
世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第79回
アメリカ書籍レポート - 8月
「この夏に読みたい一冊」書店の特集コーナー
柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)
8月に入り、夏休み真っただ中ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
書店では「この夏に読みたい一冊」と題した特集コーナーが設けられ、ビーチや旅行先、あるいは自宅でゆっくり楽しめる作品が数多く紹介されています。子ども向けから大人向けまで幅広いジャンルの書籍が並び、夏休みならではの読書を後押しする工夫が随所に見られます。
Barnes & Nobleでも毎年恒例の子ども向け「Summer Reading Journal」が実施されており、読書ログを完成させると無料で本が1冊もらえる読書チャレンジが開催されています。読書の習慣づくりを後押しする取り組みとして親しまれており、夏休み中の書店は多くの親子連れでにぎわっています。
さて、今回は、Amazon、Barnes & Noble、そして The New York Times の各ベストセラーランキングの中から、注目の書籍をご紹介します。
Angel Down (2025)
著者:ダニエル・クラウス(Daniel Kraus)
出版社: Atria Books
邦訳:なし
作品について:
第一次世界大戦の壮絶な戦場を舞台に、人間の本性と希望を描く歴史ファンタジー小説。主人公シリル・バガー二等兵は、瀕死の戦友を安楽死させるという危険な任務を命じられ、4人の兵士とともに激戦地「ノーマンズランド」へ向かう。しかし彼らがそこで出会ったのは、砲撃によって地上へ墜ちた一人の天使だった。戦争を終わらせる力を秘めたその存在を前に、兵士たちは協力しようとする一方で、嫉妬や欲望、恐怖に支配され、次第に互いを疑い始める。戦場の極限状態の中で、人間の善悪や信念、仲間との絆が鋭く問われていく。リアルな戦争描写と幻想的な設定を融合させ、サスペンスと人間ドラマを重厚に描いた、映画のようなスケール感を持つ話題作である。
著者:
ダニエル・クラウスは、ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー作家。本作品『Angel Down』で2026年ピューリッツァー賞(フィクション部門)を受賞したほか、『クジラに落ちた男』(原題Whalefall、佐田千織訳、東京創元社 2026年9月)は全米図書館協会アレックス賞を受賞し、映画化もされています。ギレルモ・デル・トロとの共著『シェイプ・オブ・ウォーター』原題THE SHAPE OF WATER、阿部清美訳、竹書房文庫 2018年3月)や、Netflixで映像化もされた『Trollhunters』(2015)などでも知られる。彼の作品は25以上の言語に翻訳されている。
Shameful Silence:
What You Don't Know About Domestic Violence (2026)
著者:アレクサンドラ・ロザノ(Alexandra Lozano)
出版社:Wiley
邦訳:なし
作品について:
「DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者は女性」という固定観念に一石を投じるノンフィクション。本書では、人権弁護士であるアレクサンドラ・ロザノが、16年以上にわたりDV被害者を支援してきた経験をもとに、これまで見過ごされてきた「男性へのDV」の実態を明らかにする。
暴力は殴る・蹴るといった身体的なものだけではない。ガスライティング(心理的操作)、経済的支配、親子関係の引き離し、虚偽の告発、さらには親権争いや移民制度を利用した支配など、目に見えにくい精神的・社会的虐待が、被害者の尊厳や人生を少しずつ蝕んでいく。本書では、実際の被害者の証言や最新の研究、法的知見を交えながら、男性が声を上げにくい背景や、支援制度に存在する課題についても詳しく解説する。法制度や司法、医療現場に残る偏見や課題にも踏み込み、被害者が適切な支援を受けられる社会の実現を提言する。DVに対する従来のイメージを問い直し、「すべての被害者が声を上げられる社会」とは何かを考えさせる一冊である。
著者:
アレクサンドラ・ロザノは、米国内有数の移民専門法律事務所の一つであるAlexandra Lozano Immigration Lawの設立者であり、人道的移民法を専門とする米国の弁護士である。17年以上にわたり、DV被害者や社会的弱者の支援に尽力し、女性に対する暴力防止法(VAWA)や人身売買被害者向けビザ制度を活用して、多くの人々の権利回復と生活再建を支えてきた。ポッドキャスト活動、若手弁護士の育成にも取り組んでいる。
Keto Flex Revised (2026)
著者:ベン・アザディ (Ben Azadi)
出版社:Hay House Inc.
邦訳:なし
作品について:
ケトジェニック食事法(ケト)と断食(ファスティング)を活用し、体本来の代謝機能を整える「代謝の柔軟性(メタボリック・フレキシビリティ)」を高めるための実践ガイドである。著者ベン・アザディは、ケトを厳格な食事制限ではなく、健康状態や生活スタイルに合わせて取り入れることのできる柔軟な健康ツールとして提案している。
本書では、脂肪燃焼を促す食材の選び方や、体の炎症につながる可能性のある食品を避けるポイントをはじめ、ケトジェニックとファスティングを効果的に組み合わせる方法を解説。さらに、女性やアスリート、血糖値やホルモンバランスに課題を抱える人など、それぞれの体質や目的に応じた実践法も紹介している。
最新の研究をもとに、代謝の仕組みを理解しながら、自分に合った食生活を築くための具体的なプランや50種類以上のレシピを掲載。無理な制限や一時的な減量ではなく、健康的で持続可能な体づくりを目指す人に向けた実用的な一冊である。
著者:
ベン・アザディは、健康・代謝改善分野で活動する専門家。2008年、自身が肥満や健康上の問題を抱えていた経験から、約36kgの減量と代謝機能の改善を達成。その経験をもとに、Keto Kampを創設し、より多くの人が健康的な生活を送れるよう支援する活動を続けている。健康業界で16年以上の経験を持ち、Amazonベストセラーとなった4冊の著書を執筆。国際的な講演者としても活動し、各種メディアで紹介されている。
SLEEPLESS (2026)
著者:ゴードン・コーマン(Gordon Korman)
出版社:Wiley
邦訳:なし
作品について:
『リスタート』(原題Restart、千葉茂樹訳、あすなろ書房 2019年)の著者、ゴードン・コーマンによる、中学生たちを主人公にしたティーン向け小説。
「一日があと8時間あったら、何をしますか?」──そんな夢のような出来事が、ある日突然5人の子どもたちの身に降りかかる。ミッキー、スカイ、レヴィ、サイラス、テアは、なぜか眠る必要がなくなってしまった。家族や友人には秘密にしたまま、増えた時間を勉強や趣味、特技の練習に使い、それぞれが理想の自分を目指していく。しかし、自分だけに起きた出来事だと思っていた彼らはやがて出会い、この不思議な現象には大きな秘密が隠されていることに気づくことになる。そして、その原因が突然消えてしまい、5人の日常が非日常へと大きくシフトしていく。
「時間がもっとあれば幸せになれるのか」という誰もが一度は考えるテーマを軸に、友情や家族、自分らしさについて描いた、ユーモアと謎解きが楽しめる青春ファンタジー。
著者:
ゴードン・コーマンは、7年生(日本では中学1年生ごろ)に学校の課題として書き上げた小説『This Can’t Be Happening at Macdonald Hall』を出版社Scholasticに送ったところ、実際に9年生(日本の中学3年ごろ)に出版され、作家デビュー。これまでに、児童・YA向け作品を100冊以上手がける人気作家である。代表作には、ユーモアあふれる中学年向け小説『Macdonald Hall』シリーズや『I Want to Go Home』『Slacker』などがあり、世界中の若い読者から支持されている。カナダ・モントリオール生まれで、現在は家族とともにニューヨーク在住。
柴田きえ美
カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を学ぶ。これまでに日英・英日両方を含め7冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得。現在は、BTCで翻訳プロジェクトマネージャーとして翻訳に携わっている。
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