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第4回海外の出版業界情報 2024年8月                     

2024/8/22

独立系出版社の流通共同組合を提唱

Publishers Weeklyの記事を紹介します。

独立系出版社協会(IBPA)のメンバーは、独自の流通協同組合を結成することのメリットについて議論しています。2024年3月にある独立系出版社が突然閉鎖されたことで、この機運が盛り上がっています。
独立系出版社は、自ら出版する書籍の「発見されやすさ」や財務の課題に直面しており、対策を講じようとしています。IBPAは、Microcosm Publishing社のCEOジョー・ビール氏と共に、「流通の仕組みと出版社所有の流通協同組合の結成」というウェビナーを主催し、独立系出版社がどのようにして書籍の販売、注文や在庫の管理を行っているかについて話し合いました。IBPAはこのウェビナーが「これまで行ったウェビナーの中でも非常に参加者が多かった」と述べていて、独立出版社の間で非常に関心が高いテーマであることがわかります。
主に以下のような、様々な課題や提案が議論されました。

発見されやすさ*
ウェビナーの冒頭で、ジョー・ビール氏は自身の2018年の著書『A People’s Guide to Publishing』(出版への手引き)や、このテーマに関連するビデオブログ(Vlog)に触れながら、流通に関する講習を行いました。ビール氏率いるMicrocosm社は自給自足の出版社兼流通業者で、48州に委託販売代理店を持っています。
ビール氏は、出版社が独自に流通を行うか協同組合を結成することで、サードパーティの会社に依存せずに自分たちの優先順位を設定できると述べました。今回閉鎖に陥った出版社は、AmazonやIngramとの主要な取引に集中し、その結果、独立系書籍の「発見されやすさ」を失ってしまっていました。「理屈の上では書籍は入手可能でしたが、その書店データをすべての店舗に提供していたわけではなく、テレマーケティングや分野別の担当者もいませんでした」とビール氏は言います。

オンデマンド印刷とオフセット印刷*のバランス
その後、4社の独立系出版社の代表者が、それぞれの流通へのアプローチと将来のアイデアについて順に説明しました。
2014年設立のYali Books社と2019年設立のModern Marigold Books社は、2024年に統合して児童向け出版社Sambasivan & Parikhを設立しました。南アジア出身の移住者のアイデンティティ、および社会性・情動学習に焦点を当てています。同社は、マージン、流通業者への支払い、倉庫の管理を自らで行うコストを詳細に検討しました。また、スペースが限られている成長企業にとっての、オンデマンド印刷とオフセット印刷の利点と欠点も検討しました。Yali Booksでは創業時はオンデマンド印刷での販売でしたが、これは高コストでした。一方、Modern Marigold Booksでは、オフセット印刷を使用していました。「自社にとって、もっと有利なシステムを見つける必要があります」と代表者は述べています。

詩集出版社Poetoseの創設者も、この意見に共感しています。オフセット印刷に切り替えたいと考えていますが、流通業者の保管料が心配だと述べています。「Poetoseは非営利ではないので、持続可能なビジネスモデルを持ち、著者に公正な報酬を支払い、商業的でないような作品でもリスクを取れるようにしたいのです」と創設者は言います。

流通戦略としての「物々交換」
独立系出版社の間では、「物々交換」も流通戦略の一つです。Temporary Services社の共同創設者であり、2008年にHalf Letter Press社を設立したマーク・フィッシャー氏は、美術展に合わせて出版物を作成し、その作品を美術展で配布することから始め、次第にアートブックフェアや店舗で作品を販売なったと述べています。「こうしたイベントに参加することで、コミュニティを拡大し、世界中で共通の興味や価値観を持つ人々と出会えます。出会った人たちが流通の一環として協力者になってくれることも多いのです」とフィッシャー氏は言います。
Half Letter Press社の昨年の販売の約60%は、自社のウェブストアからのものでした。フィッシャー氏は、年間2,500〜3,000ドルを「他の出版社の作品を購入し、ウェブストアで再販するために使っています」と述べています。「時には同じ価格の本と直接交換することもありますが、交換ができない場合は前払いで作品を購入します。会計上はそのほうが簡単です」とフィッシャー氏は言います。Half Letter Press社のウェブストアを訪れ、他の出版社の作品を購入するときに、同社の書籍も見つけてもらいやすく、このような取引は誰にとってもメリットになるということです。

Taevo Publishing社の創設者タマラ・マイヨ氏も、他の出版社の書籍を自らの書籍と共に事務所で販売しています。マイヨ氏はMicrocosmの例に倣い、すべての自社の書籍をAmazonから削除し、自社のウェブサイトでのみ販売するようにしました。そしてフィッシャー氏の物々交換の例に触発され、「他の出版社の書籍を販売するということに躊躇していましたが、他の出版社の宣伝役になっても構わないと決心しました。地元や専門分野のニッチな作家にスポットを当てる独立系書店の場合は、特にそうでしょう」と述べました。マイヨ氏は、流通協同組合が「私たち全員が直面している問題点に対処できる方法かもしれない」と期待を込めて述べました。

流通業者は多種多様な出版社にサービスを提供しており、その使命は大きく異なっています。独立系出版社が協同組合を結成し、複雑な市場で協力して運営する時期が来たと、パネリストたちは述べています。

<用語解説>
*発見されやすさ(ディスカバラビリティ:Discoverability):特定のコンテンツや製品がどれだけ簡単に見つけられるかということ。出版業界においては、特に書籍や著者が、読者や購入者にどれだけ容易に発見されるかが重要となる。

*オフセット印刷:商業印刷の分野で最も広く使用されている印刷技術の一つ。高品質で、大量印刷に適しているが、初期費用がかかり、少量印刷ではコストが高くなることがある。

<ライタープロフィール>

村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。

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