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第12回 ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア2025              ―児童書の未来を映す国際見本市、読書習慣の変化と多様化への挑戦

                                             2025/5/7

ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアとは
ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア(Bologna Children's Book Fair, BCBF)は、1964年にイタリア・ボローニャで誕生した、世界最大の児童書専門の国際ブックフェアです。特にイラストレーションに特化した展示やコンペティションが評価されており、世界中の出版社、イラストレーター、作家、エージェント、書店関係者が集う一大イベントとなっています。
 このフェアは、児童文学に関する出版権の取引や翻訳権の契約、新人イラストレーターの発掘の場として知られていると同時に、世界の児童書市場が直面する課題や新たな可能性について議論し、未来の子どもたちに何を届けるかを模索する、出版文化の最前線の場としても重要な役割を担っています。

2025年ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア概要
 今年で第62回を迎えたボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア(BCBF)は、3月31日から4月3日までの4日間にわたり、イタリア北部の歴史ある都市ボローニャで開催されました。
 2025年のフェアは、前年を上回る33,000人超の業界関係者が来場し、出展社数が1,500社を超える、児童書市場の国際的な活況を象徴するイベントとなりました。

2025年の注目ポイント
1. 主賓国・エストニアの躍進
 2025年のボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアでは、バルト三国としてははじめてエストニアが主賓国に選ばれました。人口わずか130万人ほどの国ながら、独自のデザイン感覚と詩的なストーリーテリングで知られるエストニアの児童文学は、国際的な注目を集めました。
 特に、幻想的なイラストや、自然・伝統文化をテーマにした絵本が多く、各国の出版社から翻訳出版のオファーが相次ぎました。エストニアの新世代イラストレーターの海外進出のきっかけとなる展示として高い評価を得ました。

2. 読書習慣の変化と出版社の対応
 調査によると、イタリアの子供たちの読書時間は年々減少傾向にあり、2年前と比べても大きく減少しています。一方で、スマートフォンの使用時間は増加しており、出版業界では危機感が高まっています。
 これを受けて出版社は、文字数を減らしてイラストを増やす、表紙のデザインにこだわる、ユニークなキャラクターを登場させる、シリーズものを強化する、ソーシャルメディアや映像作品と連携させるなど、子供たちの興味を引くために、さまざまな工夫を凝らしています。
 これは世界的な潮流でもあり、出版の現場では、次世代読者との新しい接点づくりが課題となっています。

3. グラフィックノベルの存在感
 2025年のフェアでは、児童書出版におけるグラフィックノベルの存在感がさらに増しました。グラフィックノベルとは、「読む」と「見る」を融合させた新しい物語の形です。以前は、保護者や教育者から「本」として認められにくかった分野ですが、今では、読書習慣の導入や感受性を育む優れたツールとして注目されています。
 2025年のボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアでも、その教育的・文化的価値が再確認され、様々なジャンルの児童書でこの形式の書籍が見られました。

4. 政治情勢と出版市場への影響
 世界情勢の不安定さは、出版業界にも波及しています。ロシア・ウクライナ情勢や中東問題、ヨーロッパの経済不安、物流コストの上昇が、国際的な権利取引や書籍価格に影響を及ぼしています。
 一方で、児童書市場では「多様性」、「共感」、「平和」、「地球の未来」という普遍的なテーマが強く求められています。出版物においても、人権、移民問題、ジェンダー平等、持続可能な社会をテーマにした作品が数多く紹介されました。
 出版関係者からは「困難な時代だからこそ、物語の力が試されている」という声が多く聞かれました。

まとめ
 2025年のボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアは、児童書市場が直面する大きな変化と、多様な対応策が浮き彫りとなるイベントでした。
 エストニアのような新興国の存在感が高まり、読書スタイルの多様化、グラフィックノベルの躍進、そして社会状況への柔軟な対応が、今後の児童書市場における重要なテーマとして位置づけられました。
 世界の子供たちに「読む楽しさ」を届け続けるために、出版業界はさらなる創意工夫と国際的な連携が求められています。

<ライタープロフィール>

荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。

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