2025年2月22日 第358号 World News Insight (Alumni編集室改め) Japan Opportunity バベル翻訳専門職大学院 副学長 堀田都茂樹
現代の政治は大きな変革を迎えています。トランプ大統領の再選と政策転換は、国際社会の既存の枠組みを揺るがし、新たな時代の兆しを示しています。「アメリカ・ファースト」の理念のもと、長年影響力を持ってきた国際金融組織やグローバルな権力構造(以下、DS)が揺らぎ、政治・外交・社会に変化の波が広がっています。
フォーブスの阿部修平氏の記事「歴史の周期的な波間に『日本のチャンス』が見えるートランプの時代」に基づき、歴史の流れとその中での日本の可能性について考えてみます。
阿部氏は、歴史は「統合」と「分裂」を約40年ごとに繰り返すと指摘しています。その背景には「富の偏在」があり、経済の歪みが大きくなると社会は統合へと向かい、統合が成熟すると新たな格差が生まれ、分裂が進むのだそうです。
例えば、明治維新(1868年)は統合の例として挙げられます。幕末には石高制度が機能しなくなり、多くの藩が財政難に陥る中で、明治政府に統治を委ねる形での再統合が行われました。同じように、第二次世界大戦後の1945年にはブレトンウッズ体制が確立し、米ドルを基軸通貨とする国際経済の秩序が整いました。しかし、1971年のニクソンショックによってブレトンウッズ体制は崩壊し、新たな経済的不均衡が生まれました。
冷戦終結も、経済格差を背景とする統合と分裂の波の一環だったと言えます。東西冷戦の終わりは、単なるイデオロギー対立の解消ではなく、経済の歪みを是正する動きでした。ベルリンの壁が崩壊した1989年は、その象徴的な出来事のひとつです。
1980年代、阿部氏がニューヨークで働いていた頃、ドナルド・トランプ氏は不動産王として成功していました。しかし、当時は彼が大統領になるとは誰も考えていなかったそうです。トランプ氏が政治の中心に立つようになった背景には、アメリカ国内での富の偏在が拡大したことがあると指摘されています。
近年、アメリカでは最上位1%の富裕層が全所得の20%以上を占める一方で、下位50%の人々の所得割合は20%から10%に減少しました。この変化の要因には、産業構造の転換があります。戦後のアメリカは自動車製造などの工業化を進め、世界経済のリーダーとなりました。しかし、製造業は日本や中国へ移り、アメリカは「川上」産業へとシフトしました。その結果、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)が台頭し、デジタル経済の中心を担うようになったのです。
しかし、デジタル産業は高い収益を生み出すものの、雇用を生み出しにくいという側面があります。そのため、アメリカ国内では格差が拡大し、中間層が衰退していきました。この富の偏在が、トランプ政権誕生につながったと阿部氏は分析しています。
現在、アメリカと中国は関税障壁を設けて経済戦争を繰り広げています。こうした状況の中で、日本には成長のチャンスが広がっています。特に、環境技術と産業用ロボットの分野では、日本が優位に立つ可能性が高いと考えられます。
環境技術では、日本政府が「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を構築し、中国を除くアジア各国やオーストラリアと連携を進めています。この取り組みにより、日本企業は環境技術やシステム構築に関して各国とMOA(基本合意書)を締結し、脱炭素技術の分野で主導的な立場を築いています。
また、日本は産業用ロボットの生産でも世界をリードしています。世界の産業用ロボットの5割以上を日本が生産しており、人口あたりの稼働台数も世界1位を誇ります。さらに、ロボット関連の特許出願数は世界2位であり、技術的な優位性を持っています。
特に、OECD各国では生産年齢人口の減少が進んでおり、労働力不足が深刻化しています。このような状況の中で、産業用ロボットの需要は急速に高まっています。さらに、アメリカのように製造業を縮小した国が再び製造業を活性化させようとする際には、ロボット技術が不可欠となります。
統合と分裂を繰り返す世界の歴史の中で、日本の強みが発揮されるチャンスが訪れています。環境技術と産業用ロボットは、日本が世界市場でリーダーシップを握れる分野であり、今後の成長の鍵を握ることになりそうです。歴史の流れを理解し、次の成長フェーズに向けた戦略を立てることが、日本にとって重要になってきます。
阿部 修平(あべ・しゅうへい):1989年にスパークス投資顧問(現スパークス・グループ)を設立し、代表取締役社長に就任(現任)。2012年より国際協力銀行(JBIC)リスク・アドバイザリー委員会委員を務める。