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第 15 回 世界のブックフェアー

2025年香港ブックフェア

香港ブックフェアは1990年に始まり、毎年7月に開催されるアジア有数の文化イベントとして知られています。読者層を重視した一般向けの大型フェアであり、会場には書籍販売を中心に、講演、サイン会、展覧会、トークショーなど、多彩なプログラムが展開されます。中国本土の北京国際ブックフェアが出版権の売買や業界向けの国際交渉を中心としたビジネス色の強いイベントであるのに対し、香港ブックフェアは、広東語・英語・中国語の三言語文化が交差する独自の読書文化を背景に、一般読者との双方向的な交流を重視してきました。また、都市型で洗練された運営スタイルや国際的な作家・出版社の参加も特徴で、香港という国際都市の文化的側面を象徴する催しとして発展を続けています。

 第35回香港ブックフェアは、7月16日に開幕してから一週間、22日に閉幕しました。今回のブックフェアは、会期中に台風に見舞われ、20日は、多くの来場者が見込まれる日曜日にも関わらず、終日全館休業を余儀なくされました。その影響もあって、来場者数は、当初予測された100万人を下回る約89万人にとどまり、前年の99万人から、約10パーセントの減少となりました。一方、出展社数は、770社以上と、前年の760社からわずかに増加しました。

 今年のフェアのテーマは「食文化と未来の暮らし」。会場では、食と本を組み合わせた体験型展示「Book a Table, Food for Thought」が注目を集めました。この展示では、8人のアーティストと各国領事館が協力し、8つのテーマを掲げたテーブルに関連書籍やオブジェが展示されました。来場者は簡単な質問に答えて、AIによるパーソナリティ診断を受け、その結果に応じて、推奨される本や展示作品が紹介されるという趣向が人気を博しました。

 会場では、香港や中国本土、日本、東南アジアなどからの作家たちが登壇する講演やサイン会が開催され、いずれも盛況のうちに終了しました。特に、フィリピンのマルガ・オルティガス(エッセイ集『WTF?! Woman Turning Fifty』)、韓国のSF作家キム・ボヨン(短編集『On the Origin of Species and Other Stories』)、韓国のチェォン・ソンラン(小説『The Story of Three Per Cent』)、香港のノリス・ウォン(小説『The Lyricist Wannabe』)、日本の九段理恵(AI共著小説『Sympathy Tower Tokyo』、原題『東京都同情塔』)の講演や朗読、展示が来場者の注目を集めました。

 台風という困難を乗り越え、来場者や出展者の期待に応えた今回の香港ブックフェアは、出版を単なる商業活動にとどめず、「知」と「暮らし」の接点として再構築する意欲的な試みでもありました。多言語・多文化が交錯する中で、香港が今後アジアにおける出版と読書の拠点としてどのような発展を遂げるのかが注目されます。

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