第 57 回 世界の出版事情 -ハワイ書籍レポート- マリ・ピンダー
-10月- ハワイ書籍レポート あなたはどこから来たのか。自分のアイデンティティとは
マリ・ピンダー (バベル翻訳専門職大学院在学中)
ハワイにおける日本人移民の歴史は、1868 年にまで遡ります。この年に日本の元号が明治となったため、1868 年にハワイに上陸した労働者たちは「元年者(がんねんもの)」と呼ばれ、2018 年に 150 周年を迎えました。一時はサトウキビ労働者の 7 割が日本人で占められるほどでした。移民の多くが契約満了後もハワイに定着し、日系アメリカ人のコミュニティを作り上げていきました。
ハワイには、日本以外も、アジア諸国やヨーロッパなどからの移民が多く存在します。様々なバックグラウンドを持つ人々が生活する中、移民の子どもたちは遅かれ早かれ、自分はどこから来たのか、自分のルーツはどこにあるのか、アイデンティティについて考えることになるかと思います。アイデンティティとまではいかなくても、自分の性格について考えることもあるでしょう。
そんな時に、親として、年長者として子どもたちに寄り添えるようになりたいものです。
作:ジュノ・ディアス
絵:レオ・エスピノサ
出版社: Dial Books
邦訳:『わたしの島をさがして』(汐文社、2018 年)
あらすじ
ロラの学校には、様々な国から来た子どもたちが通っています。マテオは、サボテンさえも生きていけない灼熱の砂漠に住んでいました。ヌーは、トラと詩人で有名なジャングルから来ました。
ロラの担任の先生が子どもたちに宿題を出します。「あなたが元々住んでいた国の絵を描きましょう。」子どもたちはどんな絵を描こうかワクワクしますが、ロラは赤ちゃんの時に生まれた島を去ったので、何も覚えていません。そこで、近所に住む同じ島出身の人たちに話を聞くことにしました。皆は楽しいことを話してくれますが、マーおじさんは「そんな昔のことは知らん」と言って取り合ってくれません。
作品および作者について :
自分の生まれた国を覚えていないロラが、近所の人たちの話を頼りに、自分のルーツを探ります。マーおじさんの話を聞いて、どうして皆が国を去ったのかが明らかになります。移民として暮らす人々の背景には、決して楽しいことばかりではないことがうかがい知れます。
作者のジュノ・ディアスはドミニカ共和国で生まれ、アメリカのニュージャージーへ移民として渡りました。『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』はピューリッツァー賞を受賞しています。
レオ・エスピノサはコロンビア出身で、数々の賞を受賞しているイラストレーターです。現在はユタ州ソルトレークに住んでいます。
作:シャミーレイ・サイド・メンデス
絵:ジェイミー・キム
出版社: Harper Collins Publishers
邦訳なし
あらすじ :
皆が女の子に聞きます。「あなたはどこから来たの?」「お母さんはここ出身?」女の子が、「私はみんなと一緒でここ出身よ」と言っても、「あなたの本当の出身はどこなの?」と聞かれてしまいます。
女の子は、おじいちゃんに聞くことにしました。そんなおじいちゃんも、この土地の人のようには見えません。おじいちゃんは、優しく女の子に教えてくれました。
作品および作者について :
見た目が違うのか、話す言葉が違うなどの理由からか、「あなたはどこから来たの?」と他意のない質問が投げかけられますが、その質問に小さな女の子は戸惑います。そんな時、近くにいるおじいちゃんの存在は心強いもの。女の子の気持ちに寄り添い、戸惑いを解消してくれます。
作者のシャミーレ・サイド・メンデスは、世界中にルーツを持つ家族と一緒にアルゼンチンで生まれ育ちました。現在は、プエルトリコ人の夫と、多文化をバックグランドに持つ五人の子どもと一緒に、アメリカの小さな山間の街で暮らしています。
イラストレーターのジェイミー・キムは韓国で生まれ育ち、一八歳の時にアメリカへ移住。彼女のデビュー作品”Take Heart, My Child by Ainsley Earhardt”はニューヨークタイムズのベストセラーとなりました。
作・絵:シャー・ツイアソア
出版社: Harper
邦訳なし
あらすじ :
パンキーというあだ名はおばあちゃんがつけてくれたもの。今でこそおばあちゃんはパンキーのことを「勇敢な冒険者」と呼びますが、昔のパンキーは怖がりでした。新しい友だちを作る?
そんなの無理無理。でも、ある日おばあちゃん特製のバナナブレッドをめぐって、パンキーの大冒険が始まりました。
作品および作者について :
パンキーはおばあちゃんにお使いを頼まれますが、怖いので気が進みません。そんなパンキーに、おばあちゃんが「勇気が出る魔法のメガネ」を貸してくれます。恐る恐る冒険に出たパンキーでしたが、メガネのおかげで勇気が湧いてきました。ちょっとしたきっかけで、怖がりの自分とサヨナラできたパンキー。身近な人からの後押しが、大きな力になることを実感できます。
オアフ島カイルア出身のシャー・ツイアソアは、2018 年からアート、イラストレーションの仕事を始めました。その活動は壁画やプロダクトパッケージなど多岐に渡り、ハワイの地元企業のみならず、世界的企業もクライアントに持っています。