
AI時代の翻訳者・7つの使命
―― Translation is Wisdom Sharing
バベルは1974年の創業以来、「翻訳とは何か」を問い続けてきました。
創業期には、翻訳を Language Transfer ――言語の変換として捉え、『翻訳の世界』を刊行し、「翻訳文法」の体系化に取り組みました。
その後、翻訳を Communication ――伝えることへと広げ、Plain English、Plain Japaneseなど、「どう訳すか」だけではなく、「どうすれば本当に伝わるか」を追究してきました。
その集大成として、米国に連邦政府認証の Babel University Professional School of Translation を設立しました。
創業40年を越え、私たちは翻訳をさらに大きく捉え直しました。
翻訳とは、人間が経験と思索を通じて生み出した思想、知見、物語、発見 ―― Wisdom を、言語、文化、国境、時代を越えて分かち合う営みです。
創業から50年を越えた今、生成AIが急速に発展する時代を迎え、さらに問い直す必要があります。
「翻訳者は何のために存在するのか」
AIが「訳す」ことのできる時代だからこそ、人間の翻訳者には新しい使命があります。
ここに、バベルが考える「AI時代の翻訳者・7つの使命」を提唱します。
第1の使命 My Domainを持つ
――「何を世界に伝えたいのか」を決める
これからの翻訳者は、単に「英語を日本語に訳せる人」「日本語を英語に訳せる人」であってはなりません。
まず、「何に関心を持って生きてきたのか」、「どの分野のWisdomを世界に届けたいのか」を問い、自らの My Domain を持つことです。
文学、医学、心理、教育、哲学、歴史、科学、技術、経営、環境、芸術――。
一つでも、複数でも構いません。
翻訳者の専門性とは、言語だけではありません。
この掛け算によって、その人にしかできない翻訳が生まれます。
さらに、一つのDomainに閉じこもらず、異なる領域との接点を探すことで、新しい視点や価値を生み出すことができます。
第2の使命 Wisdomを探索する
――Book Hunterになる
My Domainを定めたら、世界に存在する価値あるWisdomを自ら探します。
翻訳の仕事が来るのを待つのではありません。
世界中の書籍、論文、記事、映像、講演、アーカイブを探索し、「これはまだ知られていない。しかし、多くの人に届ける価値がある」というものを発見する。
翻訳者は、受注者から Book Hunter、Wisdom Hunter へと変わる必要があります。
同時に、「何が価値あるWisdomなのか」という既存の評価基準そのものを疑い、これまで見過ごされてきた価値を発見する。
それも、これからの翻訳者の仕事です。
第3の使命 Authorを発見する
――Book HunterからAuthor Hunterへ
しかし、本以上に重要なのは、その本を生み出した人です。
一冊の優れた本の背後には、一人の人間が長年にわたって考え、経験し、研究してきた世界があります。
だから翻訳者は、「何を訳すか」だけでなく、「誰を世界へ紹介するか」を考える必要があります。
著者の思想、人生、他の著作、研究、人間的背景まで理解する。
一冊を翻訳して終わるのではなく、その著者が築いたWisdomそのものを世界へ届ける。
翻訳者は、Book HunterからAuthor Hunterへと進むのです。
第4の使命 AIと共創する
――問いと答えの往復から、新しい答えを創る
AIによって、翻訳者一人ができる仕事の範囲は大きく広がります。
著者や作品の探索、背景調査、市場分析、翻訳案の比較、用語整理、文章の推敲まで、AIは多くの工程を支援できます。
しかし、AI共創は、AIを便利に使うことだけではありません。
AIの最初の答えを最終回答にせず、「なぜそう考えるのか」、「逆ならどうなるか」、「この前提をなくしたらどうなるか」、「別の分野と組み合わせたらどうなるか」と問い続ける。
人間が問いを変えればAIの答えが変わり、その答えによって人間の発想も変わります。
その往復から、最初には存在しなかった新しい答えを創る。
それが、AI時代の共創です。
第5の使命 翻訳する
――言葉ではなくWisdomを訳す
翻訳者の核心にある仕事は、やはり「翻訳」です。
しかし、ここでいう翻訳とは、単なる言葉の置き換えではありません。
著者が何を考え、何を読者へ届けようとしているのか。
その意味と文脈、その背後にあるWisdomまで受け取り、別の言語の読者に届けることです。
AIが高精度な訳文を生成できるようになればなるほど、人間の翻訳者には、「この訳文は、本当に著者のWisdomを伝えているのか」を判断する力が求められます。
だからこそ、翻訳文法、言語力、読解力、専門知識、そして何より深く読む力は、AI時代にも失われません。
むしろ、その重要性は増していきます。
第6の使命 文化に合わせて編集・核新訳する
――「訳す」から「届く形にする」へ
正確に訳したからといって、そのWisdomが伝わるとは限りません。
言語が違えば、文化も、歴史も、社会常識も、読者の関心も違います。
だから翻訳者には、必要に応じて、翻訳だけでなく編集、選択、構成、表現を統合する力が求められます。
場合によっては、原典の思想的核心を変えずに、構成、説明、表現、提示方法を再設計する「核新訳」も必要でしょう。
原文と言語の両方を深く読んできた翻訳者だからこそ、何を守り、何を変えるべきかを判断できます。
原典のWisdomを守りながら、新しい文化の中で「生きる形」にする。
そこまでが、AI時代の翻訳です。
第7の使命 世界へ届ける
――Domain Evangelistになる
翻訳して原稿を完成させただけでは、Wisdom Sharingは完了していません。
- 出版する。
- 電子書籍にする。
- Webで発信する。
- 講座にする。
- 映像や音声にする。
- SNSで紹介する。
- 読者コミュニティをつくる。
翻訳者は、翻訳したWisdomが必要な人へ届くところまで担うのです。
本や出版という既存の枠にとらわれず、そのWisdomに最もふさわしい届け方を考える。
こうした新しい翻訳者を、
と呼びます。
Domain Evangelistとは、自らの専門領域から価値あるWisdomを発見し、翻訳し、文化を越えて社会へ届ける翻訳者です。
AI時代の翻訳者・7つの使命
-
My Domainを持つ。
何を世界に伝えたいのかを明確にする。 -
Wisdomを探索する。
世界に眠る価値あるWisdomを自ら発見する。 -
Authorを発見する。
本だけでなく、そのWisdomを生み出した人を見つける。 -
AIと共創する。
問いと答えの往復から、新しい答えを創る。 -
翻訳する。
言葉だけではなく、著者の思想と、その背後にあるWisdomを翻訳する。 -
文化に合わせて編集・核新訳する。
原典の核心を守りながら、異なる文化・時代の読者に「届く形」へ変換する。 -
世界へ届ける。
翻訳したWisdomを、最もふさわしい形で社会へ届ける。
この7つを実践する翻訳者を、
と呼びます。
翻訳者とは、人類のWisdomの循環を担う人である。
人類が生み出したWisdomを発見し、翻訳し、文化を越え、時代を越え、次の人へ、次の文化へ、次の世代へ手渡していく。
それが、AI時代の翻訳者に託された使命です。

























