ブックコミュニティ第31回
読書会が仮面舞踏会に?
物語の世界を体験する、新しいブックコミュニティ

イベント予約サイトEventbriteは2026年10月、米国の読書関連イベントに関する調査結果を発表した。同サイトに掲載された対面形式のブッククラブ関連イベントは、2025年に前年比50%増加。なかでも目覚ましい伸びを見せたのが、「ロマンタジー」と呼ばれるジャンルのイベントで、開催数は196%増、参加者数は237%増に達した。
ロマンタジーとは、ロマンスとファンタジーを融合させたジャンルのこと。恋愛を軸に、魔法や妖精、ドラゴンなどが登場する架空の世界を舞台にした物語で、近年、若い読者を中心に人気が高まっている。
その代表的な作品が、サラ・J・マースの『A Court of Thorns and Roses』シリーズ(通称ACOTAR)だ。Eventbriteによれば、2026年1月から8月にかけて、米国でのACOTAR関連イベントの検索数は前年同期比228%増加した。ファンたちは作品について語り合うだけでなく、物語に登場する妖精の世界をイメージした舞踏会や、テーマに沿った食事会、クイズ大会などに集まっている。さらに10月27日には、約5年ぶりとなるシリーズ第6作『A Court of Splintered Harmony』が発売され、ファンの期待が再び高まっている。
こうした動きはロマンタジーに限らない。書店でタロット占いを楽しむイベント、ホラー小説をテーマにした集まり、魔法の書物を模したノートを制作するワークショップなど、本を起点にさまざまな趣味や体験を組み合わせた催しが登場している。Eventbriteの集計では、魔術的な世界観を取り入れた文学イベントも、2025年に前年比72%増加した。
従来の読書会といえば、参加者が同じ本を読み、感想や解釈を語り合う形式が一般的だった。しかし、こうした新しい集まりでは、本は会話の対象であると同時に、参加者が共有する体験の出発点にもなっている。
背景には、SNS上で育まれた読書コミュニティの存在がある。TikTokの読書コミュニティBookTokでは、作品の感想やお気に入りの登場人物、物語の解釈などが日々発信されている。オンラインで同じ作品を愛する仲間を見つけた読者が、今度は現実の世界で顔を合わせ、作品への思いを分かち合おうとしているのである。
この変化を、Eventbriteの担当者は、読書会が従来の議論中心の形式を超え、より細分化され、作品世界に入り込めるような集まりへと変化している、と説明する。実際、同サイトでは2026年上半期も、米国のブッククラブ関連イベントが前年同期比33%増加している。
興味深いのは、こうした催しでは、必ずしも読書そのものがイベントの中心ではないことだ。衣装を選び、会場を訪れ、音楽や食事を楽しみながら、共通の物語を通じて人とつながる。読書という個人的な行為が、さまざまな形で共有できる文化体験へと広がっている。
出版に携わる人々にとっても、これは注目すべき変化だろう。読者が求めているのは、物語を読み終えるまでの楽しみだけではない。読み終えたあとも、その世界にとどまり、誰かと感動を共有する機会なのかもしれない。
本を閉じたところで、物語との付き合いが終わるわけではない。読者たちは今、本のページを飛び出し、自分たちの手で物語の続きを楽しんでいる。
今田陽子(いまた・ようこ)
BABEL PRESSプロジェクトマネージャー。カナダBC州在住。シャワー中もシャンプーボトルのラベルから目が離せない活字中毒者。

























