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BookTok×大英図書館が描く新しい読書コミュニティ

2026年7月2日、閉館後の大英図書館で「BookTok Late at the British Library」と題したイベントが開催された。BookTokは、動画共有アプリTikTok上で生まれた世界最大級の読書コミュニティである。 このイベントは、TikTokと大英図書館が共同で開催したもので、BookTokコミュニティを核として展開された。英国政府などが進める「National Year of Reading 2026(全国読書年)」の公式プログラムの一つとして実施され、「World's Biggest Book Club(世界最大のブッククラブ)」構想の中核イベントにも位置付けられた。

会場には、BookTokクリエイターや読者、出版社関係者ら数百人が集まった。普段は静かな図書館が、その夜だけは読書を語り合うコミュニティへと姿を変えたのである。参加者は館内ツアーやパネルディスカッション、読書セッション、創作ワークショップなどを楽しみ、その様子はTikTok LIVEでも配信された。さらに、HarperCollinsと連携したBookTokベストセラーや限定版の紹介・販売も行われた。

興味深いのは、イベントの内容以上に、その開催場所である。

大英図書館は、約1億7千万点の資料を所蔵する英国最大の国立図書館であり、学術研究や文化保存を担う公共機関として知られている。その象徴的な空間が、SNSから生まれた読書コミュニティBookTokと正式に協力したことは、大きな意味を持つ。

BookTokはこれまで、「若者向けの流行」や「SNS発の読書ブーム」として語られることが多かった。しかし今回の取り組みでは、図書館という公共空間がBookTokを新しい読書文化の担い手として受け入れた。デジタル上で育まれた読書コミュニティが、現実の文化施設へと活動の場を広げたと言えるだろう。

実際、TikTokはこのイベントを「世界最大のブッククラブ」構想の一環と位置付けている。オンラインで本を薦め合うだけでなく、人々が実際に集まり、本について語り、新しい作品と出会う場を英国各地へ広げていこうという試みである。背景には、英国で進められているNational Year of Reading 2026がある。読書離れへの危機感を受け、学校や図書館、地域社会が連携して「読書を日常に取り戻す」ことを目指す国家的な取り組みであり、BookTokもその一翼を担う存在として位置付けられている。

本欄ではこれまで、Vogue Book Clubによる「読書の文化化」、BookTokを活用した企業との連携による「読書の商業化」、Reading Retreatによる「読書の体験化」、そしてReading Medalが示した「読書コミュニティの公共性」を紹介してきた。

今回の大英図書館との協力は、その流れをさらに一歩進めた出来事と言える。BookTokは出版社の販促手段でも、一時的なSNSブームでもなく、公共図書館や教育政策とも連携する読書インフラの一部として認識され始めたのである。

翻訳者や編集者にとっても、この変化は示唆に富む。本をつくることはもちろん重要だが、それだけでは十分ではない。読者が本と出会い、本について語り合い、次の読者へとつないでいく仕組みもまた、出版文化を支える重要な要素になりつつある。

大英図書館で開催された一夜限りのイベントは、BookTokの人気を示しただけではない。デジタルから生まれた読書コミュニティが、公共文化を担う存在として認識され始めたことを象徴する出来事だったのである。

<ライタープロフィール>

今田陽子(いまた・ようこ)
BABEL PRESSプロジェクトマネージャー。カナダBC州在住。シャワー中もシャンプーボトルのラベルから目が離せない活字中毒者。

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