「JTA News & Topics 」 第197回
今回は、2025年2月19日に実施しました『MAD DOG Mc GRAW』で楽しむ絵本翻訳セミナー(主催:バベルユニバーシティ、後援:一般社団法人 日本翻訳協会)受講者の吉田ひろみさん及び山田奈緒さんよりセミナーレポートを投稿いただきましたので掲載をしています。情報提供:一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA) https://www.jta-net.or.jp/
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『MAD DOG Mc GRAW』で楽しむ絵本翻訳セミナー
ー読者がわくわくしてページをめくるような訳をめざしてー

●レポーター :吉田 ひろみ
バベル翻訳専門職大学院在籍中
米国ハワイ州在住。国際企業でフルタイム勤務の傍ら、子育てと学業の両立に奔走中。
前回に続き、小林講師の『MAD DOG Mc GRAW』で楽しむ絵本翻訳セミナーへ参加させて頂きました。
今回のストーリーについて、最近、体験したことがオーバーラップしました。近所を歩いていたとき、突然、通り沿いのお宅の庭付近から2匹の犬が飛び出して来て、前後私の回りを取り囲み、牙を向いて飛びかかり、繰り返し噛みつきました。子供の頃から5匹のわんちゃん達と共に暮らしてきた大の犬好きの私も、予期せぬ事態に驚きました。少し離れた前方には、腕を噛まれたご近所の男性が立ちすくみ、近所のおじさん、おばさんが恐る恐る玄関のドアを開けながら、「大丈夫か?」と声をかけ、誰かが通報したのか、すぐに4台ものパトカーと警官達が現れ、「大丈夫か?どこを噛まれたんだ?」と質問。我に返って見てみると、足、腿、臀部、計4か所、くっきりと歯形が付いており、血が流れていました。警官がパトカー後方ドアを開けると一匹の猛犬が飛び乗り、もう一匹は逃げ廻り、なかなか捕まえることができません。警官達が追いかけると、ある家へ走って入って行き、警官が中へ入り、そこが飼い主さんのお宅だとわかりました。飼い主さん(人間)は謝罪にも現れず、訴訟大国アメリカならではの質問「ファイルしたいか?」に対し、犬のしつけは飼い主(人間)の責任でもあり、犬の行動やそれに至る背景には何らかの理由と原因があるはず。2匹の犬たちがHuman society行きにならなくてよかったと思いながら、飼い主さんは愛情をもって接してくれているのだろうか?犬好きの私はとても心配になり、わんちゃん達を責めるのはかわいそうなので、「しません」と答えました。奇遇にも、直後のセミナー題材が、猛犬のお話だったのでビックリ。まだ現場を通る時にはドキドキし、今まで平気だったのに、大型犬が走りよってくる際には、一瞬、戸惑う自分自身、この本のイラストやお話がとてもリアルに感じられました。文章だけでなく、読み手のイラストへの感じ方、受けとり方によって訳し方が大きく異なる事がおもしろく、また、子供は繰り返しが好き、濁音を使うと強そうな感じや怖そうな感じがする等、講師のお話が印象に残りました。
この本を書いた著者(Myron Uhlberg)が作家になろうと決意したのは 62 歳の時、最初の本が出版されたのが 66 歳。よく「想像力はどこから得たのか」と聞かれるが、自分には想像力がないので、書くのは自分の人生について知っていることだけ。作家になりたい人は皆、様々な人生を送っているので(それぞれの人生は独自の形でユニーク)無限の素材があり、無限の量がある。自分ができる最高のアドバイスは書くことである。最初は、意地悪な犬、ほとんどの子供が犬を自然に恐れること、古典的な民話のバリエーション、その他さまざまな主題について書いた。その後、出版社が読みたいだろうと思うものを書くのはやめ、代わりに自分が探求したいテーマや主題を書き始めた。それは、聴覚障害者の世界と健聴者の世界の接点に関するものだった。聴覚障害者の母と父に育てられ、最初に覚えた言語は手話、健聴者の少年として自分が育った世界。聴覚障害者の世界は、健聴者の世界からは見えない。聴覚障害者の手が生き生きと動き出し、美しい言葉を話し始めて、聴覚障害者の世界に気づく。聴覚障害者の言語であるアメリカの手話がどんなに美しいか、そして、世界のどの地域のどの文化においてもそうであるように、いかに聴覚障害者文化の中核をなしているかということ、さらに、私の本を読んだ子どもたちが、人間の多様性について理解を深めてくれることを願っている。
現在、メディカル治療に取り組んでいる私にとって、体のどこかが正常に機能しないことによる日常生活への影響と支障、メンタルサポート、家族の理解と協力の必要性なども理解でき、著者の言葉に感銘を受けました。
●レポーター :山田 奈緒
東京在住。2020年にバベル翻訳専門職大学院に入学、法律翻訳を専攻。2024年10月に修了。今後は翻訳の経験を少しずつ積んでいきたいと考えている。
2025年2月19日(水)に、小林晶子氏の『MAD DOG Mc GRAW』で楽しむ絵本翻訳セミナーに参加したので、以下の通り報告する。
はじめに
講師である小林氏は、絵本を読むのが好きという理由から、翻訳に携わるようになった。本セミナーでは、『MAD DOG Mc GRAW』という英語の絵本の邦訳を、事前課題としてセミナー参加者から募集した。本セミナーの趣旨は、参加者及び講師の邦訳をシェアしながら、楽しい訳を探っていくというものである。
課題の例を、一部抜粋して下記の通り説明する。
問1)
MAD DOG McGRAW
絵本のタイトルであるが、講師は「猛犬(もうけん)モーギャスと ぼく」と訳した。理由は「猛犬」という字を使うことで怖さを出したかったから。McGRAWは、モーギャスと訳したが、音声学の観点から濁音を使うことで、怪獣のような怖さを出してみようと思ったからである。
問2)
He is one mean dog.
Meanは少し訳しにくい単語であるが、参加者は「いじわるな・なんてらんぼうな・いやな」と、上手く訳している。講師の訳は「ほんとに、いやないぬだ」。絵本の中に、この文が何度も出てくるが、同じ訳を繰り返している。なぜなら、子供は繰り返しの言葉が好きだからである。
問3)
The mailman is afraid to leave the mail next door.
参加者の邦訳が2パターンに分かれた。ゆうびんやさんはこわがって、おとなりにてがみをおいていくという訳と、おとなりにはいたつするのをこわがる、という訳である。後者の訳がより適切と思われる。
(注記:後に参加者からの指摘により、主人公のぼくはMcGRAWの家の隣に住んでいるようだということがわかった。)
問4)
But honey,
参加者の訳は「でもね ぼうや、ぼくちゃん」。講師は「あらまあ」と訳した。ぼうや、ぼくちゃんという表現は日本ではそれほど使わないと思い、「あらまあ」という表現にした。絶対の正解はなく、絵本の対象年齢によって言葉を選んでいけば良い。
問5)
He snaps. He yelps. He jumps.
リズムよく訳せていればそれで良い。講師は擬音語を取り入れ、「グルルル!ギャンギャン!
ウウー、ワン!」と訳した。講師の邦訳では、少し遊びを取り入れている。
問12)
Baitという猫が登場するが、Baitは「餌」、「誘惑するもの」というような意味で訳しにくい。「バイト、ベイト」という名前は日本読者にとって馴染みが薄いため、少しでも原文の意味を出せないかと思い、講師は「メロメロ」と訳した。
問16)
And then I remember what happened with Bait.
問16は物語の流れが変わるところ。講師は、この絵本を読んで二つのことを感じた。1つめは、おかあさんおとうさんの対応。傘を差して犬を跳び越すんだと言っているぼくに対して、やめてと言うのではなく、やるなら試してみてごらんなさいという見守るスタンスである。2つ目は、それによって物語の流れが変わるところ。ぼくが自分で考えて、自分でやり方を選んだ。この絵本で、子供の小さな成長がわかる。
問17)
He looks at me and takes the treat. He comes even closer.
講師の訳は、「ぼくをみて、おやつをくわえるともっとちかづいてきた」。訳した当初は、ぼくの手からおやつを受け取ったと思っていたが、犬とぼくの距離感から、ぼくはおやつを前に投げたのではないかと思った。そして犬がおやつをくわえて近づいてきた。実際にどんな流れだったか納得して訳すと良い。
問21)
I think he is one great dog.
講師の訳は、「モーギャス、ほんとうはいいやつだったんだな」。お話が終わった感じを出したかったので、この表現にした。
まとめ
生き物が動いているのを想像しながら訳すと、生き生きとした訳になるのではないかということであった。また、名前も、音声学の観点から、濁音をうまく取り入れることで、怖さを出すことができるというのは、実に興味深かった。また、Q&Aでは、セミナー参加者から、主人公は男の子なのか女の子なのか、服装からは判断できず、もしジェンダーレスで訳す場合はどう訳したら良いかという興味深い質問もあった。本セミナーに参加することで、参加者や講師の様々な翻訳パターンに触れ、絵本翻訳の奥深さを感じることができ、学びが多かった。
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*ZOOM(オンライン)で受講できます。
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●『Oma’s Quilt』で楽しむ絵本翻訳セミナー
ー登場人物の気もちの揺れを丁寧にすくいとってー
高齢者施設に移る祖母と、その娘である母、主人公の孫娘の3人の物語です。日本でもどこでも、同じような体験はきっと多くあり、感情移入しやすい内容だと思います。この絵本の邦訳はありません。課題は途中までとなりますが、ぜひ最後まで目を通して、登場人物の気もちの流れを感じて訳してみてください。
【セミナー目次】
・参加者から提出された訳の、気になる部分をピックアップしながら、解説
・講師の訳も合わせて読んでいきます
・日本の読者になじみのない単語はどう訳す?
・読者は「翻訳作品」と意識して読んでいるのか?
・参加者が特に悩んだり迷ったりした部分があれば、聞かせてください
●講師:小林晶子(こばやし あきこ)
・大学では国文学を専攻。
・小学校の読み聞かせ活動に参加して絵本の面白さに目覚める。
・3年間のカナダ滞在時に英語の絵本に触れ、帰国後
バベル・ユニバーシティーなどで絵本翻訳を学ぶ。
・『こおりのなみだ』で第18回いたばし国際絵本翻訳大賞英語部門大賞受賞。
翻訳作品『どこかな あるかな さがしてね くまくんの クリスマス』『「危険なジェーン」とよばれても』(いずれも岩崎書店)
監訳『うさぎのピーターのゆかいな毎日』(バベルプレス)
●セミナー日程: 2025年12月17日(水) 15時~16時30分(日本時間)
●申込締切 : 2025年12月12日(金) (日本時間)
◆セミナーの詳細・お申込みはこちらまで↓
https://www.jta-net.or.jp/seminar_20251217.html
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●「日英技術翻訳の勘どころ」セミナー 第4回
― 日本人の弱点を克服して Readable な英文を書こう ―
日本語で書かれた文章を英語に翻訳する上で、日本人が犯しやすい間違いを最少に抑えながら、
テクニカルライティングの考え方も取り入れたreadableな(外国人が自然に読める)技術英文を
作成する方法に焦点をあてた一連の講義です。
<セミナー目次>
単語/フレーズレベルの諸ルール
1. 用語
2. 数量/単位
3. 図表
4. コロケーション
5. 法的/ビジネス的/社会的側面
●講師:平井 通宏(ひらい みちひろ)
・(株)日立製作所でメインフレームコンピューターの設計および輸出に
35年間
従事した後、社内外国語研修所の運営に4年間携わり、定年退職後15年間
神奈川大学や早稲田大学で技術英語の教鞭をとった。
・並行して(益財)日本英語検定協会顧問を11年間務める等、日本人の英語
能力評価に携わった。
・日英・英日翻訳(含添削)歴は、社内従事や副業も含め49年に及ぶ(2023年
春現在)。
・現職は、(有)平井ランゲージ・サービシズ代表取締役社長。
・英語能力検定試験*の最上級54件取得(日本一ネットで日本記録認定)。
・技術士(情報工学)、工学修士(米国ペンシルバニア大学)
* 米国翻訳者協会 (ATA) (JE/EJ)、JTFほんやく検定1級(JE/EJ)、
「JTA公認翻訳専門職(Certified Professional Translator)」認定取得、
TEP 1級、工業英検1級、TOEICR満点を含む
著書
・『速く正確に読む IT エンジニアの英語』
・『エンジニアのための英文超克服テキスト』
・『エンジニアのための英語プレゼンテーション超克服テキスト』
・『エンジニアのための英会話超克服テキスト-実戦! テクニカル・ミーティング』
・『キクタンサイエンス: 情報科学編』
訳書
・『はじめての STEP BULATS』
●第3回セミナー日程: 2026年1月23日(金)15時~16時30分(日本時間)
●申込締切 : 2026年1月21日(水)(日本時間)
◆セミナーの詳細・お申込みはこちらまで↓
https://www.jta-net.or.jp/seminar_250718.html
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●●翻訳試験のご案内●●
*試験は全てインターネット受験ですからご自宅での受験となります。
●●実施日:2025年12月6日(土)(日本時間) ●●締切:2025年12月2日(火)(日本時間)
◆JTA公認 翻訳専門職資格試験
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- ●実施日:2025年12月13日(土)(日本時間)
- ●締切:2025年12月9日(火)(日本時間)
◆《出版翻訳能力検定試験》
1) 第47回 一般教養書(ビジネス関連)翻訳能力検定試験(英日)
2) 第47回 一般教養書(サイエンス関連)翻訳能力検定試験(英日)
3) 第8回 〔日英〕出版翻訳能力検定試験(フィクション分野)
https://www.jta-net.or.jp/about_publication_exam.html
◆《ビジネス翻訳能力検定試験》
1) 第9回〔英日〕リーガル翻訳能力検定試験
2) 第9回〔英日〕医学・薬学翻訳能力検定試験
https://www.jta-net.or.jp/about_business_exam-2.html
◆第46回 フランス語翻訳能力検定試験 フィクション分野
https://www.jta-net.or.jp/about_french_translation_exam.html
◆第46回 ドイツ語翻訳能力検定試験 フィクション分野
https://www.jta-net.or.jp/about_german_translation_exam.html
◆第3回 読みやすい日本語検定
https://www.jta-net.or.jp/about_tpw_exam.html
■受験対策
https://babel.co.jp/tpw/readable_japanese_study
◆第37回 Plain Written English能力検定試験
https://www.jta-net.or.jp/about_plain_written_english_exam.html
■受験対策
https://www.babel-edu.jp/program/31011/index.html
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情報提供 : 一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA)
●一般社団法人 日本翻訳協会● https://www.jta-net.or.jp/
・設立:1986年10月
・Mission:「翻訳に対する社会の認識を高めること及び翻訳に関する技術及び知識を増進することによって翻訳の水準を高めること並びに翻訳者を支援してその自立を促進することを通じて、世界の文化交流及び産業経済の発展に寄与することを目的とする。」
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