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第73回アメリカ書籍レポート

世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第73回

アメリカ書籍レポート - 12月 

『Battle of the Books』(バトル・オブ・ザ・ブックス)

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


 今年最後の書籍レポートとなりました。

実は今年、子どもが学校で初めて『Battle of the Books』(バトル・オブ・ザ・ブックス)というプログラムに参加しました。

このプログラムは、アメリカの小中高校生(3〜12年生)を対象とした読書推進活動で、学校などの団体による有料のメンバーシップ制で運営されています。参加者は学年ごとに選ばれた書籍リストの本を読み、チームでクイズ形式の大会に挑戦します。本の内容に関する質問に答えて得点を競う、読書版「クイズバトル」のようなイベントです。学校内や小規模な地域独自にイベントを行う場合もあり、必ずしも地区大会や全国大会に参加する必要はありません。重要なのは、子どもたちの読書への意欲を高め、仲間と協力しながら本の世界を楽しむことが主な目的です。

参加する学校や団体は少額の寄付をすることで、書籍リストや問題集を受け取る、使用することができます。そのため、残念ながらリストから書籍をご紹介することは難しいのですが、気になった著者の書籍をピックアップしてご紹介したいと思います。

Shouting at the Rain (2020)                     著者:リンダ・マラリー・ハント(Lynda Mullaly Hunt)

邦訳:なし

対象年齢:10~12歳

 

作品について:
本作は、一人の少女が成長し、家族との向き合い方や、自分らしさを見つめ直す温かな物語です。
天気を観察するのが大好きな少女・デルシーは、物心ついたときから優しい祖母に育てられてきました。でも周りの子どもたちの「ふつうの家族」を見るうちに、自分の家庭にどこか物足りなさを感じるようになります。さらに仲のよかった友だちから距離を置かれ、心は少しずつ陰っていくのを感じるようになります。
そんなときに出会ったのが、新しく引っ越してきた少年ロナン。思いやりがある一方で、彼自身もつらい経験を抱えていました。二人はケープコッドの自然の中でさまざまな冒険をしながら、「怒ること」と「悲しいこと」の違いや、「見捨てられること」と「愛されること」の境界を少しずつ理解していきます。
家族の形に正解はなく、人とのつながりが心を強くしてくれる。そんな優しいメッセージを感じさせてくれる、前向きな気持ちになれる物語です。

著者:
リンダ・マラリー・ハントは、デビュー作『One for the Murphys』(2012)で複数の賞や高い評価を受け、全米20以上の州で児童書賞の候補に選ばれた実力派作家です。同作は5か国語に翻訳され、海外でも広く読まれたました。日本では、二作目の『Fish in a Tree』(邦訳:木の中の魚、訳者:中井 はるの、出版社:講談社 (2017)が翻訳出版されています。
元教師としての経験を生かし、SCBWI(児童書作家・イラストレーター協会)のライターズ・リトリートも主宰。執筆指導にも熱心に取り組んでいます。現在はコネチカット州在住。

No Such Person (2015)
著者:キャロライン・B・クーニー(Caroline B. Cooney)
邦訳:なし
対象年齢:12~17歳

作品について:
『The Face on the Milk Carton』(1990)で世界的ベストセラーを生んだキャロライン・B・クーニーによるYA向けサスペンス小説です。
夏休み、アラーダン家の姉妹はコネチカット川沿いの別荘で過ごします。姉のランダーはそこで魅力的な青年に出会い、ボーイフレンドとして妹のミランダに紹介します。ミランダは姉のボーイフレンドに何とも言えない違和感を覚えます。しかし、これまで常に姉の影に隠れてきたミランダは、姉の幸せを尊重し、穏やかな夏休みを過ごそうとします。
ところが、平穏な夏は一変します。ランダーが計画的殺人の容疑で逮捕され、家族は信じがたい現実に動揺します。警察は有力な証拠があると告げますが、ミランダは姉の無実を信じたい気持ちを捨てきれません。一方で、恋人の関与を疑わずにはいられず、過去数週間のランダーの生活を調べるうち、すべてが彼女の有罪を示すように思えて――。
家族の温かさや日常の細やかな描写を交えつつ、最後までハラハラが止まらない一冊。予測不能の展開と巧妙なトリックで、ミステリー好きの心をつかんで離しません。

著者:
キャロライン・B・クーニーは、30冊以上のYA作品を手がけてきたベストセラー作家 です。代表作の一つである『The Face on the Milk Carton』は、累計300万部を超える大ヒットとなり、長年にわたり世界中の若い読者に支持されています。作品は複数の言語に翻訳され、テレビドラマ化もされました。主人公のJanie Johnsonはその後、『Whatever Happened to Janie?』(1993)に引き継がれ、シリーズとして現在までに5作が発表されています。
近年は児童向けの絵本や、大人向けの作品にも活動の幅を広げており、『Diamonds in the Shadow』(邦訳:闇のダイヤモンド、訳者:武富 博子、出版社:評論社 (2011)が、 2008年エドガー賞(Edgar Allan Poe Award)候補作 に選出されるなど、ミステリ作家として高い評価を受けています。


柴田きえ美
カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を学ぶ。これまでに日英・英日両方を含め7冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得。現在は、BTCで翻訳プロジェクトマネージャーとして翻訳に携わっている。


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