大部分が業界関係者です。一方で、同じ英語圏の書籍イベントとして有名なロンドンブックフェアは、国際的な権利売買に焦点を当てたグローバルイベントであり、その性質が異なります。米国は世界最大の出版市場でありながら、大規模かつ国際的なブックフェアが不在というのは不思議ですが、そもそも米国は国内の市場規模が圧倒的に大きいため、海外から人を呼び寄せる必要がそれほどないという事情があるようです。また、米国は、デジタルプラットフォームを通じた出版物の販売やマーケティングが特に活発であり、物理的なイベントに依存する必要が減少していることも理由の一つと考えられます。そのような状況を考えると、ロンドンブックフェアのような国際的なイベントではないにせよ、世界最大かつ最も影響力のある英語出版市場の中心地であるニューヨークに、出版関係者が実際に意見を共有し、新たなアイディアや情報を交換する場が存在することは、それだけでも業界にとって大きな意味を持つのではないでしょうか。

米国ブックショー(U.S. Book Show)

2024年 5 月 22 日開催
https://usbookshow.com/

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