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JTA News & Topics 」 第184回  

今回は、20231110日に実施しました「翻訳における視点と語り手をめぐる問題」セミナー(主催:バベルユニバーシティ、後援:一般社団法人 日本翻訳協会)受講者の吉田ひろみさんよりセミナーレポートを投稿いただきましたので掲載をしています。
情報提供:一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA)                                    https://www.jta-net.or.jp/
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      「翻訳における視点と語り手をめぐる問題」セミナー                                                

「~は」、「~た」などの形式をめぐって「話し手の言語」としての日本語 ― 

●レポーター :吉田 ひろみ
バベル翻訳専門職大学院在籍中
米国ハワイ州在住。国際企業でフルタイム勤務の傍ら、子育てと学業の両立に奔走中。

猪塚講師の「機械翻訳に適した日本語表現」「翻訳における武器としての役割語とくびきとしての役割語の解説」セミナーに続いて、「翻訳における視点と語り手をめぐる問題」セミナーへ参加させて頂きました。
川端康成の「雪国」を例にしたお話は興味深く、「夜の底が白くなった」という描写が幻想的で想像力をかきたてられました。夏目漱石の「三四郎」も同様に、語り手と登場人物が溶け合い、「三四郎」を私と書き換えても全く問題なく読める事、客観的な英訳やロシア語訳とは全く異なる点、昔の作品でありながら全く色褪せず今も読み継がれる日本語の独特な表現や描写がすばらしいと思いました。
外国人学習者の誤用の研究の中で以前から指摘されている問題点については、日本語が母国語ではない子供とのやり取りで常に感じており、「は」と「が」の違いなど、質問攻めにあっているので、まさしくコレ! という感じでした。「今日のセミナーで、ちょうどピッタリの内容を勉強した」というと、"Oh! That's what I want! Pease share with me!" と大喜び。親子共々、役にたちました。ありがとうございました。

セミナー目次
1.はじめに
2.事実志向と立場志向
3.言語形式と語り手
4.「た」をめぐって:古語「き、けり」「つ、ぬ、たり、り」の意味用法から現代語「た」へ
5.「は」をめぐって:主題を提示する語り手の問題
6.翻訳における「話し手の立場」の扱い
感情形容詞が「太郎はさびしい。」のように三人称には使用できないことなどにも示されているように、日本語は「話し手の言語、立場志向」といわれている。「旅行行ったんだってね、」「うん、奈良の大仏は大きかったよ。」の「大きかった。」も、話し手の自分の経験した事柄に対する気持ち・反応の現れであって、発話時点でも大きいことに変わりはない大仏の属性の描写のみに収まりきらない。
このことは小説の語り手の位置の問題にも関係し、川端康成の「雪国」の冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」も英訳などでは客観的な描写になってしまうが、日本語ではあきらかに「汽車の中にいてそれを経験した人になりきっている語り手の声」である。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
川端康成『雪国』(昭和12年):『川端康成全集 第十巻』昭和55年 新潮社 (新字体に変更)

英訳
The train came out of the long tunnel into the snow country. The earth lay white under the night sky. The train pulled up at a signal stop.
Kawabata,Yasunari《Snow country》 translated E.Seidensticker(1956)

このいるはずの語り手が、登場人物と溶け合ってしまい、そのまま登場人物の生の声で語っている、すなわち「雪国」において登場人物とは、いわば一人称の別称に過ぎないという点である。登場人物でありながら語り手ともなった一人称の不連続な詠嘆の集積こそが「雪国」の比類ない特徴であり、この不思議な一人称の詠嘆が「雪国」という作品を〈小説〉の概念にあてはまらない独自のジャンルに仕立て上げている、という点である。
(第四章 原文「雪国」と外国語訳「雪国」p.58 太字引用者 )

テンス(時制)
テンス(絶対テンス) ある時の一点(基本的には発話時)を基準として、描こうとする事象がその時のことであるか、それより前か、あるいは、それより後かによって、言語形式(普通は動詞の形態)が一定の規則性をもって変化するとき、その言語はテンスをもつといい、その文法形式をテンスという。(日本語教育事典p.189) 注:「テンス」とは言語形式で、「時の意識」とは異なる。
日本語は「・・タ」という形と「・・・ル」という形の対立があるので、日本語にはテンスがあるといえる。(「暑かった」等、動詞以外にもある) 中国語・マレー語・タイ語などは、テンスがなく、 英語は過去(was/were )・現在(is/am/are )・未来(will be)の 3 つのテンスがある。

(例):去年、大阪に移った弟が先月帰ってきた。(過去を表す)

例えば「警察の調書」での発言の記録などでは成立するだろうが、「何かあったの」に対して「去年、大阪に移った弟が先月帰ってきた。」では不自然で「去年、大阪に移った弟が先月帰ってきたんだよ。」などと言わないとならない。このことは以下のように日本語の特徴として外国人学習者の誤用の研究の中で以前から指摘されている。

表現の対照

英語 /事実志向(学習者の誤り)⇒
日本語 /立場志向
キノウ昔ノ友達ガ私ヲタズネタ。 ⇒ きのう友達がたずねてきた。
母ガ冬ノ衣料ヲ私ニ送ッタ。 ⇒ 母が冬の衣類を送ってきた/くれた。
ユウべ田中サンガ私ニ電話シタ。⇒ ゆうべ,田中さんが雷話してきた 。
先月中国ニ行キマシタ。⇒ 先月中国に行って来ました。

水谷信子『日英比較話し言葉の文法_』1985 くろしお出版

以上

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「日英技術翻訳の勘どころ」セミナー 第6回

― 日本人の弱点を克服して Readable な英文を書こう ―

日本語で書かれた文章を英語に翻訳する上で、日本人が犯しやすい間違いを最少に抑えながら、テクニカルライティングの考え方も取り入れたreadableな(外国人が自然に読める)技術英文を作成する方法に焦点をあてた一連の講義です。

<セミナー目次>
文/文章レベルの諸ルールその1
1) 重点/力点の認識/表現
2) 論理性 (論理の流れ)
3) 文の形式/ルール (忌避事項、並列性等)
4) 文体/格調

●講師:平井 通宏(ひらい みちひろ)

・(株)日立製作所でメインフレームコンピューターの設計および輸出に35年間従事した後、社内外国語研修所の運営に4年間携わり、定年退職後15年間神奈川大学や早稲田大学で技術英語の教鞭をとった。
・並行して(益財)日本英語検定協会顧問を11年間務める等、日本人の英語
能力評価に携わった。
・日英・英日翻訳(含添削)歴は、社内従事や副業も含め49年に及ぶ(2023年
春現在)。
・現職は、(有)平井ランゲージ・サービシズ代表取締役社長。
・英語能力検定試験*の最上級54件取得(日本一ネットで日本記録認定)。
・技術士(情報工学)、工学修士(米国ペンシルバニア大学)

* 米国翻訳者協会 (ATA) (JE/EJ)、JTFほんやく検定1級(JE/EJ)、
「JTA公認翻訳専門職(Certified Professional Translator)」認定取得、
TEP 1級、工業英検1級、TOEICR満点を含む

著書
・『速く正確に読む IT エンジニアの英語』
・『エンジニアのための英文超克服テキスト』
・『エンジニアのための英語プレゼンテーション超克服テキスト』
・『エンジニアのための英会話超克服テキスト-実戦! テクニカル・ミーティング』
・『キクタンサイエンス: 情報科学編』

訳書
・『はじめての STEP BULATS』

●第6回セミナー日程: 2024年4月26日(金) 15時~16時30分(日本時間)
●申込締切 : 2024年4月23日(火)(日本時間)

◆セミナーの詳細・お申込みはこちらまで↓
https://www.jta-net.or.jp/seminar_230623.html

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●●翻訳試験のご案内●●

*試験は全てインターネット受験ですからご自宅での受験となります。

●●実施日:2024年4月20日(土)(日本時間)
●●締切:2024年4月16日(火)(日本時間)

◆《出版翻訳能力検定試験》
1) 第42回 ヤングアダルト・児童書翻訳能力検定試験(英日)
2) 第41回 エンターテインメント小説翻訳能力検定試験
3) 第3回 〔日英〕出版翻訳能力検定試験(フィクション分野)
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◆《ビジネス翻訳能力検定試験》
1) 第4回 〔英日〕 リーガル翻訳能力検定試験
2) 第4回 〔英日〕 医学・薬学翻訳能力検定試験
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◆ 第37回 翻訳プロジェクト・マネージャー資格上級試験
https://www.jta-net.or.jp/about_pro_exam_tpm_2.html

◆第39回 フランス語翻訳能力検定試験ノンフィクション分野 (仏日)
https://www.jta-net.or.jp/about_french_translation_exam.html

◆第39回 ドイツ語翻訳能力検定試験ノンフィクション分野 (独日)
https://www.jta-net.or.jp/about_german_translation_exam.html

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情報提供 : 一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA)

●一般社団法人 日本翻訳協会● https://www.jta-net.or.jp/ 
・設立:1986年10月
・Mission:「翻訳に対する社会の認識を高めること及び翻訳に関する技術及び知識を増進することによって翻訳の水準を高めること並びに翻訳者を支援してその自立を促進することを通じて、世界の文化交流及び産業経済の発展に寄与することを目的とする。」
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