東アジア・ニュースレター

海外メディアからみた東アジアと日本

第184回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教

中国が5月予定の米中首脳会談を前にして外交戦略を急転回させている。イラン戦争の停戦仲介や王外相の北朝鮮訪問、習主席の招待による台湾最大野党・国民党党首の訪中などである。これにより習主席は米中首脳会談への前向きな機運を醸成し、トランプ米大統領に対する貴重な外交資本を手に入れたとメディアは指摘する。

台湾に対して中国は真綿で首を絞めるような「消耗作戦」を仕掛けているとメディアが論じる。それは台湾空域への絶え間ない侵入、電力網や病院へのサイバー攻撃、台湾に接近して展開される軍事プレゼンスなどで構成され、文化面でも変化が起きていると指摘する。

韓国銀行(中央銀行)の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の後任として、国際決済銀行(BIS)通貨経済局長の申鉉松(シン・ヒョンソン)氏が指名された。韓国で最も国際的に認知された経済学者の一人とされ、成長とインフレに対して「バランスの取れた」アプローチを取る意向を表明し、ステーブルコインに対して懐疑的と紹介されている。

北朝鮮の金正恩総書記が米・イスラエルによるイラン軍事作戦を自国の核兵器保有を正当化する口実に利用している。金総書記は最高人民会議の場でトランプ大統領の外交政策によって形作られる世界においては強大な軍事力のみが自国の安全を保障すると強調した。その強大な軍事力とは、まさしく核兵器やミサイルである。

東南アジア関係では、イラン戦争によるエネルギー危機でフィリピンが被害を受けている。戦争開始以来ディーゼル価格が2倍以上に跳ね上がり、庶民は既に生活を切り詰め始めているが、政府も係争海域における中国とのエネルギー協力に前向きな姿勢に転じ、対中関係を「リセット」しようと動き始めている。

インド中央銀行はイラン戦争が始まって以来、過去最安値を更新した通貨ルピーの防衛に奔走し、外貨準備高を200億ドル以上消費している。また湾岸地域はインド最大の貿易相手国で原油の約90%、天然ガスの約半分を輸入に依存し、数百万人のインド人労働者が年間500億ドル以上を母国に送金している。

主要紙社説・論説欄では、米・イスラエルによるイラン軍事作戦を取り上げた。米軍事冒険主義が世界をスタグフレーションと混乱に巻き込んだとメディアは論評する。 

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北東アジア

中 国

☆ 米中首脳会談を念頭に劇場型外交を展開する中国

 中国が5月の米中首脳会談を睨んでイラン戦争の停戦介入を含む劇場型の多元的外交を展開し始めたと、4月10日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルが概略以下のように論じる。

 中国はイラン戦争を巡って異例の外交的介入に乗り出し、イラン政府に米国との協議に応じるよう働きかけた。中国政府の役割は決定的なものではなかったものの、中国の指導者である習近平国家主席は今やドナルド・トランプ米大統領に対する外交資本という貴重なものを手に入れた。この戦争を注視する人々の大半は、パキスタン、トルコ、エジプトに2週間停戦の仲介役としての功績があると考えているが、トランプ氏はイランを交渉の場に引っ張り出したとして中国を名指しで称賛した。ホワイトハウスによると米中は両国政府の「トップレベル」で停戦案を協議したという。

 こうした急展開の外交協力は、来月に予定されるトランプ氏の訪中のお膳立てをするための計算された戦略のように見える。習氏は今、仲介役を果たすことで米中首脳会談への前向きな機運を生み出している。習氏は首脳会談で地政学面での米国への貢献と引き換えに関税やハイテク製品輸出規制の緩和、さらには台湾の独立性に関して米国のより積極的な反対姿勢を引き出したいと考えている。「中国政府の外交はホワイトハウスにメッセージを送ることを意図している」と、元安全保障担当の高官で現在はジョージタウン大学の教授を務めるエバン・メデイロス氏は指摘した。そのメッセージとは「中国が台湾海峡とホルムズ海峡に関して理性的になれるのであれば、トランプ氏も中国にとっての核心的利益に関する問題について同等の協力姿勢を示すべきだというものだ」と同氏は述べた。

 中国政府当局者らは、王毅外相が自国を仲介役に位置付けるために関係各国の外相と26回にわたって電話協議を行ったことを明らかにした。また、中国が3月31日に停戦とホルムズ海峡の通航再開を求める案をパキスタンと共に提示したことも同当局者らは指摘した。中国政府案は、同国を安全保障上のパートナーであり石油の輸出先と見なすイランに外交交渉への入口を提供したとトランプ政権当局者らは語った。王氏は9日、平壌へ向かった。この2日間の訪問は、習氏による平壌への公式訪問に先駆けて行われたとみられている。アナリストはこの訪問について、北朝鮮の核開発計画や地域の安全保障に関する交渉が行われる際には中国が依然、不可欠な存在だというホワイトハウス向けのシグナルだと指摘する。これに加え、台湾最大野党・国民党の鄭麗文主席(党首)が今週、習氏に招待された「平和使節団」として訪中した。国民党党首の中国本土訪問は10年ぶりだ。中国政府はイラン危機で仲介役を務めながら、台湾野党との対話を促進することで責任を持って地域に安定をもたらせる存在として自国を位置付けようとしている。

 中国の全ての重要問題の中でも究極的に重要なのは台湾だ。本紙報道のように習氏はトランプ氏との首脳会談を利用して、米国の政策を中国側の見解に転換させる糸口にしたいと考えている。中国は台湾を本土から分離した、いずれ再統一されるべき省だと考えている。台湾の自治に対する米国の支持が揺らげば、台湾政府内で何らかの形の再統一が避けられないとの考えが強まる可能性がある。中国の専門家らによると、中国政府はイラン停戦における自らの役割とともに、台湾国民党の「平和使節団」について知らしめることで米政府が関与を控える意思がある限り、地域の秩序に米国の軍事介入は必要ないとの見方を示そうとしているという。トランプ氏側は北京での首脳会談を米国の農産物や工業製品、エネルギー資源などの対中輸出拡大を確実に実現するための重要な機会と捉えている。それが実現すれば、自ら勝ち取った成果として11月の米中間選挙の前に有権者に示せるかもしれないからだ。

 中国政府による仲介工作は、自国経済の死活問題が背景にある。ホルムズ海峡の封鎖は、ほぼ自給可能な状況にある中国の電力網が打撃を受けにくいこともあって、短期的には中国の輸出業者にとって支援材料となったが、戦争が長期化すれば中国産品に対する世界の需要が減少する恐れがある。

 中国はまた、米国が軍事攻撃から経済戦争へと方向転換した場合にも打撃を受けやすい立場にある。イランに兵器を供与している全ての国に対し50%の関税を課すとの脅しをトランプ氏がかけていることから、中国が新たな逆風に直面しかねないとアナリストらは警告している。中国はかつて、大量の兵器をイランに供与していたが、2015年の国連安保理決議による対イラン武器禁輸措置を受け、こうした兵器輸出を停止した。しかし、WSJが報道したようにイランは核開発計画に不可欠な資材や設備を中国から調達している。

 アナリストらによれば、中国政府は敵対行為の中断に寄与することで「ゴルディロックス(ちょうど良い状態)」的な立ち位置を守っているという。世界の安定に寄与しているとの主張を可能にするとともに、自国の輸出主導の経済が輸出先の国々に引きずられる形で深刻なリセッション(景気後退)に陥らないようにするという最も心地良い状況だ。

 中国が示す和平案の根底には、一部の人が「中国第一主義」と呼んでいる政策がある。それは、象徴的な勝利を優先し、国際社会の安定のために大きなリスクを負うことは決してしないという慎重な戦略だ。中国は米国と並び立つ超大国のように振る舞っているが、こうした「劇場型外交」は中国の影響力の限界を示している。

 「中国政府内で支配的な考え方は、中国は誰のためにも危険を冒さないということだ」。米国の元上級外交官で現在はアジア・ソサエティー政策研究所に所属するダニエル・ラッセル氏はこう述べる。「中国が仲介に乗り出すのは、実質的なリスクやコストを負うことなく、自らの手柄にできる場合に限られる」

 ラッセル氏によれば、中国はイランに対する自国の影響力、具体的にはイラン産石油の最大の購入国としての役割を他国のために「使う」ものではなく、「守るべき私的財産」と見なしているという。劇場型外交のパターンはおなじみのものだ。中国はこの20年間で中東に関して十数件の和平案を提示してきたが、いずれも支持を広げることはなかった。中国が2023年、サウジアラビアとイランの外交関係正常化を仲介したとして高く評価されたが、この2カ国は何年にもわたり水面下で協議を重ねており、最終合意を保証する低リスクの仲介役を必要としていただけだった。米シンクタンク「スティムソン・センター」の中国プログラム責任者ユン・サン氏は、イランに関する中国の提案について、中国が大国として交渉の席にとどまることを狙ったものだと指摘した。特に注目すべき点として、「イランは中国に停戦の保証人となるよう求めたが、中国はその役割を引き受けることを控えてきた」と同氏は付け加えた。

 国連における中国の行動は、同国の限界を浮き彫りにしている。中国は今月3日、イランの妨害から商業船舶の航行を保護するため、軍事力を含む「必要なあらゆる手段」の行使を認める内容のバーレーン主導による決議案にロシアとともに拒否権を行使した。中国は、そのような措置は戦争の「火に油を注ぐ」だけだと主張し、ホルムズ海峡を物理的に開放しようとする唯一の国際的な取り組みを事実上、不可能にした。

 以上のように、中国は米中首脳会談を前にして外交戦略を急転回させている。イラン戦争の停戦仲介や王外相の北朝鮮訪問、習主席の招待による台湾最大野党・国民党の鄭麗文主席(党首)の訪中などである。これにより習主席は米中首脳会談への前向きな機運を生み出し、トランプ大統領に対する貴重な外交資本を手に入れたと記事は報じる。習氏は首脳会談を利用して、米国の政策を中国側の見解に転換させる糸口にしたいと考えていると指摘する。またイラン停戦における中国政府の仲介工作の根底には自国経済の死活問題が背景にあり、そこには「中国第一主義」と呼んでいる政策があると論じる。注目されるのは、中国は象徴的な勝利を優先し、国際社会の安定のために大きなリスクを負うことはしないとの指摘であろう。まさに、こうした劇場型外交が中国の影響力の限界を示していると言えよう。

台 湾

☆ 真綿で首を絞める消耗作戦を目指す中国

 中国は台湾侵攻を急がず、ゆっくり締め付ける戦略を考えていると3月25日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルが伝える。記事は、同紙による中国の独自分析の結果として概略次のように報じる。欧米諸国は「デービッドソンの窓」にずっと注目してきた。これはフィリップ・デービッドソン海軍大将(当時)が2021年に発した、中国が27年までに台湾に対して行動を起こすという警告だ。しかし先週、米情報機関は実質的に皆に落ち着くよう促した。最新の評価では、習近平氏の机上に台湾戦略について「決められた時間軸」は存在しないことが示唆されている。だが、期限がないことを計画がないことと取り違えてはならない。アイク・フレイマン氏は新著「Defending Taiwan: A Strategy to Prevent War with China (台湾防衛:中国との戦争を防ぐための戦略)」の中で、中国政府は武力攻撃を準備しているのではなく、むしろ真綿で首を絞めるような「消耗作戦」を目指していると論じている。それは、台湾空域への絶え間ない侵入や電力網や病院へのサイバー攻撃、そして、新たな常態と感じられるほど台湾に接近して展開される軍事プレゼンスで構成されている。

 文化面でも変化が見て取れる。筆者は本コラムで昨年公開された注目のスパイドラマについて書いた。このドラマは統一を正義として、またいかなる犠牲をも払う価値があり、歴史的に不可避なものとして描いている。さらに、国有の劇団に上演が許可されるのが戦争をテーマにした作品のみで他のジャンルが脇に追いやられている状況は、文化を国家的闘争へと向かわせようとするトップダウンの動きを示唆している。その目的は意志をくじくことだ。中国政府は抵抗はあまりに代償が大きく、あまりに疲弊するものだと痛感させ、最終的に台湾政府と米国政府がただ諦めるように仕向けたいのだ。

 スタンフォード大学フーバー研究所のフェローであるフレイマン氏は、アジア太平洋地域における米国の歴史的な戦略が効力を失いつつあると主張している。何十年もの間、米軍の圧倒的な力がこの地域を安定させてきた。中国が急速に軍備を増強し、米国の優位性を低下させる中、台湾海峡の現状――すなわち、中国が侵攻せず台湾政府が独立を宣言しない状態――を維持するために米国はもはや大規模な反撃の脅威だけに頼ることはできないと同氏は指摘する。中国の多次元的な戦略に対抗するため、米国の抑止力も同様に多分野を統合したものである必要があるとフレイマン氏は主張する。米国政府が「軍事力、経済的影響力、技術分野におけるリーダーシップ、外交的影響力を戦争を防ぐための一つの一貫した計画に統合」しなければならないと提唱している。それには、同氏が「avalanche decoupling (雪崩のようなデカップリング)」と表現するメカニズムの構築が含まれる。これは基本的に戦争が中国経済にとって単に高くつくだけでなく、自殺行為となるような完全な経済的孤立を意味する。また、米国と同盟国が現代における力の源泉となる半導体や人工知能(AI)といった新興技術において決定的なリードを維持することも必要となる。

 今は極めて重大な局面を迎えている。フレイマン氏の分析によれば、台湾海峡で中国を抑止することに失敗すれば、システム全体に影響が及び、「世界経済を混乱に陥れ、米国の同盟関係を粉砕し、中国が地域を支配して世界秩序を再編することを許す」可能性がある。情報機関による最新の予測は、警戒を解く合図としてではなく、行動を強化するための「狭き窓」として捉えるべきだとワシントン内外の多くの人が言う。米国とそのパートナーはこの猶予期間を利用して、軍事衝突に対してと同じくらい効果的に非軍事的な威圧にも対処できる包括的な抑止戦略を構築すべきだと彼らは指摘している。「Defending Taiwan」が示唆するように、目標は起こり得る中台紛争を単に生き延びることではない。紛争を始めることの代償を未来永劫(えいごう)、確実に想像を絶するものにし続けることだ。

 以上のように、中国は台湾に対して真綿で首を絞めるような「消耗作戦」を仕掛けていると論じる。それは台湾空域への絶え間ない侵入、電力網や病院へのサイバー攻撃、台湾に接近して展開される軍事プレゼンスなどで構成され、文化面でも変化が起きていると指摘する。そして、目的は台湾政府と米国政府の意志をくじき、最終的にただ諦めるように仕向けたいのだと説く。そのうえで、こうした中国の多次元的な戦略に対抗するため、米国の抑止力も同様に多分野を統合したものとする必要があるとの専門家の意見を伝え、一例として「雪崩のようなデカップリング」と表現するメカニズムの構築を挙げる。トランプ大統領麾下の米政府がこうした提言をどこまで受け入れるか、注目したい。

韓 国

☆ 中銀総裁に国際決済銀行のトップエコノミストが就任

 李在明大統領は3月22日、任期が満了する韓国銀行(中央銀行)の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の後任として、国際決済銀行(BIS)通貨経済局長の申鉉松(シン・ヒョンソン)氏を指名した。同日付フィナンシャル・タイムズは、BISのトップエコノミストの申氏がウォン安と原油価格ショックの中で韓国の金融政策の舵取りに当たることになったと以下のように報じる。

 申氏は、世界各国の中央銀行のフォーラムとしての役割を果たす国際決済銀行(BIS)で過去12年間、首席経済顧問を務めてきたことから韓国で最も国際的に認知された経済学者の一人である。2008年の金融危機に先立ち、過剰なレバレッジについて早期に警告を発したことでも知られる。プリンストン大学やロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)での教授職に加え、韓国の李明博(イ・ミョンバク)元大統領の国際経済顧問を務めた経歴も持つ。大統領府のイ・ギュヨン氏は、「中東危機により世界経済の不確実性が高まっている状況下で、申氏は物価安定と国家経済成長という金融政策の目標を同時に達成できる適任者だ」と述べた。同氏はまた、この職務の資格に関して申氏を「何一つ欠けるところのない専門家」と評した。

 申氏は今後3週間以内に、韓国銀行総裁就任に向けた国会の承認聴聞会に臨むことになる。国会には拒否権がないため、来月、前任者の李昌鏞氏の任期が終了すれば、同氏が4年間の任期に就くことはほぼ確実だ。申氏は就任当初から困難な課題に直面している。韓国ウォンは最近、1ドル=1,500ウォン台まで下落し、2008年の世界金融危機時に見られた水準に近づいている。経済全体は「K字型」の二極化に直面しており、メモリチップに対するAI関連の需要に牽引された表面的な成長が、石油化学、電池、鉄鋼などの他の産業の低迷を覆い隠している。また、韓国は中東産原油への依存度が高く、イランとの戦争が長期化すれば多大なコストを強いられる可能性がある。シン氏は先週、イラン戦争が一時的な供給ショックであるならば、「これは金融政策で反応するのではなく、その先を見据えていくべき教科書的事例だ」と述べた。しかし、同氏は紛争がどれほど長く続き、物価への圧力がどれほど持続するかによって左右されると付け加えた。

 韓国は首都圏の不動産価格の高騰に悩まされており、先進国の中でも最高水準の家計債務を抱えている。ソウルのある当局者は、申氏が長年にわたり公の場で一貫して「デレバレッジ」というテーマに言及してきたことから、李大統領の指名には「少なくとも部分的にはこの問題への対処を目的としたもの」が含まれていると述べた。申氏は、インフレ期待が漂い始めた段階で中央銀行は先制的に行動すべきだと主張しており、そうしなければ、後により強力な引き締めが必要になると警告してきた。これは利下げに対して慎重な姿勢を示唆しているが、申氏は本日、成長とインフレに対して「バランスの取れた」アプローチを取る意向を表明した。韓国銀行の政策金利は2025年5月以来2.5%で据え置かれており、同銀行は少なくとも今年8月まではこの状態が続くと示唆している。申氏はステーブルコインに対して懐疑的な姿勢で知られている。同氏は、ステーブルコインが資本流出を加速させ、金融の安定を損なう可能性があると述べてきた。昨年、BIS(国際決済銀行)の報告書の中で、同氏は「ステーブルコインは、19世紀の米国における自由銀行制度時代に流通していた民間紙幣とよく似ている。そのためステーブルコインはよく変動する交換レートで取引され、単一性を損なう」と記している。

 以上のように、韓国銀行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の後任として、国際決済銀行(BIS)通貨経済局長の申鉉松(シン・ヒョンソン)氏が指名された。韓国で最も国際的に認知された経済学者の一人とされる。新総裁は早速、韓国経済が抱える問題、すなわち産業のK字型」への二極化、高い中東産原油への依存度、首都圏不動産価格の高騰、先進国の中でも最高水準の家計債務などに取り組まなければならない。同総裁は、成長とインフレに対して「バランスの取れた」アプローチを取る意向を表明し、ステーブルコインに対して懐疑的と紹介されている。その豊から国際経験を生かして、韓国経済の抱える難題に立ち向かうものと期待されている。

北 朝 鮮

☆ イラン戦争を口実に核兵器保有を正当化する金総書記

 3月23日付ニューヨーク・タイムズは、金正恩総書記が米・イスラエルによるイラン攻撃を口実に核兵器保有を正当化していると以下のように報じる。

 金正恩総書記は、米国によるイランへの攻撃が、国際的な制裁にもかかわらず自国の核兵器を拡充するという自身の決定を正当化するものであると述べたと、国営メディアが火曜日に報じた。金委員長は、先月米国とイスラエルによるイランへの空爆で始まった中東での戦争は、トランプ大統領の外交政策によって形作られる世界において、強大な軍事力のみが自国の安全を保障することを示していると述べた。金氏は16日、平壌にある北朝鮮の形式的な立法機関である最高人民会議で長時間の演説を行い、その中で韓国に対する敵対姿勢を改めて表明するとともに、米国を牽制するために自国の核戦力を強化すると誓った。

 17日に公開された演説の原稿の中で、金氏は、2019年にトランプ氏との交渉が決裂した後、自身が下した最良の決断の一つは核兵器強化に注力したことだったと述べた。それ以来、金氏は制裁に耐えうる「自力更生経済」を構築するとともに、核弾頭の増強と長射程の運搬用ミサイルを製造するよう自国に求めてきた。金氏は演説の中でイランの名を直接挙げることはなかったが、「米国が世界中で行っているテロや侵略行為」こそが、自国の核戦力保有を正当化する十分な理由であると語った。また、これらの兵器がもたらす安全保障のおかげで、近年、北朝鮮では経済発展に向けた資源を捻出できるようになったとも語った。

以下は、そうした自画自賛に満ちた同演説の主な抜粋である。

「今日の現実は、敵の甘い言葉に耳を貸さず、核兵器を恒久的に確保するという我が国の戦略的選択と決断の正当性を明確に示している。我が国はもはや脅威にさらされている国ではないことを断言する。我々は今や必要とあれば脅威を与える力を有している。核の盾の堅固な構築は、経済や文化を含む国内のあらゆる分野の発展、そして国民生活の向上を確固として保証し、推進するものである。国家の尊厳、国益、そして最終的な勝利は、最強の力によってのみ保証される。わが政府は、核保有国としての地位を断固として強固なものにし続ける。」

「我々は韓国を最も敵対的な国家と見なし、最も明確な言葉と行動をもってこれを徹底的に拒絶し無視することで対処し、わが共和国に及ぶいかなる行動に対しても、わずかな躊躇や配慮もなく、容赦なく代償を払わせる。」

数十年にわたり、米国とその同盟国は、制裁と報奨の両方を用いて北朝鮮に核兵器計画の放棄を説得してきた。しかし、そうした努力はすべて失敗に終わっている。ホワイトハウスに復帰して以来、トランプ氏は金氏との再会に関心を示している。しかし、北朝鮮の指導者は、米国が自国を核保有国として正式に承認する場合にのみ、会談が可能だと述べている。北朝鮮はかねてより、リビアのムアンマル・カダフィやイラクのサダム・フセインも、核抑止力を保有していれば、あのような最期を遂げることはなかっただろうと主張してきた。

 以上のように、金総書記は早速米国とイスラエルによるイラン軍事作戦を自国の核兵器保有を正当化する口実に利用した。確かに北朝鮮の置かれた立場では、トランプ大統領の外交政策によって形作られる世界においては強大な軍事力のみが自国、すなわち金一族体制の安全を保障すると言える。その強大な軍事力とは核兵器やミサイルである。ただし金総書記は、それを国内の最高人民会議の場で発言している。つまり、第一義的には自国民当ての言として発信している。これは、国民生活を犠牲にして軍事力の強化に邁進し、金一族による独裁体制の維持強化に奔走する金総書記としては、あらゆる機会をとらえて、その正当性を国民に訴える必要があるためと言えよう。

東南アジアほか

フィリピン

☆ エネルギー危機に直面するフィリピン

 東南アジア諸国がエネルギー危機の矢面に立たされていると4月8日付フィナンシャル・タイムズが報じる。記事は、特にフィリピンでは燃料価格の高騰によりエネルギー政策の見直しはもとより、中国との関係さえも再考を迫られていると、概略以下のように伝える。

 フィリピンでは、戦争開始以来、ディーゼル価格が2倍以上に跳ね上がり、1リットルあたり約150ペソ(2.49ドル、約400円)に達した。これはアジアでも最も急激な値上がり幅の一つである。この状況は、世界で最も交通渋滞が激しい都市の一つであるフィリピンにおける主要な公共交通手段であるジープニーの収益を圧迫している。同国は石油をほぼ完全に中東に依存しており、国内価格の上限設定や補助金制度がないため特に脆弱な立場にある。フィリピンは国家エネルギー非常事態を宣言し、5年ぶりにロシア産原油を購入するとともに一連の燃料配給措置を実施した。エコノミストは、これらの措置が、昨年4.4%という新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以降で最も低い成長率を記録し、すでに減速傾向にあった経済にさらなる重荷となる可能性があると警告している。フィリピン政府はまた、南シナ海でますます激化する海洋紛争を抱える中国とのエネルギー協力の可能性にも言及した。

 フィリピンのエネルギー危機は、イランがホルムズ海峡を通るエネルギー輸送を遮断したことで、地球の反対側にある中東の紛争の痛手をいかに多くの貧しく輸入依存度の高い国々が被っているかを象徴している。イラン政府は、火曜日遅くに合意された2週間の停戦期間中、この要衝を通る「安全な通行」を許可すると表明したが、米国とイランが恒久的な和平に達するかどうかについては依然として不透明なままである。また、この危機は、燃料源の多様化や資源探査といった緊急事態への備えを怠ったこと(一部は中国との緊張関係によるもの)が、いかにフィリピンのエネルギー安全保障を損なってきたかを浮き彫りにした。「過去の危機にもかかわらず、わが国政府は教訓を学んでいない」と、エネルギー・エコロジー・開発センターのジェリー・アランセス事務局長は述べる。「我々は輸入に過度に依存しているため、エネルギー安全保障は国際的なショックに対して極めて脆弱だ。」

 フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領の下、フィリピン政府は、自国船への体当たりや放水砲の発射などの中国による攻撃的活動に対して強硬姿勢を示し、米国との関係を強化してきた。しかし3月下旬、同大統領はブルームバーグに対し、係争海域における中国とのエネルギー協力に前向きであるとし、中東紛争が合意に至る「契機」となり得ると語った。同氏は、中国との関係を「リセット」する時が来たと付け加えた。先月末、フィリピンは4年ぶりに中国と「石油・ガス協力の可能性に関する初期協議」を行ったと発表した。より広範な二国間問題や領土問題も取り上げたこの協議を受け、中国はフィリピンに対し、関係改善に向けた具体的な行動を取るよう求めた。フィリピン側は、双方が引き続き進展を遂げていると述べた。エコノミストでイボン財団の事務局長を務めるソニー・アフリカ氏は、フィリピンは国内生産を拡大すべきだとし、中国との協議開始を支持した。「多くの点で、フィリピンのエネルギー安全保障戦略は外交政策の選択によって制約されてきた」と語る。しかし、いかなる和解に対しても国内では強い反対がある。進歩的な野党アクバヤン党のラファエラ・デイヴィッド党首は、中国との共同探査は「裏切り行為」だと述べた。「いかなる場合でも、わが国はエネルギー安全保障を追求し、持続可能なエネルギー源を見出さなければならないが、主権を犠牲にしてはならない」と彼女は声明で述べた。

 中国との紛争に加え、エネルギー部門における約60%の国内資本保有要件が外国の石油会社を遠ざけてきた。資金繰りに苦しむ現地の事業者は、資本集約的な探査を行うよりも石油の輸入を選択している。一部の専門家は政府が製油所を所有し、ガソリンスタンドの小売チェーンを運営すべきだと提案し、フィリピンは政府の関与を強化することで恩恵を受けると主張している。「他国が変動する燃料価格から消費者を守っている一方で、フィリピンの規制緩和された石油産業は、消費者を変動する石油コストにさらしている」と、CEEDのアーランセス氏は述べた。「フィリピンの政策は、消費者よりも企業を優先している」。他方、1990年代に民営化された石油産業の完全な国有化、あるいは国内唯一の製油所を運営し燃料の30%以上を供給するペトロン(Petron)の政府による買収を求める声もある。「そうすれば、政府は価格をより厳格に管理でき、国民に対してより安価に燃料を販売できるようになる」と、公共交通団体連合「ピストン」のモディ・フロランダ会長は述べた。同氏によると、価格高騰によりジープニー運転手の10%近くがすでに運転を停止しているという。フロランダ氏は、価格や取引に対する政府の統制を撤廃した1998年の石油規制緩和法が廃止されるまで、ピストンが4月に「全国的な抗議活動を継続的に展開する」と述べた。

 ペトロンおよびその親会社であるサンミゲル・コーポレーションの最高経営責任者(CEO)であるラモン・S・アン氏は先月末、国有化に前向きな姿勢を示し、「政府が特にこのような状況下において、ペトロンを国有化した方がフィリピン国民により良いサービスを提供できると考えるのであれば、我々は協議の席に着き、それを実現させる用意がある」と述べた。「フィリピン政府はもっと関与すべきだ」と、エネルギー研究政策センターの共同代表ノエル・バガ氏は述べた。「燃料価格が上昇し続ければ、経済はまもなく停滞するかもしれない」。フィリピンはすでに失業率の上昇と東南アジアで最も高い貧困率の一つに苦しんでいた。「我々は決して良い状況から始まっているわけではない。危機が訪れる前から状況はすでに十分悪かった」とイボン財団のアフリカ氏は語る。「我々は、極めて深刻な生活費高騰の危機の瀬戸際に立っている」。

 全国各地で、エネルギー不足の影響はすでに顕在化している。多くのフィリピン人が故郷の地方に戻るイースター休暇中、今年は自家用車ではなく公共交通機関を利用したり、帰省自体を控えたりする人が多かった。レストランは営業時間を短縮しており、あるフードデリバリーの配達員は、食事から肉を抜き、より安価な野菜に切り替えたと語った。サルガン氏はすでに子供たちへの小遣いを減らし、毎週の家族での外食も中止している。しかし、それだけでは不十分かもしれない。「政府からさらに現金給付を受けられることを期待している」と彼は語った。「燃料価格は上昇し続けているのだから、政府はそれを抑制すべきだ。」

 以上のように、イラン戦争によるエネルギー危機が多くの貧しく輸入依存度の高い国々に甚大な被害を与えている。そうした国の一つであるフィリピンでは、戦争開始以来、ディーゼル価格が2倍以上に跳ね上がり、1リットルあたり約150ペソ(2.49ドル、約400円)に達している。庶民は既に生活を切り詰め始めているが、特に政府が係争海域における中国とのエネルギー協力に前向きな姿勢に転じ、対中関係を「リセット」しようと動き始めていることが注目される。

インド

☆ イラン戦争の余波からルピーを守る中央銀行

 インド準備銀行(RBI)は今月、通貨防衛のために200億ドル以上の外貨準備を消費したと3月20日付フィナンシャル・タイムズ(FT)が伝える。記事によれば、米国とイスラエルによるイラン軍事作戦の余波が、世界で最速で成長を遂げているインド経済を直撃する恐れがある中、インド準備銀行はルピーを支え、政府の借入コストを抑えるために奮闘している。ムンバイの銀行関係者によると、約3週間前に紛争が始まって以来、RBIは外貨準備高を200億ドル以上消費し、通貨防衛に奔走している。

 同期間にルピーは対ドルで2.6%下落し、20日には過去最安値を更新した。銀行関係者によると、中央銀行のネット・ショート・ポジション(米ドルの先物売り高を示す指標)は1,000億ドル以上に拡大した。また中央銀行は市中銀行の流動性を高め、債券市場を支えるため、過去1年間にわたり記録的な国債買い入れを行っており、今月だけでも1兆ルピー(107億ドル)相当の国債を購入した。インドの10年物国債利回りは、今年に入ってからこれまでに0.2%ポイント近く上昇している。インドは原油の約90%、天然ガスの約半分を輸入に依存しており、紛争開始以来、両方の価格が急騰し、すでに調理用ガスの広範な不足に直面している。

 また湾岸地域はインド最大の貿易相手国であり、数百万人のインド人労働者から年間500億ドル以上の送金源となっている。これらの送金は、インドの対外収支にとって極めて重要な緩衝材となっている。調査コンサルティング会社「Asia」の創設者であるプリヤンカ・キショア氏は、「ルピーは、イラン戦争の影響を最も受けやすい新興国通貨の一つだ。その一因は、インドのエネルギー輸入の約半分が湾岸諸国からのものだからだ」と述べた。「また、中東からの多額の送金もリスクにさらされている。貿易赤字の拡大に直面する中、経常収支赤字の抑制において重要な役割を果たしているからだ」と語る。

 RBIはコメントの要請に応じなかった。ルピーは今年、アジアで最もパフォーマンスの悪い通貨の一つに数えられており、これはインドの膨れ上がるエネルギー輸入代金、インフレリスク、資本流出、そして経常収支の安定性に対する懸念の高まりを反映している。RBIの介入は相当規模に達している。公式データによると、紛争開始から3月13日までに中央銀行は175億ドルの外貨準備を投入し、その残高を5,550億ドルまで減少させた。ゴールドマン・サックスのエコノミストは、今後12ヶ月間でルピーが現在の1ドル=約93.5ルピーから1ドル=95ルピーまで下落すると予想しており、インドをタイやフィリピンと並び、戦争の余波に対して最も脆弱なアジアの経済・通貨の一つに位置づけている。ムンバイに拠点を置くEmkay Global Financial Servicesのアナリストらによると、戦争が長期化すれば「インドのあらゆる金融市場にストレスを引き起こす」可能性が高いという。同社のアナリストらは今週、「この状況が続けば、RBIは持ちこたえられない」と記し、ルピーが1ドル=95ルピーまで下落し、10年物国債利回りが6.7%から7%に上昇し、企業債スプレッド(企業が借入を行う際に国債利回りを上回る分)が急拡大する可能性があると付け加えた。

 この紛争は、RBIのサンジャイ・マルホトラ総裁が「スイートスポット」と表現したインド経済の好況——堅調な成長と低インフレが特徴で、ニューデリーがワシントンと長らく延期されていた貿易協定に最近署名したことで一時的にルピー相場が押し上げられたことも追い風となっている——を脅かしている。こうした好条件により、金利は「長期間」低水準を維持できるだろうと、マルホトラ総裁は12月、FT紙の取材に対し語った。これは、通貨に重くのしかかった1.25ポイントの利下げに続く発言だった。スタンダードチャータード銀行のインド経済調査責任者であるアヌブティ・サハイ氏は、「成長率とインフレ率は悪化する可能性が高いものの、対外部門が極めて大きな圧力にさらされない限り、利上げの必要性はそれほど切迫していない」と述べた。「まだその段階には至っていない」と付け加えた。「我々は、RBIが債券購入など様々な措置を通じて銀行システム内のルピー流動性を十分に確保することに重点を置くことで、金利は据え置かれると予想している」。

 状況をさらに悪化させているのは、外国ファンドが今年、株式投資を約100億ドル売却したことだ。戦争勃発後の3月だけで80億ドル強が流出したが、これは海外投資家がインドの高値圏にある株式から距離を置いたり資金を引き揚げたりしているという長年の傾向が続いていることを示している。アクシス銀行のエコノミスト、タナイ・ダラル氏は、戦争前からルピーは「すでに圧力を受けていた」と述べ、RBIによる継続的な介入を考慮すれば、通貨安は「緩やかで長期化するだろう」と予想している。ムーディーズ・レーティングスのシニア・バイスプレジデント、クリスチャン・デ・グズマン氏は、インドのインフレ率が依然として中央銀行の目標範囲である4~6%を下回っていること、堅調な経済成長、そして2月末に記録した過去最高値である約7,300億ドルに近い水準を維持している金を含む外貨準備高を指摘し、中央銀行には「ある程度の裁量の余地」があると付け加えた。

 しかし、スタンダードチャータード銀行の分析によれば、インドの輸入カバー率(外貨準備高で輸入代金を支払える月数)が現在の10ヶ月から9ヶ月に低下した場合、ルピーを支え続けるRBIの意欲は薄れる可能性が高い。経常収支赤字はGDP比で最大2.5%まで拡大する見通しで、以前の上限推定値である約1%から上方修正されている。シティのエコノミストらは、原油やその他の商品価格が3ヶ月間現在の水準付近で推移し、湾岸諸国からの送金が減少した場合、インドの経常収支赤字が250億ドル(GDP比0.6%)拡大すると予測している。スタンダードチャータード銀行のサハイ氏は、「インドは3年連続の国際収支赤字となるリスクを抱えている」と述べた。ルピーは「ショックアブソーバーの役割を果たさなければならない」。

 以上のように、イラン戦争が始まって以来、RBIは通貨防衛に奔走し、外貨準備高を200億ドル以上消費している。同期間にルピーは対ドルで2.6%下落し、20日には過去最安値を更新した。インドは原油の約90%、天然ガスの約半分を輸入に依存し、また湾岸地域はインド最大の貿易相手国であり、数百万人のインド人労働者から年間500億ドル以上の送金源となっている。また海外投資家がインドから資金を引き揚げていることが、こうした状況をさらに悪化させている。ただしエコノミストは、RBIによる継続的な介入を考慮すれば、通貨安は「緩やかで長期化するだろう」と予想している。またインフレ率が依然として中銀の目標範囲である4~6%を下回っていることや堅調な経済成長、約7,300億ドルに近い外貨準備高を指摘し、中央銀行には「ある程度の裁量の余地」があるとの見方を伝える。

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主要紙社説・論説欄から 

米国・イスラエルのイラン軍事作戦について 

 米国は2月28日、イスラエルと共にイランに対して「壮絶な怒り作戦(Operation Epic Fury)」と名付けた大規模な軍事作戦を開始した。攻撃の2日前には米国とイランは、イランの核開発計画をめぐって協議していた。作戦開始後、1カ月余りが過ぎ、周辺国の仲介による外交的解決に向けた動きが報じられてはいるが、終結の目途はたっていない。以下は、本軍事作戦に関する主要英文メディアの報道や論調の要約である。筆者論評は後述の「結び」を参照。 

 3月1日付エコノミスト誌は「Why Donald Trump gambled in Iran (ドナルド・トランプがイランで賭けに出た理由)」と題する社説で、「破壊の首謀者はアメリカの力の破壊的な性質を示すことで世界中の敵にメッセージを送ろうとしていると、概略以下のように論評する。

 歴代のアメリカ大統領の多くは、中東で苦境に立たされてきた。そうした苦難にもかかわらず、2月28日の朝、ドナルド・トランプはイランに対し、次々とミサイルと爆弾を浴びせた。誰もが知っているように戦争の行方は極めて不透明だ。イスラエルと共同で行われたこの攻撃は、和平に前向きな新たなイラン政権の誕生をもたらす可能性もあるが、混乱やさらなる流血を招く可能性もある。いずれにせよ、トランプ氏は熱意を持ってこの賭けに出たのだ。攻撃開始直後にその理由を述べた大統領は、すべてを手に入れたいと考えているようだった。彼は、イランの弾道ミサイルによる脅威は容認しないと警告した。核開発計画を終わらせると誓った。そして、イラン国民に立ち上がるよう、治安部隊には政権に背くよう呼びかけた。数時間後、トランプ氏は最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイの死亡を確認した。

 政権の首脳部を排除するというこの驚くべき初期の成功にもかかわらず、トランプ氏が望む結果を得られない可能性は十分にある。短期的には、イランは安全の確保こそが繁栄の基盤となっているバーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の各都市に対し、残存する多数のミサイルを使い続けて攻撃を仕掛け、地域に壊滅的な被害をもたらすかもしれない。また、同政権は基地や艦船を攻撃し、多数の米軍兵士を殺害する可能性もある。油田を破壊したり、ホルムズ海峡を通過するタンカーを阻止したりすることで、原油価格を100ドル以上へと押し上げることも可能だ。長期的には、攻撃はより根本的な点で失敗に終わる可能性もある。

 イラン政権は、高齢で病弱なハメネイ師の後継者問題について、かねてより準備を進めてきた。当面は三頭政治体制が権力を握っている。やがてハメネイ師の後任には、1月の反政府デモでの数千人のイラン人殺害への関与が疑われる人物が就くかもしれない。新たな支配者は、自らのまだ血が乾かぬ手で(With fresh blood on his hands)、前任者と同様に強硬かつ残酷な姿勢を示すかもしれない。彼は、それだけでは新たな戦争を正当化するのは難しいと確信し、弾道ミサイルの備蓄を続けるかもしれない。制裁解除と引き換えに核濃縮を放棄するよりも、北朝鮮と同様に、イランも攻撃から身を守るためには核兵器が必要だと結論付けるかもしれない。あるいは、イランは混乱と内戦に陥り、その混乱が国境を越えて広がる可能性もある。その場合、濃縮ウランの供給がどこへ流れてしまうか誰にも分からない。

 トランプ氏は、これらすべてを確実に理解しているはずだ。彼はイランを攻撃する必要はなかった。その代わりに先週ジュネーブで行われた核協議が進展しているとして、時間稼ぎをすることもできたはずだ。では、なぜ彼はそのリスクを冒す価値があると判断したのだろうか。理由の一つは、イランとの因縁を清算した大統領として、歴代大統領の長いリストの中で頭一つ抜け出すためかもしれない。数ヶ月にわたり、湾岸諸国の首脳らのような慎重さを求める同盟国は、特にイスラエルなど攻撃を熱望する指導者たちとトランプ氏の耳を争ってきた。もしタカ派がイランとの因縁を清算することで歴史に名を残せるとトランプ氏に説得したのなら、その作戦は成功したことになる。トランプ氏は土曜日の8分間の演説で1979年にテヘランの米国大使館で同胞が444日間人質に取られて味わった屈辱を米国国民に想起させた。イランと米国の関係は、その後一度も回復していない。

 もう一つの理由は、イランが弱体化している間に交渉の機会を捉えようとしたことにあるかもしれない。昨年、同国の防空システムは機能不全に陥り、空域は侵入に対して無防備な状態となっていた。6月に起きた12日間の戦争もまた、軍や政府の指導層に打撃を与えた。1月の抗議活動において、政権は革命以来かつてないほど深く国民の信頼を失った。レバノンのヒズボラやシリアの親イラン勢力への攻撃に成功したイスラエルに後押しされ、トランプ氏は今こそ行動する絶好の機会だと判断したのかもしれない。こうした状況において、イランは米国が権力を主張する新たな広範なパターンに組み込まれている。トランプ氏はしばしば関税や制裁を用いて、他国の政府を自らの意のままに操ってきた。しかし、彼は軍事力を行使することにもますます前向きになり、むしろそれを熱望している。

 米国が冷戦終結以来、自国に有利に働いてきた国際情勢の現状維持を図るだろうと人々は予想していたかもしれない。しかし、トランプ氏は歴代大統領を縛ってきた国際法や規範を嬉々として無視し、未来へと突き進んでいる。過去の政権であれば、たとえ不完全なものであっても、その後に何を据えるかという計画なしにイランの体制を破壊しようとはしなかっただろう。ジョージ・W・ブッシュはアフガニスタンとイラクで民主主義の確立を目指した。対照的にベネズエラではトランプ氏は独裁者を排除したものの、その残虐な共犯者たちを権力の座に残した。しかし、これはトランプ氏がアメリカの価値観の推進を放棄し、代わりにアメリカの権力の蓄積を選んだ新たな世界である。これは、指導者たちがアメリカの武力に屈服すべきだと理解している限り、結果がどうなろうと国家を崩壊させることも許容される暴力的な世界だ。

 今後何が起ころうとも、イランへの大規模な空爆が持つ抑止力を過小評価してはならない。米国とイスラエルが中東を再構築する間、傍観してきた中国もそのメッセージを見逃すことはないだろう。このアプローチは、時にトランプ氏が誇る「力による平和」(“peace through strength”)を実現するかもしれない。しかし、唯一の統治原理が米国の力であるならば、トランプ流の戦略は無秩序と暴力の悪循環を招く可能性もある。紛争は増大するかもしれない。米政権にはそれらを制御する意欲も能力もないかもしれない。

 イラン国民がこの一連の作戦を経て自由で豊かな生活を送れるようになるという希望はまだ残されている。しかし、もし彼らの苦難が続くならば、トランプ氏が介入するとは期待しないほうがよい。彼の主な仕事はほぼ終わっているのだから。 

 次いで3月5日付英ガーディアンも「The Guardian view on the expanding Iran crisis: no clear aim and no end in sight (拡大するイラン危機に関するガーディアンの見解:明確な目的もなく、終結の見通しもなし)」と題する社説で、米国とイスラエルが引き起こした戦争は急速に激化しており、その影響は地域を越えて広がっている)と、以下のように論じる。

 米国やイスラエルの基準でさえ、迅速かつ容易な勝利などあり得ない。両国はイランの最高指導者の暗殺を祝ったが米国を拠点とする人権団体によると、その攻撃によりこれまでに1,000人以上の民間人が死亡しており、その中には多数の子供も含まれている。イランは、米国の同盟国が米国を抑制しようと試みることを期待して報復を行っており、戦争回避に向けた取り組みの最前線に立っていたオマーンを含む、地域全域の米軍基地や民間施設を標的としている。湾岸諸国は怒りを募らせているが、防衛を超える脅威をもたらす行動には慎重だ。

 米国とイスラエルによるイラン攻撃が中東全体を巻き込む戦争につながるだろうと警告していた人々の予測は、むしろ控えめだったと言えるだろう。週末には、ヒズボラが発射したドローンがキプロスの英国空軍基地を襲撃した。水曜日には、アゼルバイジャンが空軍基地への攻撃を受けたと報告した(ただしイランは、トルコに向けて発射されたミサイルと同様、関与を否定している)。その前日、米国はインドとの多国間演習から帰還中のイラン軍艦を、2,000マイル離れたスリランカ近海で撃沈し、少なくとも87人が死亡した。またイランがホルムズ海峡を締め上げているため、世界中の政府はエネルギー価格の高騰と市場の混乱に直面している。

 事態の沈静化を図るどころか、イスラエルと米国は今後数週間にわたる紛争の継続を口にし、米国のピート・ヘグセス国防長官は「一日中、空から死と破壊をもたらす」と約束している。イスラエルは、敵を壊滅させるまたとない好機が訪れたと確信しており、イランが混乱に陥るまで戦い続けることにのみ利点を見出している。米国がこの紛争に対して提示する正当化の根拠は、紛争の範囲が拡大するのと同じ速さで変化してきた。その根拠には体制転換、イランの核兵器開発阻止、弾道ミサイル能力の破壊、あるいはイスラエルによる攻撃に対するイランの米国への報復阻止などが含まれる。ドナルド・トランプ氏は議会への計画提示を避けたものの、それが彼の行動を抑制する兆しは全く見られない。

 イラン政権は、交渉の最中に1年で2度も攻撃を仕掛けてきた敵との対話をまず信頼しないだろう。イランは、単に生き残ることさえ勝利とみなすだろう。しかし、米国の勝利を定義する明確な基準がないため大統領は合意に至らなくても、恣意的に勝利を宣言するかもしれない。当面は他者がその代償の大部分を背負うことになり、彼は数年後に何が起きるかなど気にも留めていない。ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の拉致事件は、トランプ氏にわずかな代償で派手な勝利を主張できると確信させた。彼は今回の件もまた、即効性のある勝利になると期待していたようだが、すでにその代償はより大きなものになりつつある。しかし、この紛争によって、彼が新たに抱いた無謀かつ違法な軍事冒険主義への欲求が抑えられると期待すべきではない。国際法の基準を守ることは、他国が引き続き担わなければならない。 

 それでは戦争は今後、どのような展開をみせていくのか。これについて3月25日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、「The Fog of Diplomacy in Iran (日本版記事:【社説】イランにおける「外交の霧」)」と題する社説で、トランプ氏とイランが互いの出方を探る中、米地上部隊は中東地域に向かうと述べ、以下のように論じる。

 イラン戦争に関して外交の兆しが見え始めている。これには米国とイランの双方に思惑がある。米国側は、ホルムズ海峡の武力での開放に要する時間とリスクをてんびんにかけている。一方のイラン側は、自らの切り札を失うリスク、そして、同海峡での活動によって戦争が長期化し、その間は攻撃にさらされるリスクを負えるかどうかを判断しなければならない。トランプ米大統領は23日、イランとの「生産的な会話」と「主要な合意点」があったとして、イランの発電所を破壊するという脅しを先延ばしした。イラン側は、協議は一切行われていないと否定した。これこそが、今回のトランプ流戦争における「外交の霧」だ。

 報道によると、パキスタン、トルコ、エジプトを介した予備的なメッセージのやりとりがあったとされる。トランプ氏の狙いは、外交進展のニュースで市場を落ち着かせることにあり、イラン側の狙いは、それをひたすら否定して市場を混乱させ続けることにある。その意味では、トランプ氏はこの勝負に勝ち、23日の原油相場は急落した。これがトランプ氏のやり方だ。取引が始まる週初に安心感を与え、週の終わりに苦痛をもたらす。エスカレーションを回避するための新たな期限は27日で、その頃には約2,200人の海兵隊員が中東地域に到着することになっている。

 双方の隔たりは依然大きい。トランプ氏は戦争前からの要求、すなわちイラン核開発計画の残存施設の取り壊し、濃縮ウラン備蓄の引き渡し、ミサイル計画の制限という要求を繰り返している。イラン側は戦争前と変わらぬ拒否の姿勢を繰り返し、保証と賠償金、この地域からの米軍の撤退、国際的な水路となっているホルムズ海峡の通航料支払いなど、さまざまな要求を行っている。これらは全て通る見込みのない要求であり、アラブ諸国やイスラエルの当局者が懐疑的なのはそのためだ。トランプ氏はスティーブ・ウィトコフ特使がイランの「トップの人物」と話す予定だと述べている。その人物はモハマドバゲル・ガリバフ氏だと広く予想されている。同氏は現国会議長で、市長や警察長官、イラン革命防衛隊(IRGC)司令官を歴任した完全なる日和見主義者だ。ガリバフ氏が政権を代表して話せるのかどうかも定かでない。同氏は生き残っている上級幹部の1人だが、その指示にIRGCは従うのか。同氏に何かを動かす力がどれほどあるのか。交渉を模索する理由の一つは、それを突き止めることなのかもしれない。

 次のステップは、協議の場を準備することだ。ただしそれには、イラン側が協議を望むなら、との条件が付く。イランは時間が味方していると感じているかもしれない。しかし我々は、今イランに屈してしまえば、世界の頭に突き付ける銃をイランに握らせたままになるということをトランプ氏が理解していると信じている。その銃とは、エネルギー供給に関する明確な拒否権だ。石油価格の高騰に伴う米国内の政治的圧力にトランプ氏が抗し切れなかった、と世界(つまり中国とロシア)が結論付ける恐れもある。トランプ氏は1988年に「(イランが)米国人や米国の船に向けて一発でも弾丸を発射すれば、私は(イランの石油輸出ターミナルである)カーグ島に大打撃を与える」「そこに侵攻して奪い取る」と語った。そのトランプ氏は今、大統領の地位にある。歴史が記録したがっていること、そして世界が知りたがっていることは、この勇ましい発言が今も有効なのかどうかだ。

  最後にホルムズ海峡の閉鎖が世界経済に及ぼす影響についてみていく。3月26日付フィナンシャル・タイムズは「(ホルムズ海峡をめぐるもう一つの衝撃)」と題する社説で、ホルムズ海峡の閉鎖による石油・ガスにとどまらない商品市場の混乱が、長期的な影響をもたらすと以下のように警告を発する。

 ホルムズ海峡の封鎖が世界のエネルギー市場に与える損害は、かねてより予想されていた。しかし、化学製品、金属、肥料にとってもこの海路が極めて重要な動脈であるという事実は、あまり理解されていなかった。海運の混乱は、AIや半導体から鉱業、食料生産に至るまで幅広い分野に影響を及ぼしており、エネルギーショックをさらに深刻化させている。そして、エネルギー供給と同様に、この混乱は米国とイスラエルによるイランへの攻撃が終了した後も続く可能性がある。

 ヘリウムを例に挙げよう。カタールは、広大なラス・ラファン油田での天然ガス生産に伴う副産物であるこのガスの世界供給量の約3分の1を占めている。海峡を通じた輸出が遮断されているだけでなく、ラス・ラファン油田のインフラもイランの報復攻撃により長期的な被害を受けている。これは半導体業界にとって悪いニュースだ。製造工程でウェハーの冷却にヘリウムを使用しているが、台湾と韓国は供給の大部分をカタールに依存しており、同国の高純度ヘリウムは容易に代替できない。ヘリウムは光ファイバー、防衛産業、医療用画像診断(MRIスキャナーの冷却に用いられる)(medical imaging)においても重要だ。

 半導体製造は、硫黄の供給混乱にも打撃を受けている。中東は世界の硫黄輸出の約45%を占めている。硫酸はウェハーの洗浄に使用されるほか、銅、コバルト、ニッケルの浸出処理を行う鉱業においても不可欠である。これら3つの金属はいずれも、電気自動車(EV)用バッテリーの製造に不可欠であり、イラン紛争以前から、ハイテク産業やEV需要の拡大により、すでに硫黄の供給逼迫が生じていた。しかし、硫黄の最大の消費先は、リン酸肥料を製造する肥料業界である。世界の食糧産業にとってさらに重要なのは、世界の食糧生産の約半分を支える窒素肥料の原料となる尿素とアンモニアの主要な供給源が湾岸諸国であるという点だ。北半球の作付けシーズンが始まるまさにこの時期に、海峡の封鎖により尿素価格の高騰と肥料不足が生じている。

 一部の経済学者は、混乱が長期化すれば、2022年のロシアによるウクライナへの全面侵攻よりも深刻な問題を引き起こす可能性があると警告している。一部の国々はこうした商品の一部を備蓄しているが、紛争が長引けば長引くほど備蓄は枯渇していく。代替供給元も存在するが競争によって価格が押し上げられている。したがって、ウクライナ紛争と同様にイラン戦争も貿易の依存構造を一変させる可能性が高い。多くの国々、特にアジア諸国はエネルギーやその他の商品について、将来的に中東への依存度を低減しようと模索することになるだろう。2022年に肥料産業が打撃を受けたロシアは、今回、発展途上国向けの農薬の代替供給源としての地位を確立することで恩恵を受ける可能性がある。また、湾岸諸国が世界供給量の約10分の1を生産している一次アルミニウムの供給逼迫からもロシアは利益を得られるかもしれない。作柄の悪化と食料価格の高騰は、すでに債務返済の負担に苦しんでいる多くの発展途上国にとって、特に深刻な問題となる可能性がある。食料インフレは貧困国において特に敏感な問題であり、新型コロナパンデミック以降、一連の国々で社会不安の要因となってきた。

 しかし世界的に見れば、エネルギーショックと商品不足が相まってスタグフレーションのリスクが高まっている。そしてイランは、海峡を封鎖する能力を試したことで――そしてそれがどれほど強力な武器になり得るかを理解したことで――新たな緊張が生じた場合、再び同じことを行う誘惑に駆られるかもしれない。報道によると、イランは「非敵対的」な船舶数隻に対し、非公開の料金を支払わせた上で海峡の通過を許可したが、今後は「通行料」を徴収する可能性を示唆しており、これにより世界のサプライチェーンに恒常的なコストが加わる見込みだ。産業界は供給源や供給ルートの多様化を図る必要がある。しかし、一部のボトルネックはリスクを完全に排除することが困難であり、ホルムズ海峡もその一つである。 

結び:以上のようなメディアの論調を次の4つの観点からまとめてみたい。第1は軍事作戦の狙いと意義、第2に作戦の成否、第3に世界経済に与える影響、第4に今後の展開に関する見方である。

 第1の作戦の狙いと意義についてメディアは、「破壊の首謀者、すなわちトランプ米大統領はアメリカの力の破壊的な性質を示すことで、世界中の敵にメッセージを送ろうとしていると指摘。和平に前向きな新たなイラン政権の誕生をもたらす可能性もあるが、混乱やさらなる流血を招く可能性もあると分析する。トランプ大統領は、イランの弾道ミサイルによる脅威を容認せず、核開発計画も終わらせると宣言、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師を暗殺すると共に国民には立ち上がるよう、治安部隊には政権に背くよう呼びかけた、つまり体制転換を呼びかけたのである。そうしたトランプ大統領の思惑をメディアは、すべてを手に入れたいと考えているようだと指摘する。

 またメディアは、イラン攻撃の必要はなかったと批判する一方で、トランプ大統領が攻撃に踏み切った理由として、イランとの因縁を清算した大統領として歴史に名を残したかったこと、或いは、イランが弱体化している今こそ行動する機会だと判断したためだろうとの見方を示す。その意味で、イランは米国が権力を主張する新たな広範なパターン、すなわち、関税、制裁そして軍事力を用いて他国政府を自らの意のままに操ってきたパターンに組み込まれたのだとし、米国は自国に有利な現在の国際情勢の現状維持を図るだろうとみていた人々の予想を覆したと指摘。これはトランプ氏が米国の価値観の推進を放棄し、米国権力の蓄積を選んだ新たな世界だと論じる。

 要すれば、イランはまさしくトランプ流の暴力の世界に巻き込まれたのだが、それはイランのみならず中東、そして世界全体が米国の力を唯一の統治原理とする無秩序と暴力の世界に巻き込まれたことを意味すると言えよう。 

 第2の作戦の成否についてメディアは、トランプ氏が望む結果を得られない可能性、すなわち誤算が発生する余地が十分にあると警告する。誤算の事例として短期的には、イランのミサイル攻撃によって受ける地域の油田破壊や米兵犠牲者の増加、ホルムズ海峡の閉鎖、そして長期的にはイランにおけるより凶悪な政権の出現、弾道ミサイルの備蓄増、核兵器固執の加速、あるいはイランでの混乱や内戦の勃発とそれが国境を越えて広がる可能性などを挙げる。いずれにしても、現時点では「すべてを手に入れたい」どころかメディアの懸念した「望む結果が得られない」状況に進んでいると言わざるを得ないだろう。トランプ政権が予期していなかった不測の事態である。 

 第3に世界経済への影響、特にホルムズ海峡の閉鎖が世界経済に及ぼす影響について、メディアは海峡閉鎖はエネルギーショックを深刻化させているが、この海路が極めて重要な動脈であるため影響は化学製品、金属、肥料、さらには人工(AI)や半導体から鉱業、食料生産に至るまで幅広い商品分野に及んでいると指摘。こうした商品市場の混乱はイラン攻撃が終了した後も続く可能性が高いと警鐘を鳴らす。

 そうした一例としてヘリウム、硫黄を挙げる。ヘリウムは半導体の製造工程でウェハー冷却や光ファイバー、防衛産業、医療用画像診断に用いられる重要商品で高純度ヘリウムは容易に代替できないと述べ、その世界供給量の約3分の1を占めているカタールが海峡を通じた輸出の遮断と同インフラがイランの報復攻撃を受けて長期的な被害を受けていると報じる。また中東は世界の硫黄輸出の約45%を占めていると述べ、硫酸はウェハーの洗浄に使用されるほか、銅、コバルト、ニッケルの浸出処理を行う鉱業においても不可欠とされ、この3金属はいずれも電気自動車(EV)用バッテリーの製造に欠かせないと指摘する。さらに硫黄でリン酸肥料を製造する肥料業界が大きな被害を受け、世界の食糧産業に影響を与え、また世界の食糧生産の約半分を支える窒素肥料の原料となる尿素とアンモニアの主要な供給源も湾岸諸国だと報じる。北半球の作付けシーズンに海峡封鎖による尿素価格の高騰や肥料不足が起きていると警告を発する。

 一部の経済学者は、混乱が長期化すれば、2022年のロシアによるウクライナへの全面侵攻よりも深刻な問題が起き、ウクライナ紛争と同様にイラン戦争も貿易の依存構造を一変させる可能性が高いと指摘する。特にアジア諸国は、エネルギーやその他の商品について中東依存度の低減を模索するだろうと報じる。今回、恩恵を受ける可能性がある国としてロシアを挙げ、ウクライナ紛争で肥料産業が打撃を受け、発展途上国向け農薬の代替供給源としての地位を確立していると報じる。他方、債務返済の負担に苦しんでいる多くの発展途上国にとって、作柄の悪化と食料価格の高騰が深刻な問題となる可能性があり、また食料インフレは貧困国において特に敏感な問題となろうと指摘する。

 そのうえで、世界的に見ればエネルギーショックと商品不足が相まって、スタグフレーションのリスクが高まっていると警告する。さらに、イランは海峡封鎖の能力を試し、それが強力な武器になり得るのを理解したことで新たな緊張が生じた場合、再び同じことを行う恐れや、イランが今後ホルムズ海峡の「通行料」を徴収する懸念を挙げ、世界のサプライチェーンに恒常的なコストが加わるリスクについて警告を発する。 

 第4に軍事作戦の今後の展開に関してメディアはまず現状について、イラン戦争は明確な目的もないまま急速に激化し、地域を越えて影響が広がり、終結の見通しも立っていないと述べ、迅速かつ容易な勝利などあり得なく、既に多くの民間人が犠牲になっていると非難する。戦線はキプロス、アゼルバイジャン、スリランカなどに広がり、エネルギー価格の高騰で市場は混乱していると述べ、イラン攻撃が中東全体を巻き込む戦争につながるだろうと警告していた人々の予測はむしろ控えめだったと論じる。今後の展望についてイスラエルは敵を壊滅させるまたとない好機が訪れたと確信しており、イランが混乱に陥るまで戦い続けることにのみ利点を見出していると指摘する。米国はこの紛争の根拠として体制転換、イランの核兵器開発阻止、弾道ミサイル能力の破壊、あるいはイスラエルによる攻撃に対するイランの米国への報復阻止などを挙げ、ピート・ヘグセス米国防長官は「一日中、空から死と破壊をもたらす」と約束していると述べる。

 他方、イラン政権は交渉中に攻撃を仕掛けてきた敵との対話をまず信頼しないだろうとし、単に生き残ることさえ勝利とみなすだろうと指摘。米国は勝利を定義する明確な基準がないためトランプ大統領は合意に至らなくても、恣意的に勝利を宣言するかもしれないと述べる。ベネズエラのマドゥロ大統領の拉致事件で派手な勝利を確信したトランプ大統領は今回の件も即効性のある勝利になると期待していたようだが、すでにその代償はより大きなものになりつつあるとし、国際法の基準順守は他国が引き続き担わなければならないと強調する。

 その一方でメディアは「外交の霧」とも呼ぶ外交的解決の兆しが見え始めたとも報じる。米国側はホルムズ海峡の武力での開放に要する時間とリスク、イラン側は、自らの切り札を失うリスク、そして同海峡での活動によって戦争が長期化し、その間は攻撃にさらされるリスクを負えるかどうかを夫々てんびんにかけていると述べる。そうした米国とイランの思惑を背景にしてパキスタン、トルコ、エジプトが仲介する予備的なメッセージのやりとりがあったと報じる。トランプ氏の狙いは、外交進展のニュースで市場を落ち着かせることにあり、イラン側の狙いは、それをひたすら否定して市場を混乱させ続けることにあると指摘する。

 ただし、双方の隔たりは依然大きいとし、トランプ氏は戦争前からの要求を繰り返し、イラン側は戦争前と変わらぬ拒否姿勢に加え、保証と賠償金、地域からの米軍の撤退、国際的な水路となっているホルムズ海峡の通航料支払いなどを要求していると述べ、これらは全て通る見込みのない要求だと断じる。さらにウィトコフ米特使がイランのモハマドバゲル・ガリバフ国会議長とトップ会談するとみられているが、ガリバフ氏に何かを動かす力がどれほどあるのか、また協議の場が本当に準備されるのかと疑問を提起する。すなわち、時間が味方していると感じているかもしれないイランが協議に応じない可能性があると述べ、だからと言ってイランに屈してしまえば、世界の頭に突き付ける銃、つまりエネルギー供給に関する明確な拒否権をイランに握らせたままになる恐れがあると論じる。

 以上のように、トランプ米政権はアメリカの破壊的な力を世界中の敵に示すためにイラン攻撃を開始したが、「すべてを手に入れたい」どころか「望む結果すら得られない」状況に陥っている。むしろ、それによりイランのみならず中東、そして世界全体が米国の力を唯一の統治原理とする無秩序と暴力の世界に巻き込まれる結果となった。しかも、ホルムズ海峡の封鎖という重大な事態を引き起こし、エネルギーショックと商品不足による世界的なスタグフレーション発生という深刻なリスクも生み出した。また貿易依存構造を一変させる可能性や、作柄の悪化と食料価格の高騰が開発途上国や貧困国に大きな被害を与える可能性も指摘されている。

 今後の展望としてメディアは、米国、イスラエル、イランはそれぞれの理由から戦争終結に合意する可能性は低く、トランプ大統領は合意に至らなくても恣意的に勝利を宣言するかもしれないと予測する。現状はまさしくメディアの予見どおりの方向に進んでいる。その場合、攻撃前と攻撃後のイランにどのような状況変化が起きたのかが不明なまま、加えて上述のようなリスクを孕んだまま、米国・イスラエルが一方的に停戦することになる。仮に攻撃の根拠とした変化がイラン側に起きていないならば、攻撃は中東や開発途上国、貧困国そして世界全体に災厄をもたらしただけとして、米国・イスラエルは断罪されることになろう。  

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、THE GUARDIAN(ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。韓国聯合ニュース、中国人民日報(日本語版)も参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。


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