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東アジア・ニュースレター

海外メディアからみた東アジアと日本

第187回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 

中国が国内格付け機関による格付け評価に対する規制を強化し始めた。2021年の不動産開発大手エバーグランデの破綻事件以来、中国の格付け評価への批判が絶えなかった。ただし、市場関係者は当局の基準が不明確だと懸念を表明している。行政命令だけで、一夜にして事態を是正できるものではなく、行政指導の帰趨を見守る必要がある。

台湾包囲網を中国が強化している。海峡を行き来する任務を担っていた中国軍艦は長年の間、わずか1隻だったが2020年の台湾総統選で民進党の蔡英文総統が再選されると静かに、しかし決定的な形で変化が起きた。中国軍は今や航空機や艦船の展開、偵察、パトロールを常態化させているとメディアが伝える。

韓国の人工知能(AI)分野での驚異的ブームが「持てる者」と「さらに多く持つ者」へと分断させているとメディアが伝える。この現象を新ボーナス文化と呼び、目に見えにくいものの深刻だと訴え、「公平性」や「成功した人生」に関する既存の考え方を覆していると報じる。世界各地で起こりえる脅威のストーリーではないかと思われる。

北朝鮮が核濃縮能力の大幅増強を目指して寧辺核施設を拡張し、核濃縮に加え5メガワットの原子炉、再処理施設、そして比較的新しい軽水炉での活動を活発化している。肝心の中国も事態を黙認する姿勢を示しており、事態に対処可能な先として考えられるのは予測不可能な動きをするトランプ米政権のみという危機的状況にある。

東南アジア関係では、シンガポールが貴金属の世界的な取引ハブとしての地位を確立しようとしている。このため金の店頭清算システムを導入し、他国の中央銀行向けに金地金の保管庫を設置して保管サービスを開始する予定としている。今後の動きとして、シンガポールのライバルである香港や東京の動向が注目される。

 インドを高市首相が訪問した。高市氏はその目的について、焦点はインド太平洋地域の安保、エネルギー、重要鉱物だと語り、インドも中国の希土類支配力やインド洋における中国海軍力の拡大を懸念し、日本などの先進諸国と強固な関係構築を模索している。高市訪印には大手本邦企業が多数同行しており、今後の動向が注目される。

主要紙社説・論説欄では、イラン戦争その3として、6月中旬に成立した停戦合意に関する主要メディアの報道と論調を観察した。停戦合意はイランの戦略的勝利と論じる。 

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北東アジア

中 国

☆ 当局、社債格付けの規制を強化

規制当局の中国証券監督管理委員会が国内格付け機関に対して高金利発行体へのトリプルA格付けを制限するよう圧力をかけていると、7月11日付けフィナンシャル・タイムズが次のように伝える。

 中国の社債市場における信用力評価への懸念が高まるなか、中国の規制当局は、高金利発行体に対するトリプルA格付けを削減するよう格付け機関に圧力をかけている。事情に詳しい3人の関係者によると、中国人民銀行は4月、国内の格付け機関に対し、特に国債よりもはるかに高い利回りの債券について、高い信用格付けを見直すよう指示した。それ以来、国内最大手の格付け機関である連合信用評級は、複数のトリプルA格付け発行体の格付けを取り下げ、競合他社の中誠信国際信用評級(以下、誠信評級)も一時的に格付け停止通知を公表したが、その後これを撤回した。「過去3カ月間、これらの格付け機関はトリプルA格付けの割合を抑制するための具体的な措置を講じている」と、中国人民大学経済・金融学部の鄧開華准教授は語る。

1990年代に中国の金融システムが世界に向けて開放された後、急速に発展した中国の社債市場において、トリプルA格付けの割合が高すぎることは長年の懸念事項となっていた。昨年8月の本紙(FT)の分析によると、同年上半期に格付けを受けた新規発行の社債のうち、90%がトリプルA格付けであったのに対し、2016年にはその割合は半数未満だった。「2年前、当局はすでにトリプルA格付けの割合が高すぎることを認識していた」と鄧氏は述べた。

2021年に不動産開発大手エバーグランデが破綻して以来、発行体から報酬を受け取る格付け機関はすでに厳しい監視下に置かれていた。当局は今年、地方政府が保有するオフバランスシート債務への対応を図り、不動産主導の成長から経済を転換させるべく、地方政府債の新規発行を抑制してきた。3人の情報筋によると、このトップダウン型の取り組みの一環として、規制当局は5月から格付け機関に対する実地検査を実施している。検査では、発行時点で同等の政府債の満期利回りを2パーセントポイント以上上回るクーポン金利の債券に焦点が当てられている。6月、中国人民銀行(PBoC)は、スプレッドが1~2パーセントポイントを超える債券と、2パーセントポイントを超えるスプレッドの債券を指摘し、格付け機関に対しこれらの見直しを要請した。検査の対象には、競合他社よりも有利な格付けを付与することで顧客を獲得していたかどうかといったコンプライアンス上の問題も含まれていた。市場関係者は、問題のある格付けに関する規制当局の基準が不明確であることに懸念を表明した。彼らは、この措置が資金調達判断を歪め、借り手が短期債の発行を増やすことにつながる可能性があると指摘した。短期債はスプレッドが規制当局の基準を満たしやすい反面、借り手はロールオーバーリスクにさらされることになる。「利回りスプレッドは、発行体の信用力だけで決まるものではない」と、匿名を希望したクレジット担当者は述べた。「利回りスプレッドには、デュレーション、資産クラス、セクター、流動性、さらにはその時期のリスク事象など、さまざまな要因が反映されている。しかし、規制当局は現在、非常に画一的で一律的なアプローチを取っている」。

連合信用評価は先月、西安曲江文化金融控股と天津金融投資サービスグループの格付けを取り下げた。両社の社債はいずれもトリプルA格付けであり、クーポンレートはベンチマークとなる国債利回りを大幅に上回っていた。誠信評価は自社ウェブサイトに、一部の社債に対する格付けの付与を3カ月以上停止する旨の通知を掲載したが、規制当局への対応が不十分であるとの批判を受けた後、これを削除した。同社は地元メディアに対し、この措置は高格付けに対する規制当局の監視とは無関係であると説明した。証券会社・工業証券がまとめたデータによると、2025年初頭以降に発行された債券のうち、スプレッドが2パーセントポイントを超えるものは1%強、1~2パーセントポイントのものは約9%だった。「市場は平均的に見て、信用力の低い企業を見極めることができ、当然ながらそれらにはペナルティが課されると思う」と鄧氏は述べた。しかし同教授は、「例えば保険会社や小規模な機関投資家」など一部の投資家は、依然として高い格付けに惑わされる可能性があると指摘した。「たとえ市場が平均的には愚かではないとしても、当局はこの格付けインフレの問題を抑制したいと考えている」と同氏は述べた。聯合と誠信はコメントの要請に応じなかった。中国人民銀行はコメントを控えた。中国の民間購買担当者指数(PMI)を発表しているRatingDogの創業者、姚宇氏は、規制当局が指摘した格付けが引き下げられたり取り消されたりしたとしても、トリプルA格付けの債券の割合は依然として「非常に高い」ままだと述べた。「行政命令だけで一夜にしてトリプルA格付けの数を減らすことはできない」と同氏は語る。

 以上、中国格付け機関による格付け評価には、2021年の不動産開発大手エバーグランデの破綻事件以来批判が絶えなかったが、規制当局がようやく是正に動いた。当局はトップダウン型の取り組みの一環として5月から格付け機関に対する実地検査を実施し、具体的には、高金利発行体に対するトリプルA格付けを削減するよう格付け機関に圧力をかけているという。FT紙調査によれば、本年上半期に格付けを受けた新発社債のうち、90%がトリプルA格付けだったという。当局検査には、不動産主導の成長から経済を転換させるべく、地方政府債の新規発行を抑制するなどの政策意図や、競合他社よりも有利な格付けを付与することで顧客を獲得していたかどうかといったコンプライアンス上の問題も含まれているとされる。ただし、市場関係者は、当局の基準が不明確で非常に画一的、一律的なアプローチを取っており、これが借り手の資金調達判断を歪め、短期債の発行を増やすことにつながる可能性があると懸念を表明している。確かに、行政命令だけで一夜にして事態を是正できるものではない。引き続き当局の行政指導の帰趨を見守りたい。

台 湾

☆ 台湾包囲網を狭める中国

中国が台湾包囲網を強化し、周辺にほぼ常時軍艦を展開していると6月24日付けウォール・ストリート・ジャーナルが伝える。記事は5月末、大型のミサイル駆逐艦を含む中国海軍の艦船が台湾周辺の全域に配置されたと述べ、情報収集艦やフリゲート艦、駆逐艦などが東南シナ海から太平洋にかけて展開する様子を図解して示し、さらに次のように報じる。

2020年代初頭以降、中国は自国の領土と主張し、統治を目指す台湾に対し急速に包囲網を構築している。中国は台湾の民主主義体制に圧力をかける広範な手段を確保しており、中国が世界の大国としての地位を固めるにつれて、その手段は拡大している。外交面では、習近平国家主席が台湾を孤立させようと自国の影響力を駆使しており、重要な生命線である米国の支援を標的にしている。同時に中国軍は台湾周辺での航空機や艦船の展開、偵察、パトロールを常態化させており、2,300万人の台湾市民に対し、中国が進める軍事力増強の前には支配への抵抗は無意味だとのシグナルを送っている。この威圧的な作戦において主導的な役割を果たしているのが世界最大の艦船数を誇り、装備の整った中国海軍だ。長年にわたり、台湾海峡を行き来する任務を担っていた中国軍艦はわずか1隻だった。

ところが2020年になると静かに、しかし決定的な形で変化が起きた。中国はその年に2隻の軍艦を追加し、台湾の北岸沖と南岸沖にそれぞれ配置した。一連の動向を詳しく追っている安全保障当局者らが明らかにした。2年後には4隻目が台湾の東岸沖に配置され、四方全てにおいてほぼ途切れることのない展開態勢が整った。2024年には5隻目が東岸沖に加わり、それ以降は6隻目も通常、東岸沖に展開している。当局者らによると、こうした緊張の高まりはいずれも2020年の台湾総統選の結果や2022年の米要人による台北訪問など、中国政府が反発する政治的な動きの後に起きた。現在では5〜6隻の中国軍艦がほぼ常時台湾を取り囲んでおり、他の艦船が断続的に加わることで、その数がさらに増えることも多い。「これは包囲網の締め付けを意味する」と、米海軍情報部の元将校でミッチェル航空宇宙研究所の上級常勤研究員を務めるマイケル・ダーム氏は述べた。艦船の数が増えるにつれ、かつては主にフリゲート艦だったものが、フリゲート艦と大型駆逐艦を組み合わせた構成へと変化しており、台湾に対する中国の強硬姿勢の強まりと、海軍艦隊の拡張を反映している。中国は駆逐艦の建造を急ピッチで進めており、現在48隻を保有している。

 こうした動きは、ほんの数年の間に中国軍が台湾周辺の海域と空域における日常的な現実をいかに変えてきたかを象徴している。ほとんどの日において、中国から飛び立った軍用機が台湾海峡を二分する「中間線」を越え、台湾の防衛態勢を探っている。中国海警局は台湾の離島周辺の海域に進入している。2022年夏以降、中国は「正義使命」や「海峡雷霆」といった名称の一連の軍事演習を実施し、軍艦、戦闘機、爆撃機、ドローン(無人機)などで台湾を包囲している。中国当局はコメントの要請に応じなかった。

 中国海軍の24時間体制のパトロール活動は、政治的メッセージを発するための手段にとどまらない。いつか戦場となる可能性のある海域で、データと経験を集積する日々の機会を中国軍に与えている。中国が台湾海峡を越えて侵攻を開始した場合、中国海軍は極めて重要な役割を担うことになり、その事態に備えて訓練を重ねている。安全保障当局者らによると、平時の現在台湾周辺に展開する中国軍艦は約6隻で、それぞれ1回につき約2週間駐留する。1隻が離れると別の艦艇が交代する。中国海軍は少数の艦艇を繰り返し使うのではなく、さまざまな種類の艦艇をローテーションで派遣しており、より多くの乗組員がこの海域で活動し、対応能力を向上させる機会を得ているという。

艦船は台湾が主張する24カイリの接続水域の外にとどまる傾向があるものの、常にそうとは限らない。中国側は頻繁に「合同戦備パトロール」を展開しており、この活動が活発化する期間中、一部の安全保障当局者が「境界線の圧迫」と呼ぶ入念に計画された戦術に基づき、接続水域の内側へ数マイルほど立ち入っている。このようなパトロールを昨年は40回、今年に入ってから15回確認している。台湾側は、中国艦船が24カイリの境界線を離れるまで軍艦と沿岸警備当局の船舶を派遣して追尾することで対応している。当局者らによると、こうした応酬は長期化しており、現在では最長48時間に及ぶことも珍しくない。この動きは台湾の海軍に大きな負担をかけている。台湾海軍は中国軍に比べてはるかに規模が小さく、人員不足にも悩まされている。台湾当局者によると、台湾の軍艦は常に対応できる態勢を整えていなければならず、定期的な整備が遅れ、乗組員の休息時間も削られている。

一方、中国は台湾軍の動きや作戦、通信方法、そして中国の活動への対応方法など、膨大な情報を収集している。「将来的に、中国海軍の不意を突くことはより困難になるだろう」とダーム氏は述べた。「台湾にとっては、選択肢が減り、身を隠す場所が少なくなり、欺瞞(ぎまん)工作を講じる余地が狭まることを意味する」。安全保障当局者らによると、中国海軍の艦船は台湾東部の花蓮と台東にある主要軍事基地の沖合にも頻繁に配置されている。シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究院のシニアフェローであるコリン・コー氏はこうした動きについて、威圧戦術の可能性がある一方で、作戦上の明確な合理性もあると述べた。データを収集し、戦場となり得る場所に関する状況をより正確に把握する狙いがあるという。コー氏は、現在これらの基地の近くを航行している中国の駆逐艦は、有事の際には基地を攻撃して破壊する任務を与えられる可能性があると指摘した。

安全保障当局者らは、2020年が台湾周辺における中国の軍事活動の転換点だったと述べている。そう考える理由はいくつかある。米情報機関の分析によると、その前年に習氏は中国軍に対し、命令があれば台湾を武力で制圧できる能力を2027年までに整えるよう指示しており、これは従来の2035年から前倒しされたものだった。2027年は侵攻の日程ではなく準備態勢の目標だったが、それでも中国軍はより迅速に動く必要があることを意味していた。そして2020年、台湾の総統選で現職の蔡英文氏が再選された。同氏は台湾の民主主義の断固たる守護者として自らを位置づけており、この結果は中国政府への反発と受け止められた。同年、中国は台湾周辺に展開する海軍の艦船を1隻から3隻に増強した。その後も一連の出来事が相次ぎ、さらに多くの艦船が派遣されることになった。2022年には当時の米下院議長ナンシー・ペロシ氏が台北を訪問し、2024年の台湾総統選は中国政府にとって好ましくない結果となった。また同年、台湾の沿岸警備当局が関与した事件で中国人漁師2人が死亡した。安全保障当局者らは現在、台湾沖に展開する中国艦船の数が再び増加するかどうかを注視している。

以上のように、台湾海峡を行き来する任務を担っていた中国軍艦は長年にわたり、わずか1隻だったが2020年の台湾総統選で民進党の蔡英文総統が再選されると静かに、しかし決定的な形で変化が起きたと記事は伝える。中国はその年に2隻の軍艦を追加し、台湾の北岸沖と南岸沖にそれぞれ配置し、そして今や中国軍は台湾周辺での航空機や艦船の展開、偵察、パトロールを常態化させている。また艦船の数が増えるにつれ、かつては主にフリゲート艦だったものが、フリゲート艦と大型駆逐艦を組み合わせた構成へと変化している。こうした動きは、単に政治的メッセージの手段にとどまらず、中国軍にとって戦場となる可能性のある海域でのデータと経験を収集する機会となっている。また、さまざまな種類の艦艇がローテーションで派遣され、多数の乗組員が対応能力を向上させる機会を得ていると記事は報じる。中国側の台湾締め付けは揺るぎないものといえそうである。

韓 国

☆ 社会の分断を促すAIチップブーム

韓国のAIチップブームが、「持てる者」を「さらに多く持つ者」へと分断していると6月9日付フィナンシャル・タイムズが報じる。記事は、サムスン電子で働くメモリチップエンジニアの例を挙げ、半導体業界の従業員への巨額のボーナスにより、従来はステータスが高かった職業に就く人々が、相対的に自分たちの立場が低下したと感じていると述べ、以下のように報じる。

韓国では、需要の高いメモリチップを製造する人々が突然手にするようになった巨額の収入――国内の半導体大手であるサムスンとSKハイニックスは計上した記録的な利益を分け合う形で巨額のボーナスを支給する見込み――が、分断やさらには恨みの原因になりつつある。何十年もの間、韓国社会における成功のヒエラルキーは安定していた。優秀な学生たちは、医学、法学、歯学などの専門職を志した。こうした職業に就くのは困難だったが、高収入と安定した収入が保証され、社会的地位や良好な結婚相手との縁も約束されていた。

しかし、AI分野における驚異的なブームが、その状況を変え始めている。AIシステムに使用される高帯域幅メモリチップに対する世界的な需要の急増により、SKハイニックスとサムスン電子は過去最高の収益を記録した。今週、サムスンは四半期営業利益が89.4兆ウォン(597億ドル)に達したと発表した。この臨時利益は従業員にも還元されている。昨年9月、SKハイニックスは10年間にわたり、年間営業利益の10%を従業員に支払うことに合意した。サムスンも労働組合がストライキをちらつかせたことを受け、5月に同様の取り決めを行った。両社とも今年は数千億ドルの利益を見込んでおり、メモリチップ部門の従業員1人あたりの平均賞与額は、サムスンで約6億ウォン(40万ドル)、SKハイニックスではさらに高額に達する可能性がある。韓国企業連合会のデータによると、韓国の労働者の平均的年収は5,060万ウォンであり、こうした金額は桁外れなのだ。

これを受け、韓国銀行はインフレ圧力が生じる可能性があると警告している。実際に、半導体業界の従業員が多く住む町では不動産価格が急騰している。卒業後にサムスン電子やSKハイニックスへの就職が保証される半導体「契約」プログラムを開設している大学への入学競争は激化している。こうしたコースの一部では、現在、国内トップクラスのソウル国立大学の自然科学系の平均合格点を上回り、医学部の合格点に迫る水準となっている。このブームは、韓国の結婚市場にも変化をもたらしている。顧客をランク付けする際に極めて厳しい基準を用いることで知られる結婚相談所では、現在、半導体業界の従業員に高い評価を与えている。そうした相談所の一つである「スヌ」は最近、サムスン電子の従業員の「配偶者職業指数」を同社のイ・ウンジン最高経営責任者(CEO)が「例外的な」と表現するほど引き上げ、弁護士と同等の位置に置いた。「半導体業界の従業員、特にサムスンやSKハイニックスの従業員の給与が上昇するにつれ、結婚相手としての人気も高まっている」とイ氏は語る。

目に見えにくいものの、それだけに重要なのがこの新しいボーナス文化が、韓国人の「公平性」に対する考え方や「成功した人生」の定義にもたらしている変化である。半導体メーカーの従業員に約束されたボーナスは、韓国人が「相対的剥奪感(サンデジョク・バクタルガム)」と呼ぶ現象を浮き彫りにしている。これは、ほぼ同等の立場にある人々よりも自分の状況が劣っていることから生じる、不公平感のことである。「我々が目の当たりにしているのは、単なる不平等ではない」と、ソウルにある成均館大学の半導体専門家で講師のクォン・ソクジュン氏は述べた。「『億万長者が自分よりお金を持っている』ということではない。『同じ進路を歩んだ同級生が、今や数億ウォンも多く稼いでいる』ということだ。ほぼ同等の立場にある者同士の間では、その感覚ははるかに心を蝕むものだ」

同様の緊張関係は企業内部にも存在する。サムスンの巨額の利益を上げるメモリ部門の従業員は、社内の他の部門の同僚よりもはるかに多額の報酬を受け取る見込みだ。心理学者であるファン・サンミン氏は、多くの韓国人が他者との比較から成功感を得ていると指摘する。「ほとんどの人は『自分はどのような人生を送るべきか』とは問わない。単に『最高の』人生や、最も望ましいライフスタイルが何かを問うだけだ」と彼は語った。「いったんそのような外部の基準が設けられると、誰もがそのトレンドに従おうとする」。その結果、同級生や隣人の成功によって、自分は失敗者だと感じてしまうことがあると彼は論じる。インターネット大手のカカオや自動車メーカーの現代自動車など、半導体以外の企業にも最近、利益配分の要求が広がっていることは、この状況を反映しているとファン氏は述べた。

労働者たちは客観的な損失を被ったわけではなかったが、他社の同等の従業員が成功を収めたことで自分たちは取り残されたと感じてしまった。「彼らは、実際には何の損害もなかったにもかかわらず、自分たちが不利益を被ったのではないかと恐れている」と彼は語る。「これこそが相対的剥奪感の本質だ」。長年、名門と見なされてきた職業に就くために厳しい試験に合格しなければならなかった別の公務員は、半導体エンジニアが自分の10年分の給与に相当するボーナスを受け取るのを見て、自分の選択に疑問を抱くようになったと語った。

他方、成功のヒエラルキーの頂点近くにあるメモリチップエンジニアのキム氏のような人々は、半導体業界の悪名高い景気循環を認識しているため、自分たちの新たな地位が永続するとは確信していない。「『今回は違う』と言う人もいる。しかし、AIの急速な成長がかつてないメモリ-チップ不足を招いたとはいえ、私は依然として景気後退期が必然的に訪れると信じている」と語る。

以上のように、記事は韓国におけるAI分野の驚異的なブームが、「持てる者」を「さらに多く持つ者」へと分断し、韓国社会を激動させていると伝える。この現象を新ボーナス文化と呼び、目に見えにくいものの、それだけに深刻だと訴え、韓国人の「公平性」に対する考え方や「成功した人生」に関する既存の考え方を大きく覆していると報じる。半導体メーカーの従業員に約束されたボーナスは、韓国人が「相対的剥奪感」と呼ぶ現象、すなわち、『同じ進路を歩んだ同級生が今や数億ウォンも多く稼いでいる』という事実によって自分は失敗者だと感じ、ほぼ同等の立場にある者同士の間できわめて心を蝕む現象を引き起こしている」と伝える。AIブームに沸く韓国社会の裏面を報じる、いわば驚愕のストーリーである。問題は、これが韓国社会に限られた物語とは思えないことであろう。日本を含め世界各地で起こりえる脅威のストーリーではないかと考えられることである。

北 朝 鮮

☆ ウラン濃縮能力を拡大する金正恩政権

 北朝鮮のウラン濃縮能力が近く75%拡大する方向にあると、6月11日付けウォール・ストリート・ジャーナルが伝える。記事によれば、政府による国際軍縮条約の実施と検証を支援する英ロンドンのNPO (非営利団体)「検証研究・訓練・情報センター(VERTIC)」によると、寧辺(ヨンビョン)の新施設は遠心分離機9,000基余りを備え、高濃縮ウラン生産能力は年160キログラム前後とみられるとされる。VERTICは、これまで北朝鮮の高濃縮ウラン生産能力は年約215キログラムとみられていた。国際社会の圧力に対抗して軍事力を強化しようとする金正恩総書記の思惑を明確に示すシグナルといえる。

 VERTICの分析の共同執筆者の1人、グラント・クリストファー氏は「北朝鮮はおそらく中型核兵器に必要な材料をすでに全て保有している。その上、さらに数を増やそうとしているようだ」と述べた。「同国が目先、やめるという証拠は一切ない」。クリストファー氏によれば、北朝鮮の高濃縮ウラン保有量は推計2,100キログラムと、大規模で高度な核プログラムのある英国やフランスの軍備の約1割に相当する。寧辺の新施設は、完成すれば公に知られている北朝鮮のウラン濃縮施設のうち最大になる。こうした核濃縮能力の大幅増強からは、米中といった世界の強国の圧力に逆らい、アジア諸国の懸念を高めてきた核開発プログラムを急拡大させようとする金正恩氏の意向が透ける。

 中国は北朝鮮に核兵器の開発中止を求めて長年圧力をかけてきたが、このところ少なくとも表向きにはそうした要求をしていない。習近平国家主席は今般の訪朝に際して、非核化については公の場で一切言及しなかった。金正恩氏は、核兵器の備蓄増強に動いた点を踏まえると、米国をはじめとする他国との取引を追求する可能性は低そうだ。米国などは、北朝鮮が核開発を縮小する見返りに制裁を緩和することを提案してきた。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の新たな推計では、北朝鮮の現在の核弾頭保有数は60発と2025年時点の約50発から増加した。

金氏は、自国の核兵器計画の最新の拡大を誇示し続けている。先週、同氏は同国主要な核施設であるヨンビョン核複合施設の中心部に位置し、北朝鮮がこれまでに公に公開したどの施設よりも規模の大きい、新たなウラン濃縮施設を視察した。北朝鮮の国営メディアが報じた映像では、独裁者は金属製の遠心分離機が並ぶ施設を歩き回り、同国の核計画について「より大規模な計画」を実行すると約束した。また、同国の「兵器級核物質の生産」能力を2倍以上に引き上げた科学者たちを称賛した。我々が今持っているこの核の潜在能力は、想像を絶するものだ」と金氏は述べた。VERTICは、類似の遠心分離機の過去のデータ、建物の寸法を特定するための衛星画像、その他のモデリングに基づいて拡大されたウラン濃縮能力の推定値を算出した。調査報告書の共著者であり、研究団体「オープン・ニュークリア・ネットワーク(Open Nuclear Network)」の上級アナリストであるシン・ジェウ氏によると、この新施設は約18ヶ月で建設され、衛星画像からは2024年後半に建設工事が始まったことが確認されたという。「この施設が、外部の目が届かない山奥ではなく、ヨンビョンの中心部に設置されたことは重要だ」とシン氏は述べた。「見つかるようにそこにあったのだ。」

VERTICの分析の共著者であるヘイリー・ウィンゴ氏は、北朝鮮が開発中の原子力潜水艦に新たな供給が必要になると見越して、金政権がウラン濃縮を拡大している可能性もあると述べた。わずか7年前、ハノイで行われたトランプ大統領との核協議の際、北朝鮮は制裁緩和と引き換えにヨンビョンの解体を提案した。しかし、トランプ氏は金正恩政権の未申告の核施設も含めた、より広範な合意を求めていた。協議は決裂した。今日、ヨンビョンは拡大を続ける同政権の核開発計画において依然として中心的な役割を果たしている。濃縮に加え、同施設では5メガワットの原子炉、再処理施設、そして比較的新しい軽水炉での活動が活発化しており、国連原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、これらが北朝鮮の能力を「極めて深刻なレベルで増強」していると述べた。北朝鮮はウランの生産量、目標、スケジュールについては明らかにしていない。同国は以前、米国当局者に対し、ヨンビョンでウラン濃縮を行っていることを認めていた。これとは別に、2024年には北朝鮮の国営メディアが別の場所にある施設を視察する金正恩氏の写真を公開した。

以上のように、金総書記は核濃縮能力の大幅増強を目指してヨンビョン核施設を拡張し、公に知られている北朝鮮のウラン濃縮施設として最大のものにしようとしている。しかも、同施設では核濃縮に加え5メガワットの原子炉、再処理施設、そして比較的新しい軽水炉での活動が活発化しており、IAEAは北朝鮮の能力を極めて深刻なレベルで増強していると懸念を表明している。肝心の中国も習近平主席がこうした事態を黙認する姿勢を示しており、歯止めが利かなくなっている。この事態に対処可能な先として考えられるのは、予測不可能な動きを示すトランプ米政権しか見当たらないという危機的状況にある。

 

東南アジアほか

シンガポール

☆ 貴金属ハブを目指すシンガポール、

シンガポールが貴金属ハブを目指して金の清算システムを導入し、ロンドンやニューヨークが支配する取引市場に新風を吹き込もうとしていると、6月15日付フィナンシャル・タイムズが以下のように報じる。

シンガポールは今年、貴金属の世界的な取引ハブとしての地位を確立すべく、金の店頭(OTC)清算システムと、中央銀行向けの保管サービスを開始する。ガン・キム・ヨン副首相は月曜日の朝、JPモルガン、ドイチェ銀行、DBS銀行を含む複数の国際銀行がこのシステムに参加すると述べた。「我々は、既存の金取引や流動性の中心地を置き換えることを目指しているわけではない。むしろ、シンガポールは世界の金エコシステムにおける信頼できる拠点として機能し、地域の需要と世界の流動性を結びつけ、アジア時間帯の市場活動を支えることができる」と同副首相は語る。

貴金属の世界貿易においてアジア地域がより大きな役割を果たすなか、シンガポールとそのライバルである香港は、アジアを代表する金市場となるべく競い合っている。アジアのトレーダーが世界市場において重要性を増していることを反映し、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)のルース・クロウェル最高経営責任者(CEO)は月曜日、同協会が毎日の午前中の金オークションの開始時間を早めることを検討していると述べた。シンガポールで開催された「アジア太平洋貴金属会議」でガン氏と共に登壇したクロウェル氏は、LBMAがロンドン時間午前10時30分からのオークションを前倒しすることを検討しており、「アジアの時間帯を反映し、その時間帯での価格形成を可能にするため」だと述べた。

香港とシンガポールは、数十年にわたりロンドン、ニューヨーク、スイスでの金地金の保管、精錬、取引を中心に展開されてきたこの業界に新風を吹き込もうとしている。シンガポールのこの取り組みは10年以上前から進められてきたが、過去2年間にわたり地政学的な不確実性が高まったことで投資家の金への需要が再燃し、その動きに弾みがついている。現物金先物取引の開始や大規模な保管施設の開設など、こうした取り組みのほとんどは民間セクター主導で行われてきた。シンガポール金融管理局(MAS)の議長も務めるガン氏は、清算メカニズムは今年末までに整備され、来年には銀行間取引が追加される見通しだと述べた。参加に合意した他の銀行には、シンガポールのOCBCやUOBのほか、中国工商銀行(ICBC)と南アフリカのスタンダード・バンクによる合弁会社も含まれる。「金市場は、地域を越えて流動性とインフラが連携しているときに最も円滑に機能する」とガン氏は述べた。「確立された清算インフラと強固な市場エコシステムを備えたシンガポールは、時差を越えたよりシームレスなグローバル市場を支えることができる」。

今年の予算案で提案されたシンガポール政府の施策の一環として、MASは、他国の中央銀行が同国に金地金を保管できるよう保管庫を設置する予定だ。「これにより、アジアの取引時間中に準備資産を安全に保有し、積極的に運用し、より広範な市場の流動性と結びつけることができる管轄区域としてのシンガポールの魅力がさらに高まる」とガン氏は付け加えた。また、MASはファミリーオフィスや適格ファンドに対する現物金投資の税制優遇措置について、5%の上限を撤廃する方針だ。

以上のように、シンガポール当局、すなわち、MASは貴金属の世界貿易においてアジア地域が大きな役割を果たすなか、OTC清算システムを導入し、同時に他国の中央銀行向けの金地金保管サービスを開始、貴金属の世界的な取引ハブとしての地位を確立しようとしている。これに呼応するようにLBMAもアジア時間帯での価格形成を可能にするためオークション時間をロンドン時間午前10時30分からスタートするよう前倒しすることを検討していると報じられている。これら措置によりシンガポールは世界の金エコシステムにおける信頼できる拠点として機能し、地域の需要と世界の流動性を結びつけ、アジア時間帯の市場活動を支えることができるようになる。MASは清算メカニズムは今年末までに整備され、来年には銀行間取引が追加される見通しだとしている。今後の動きとして、シンガポールのライバルである香港や東京がどのような対策を講じていくのか、その動向を注視したい。

インド

☆ 高市首相、訪印、モディ首相と会談

7月2日付フィナンシャル・タイムズは、「Narendra Modi and Sanae Takaichi meet in the shadow of Chinese pressure (ナレンドラ・モディ首相と高市早苗首相、中国の圧力という背景で会談)」と題する記事で、希土類輸出規制を巡る中国との対立を経て、日本とインドの関係が緊密化していると次のように報じる。

アジアで第2位と第3位の経済規模を誇る日本とインドは、強硬姿勢を強める中国への対応を探るなか、高市早苗首相はインドとの経済・安全保障関係の深化に合意した。気まぐれなトランプ政権と強硬さを増す中国政府の間に挟まれた日印両国の関係は、双方にとってより重要なものとなっている。「インドと日本の経済は相互補完的だ。文化的価値観から現代技術に至るまで、我々は似たような考え方やアプローチを共有している」と、ナレンドラ・モディ首相は2日、ニューデリーで述べた。同首相は、インドへの初の公式訪問を果たした日本の首相を同地で歓迎した。「地政学的な激動のこの時代において、相互信頼は戦略的資産である」とモディ首相は付け加えた。

高市首相の3日間の訪問は、インド太平洋地域の安全保障、エネルギー、そして地政学上の重要なボトルネックとなっている重要鉱物に焦点を当てている。一方、イランでの戦争は、日本とインド双方にとってサプライチェーンとエネルギーの脆弱性を露呈させた。高市首相とモディ首相は、両国が海軍艦艇向けの通信システムを共同開発することで合意した。これは両国間の防衛協力としては初めての取り組みとなる。「日本とインドは、国際情勢が混乱する中でそれぞれの強みを活かし、共にさらに強く、より繁栄していかなければならない」と高市氏は述べ、両国間の「関係はこれまで以上に重要になっている」と付け加えた。「私たちは認識を共有しており、兄弟姉妹としてこの関係を築いていくことを確認した」と彼女は語り、75歳のモディ氏が彼女を「妹」と呼んだことに呼応した。

2020年の国境紛争以降、インドと中国間の緊張は和らいでいるものの、アナリストらはインドが依然として希土類における中国の支配力やインド洋における海軍力の拡大を懸念していると指摘している。インドと日本は、電気自動車、再生可能エネルギー、家電分野を拡大するために希土類磁石へのアクセスを必要としている。高市氏は、「双方が『経済の武器化』や『非市場的な慣行』に直面してきたことから、重要鉱物のサプライチェーンにおけるレジリエンスを早急に構築する必要がある」と述べた。インドと日本の二国間関係は、防衛、インフラ、技術の各分野において、また地域安全保障に対する共通の懸念を背景に近年深まっている。「海洋安全保障協力の拡大は、地域の平和と安定にとって特に重要だ」と高市氏はニューデリーで述べ、日本とインドの海軍艦艇が共同演習を行う予定であることを付け加えた。

高市氏にはビジネス代表団が同行しており、東京の当局者は、インドへの投資拡大を図る日本企業の野心の変化を反映したものだと述べた。モディ首相と高市氏は2日、日印両国の企業が120件の合意に達し、これにより100億ドル以上の投資がインドにもたらされると述べた。これには、東京エレクトロンとタタ・エレクトロニクスによる半導体分野での提携や、三井物産とホンダによる再生可能エネルギー分野への投資などが含まれる。日本は以前、今後10年間で10兆円(610億ドル)の投資を目標に、日本企業のインドへの投資を奨励することを約束していた。三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行をはじめとする日本の銀行各行は、インド金融企業への出資に合意している。

インドとの関係を深めることは、高市氏にとって中国に対するより強力な対抗軸ともなるだろう。中国は今週、日本への民生用および軍事関連の輸出規制を強化した。高市氏が11月、中国による台湾侵攻の可能性が日本の軍事関与を招きかねないと示唆して以来、日中間では8ヶ月にわたる対立が続いている。日本有数の産業グループである富士電機の社員が重要鉱物に関連する資材を日本へ密輸しようとした容疑で最近逮捕された。インドもまた、予測不可能なトランプ政権への依存を軽減しようと努めており、急速な経済成長を維持するため、技術、投資、サプライチェーンのパートナーシップを目的として、日本、カナダ、フランスなどの先進国とのより強固な関係構築を模索している。

以上のように高市首相の訪印について、記事は強権的姿勢を強める中国や予測不可能なトランプ米政権に対抗するために日印両政府は経済や安保政策で協力関係を強化しようとしていると伝える。高市首相は訪印の目的について、インド太平洋地域の安全保障、エネルギー、重要鉱物に焦点を当てると語り、インドもまた希土類における中国の支配力やインド洋における中国の海軍力の拡大を懸念していると指摘。急速な経済成長の維持のため、技術、投資、サプライチェーンのパートナーシップを目的として、日加仏などの先進国と強固な関係構築を模索していると伝える。日印関係では今後、特に重要鉱物サプライ関係での協力や海洋安全保障協力の拡大が注目されるが、その関係で高市訪印に同行した日本の大手企業の対印投資動向も注視したい。既に東京エレクトロンとタタ・エレクトロニクスによる半導体分野での提携や、三井物産とホンダによる再生可能エネルギー分野への投資など120件の商談がまとまり、100億ドル以上の投資がインドにもたらされると報じられている。

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主要紙社説・論説欄から 

イラン戦争その3―イランとの停戦合意について

本年2月28日、米国とイスラエルはイランに対して大規模軍事作戦を開始した。作戦により2日間で約2000回に及ぶ攻撃が行われ、イラン側は最高指導者ハメネイ師が殺害されるなど甚大な被害を被った。しかし、イラン側の頑強な抵抗もあり、作戦は長期化の様相をみせていた。4月7日、米国とイランが2週間の停戦で合意し、さらに4月20日、米国とイランによる2回目の停戦協議が行われ、恒久合意に達するか暫定合意を延長するかについて両国に60日間の猶予が与えられた。その猶予期間が近づいた6月15日、仲介国のパキスタン首相が米国とイランとの間で暫定合意を60日間延長する合意が成立したと発表。6月17日にはフランスで開催中のG7に参加し、ヴェルサイユ宮殿での夕食会に出席していたトランプ米大統領がそこで同内容を盛り込んだ覚書に署名した。以下に今回の停戦合意に関するメディアの報道や論調を観察した。筆者論評は末尾の「結び」を参照。

6月15日付ニューヨーク・タイムズは「President Trump Lost This War (この戦争に敗れたトランプ大統領)」と題する社説で次のように論じる。

トランプ大統領とイランとの4か月にわたる対立に終止符を打つ暫定合意は歓迎すべきだが、そこには厳しい現実も伴う。トランプ氏はこの戦争を仕掛けたことで甚大な過ちを犯した。彼は無謀にかつ公然と法律に背いてこの戦争を遂行した。米国は軍事、外交、経済のいずれの面でも弱体化しつつあり、今後何年にもわたって戦略的な代償を払うことになるだろう。合意の詳細は不明だが、発表された枠組みを見る限り、トランプ氏が主張していた条件のうち、彼が勝ち取ったものはほとんどないようだ。これは、彼自身にとっても、彼が率いる国にとっても屈辱的な失墜である。戦争が始まって以来、彼は米国が「完全かつ徹底的な勝利」を収めると述べてきた。また、イランにはウランの「濃縮を一切許さない」とし、「米国はイランと協力して、同国がすでに保有している爆弾級に近い核物質を深く埋蔵されているものをすべて掘り起こし、撤去する」と語っていた。

しかし、これらはいずれも事実ではないようだ。イランの強硬派政権は依然として存続している。核合意の詳細は今後2ヶ月かけて交渉される見通しだが、その条件は、バラク・オバマ大統領が交渉し、トランプ氏が2018年に破棄した2015年の合意に類似したものになる可能性が高い。トランプ氏はオバマ政権の合意を「史上最悪の合意」と評し、それがイランを「核兵器への道」へと導いたと述べていた。トランプ氏は、この合意がイランに対し、ハマスやヒズボラといったテロ組織への支援を停止させることを強制できなかったことや、経済制裁を緩和したことを批判していた。しかし、彼の破壊的な戦争の結果、結局は同様の合意に落ち着く可能性が高いようだ。

停戦枠組みにおける彼の最大の成果は、ホルムズ海峡が国際海運に再開される見込みである。これにより最終的にはエネルギーやその他の商品の価格が低下するだろう。もちろん、それは単に戦前の現状への復帰に過ぎない。イランは、世界経済に打撃を与え、米国への政治的圧力を強めるため報復として同海峡を封鎖した。この措置は功を奏し、イランの指導者たちは今や自分たちが強力な経済的武器を握っていることを理解している。総合的に見れば、4か月に及ぶこの戦争の戦略的勝者はイランである。イランも海軍や空軍、軍需産業能力の大部分、そして開戦初日に殺害された最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイを含む政治指導層など、多大な損失を被った。しかし、戦争が終結したことでイラン指導部は再建に着手できる。

一方、米国は世界の目には弱体化したように映っている。米軍は、長距離精密誘導ミサイルや迎撃ミサイルの多くを消費したにもかかわらず、はるかに小規模な敵を制圧できないことを露呈した。この結果は、他の潜在的な敵対勢力に対する米国の抑止力を損なうものである。このダメージを修復し始めるために、米国は戦争による軍事的・経済的影響で傷ついた欧州、中東、アジアにおける同盟関係を修復するのが賢明だろう。また、国防総省は近代化を図り、将来の戦争に備える必要がある。しかし、トランプ大統領の下では、そのどちらも実現しそうにない。

2月28日に米国とイスラエルによる攻撃が始まる前、イランの指導部は2年半にわたる苦難の時期を耐え抜いていた。そして、イランは3年前よりもなお弱体化している。しかし、この戦争によって、2026年の年初には持っていなかった影響力をイランは手に入れた。同政権は、2大敵国からの相次ぐ攻撃を乗り切れることを実証した。指導者たちは核開発の野心を放棄する必要もなかった。そして彼らは、国際社会がホルムズ海峡の再開のために軍事力を行使する意思がないようだと悟った。もしイランが今後数ヶ月あるいは数年のうちに同海峡を封鎖することを選択した場合、トランプ氏はそれにどう対応するのだろうか。我々がこれらの事実を述べるのは、決して快いことではない。イランは過去も現在も悪の勢力であり続けている。自国民、とりわけ政治的反対派、女性、LGBTQの人々、宗教的少数派を弾圧している。拷問や処刑の件数では世界トップクラスであり、自国周辺地域やはるか遠くの地域でテロリズムに資金を提供してきた。イラン指導者たちは、1970年代までは一人当たりの所得が世界平均を上回っていたこの国を貧困に陥らせた。

6月18日付け英ガーディアンは「The Guardian view on Trump and Iran: a president’s wishful thinking gives way to uncomfortable realities (トランプとイランをめぐるガーディアンの見解:大統領の希望的観測が不都合な現実に屈した)」と題する社説で次のように論評する。

ドナルド・トランプの希望的観測とベンヤミン・ネタニヤフの説得は共に、イランに対する違法な戦争を引き起こした原因であった。米国大統領が求めていたのは、イランの体制転換、弾道ミサイル計画の根絶、核爆弾開発の永久的阻止、そしてその代理勢力の非武装化だった。彼は、無条件降伏以外のいかなる条件も受け入れないと宣言した。トランプ氏が水曜日にイランと署名した覚書は、彼でさえ現実をそう長くは否定できないことを示す証拠となった。戦争がもたらした人的被害や広範な犠牲を考慮すれば、戦争を終結させる合意はとっくに結ばれるべきだった。しかし、その文面は、この紛争がいかに無意味であるかを如実に示している。戦争を継続すれば「世界的な不況」を招いたかもしれないと米大統領は述べたが、彼の懸念は、世界中の最も貧しく飢えた人々ではなく、有権者の懐への影響に向けられている。不満を抱く支持基盤と迫り来る中間選挙により、彼は共和党のタカ派が嫌悪する妥協を余儀なくされた。

マイク・ペンス元副大統領は、この合意について「宥和政策の臭いがする」と述べた。数十億ドルと数千人の人命を浪費したにもかかわらず、トランプ氏は紛争前に提示されていた条件よりも劣る条件を受け入れている。彼の唯一の大きな成果は、戦争によって閉鎖されていたホルムズ海峡の開通だが、イランが将来、通過料を課す可能性については、依然として白紙のままであるようだ。この合意では、米国の封鎖解除、資産の凍結解除、およびすべての制裁の解除が約束されている。イランは、核問題をめぐる紛争が解決される前に原油を輸出できるようになるだろう。バラク・オバマ元大統領の「非核化と引き換えの支援」に関する交渉には20カ月を要したが、今回の合意では60日以内(延長の可能性あり)に最終合意に達することが示されている。困難な問題を先送りすることはトランプ流外交の特徴になりつつあるが、問題を回避していては信頼は醸成できないのだ。

 この戦争により、イランの最高指導者や主要な軍幹部が死亡し、軍事力だけでなくインフラや経済も甚大な打撃を受けた。しかし、イランの事態をエスカレートさせる戦術は成功を収めた一方で、米国は自らの信頼性を損ねてしまった。アナリストらは、現在のイラン指導部はより軍事化が進み、おそらくはより強硬な姿勢をとっていると指摘している。その一部は、さらなる攻撃に対する最善の保証として、核兵器の追求に一層熱心になっている可能性がある。トランプ氏は撤退を切望しているにもかかわらず、必要と判断すれば「すぐにでも爆弾を投下し始める」と脅している。米国はイランとの交渉中に2度、同国を攻撃している。激しい国内政治的圧力にさらされているネタニヤフ氏は、この合意を台無しにしたいと願っている。トランプ氏は今後、彼を抑え続けられないだろう。レバノンは停戦対象に含まれているが、イスラエルの撤退は規定されていない。今選択を迫られているのは完全に不完全な合意か、あるいはそれよりはるかに悪い、無益な戦争への回帰かのどちらかである。この合意を確実に履行させ、理想を言えば、それをさらに発展させるためには、圧力、検証、そして説明責任が必要となる。すでに「まず爆撃し、その後で交渉する」という手法をとってきた大統領への信頼などでは不十分だ。

 6月19日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「What Iran Gets From Its U.S. Deal, Even if It Gives Nothing (日本版記事:【社説】米イランの覚書、イランが得るものばかり)」で、石油と金融の制裁緩和は現体制の救済に直結すると次のように論評する。

 「イラン側が核プログラムに関してわれわれが求める長期的な義務の履行を確約しないのであれば、何も与える必要はない」。JD・バンス米副大統領は15日、テレビの一連のインタビュー番組でこの発言を自身の決まり文句とした。問題は、合意事項の概要をあいまいに示した今回の覚書を読む限り、これが事実ではないということだ。覚書は、イランの現体制が核問題について本格的な譲歩を示していないにもかかわらず、米国に対して事前に、さらには交渉プロセスを通じて大幅な制裁緩和を約束させる内容となっている。覚書の第10項はこうだ。「米国は『この覚書の署名直後から』制裁が解除されるまで、米財務省がイラン産原油および石油製品・派生製品の輸出や、『銀行取引を含め』、保険、輸送など全ての関連サービスに関して、(制裁の)免除措置を行うことを約束する。」(この段落の二重かぎかっこは本紙によるもの)

石油に関する制裁は、少なくとも交渉期間の60日間は解除される。イラン側はこの期間を延長しようとするだろう。ドナルド・トランプ米大統領は既に延長に応じる用意があると述べているが、その理由は中間選挙の前に交渉決裂やホルムズ海峡の再封鎖というリスクを冒すよりも延長に同意したいということだ。バラク・オバマ政権が結んだ2015年の核合でさえ、イランが核に関する約束を履行していたことが査察官によって確認されるまでは、石油に関する制裁は完全には解除されなかった。今回の覚書と米国によるホルムズ海峡の逆封鎖の解除によって、イランは月数十億ドル相当の石油輸出が可能となる。逆封鎖の解除以降、既に数百万バレルのイラン産原油が同海峡を通過した。関連する銀行制裁の解除は、それによってイラン政権が石油収入を本国に送金できるようになるため問題がさらに深刻化しかねない。制裁免除の範囲が広がれば、イラン政権を資金面で救済することになり、米国の制裁の壁に簡単には修復できない穴を開けることになる。

また覚書では、最終合意までの間、米国が「いかなる新たな制裁も科さない」と約束している。昨年まで米財務省の高官として制裁活動を主導していたミアド・マレキ氏は、これが最も危険な譲歩かもしれないとの見方を示す。同氏は「これは、米政府が違反を容認するというメッセージを市場に送るものであり、リスク許容度を押し上げ、制裁実行への信頼性をゼロに近づける」と指摘する。これが隠れみのになり、イランが中国に留め置かれていた石油収入を移動させることが可能になる。次に問題になるのは、イランの何十億ドルもの凍結されている資金だ。米国は、最終合意の実行状況に基づく条件付きアクセスではなく、「この覚書の実行に伴って」資産を「完全に利用可能にすることを約束」している。イランはこれについて、資金の凍結が即時に解除される計画であることを意味し、核に関する取り組みがなくてもホルムズ海峡で進展を見せれば十分かもしれないと主張している。

トランプ政権のある高官は本紙に対し、人道目的の物品の購入のためにこれらの資金の凍結が解除される予定だと説明しており、覚書では当事者が「交渉中にこれらの資金の凍結解除の手順に関して相互に同意する」となっている。しかし報道によると、イラン革命防衛隊のアフマド・バヒディ司令官は、軍事支出をカバーするために資金が完全に利用可能になることを求めていた。これは覚書にも使われている表現だ。それなら、バンス氏は一体何を言っているのだろうか。米国が最終合意後にのみ策定、実行することを「約束」している3,000億ドル(約48兆3,000億円)の経済復興基がある。この金額は非現実的でイランの現在の国内総生産(GDP)に匹敵する。これを実現させるためには、長い時間とイランによる確実な合意履行が必要だろう。この米政府高官は「ニンジン(見返り)を極めて大きくすることで、できれば、それを得るための対応をイランが考えるよう仕向けたかった」と述べている。しかし、バンス氏がこの資金について「米国の負担は1セントもない」というオバマ元大統領風の言い逃れをしていることに注目すべきだ。それは、米国が仲介役となって同盟諸国が拠出するこの資金が結局のところ、イラン政権の助けにはならないとでも言わんがばかりの発言だ。

覚書ではまた、米国が「最終合意の一環として合意されるスケジュールの下で」、イランに対する「全ての種類の制裁の解除を保証する」としている。これは、イラン政権が核に関する合意に調印し、その内容を実行すれば、制裁が全面解除されることを意味する。それはつまり、「イラン側が(核に関する)行動を確約しなければ、われわれはイランに『何も』提供する必要がない」というバンス氏の発言が、実際には米国がイランに『全てを』与えてしまう必要はないと言っているに等しいのではないかということだ。この二つの間には、天と地ほどの開きがある。それは、ここ何十年かで最も弱体化しているイランの現体制を救済するために何百億ドルもの資金が提供されるのか否かの違い。そしてその資金の使い道には、軍事、経済、産業基盤、代理勢力のネットワーク、核開発計画などが含まれる。

ロイター通信によると、イランは既により多くの資金を手にできればレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラへの資金支援を拡大すると約束しているという。いかにもイランがやりそうなことだ。覚書は、イラン政権から核開発計画に関する確実な約束を引き出す前に同政権に多くを与えてしまう内容だ。ミサイルや代理勢力に関する約束がないことは言わずもがなだ。これでは、米国のイランに対する影響力を最も必要とする時が来る前に手放してしまったようなものだ。

6月16日付フィナンシャル・タイムズは「The least bad exit from Trump’s war of choice (トランプが自ら選んだ戦争からの最も悪くはない脱出策)」と題する社説で、合意を成功させるためには、米国大統領はイスラエル首相を抑制しなければならないと以下のように論じる。

数週間にわたる外交交渉の末、米国とイランが発表したこの合意は、中東を巻き込んだ紛争の終結とホルムズ海峡の再開への希望をもたらしている。しかし、恒久的な解決にはまだほど遠いこの合意は、4月8日に発効した停戦を60日間延長するものであり、その間にイランの核開発計画の行方をはじめとする多くの難題が取り上げられることになる。合意を台無しにする要因もあり得るため、この地域には引き続き緊張状態が続くだろう。双方は金曜日に予定されている調印式までの間、それぞれの立場から合意内容を宣伝するだろう。

しかし、これは少なくともドナルド・トランプ氏が軽率に選んだ戦に終止符を打ちうる歓迎すべき一歩である。米国大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が戦争を開始して以来閉鎖されていた海峡が再開されることで、世界のエネルギー供給危機は緩和されるはずだ。米国は海上封鎖を解除する。イランが米国のアラブ同盟国を標的にして報復した際、トランプ氏に戦争を控えるよう助言していたにもかかわらず、戦争に巻き込まれてしまった湾岸諸国も、一息つけるだろう。

重要なのは、すべての戦線で戦闘が停止することになっている点だ。この紛争により、7,000人以上が死亡した。この数字には、イスラエルとイランの最重要代理組織であるヒズボラが戦闘を繰り広げてきたレバノンで、イスラエルの空爆により死亡した約4,000人も含まれている。この合意には、米国のタカ派からイランの超強硬派に至るまで多くの批判がある。戦闘の継続を望んでいたネタニヤフ首相は、屈辱と怒りを抱いている。トランプ氏とネタニヤフ氏は、多くの戦争目的を達成できなかった。イラン政権は爆撃に耐え、ホルムズ海峡を封鎖する能力を証明した結果、存続しているだけでなく、むしろ勢力を強めている。戦争前、イランは核協議を行っており、海峡を通る船舶の往来も自由だった。

しかし、この合意はトランプ氏が本来引き起こすべきではなかった危機から身を引き抜くための最も悪くない手段である。そして、戦争を終結させることは双方の利益にかなう。イランは屈服しなかったものの壊滅的な打撃を受けた。制裁の緩和は、核協議の進展次第となるだろう。同政権にとって次の試練は、深刻化する経済危機、暴走するインフレ、そして社会的不満のリスクへの対処となる。イランは、最終的な解決に至るために真剣に取り組むべきである。この合意を成功させるためには、トランプ氏がネタニヤフ氏を抑え込むことこそが不可欠だ。先週、ヒズボラがイスラエルに向けてドローンを発射したことを受け、イスラエルがベイルートへの空爆を行ったため、署名直前で合意が危ぶまれた。トランプ氏はイスラエル首相を公に叱責した。今、彼は同様の事態が繰り返されないよう圧力を維持しなければならない。彼にはその手段がある。イスラエルは米国の兵器と防衛体制に依存しており、ネタニヤフ氏はトランプ氏の政治的支援に依存しているからだ。

2023年にハマスがイスラエルに対して行った凄惨な攻撃が中東全域で紛争の連鎖を引き起こして以来、まずジョー・バイデン、続いてトランプは、結果がどうなろうとネタニヤフが適切と判断するとおりに戦争を遂行するよう白紙委任状を与えた。トランプが今、ネタニヤフへの忍耐を失ったのであれば、それは米国とイスラエルの利益にかなうだろう。ハマスの攻撃以来、イスラエルは敵対勢力に対して戦場において著しい成果を上げてきた。しかし、2年半にわたる紛争は、多くの人が予測していた通り、軍事力だけではイスラエルが直面する脅威を解決できないことを証明してしまった。

ヒズボラやイランのその他の代理勢力は、封じ込めるべき悪質な勢力である。しかし、それは、イランとの戦争の終結とレバノンにおける適切な停戦を第一歩とする、より広範な外交プロセスの一環としてのみ実現し得る。イランとその代理勢力に対する懸念を共有する地域大国は協力できるが、イスラエルはそれらを敵対視するのをやめるべきだ。同盟国の利益を完全に無視する行動はできない。ネタニヤフ氏は、イスラム政権の急速な崩壊を誇らしげに予測し、トランプ氏をこの惨事へと導いた人物の一人だった。米国大統領は、この和平推進において過去の過ちを繰り返してはならない。 

結び:以上のようなメディアの報道と論調を以下の3点から、取りまとめてみたい。第1は停戦合意の内容と意義について、第2に改めて振り返るイラン戦争への見解、第3に停戦合意後の情勢に関する展望である。

第1の停戦合意の内容と意義については、メディアの指摘するように、この合意は4月8日に発効した停戦を60日間暫定延長するだけで恒久的な解決にはほど遠いものである。この違法な戦争は、ドナルド・トランプの希望的観測とベンヤミン・ネタニヤフの説得が引き起こしたが、彼らが狙いとしたイランの体制転換や弾道ミサイル計画の根絶、核爆弾開発の永久的阻止、そしてその代理勢力の非武装化などは、いずれも実現していない。それは、トランプ米大統領が迫り来る中間選挙を控えて不満を抱く支持基盤や有権者の懐への影響を懸念して妥協を余儀なくされたためと言える。メデイアは、それを「宥和政策の臭いがする」という表現で伝える。

トランプ大統領は、紛争前に提示されていた条件よりも劣る条件を受け入れ、米国の封鎖解除、イラン資産の凍結解除、およびすべての制裁の解除を約束し、さらにイランは、核問題をめぐる紛争が解決される前に原油を輸出できるようになる。最大の成果は、ホルムズ海峡の再開見込みだが、それも単に戦前の現状への復帰に過ぎない。他方、イランは多大な損失を被ったものの2大敵国からの相次ぐ攻撃を乗り切れることを実証し、核開発の野心を放棄する必要もなかった。そして、ホルムズ海峡の封鎖が強力な経済的武器となることを悟り、指導部は以前よりも強硬な政権として存続することになった。戦争の戦略的勝者はイランと評される所以である。

第2のイラン戦争への見解では、覚書の文面は、この戦争がいかに無意味であるかを如実に示していると次のように指摘する。トランプ氏はこの戦争を仕掛けたことで甚大な過ちを犯した。彼は無謀にかつ公然と法律に背いてこの戦争を遂行し、米国は軍事、外交、経済のいずれの面でも弱体化しつつあり、今後何年にもわたって戦略的な代償を払うことになろう。軍は、長距離精密誘導ミサイルや迎撃ミサイルの多くを消費したにもかかわらず、はるかに小規模な敵を制圧できないことを露呈し、他の潜在的な敵対勢力に対する米国の抑止力を損なう結果となった。そのうえでメディアは、米国は戦争による軍事的・経済的影響で傷ついた欧州、中東、アジアにおける同盟関係を修復するのが賢明であり、また、国防総省は近代化を図り、将来の戦争に備える必要があると提言するが、トランプ大統領の下では、そのどちらも実現しそうにないと悲観論を展開する。以上のように、今回の停戦合意で改めてイラン戦争の無意味さと無残な失敗が露呈したといえよう。

第3の今後の展望について、メディアはまず困難な問題を先送りすることはトランプ流外交の特徴になりつつあるが、問題を回避していては信頼は醸成できないと強調する。激しい国内政治的圧力にさらされているネタニヤフ氏は、この合意を台無しにしたいと願っており、合意を成功させるには、トランプ氏がネタニヤフ氏を抑え込むことが不可欠だが、彼を抑え続けられないかもしれないと懸念を表明し、次のように提言する。

先週、ヒズボラがイスラエルに向けてドローンを発射したことを受け、イスラエルがベイルートへの空爆を行ったため署名直前で合意が危ぶまれた。トランプ氏はイスラエル首相を公に叱責した。トランプ氏は同様の事態が繰り返されないよう圧力を維持しなければならないが、その手段がある。イスラエルは米国の兵器と防衛体制に依存し、ネタニヤフ氏はトランプ氏の政治的支援に依存しているからだ。米歴代政権は、ネタニヤフ氏に戦争遂行の白紙委任状を与えてきた。ハマスの攻撃以来、イスラエルは敵対勢力に対して戦場で著しい成果を上げてきたが、2年半にわたる紛争は多くの人が予測していた通り、軍事力だけではイスラエルが直面する脅威を解決できないことを証明した。ヒズボラやイランのその他の代理勢力は、封じ込めるべき悪質な勢力だが、それは、イラン戦争の終結とレバノンにおける適切な停戦を第一歩とする、より広範な外交プロセスの一環としてのみ実現し得る。

こう述べたメディアは、イスラエルはイランとその代理勢力に対する懸念を共有する湾岸諸国などの地域大国を敵対視するのをやめるべきであり、その利益を完全に無視して行動することはできないと主張する。ネタニヤフ氏は、イスラム政権の急速な崩壊を誇らしげに予測し、トランプ氏をこの惨事へと導いた人物の一人だった。米国大統領は、この和平推進において過去の過ちを繰り返してはならないと論じる。

また今回の停戦合意の唯一の成果として、ホルムズ海峡の開通を挙げ、次のように問題提起する。イランが将来、通過料を課す可能性については、依然として白紙のままだ。彼らは、国際社会がホルムズ海峡の再開のために軍事力を行使する意思がないようだと悟った。もしイランが今後数ヶ月あるいは数年のうちに同海峡を封鎖することを選択した場合、トランプ氏はどう対応するのだろうか。他方、現在のイラン指導部は軍事化が進み、おそらくは以前より強硬な姿勢をとっていると指摘、イラン指導部の一部は、さらなる攻撃に対する最善の保証として核兵器の追求に一層熱心になっている可能性があると述べる。

覚書は、イランの現体制が核問題について本格的な譲歩を示していないにもかかわらず、米国に対して事前に、さらには交渉プロセスを通じて大幅な制裁緩和を約束させる内容となっている。また石油に関する制裁は、少なくとも交渉期間の60日間は解除される。トランプ米大統領は既に延長に応じる用意があると述べているが、その理由は中間選挙の前に交渉決裂やホルムズ海峡の再封鎖というリスクを冒すよりも延長に同意したいということだ。これによりイランは月数十億ドル相当の石油輸出が可能となる。関連する銀行制裁の解除は、それによってイラン政権が石油収入を本国に送金できるようになるため、問題がさらに深刻化しかねない。制裁免除の範囲が広がれば、イラン政権を資金面で救済することになり、米国の制裁の壁に簡単には修復できない穴を開ける。また覚書では、最終合意までの間、米国が「いかなる新たな制裁も科さない」と約束しているが、これは、米政府が違反を容認するというメッセージを市場に送るものであり、リスク許容度を押し上げ、制裁実行への信頼性をゼロに近づける」と批判する。

他方、今回の合意を最悪のものであることを免れていると肯定的に評価する見解もみられる。すなわち、この合意は、トランプ氏が軽率に選んだ戦に終止符を打ち、すべての戦線で戦闘が停止し、少なくとも歓迎すべき一歩となる。米国は海上封鎖を解除し、ホルムズ海峡再開への希望をもたらし、世界のエネルギー供給危機は緩和されるはずだと指摘する。しかし合意は、4月8日に発効した停戦を60日間延長するものであり、その間にイランの核開発計画をはじめとする多くの難題が取り上げられることになるが、合意を破綻させる要因もあり得るため、この地域には引き続き緊張状態が続くだろうと警告する。

以上を要するに、今回の停戦合意の内容からみてイラン戦争の最終的な戦略的勝者はイランと言わざるを得ず、改めてイラン戦争の無意味さと無残な失敗が露呈したといえよう。今後を展望すると、イランとヒズボラやその他の代理勢力は、封じ込めるべき悪質な勢力だとしても、それはメディアが提言するようにイラン戦争の終結とレバノンにおける適切な停戦を第一歩とする、より広範な外交プロセスの一環としてのみ実現できる。米、イスラエルは今一度協調して、その方向で努力すべきだ。また、イランも前途に多くの困難な問題を抱えていることに変わりなく、最終的な解決に至るために真剣に取り組むべきである。

追記:その後、米国は7月7日、イランがホルムズ海峡を通航する商船を攻撃⁠して覚書に違反したとして戦闘行為を再開した。この新たな状況については、別途、必要あれば再度取り上げることとしたい。

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名) THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)、THE GUARDIAN (ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウィーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER (ロイター通信)など。韓国聯合ニュース、中国人民日報(日本語版)も参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。 

前田高昭   


 

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