
世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第69回
アメリカ書籍レポート - 8月
ティーン世代に人気の作品
柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)
本格的な夏が到来し、楽しい夏休みが始まりました。カリフォルニアでは8月に新学年・新学期がスタートするため、この時期は書籍や文房具の販促イベントで小売店もにぎわいを見せています。行楽シーズン中は、ロードトリップやキャンプに出かける家庭も多く、図書館や書店が発表するサマーリーディングの推薦リストが大いに参考になります。今回は、Barnes & Nobleの売れ筋ランキングや推薦図書リストをもとに、ティーン世代に人気の作品をご紹介します。店頭でいくつか手に取ってみると、映像化されている作品が多いことに驚かされました。Netflix、Prime、Huluなどの配信サービスが一般化した今、話題の書籍が次々に映像化され、それによってさらに書籍の人気が高まるという好循環が生まれているようです。映像化にふさわしい作品を見つける目と、それを形にする企画力が、これからの時代にいっそう求められていくのかもしれません。
Out of My Mind (2010) 著者:シャロン・M・ドレイパー (Sharon M. Draper) 邦訳:わたしの心のなか 訳者:横山和江 出版社:鈴木出版 (2014) 対象年齢:小学校高学年~高校生 シリーズタイトル: 鈴木出版の海外児童文学 : この地球を生きる子どもたち
作品について:
出版以来、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとして長く読み継がれ、2024年にはDisney+での映像化も話題となった作品。
脳性まひを抱える11歳の少女、メロディは話すことも歩くことも書くこともできません。でも本当は、見たもの体験したもの全てを記憶できる特別な映像記憶能力を持っているのです。ただ言葉にできないという理由だけで、教師や医師、クラスメイトたちは彼女に「知的障害がある」と決めつけてしまうのでした。メロディは、そんな周囲の無理解や偏見に決して屈せず、両親や友人たちの理解と助けを得て、徐々にできることを広げていきます。代わりに言葉を発してくれる医療機器を活用し、自身の人生を切り開いていくのです。どうにかして自分の思いを伝えようと奮闘するその姿は、読む人の心を揺さぶり、「見ること」「理解すること」の本当の意味を問いかけてきます。
著者:
シャロン・M・ドレイパーは、『キャラメル色のわたし』(原題:Blended, 2018 訳:横山和江 鈴木出版 2020)、『わたしの心のきらめき』(原題:Out of My Heart, 2021 訳:横山和江 鈴木出版 2023)などで知られるニューヨーク・タイムズ・ベストセラー作家。YA文学への貢献が高く評価され、コレッタ・スコット・キング賞を複数回受賞。さらに、若者向け文学に長年貢献した作家に贈られるマーガレット・A・エドワーズ賞も受賞している。長年にわたり高校で英語を教え、全米最優秀教師(National Teacher of the Year)に選ばれた経験を持つ。現在はフロリダ州在住。
The Naturals (2013)
著者:ジェニファー・リン・バーンズ(Jennifer Lynn Barnes)
邦訳:なし
対象年齢:高校生~
作品について:
謎とサスペンスが交錯する緊迫のYAミステリー。FBIが極秘に立ち上げた特別プログラムに選ばれた、並外れた能力を持つティーンたちが未解決事件に挑みます。17歳のキャシーは、人のしぐさや表情から本質を見抜く「天性の観察力」の持ち主。その才能を見込まれ、FBIの捜査チーム「ナチュラルズ」へ参加することになります。他のメンバーも特殊な能力を持ち、チームで事件に挑んでいきます。しかし、新たに発生した殺人事件の犯人に、彼ら自身が狙われることに。信頼と疑念が交錯する中、キャシーたちは能力と絆を頼りに、生き残りをかけた戦いに挑みます。緻密なプロファイリング、息もつかせぬ展開、ほのかなロマンスが絡み合う、手に汗握る一冊です。シリーズには『Killer Instinct』『All In』『Bad Blood』などの続編もあります。
著者:
ジェニファー・リン・バーンズは、YA小説のベストセラー作家。代表作には『相続ゲーム』(代田亜香子 訳 日之出出版 2025)三部作のほか、『Golden』(鹿田昌美 訳 ヴィレッジブックス 2007)、『Deadly Little Scandals』、そして『The Naturals』シリーズなどがあり、これまでに25作以上を発表しています。学術的なバックグラウンドも豊富で、フルブライト奨学生として心理学、精神医学、認知科学の分野で学位を取得。2012年にはイェール大学で博士号(Ph.D.)を取得し、その後はオクラホマ大学で心理学とプロフェッショナル・ライティングの教授を務めました。科学的知見と物語性を融合させた彼女の作品は、緻密なキャラクター描写とスリリングな展開で世界中の読者を魅了しています。
One of Us Is Lying (2017)
著者:カレン・M・マクマナス(Karen M. McManus)
邦訳:誰かが噓をついている
訳者:服部京子
出版社:東京創元社 (2018)
作品について:
高校を舞台にした、青春とサスペンスが交差するミステリー。ある月曜日の午後、ベイビュー高校で居残りを命じられた5人の生徒――優等生のブロンウィン、美貌のアディ、問題児のネイト、スター選手のクーパー、そしてゴシップアプリの運営者サイモン。ところが、教室を出たのは4人だけ。サイモンは何者かに殺害されてしまったのです。実は彼は、翌日に他の4人に関するスキャンダルをアプリで暴露する予定でした。そのため、4人全員が容疑者に。あるいはこれは、真犯人によって仕組まれた罠なのでしょうか。誰にだって秘密はあるはず。けれでも、その秘密を守るために、人はどこまでのことができるのでしょうか。
本作は続編『One of Us Is Next』とともに全米ベストセラーとなり、NBCの動画配信サービス「Peacock」ではドラマシリーズも配信中です。
著者:
カレン・M・マクマナスは、全米ベストセラーとなった本作をはじめとする数々のヒット作で知られるサスペンス作家です。続編『One of Us Is Next』や『Two Can Keep a Secret』『The Cousins』など、若い読者を中心に幅広い支持を集めています。著作は40以上の言語に翻訳され、世界中で親しまれています。米国ホーリー・クロス大学で英文学の学士号を取得後、ノースイースタン大学でジャーナリズムの修士号を取得。
The Summer I Turned Pretty (2009)
著者:ジェニー・ハン(Jenny Han)
邦訳:なし
読者対象:高校生
作品について:
本作は、ひと夏の経験を通して少女が成長していく姿を描いた「The Summer I Turned Pretty」三部作の第1巻です。主人公ベリーにとって、夏は特別な季節。毎年、家族ぐるみで過ごしてきた海辺の別荘での時間は、彼女の人生の中でもかけがえのないものでした。
幼馴染のジェレマイアとコンラッドのことは兄たちのようなに慕っていました。けれども、彼らに対する気持ちが、ある夏を境に大きく揺れ動きます。思春期ならではの揺れ動く感情や人間関係の変化を繊細に描いた本作は、映像化もされています。家族や友情、初恋といったテーマを通じて、ひとりの少女の内面の成長を丁寧に追った一冊です。
著者:
ジェニー・ハンは、『To All the Boys I’ve Loved Before』シリーズや『The Summer I Turned Pretty』シリーズなどで知られる、全米ベストセラー作家。それぞれNetflix映画、Amazon Primeドラマとして映像化され、多くの読者や視聴者に親しまれています。彼女の作品は30以上の言語に翻訳され、世界中で読まれています。かつては図書館司書として働いていた経験もあり、ニューヨークのThe New Schoolでクリエイティブ・ライティングの修士号を取得。ニューヨーク・ブルックリン在住。
柴田きえ美 カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。
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