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2025年12月8日 第377号 World News Insight (Alumni編集室改め)                                                    ワクチン行政の暗部
―ACIP全員解任が示す“制度的腐敗”の深層
                 バベル翻訳専門職大学院 副学長 堀田都茂樹

2024年6月、アメリカ厚生長官ロバート・ケネディJr.が「予防接種実施に関する諮問委員会(ACIP)メンバー17名を全員解任した」と発表した。

 このニュースは米国内でも衝撃的であったが、日本ではほとんど報じられず、社会的議論すら起きなかった。しかし、この出来事は世界のワクチン行政が抱える“構造的腐敗”を象徴するものであり、看過するべきではない。

製薬企業と行政が一体化した「利権システム」
 ケネディ氏が解任理由として挙げたのは、ACIP委員の多くがワクチン関連企業から「多額の資金提供を受けていた」という事実である。本来、国民の健康を守るために存在するはずの行政機関が、利害当事者からの経済的支援を受け、その影響下で政策を決めていたというのである。これは明らかに利益相反(Conflict of Interest)であり、先進国の行政としては最も避けるべき事態だ。

 実際には、製薬企業・研究者・行政の間に“癒着とも呼べる構造”が長年温存されてきた。利益相反はグレーゾーンではない。ワクチン接種政策の決定権を持つ委員が、ワクチン販売企業から資金を受け取っていれば、それだけで判断の中立性は保証されない。それにもかかわらず、ACIPはその構造を放置し、「安全性」「有効性」の基準すら企業側の都合を反映したものとなっていた可能性が高い。この制度疲労を一掃するためにケネディ氏は“全員解任”を断行した。大胆ではあるが、本来ならもっと早く是正されるべき問題だった。

「どんなワクチンでも承認される」危険な構造
 ケネディ氏はさらに、委員会と企業の蜜月によって「どんなワクチンであっても簡単に承認される最悪の状況が生まれていた」と指摘した。これは極めて深刻な事態だ。国民に半ば義務として推奨されるワクチンの承認が、科学ではなく企業の利益構造によって左右されるなら、それは行政の自殺行為である。

 製薬企業にとって、新ワクチンの市場は莫大な利益を生む。 だからこそ、承認制度は徹底した透明性と厳格性を持たなければならない。 しかし現実には、臨床データの省略、長期追跡の不足、副反応報告の矮小化など、承認プロセスそのものが“業界寄り”の体質に傾いていた。この構造のままでは、ワクチンが本来持つ公益性そのものが失われ、「安心のための制度」が「利権のための制度」に転落してしまう。

ケネディ氏の“積年の問題意識”——ワクチンは本当に安全か
 ケネディ氏は厚生長官になる前から、ワクチン政策の不透明さを批判し続けてきた。
2023年に出版した著書では、インフルエンザ、B型肝炎、COVID-19など各種ワクチンに関する大量の研究データを分析し、従来の「ワクチン=安全」という常識に疑問を投げかけた。

 そこで問題にされたのは、単なる危険性ではない。
もっと根源的な——
 • 企業が都合の悪いデータを公表しない構造
 • 行政が企業の主張を検証しない体質
 • 学術界が企業資金に依存している現状
 • メディアが企業広告に配慮し報じない沈黙
 これら制度全体の腐敗である。ワクチン議論の核心は、肯定か否定かではなく、
 制度は誰の利益のために動いているのか、という問いである。

コロナ禍が示した「情報統制」の現実
 COVID-19パンデミックでは、各国の政府・医療機関・メディアが、ワクチン推奨一色の情報を発信した。一方で、副反応事例や懐疑的な研究は軽視され、SNS上では削除され、議論の多様性さえ失われた。それは科学ではなく「情報統制」に近い姿だった。
 そもそも科学とは、異論・批判・反証によって前進する営みである。ところが、ワクチンに関しては異論そのものが封じられ、「安全性は既定の事実」として扱われた。この状況は、科学の破壊であり、民主主義の破壊でもある。ケネディ氏が今回の解任に踏み切った背景には、この“情報の偏り”に対する深い危機感があったと言える。

日本のメディアが沈黙する理由
 日本の大手メディアは、このACIP全員解任についてほぼ沈黙した。その理由は想像に難くない。
第一に、ワクチン政策は政府の基幹政策であり、批判報道には政治的な圧力がかかりやすい。
第二に、日本のメディアは医療広告・製薬広告に依存しており、企業の不利益となる報道を避ける傾向にある。
第三に、社会がワクチン議論を“危険思想”として排除しがちで、ジャーナリズムとしての批判精神が萎縮している。

本来、民主主義社会においてメディアの役割は「権力の監視」である。しかし現実には、行政と企業の利害に寄り添う“PR装置”と化している面が否めない。

問題はワクチンではなく、腐敗した承認制度そのものだ
 ワクチンは人類の健康に大きく貢献してきた。そのことを軽視する必要はない。しかし、正しい科学が正しく評価される制度が腐敗していれば、その恩恵すら損なわれる。 ケネディ氏の行動は、こうした制度疲労に対する“警鐘”であり、国民の健康を守るためには制度を根本から見直す必要があることを示している。

 結局のところ、問われているのは——
「国民の健康よりも、企業の利益が優先される社会を許容するのか」
 という倫理の問題である。

透明性なき行政は、必ず腐敗する
 制度は透明であって、初めて信頼を獲得する。透明でなければ、どれほど科学的に優れた政策でも国民は納得しない。利益相反の徹底した開示、議事録の公開、データの第三者検証、企業から独立した委員選任——これらが整わなければ、ワクチン行政の信頼は回復しない。

 “ACIP全員解任”は、単なる人事ではない。それは、腐敗した制度に対し、政治がようやくメスを入れた象徴的な事件である。そして私たちは、この問題を「米国の話」で片づけてはならない。同じ構造は日本にも存在し、今も見えないところで国民の健康政策を左右している。

 いま求められているのは、ワクチンそのものへの賛否ではなく、 制度そのものを監視し、透明性を社会全体で確保する姿勢である。

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