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第56回 ハワイ書籍レポート

第56 回 世界の出版事情 -ハワイ書籍レポート-マリ・ピンダー

世界の出版事情― 各国のバベル出版リサーチャーより 第 56 回
ハワイ書籍レポート
-8月- ハワイ書籍レポート マウイに思いを寄せる マリ・ピンダー (バベル翻訳専門職大学院在学中)

2023年8月に、マウイ島ラハイナで大規模な山火事が発生しました。映画のワンシーンかと見間違えるような衝撃的な映像は、日本でも報道されたかと思います。インターネットにもさまざまな写真や映像がアップされました。同時に、陰謀説がささやかれるようになりました。火災が発生したのに警報が使用されなかったり、なぜかパトカーが道路をふさいでいて車で逃げられなかったり、有事における最善の対処とは言えない事柄がいくつも挙げられています。しかし実際にマウイで被災した友人の話を聞くと、陰謀ではなく、人間が自然の中で生きていく上での責任を放棄したことが積み重なって起こったものだと感じました。
自然の恵みへの感謝の気持ちを、さりげなく思い起こさせてくれる絵本を紹介します。

 


MAUI HOOKS THE ISLANDS (2016)

作:ガブリエラ・アフリイ
絵:ジン・ジン・ツォン
出版社: Beachhouse Pub Llc
邦訳なし

 

あらすじ
ある島に、マウイという青年が暮らしていました。とても美しい島でしたが、孤独だと感じていたマウイ。海の底にもっと他の島々が眠っていると信じていたマウイは、持っていた釣り針でその島々を呼び起こすことに決めます。

作品および作者について :

「マウイ」「釣り針」と聞いて、ディズニー映画『モアナと伝説の海』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。このマウイは、語り継がれるハワイの伝説の中でも有名な人物です。地域によって語られる内容に差があるようですが、本書はカウアイ島での語られているものをベースにしています。判型の小さな絵本ですが、ダイナミックで色彩豊かなイラストに引き込まれます。
作者のガブリエラ・アフリイは、生まれも育ちもホノルルです。イラストレーターのジン・ジン・ツォンと共に、『Pele Finds A Home』や『Naupaka』など、ハワイ伝説シリーズを共に出版しています。

 


Sakamoto’s Swim Club (2021)

作:ジュリー・エイブリー
絵:クリス・ササキ
出版社: Kids Can Press
邦訳なし

 

あらすじ :
科学教師のソウイチ・サカモトが教室から外を見ると、サトウキビ畑の水路を子どもたちが泳いでいます。馬に乗った警察官がやってきて、子どもたちに注意をします。あっという間に逃げ出す子どもたち。サカモトは、子どもたちに水泳を教え、水路で泳ぐことを認めてもらいました。科学教師の新しいアプローチの指導法により、この水泳チームは力をつけていきます。やがて、オリンピック出場を目標にします。戦争勃発によりその夢は一時的に途絶えましたが、ついに1948 年、サカモトの水泳チームからオリンピックに出場した選手が金メダルを手に入れました。

作品および作者について :
この作品は実話がベースとなっています。別名「渓谷の島」とも呼ばれるマウイ島には、かつて多くのサトウキビ畑が存在しました。サカモト先生はサトウキビ畑を管理する会社に申し出て、責任を持って子どもたちの面倒を見るので、水路で泳ぐことを許可してもらいました。ハワイのたくさんの子どもたちのために生涯を捧げたサカモト先生は、1966 年に国際水泳殿堂入りしています。
作者のジュリー・エイブリーはプリスクールの先生でした。インスピレーションを与えるノンフィクションの話を、韻を踏んだリズミカルな文章で伝えることに情熱を注いでいます。まさに、この作品で体現されているものです。
イラストレーターのクリス・ササキはカリフォルニア在住で、幼少期は祖父母の住むオアフ島をよく訪れていました。

 


‘Ohana Means Family (2020)

作:イリマ・ルーミス
絵:ケナード・パック
出版社: Neal Porter Books
邦訳なし

 

あらすじ :
これがポイ。私たち家族のルアウに必要なもの。
これがカロ。私たち家族のルアウに必要なポイを作るためのもの。
これが泥。私たち家族のルアウに必要なポイを作るための、カロを育てるもの。
これが水。透き通って冷たい水。私たち家族のルアウに必要なポイを作るための、カロを育てる泥を覆うもの。
作品および作者について :
「ルアウ」とはハワイ語で宴、集まりを意味します。ルアウで振る舞われるものはもちろん、伝統的なハワイ料理。豚の丸焼き(カルアピッグ)、カロの葉で包まれた肉料理(ラウラウ)、タロ芋(カロ)に水を加えて潰したもの(ポイ)、牛肉を塩漬けして少し乾燥させたもの(ピピカウラ)などです。この作品では、ルアウで振る舞われるポイの材料となるカロを育てるのに必要なものを、ポイの紹介から始まり徐々に視野を広げて説明していくという手法で描かれています。自然の恵みがあってこそのルアウであることを思い出させてくれます。
ハワイ生まれ育ちの作者、イリマ・ルーミスはマウイ島在住。ナショナル・ジオグラフィックやディスカバーに寄稿するジャーナリストでもあります。

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