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東アジア・ニュースレター

海外メディアからみた東アジアと日本

第161 回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教授

 中国関係では、有力格付会社のフィッチ・レーティングスが中国の格付け見通し、メディアは中国の不動産バブル発生について、不動産デベロッパーや住宅購入者、不動産仲介業者、米ウォール街の銀行までもが警告の兆候を無視し、また政府が市場失速の兆しが見えるたびに新たな支援策を導入したため悪化の一途を辿ったと述べ、ブームの早期抑制策を打ち出さなかったツケが今の中国に回っていると指摘する。

 台湾は、日中を除くアジアで最大のESG市場を有し、今年第1四半期に香港やシンガポール市場から資金が流出する中で好調な資金流入を維持した。中国の覇権主義的動きで台湾海峡の緊張が高まるなか、台湾に資金が流入してことが注目される。

 韓国がドル高の影響を受けてウォン安で苦しんでいる。4月には日米韓3か国財務相会議がワシントンで開催され、外国為替市場の動向について緊密に協議するとの異例の共同声明が出された。日本は4月末から5月初めにかけて市場介入に踏み切ったが、韓国は今のところ、いわゆる口先介入で終わっている。

 北朝鮮がイラン、ロシア、中国と結びついた反米欧連合の一角として捉える見方に対して、メディアの一部は世界には欧米と敵対しているように見える広範な国や運動があり、この4か国はその一部にすぎないと指摘。「悪の枢軸その2」でもなく、異質な国家間の破れかぶれの「便宜結婚」と理解すべきだと主張する。

 東南アジア関係では、フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領が対中融和政策を転換し、南シナ海における中国の行動を広く知らせる「透明性イニシアティブ」政策を導入したことで、中国の侵略に対するフィリピン国民の意識が高まり、マルコス氏が国際的な支持を得るのに役立っている。

 インドは、富の偏在が著しく高成長の経済を支えているのはGDPの約6割を占める家計消費ではなく、高級不動産に対する旺盛な投資需要といういびつな構造となっているとメディアが批判する。政府は若者の大量雇用確保のため製造業の拡大を試みているが、必要な農業・労働改革への政治的反対など困難に直面していると指摘する。

 主要紙社説・論説欄では、シリーズ「世界の中の日本」その1として、岸田首相の国賓待遇による訪米とそれに伴い新時代を迎えた日米関係を取り上げた。 

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北東アジア

中 国

 誰も止めようとしなかった不動産バブル

 202452日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、中国経済を根底から脅かす火種となった不動産バブルについて、発生から破裂にいたる状況を詳細に報じて興味深いので長文であるが、ほぼ全容を紹介する。

記事は冒頭で、ニューヨークのヘッジファンドマネジャーが中国北部の天津市にある新開発地区「天津ゴールディン・メトロポリタン」を視察し、あれだけの建物スペースを一体どのように埋めるのかと疑問に思ったという話を紹介する。最低100万ドルから購入できるマンションがあるほか、ニューヨークのエンパイアステートビルより大きいオフィスタワーやオペラが上演できるホール、ショッピングモール、ホテルが計画され、総面積はモナコの国土より広くなる予定だった。しかし、買い手を呼び込む策はあるのか、このプロジェクトの実現可能性を調査したのかとの問いに対して、先方からは確たる答えはなく、ニューヨークに戻った同氏は、中国不動産株の下落に賭ける投資に資金をつぎ込んだという。2016年、中国の不動産ブームに火がつき、人々が浮かれていた頃の話であり、当時でさえ見る目がある人には真実が明らかで、ブームはすでにバブルと化し、最悪の結末を迎える可能性が高かったと報じる。

上記ヘッジファンドマネジャーに加え、香港在住の2人の会計士の調査活動も次のように報じる。2016年、香港在住の2人の会計士が視察のために中国本土を訪れた。2人が所属するGMTリサーチは「金融のアノマリー(変則性)」や「ごまかし」と彼らが呼ぶものを見つけ出すのが仕事で、中国住宅市場にはそれが多いと感じていた。その頃すでに当局者やエコノミストがバブルを警告していたが、市場失速の兆しが見えるたびに政府がきまって介入した。購買意欲を刺激する新たな政策を打ち出し、金利を引き下げ、住宅購入の上限を引き上げた。すると市場の信頼が回復し、再び販売が軌道に乗り始めた。しかし疑念を抱いていた両氏は、中国全土を車で回りながら、空きビルや破綻したプロジェクトの多さに目を見張った。

注目したのは売上高で最大のデベロッパーの中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)が手掛けるプロジェクトだった。創業者の許家印会長は中国一の富豪に上り詰めようとしていた。フォーブス誌によると2017年時点の個人資産は400億ドル余りだった。2人は恒大のプロジェクトを16都市の40カ所で視察し、その多くが収入ゼロかそれに近い「死んだ資産」であると結論づけた。2人が特に注意を払ったのは恒大の駐車場だ。多くはほぼ空車だったが、監査済み財務諸表では75億ドルの評価のままだった。1台分当たり2万ドル近い評価額ということになる。恒大は駐車スペースを棚卸資産ではなく投資資産として計上するという業界では異例の会計処理により、駐車場の価値を過大に見積もり、早期に利益を計上することが可能だった。2人の会計士はこう話す。「当社のみるところ、同社は債務超過であり、株式の価値はないも同然だ」。その年、彼らは「眠れる監査人」と題する報告書の中で、恒大は借入金を増やさなければ存続できないと結論づけた。恒大は、財務諸表の監査を受けていると述べ、自社の会計およびビジネス慣行には問題がないと主張していた。

両氏によると、顧客の多くが彼らの分析に同意したものの、それに沿って行動した顧客は少なかったようだが、その対応は実際に正しかったのだ。中国不動産市場は政府が1年前に打ち出した救済策が奏功し、間もなく急反発するところだった。翌2017年に住宅販売は11%増加し、恒大の香港上場株は458%急騰した。デベロッパーは多くの資本を必要とし、その調達に協力する金融機関には手数料が入った。データ会社ディールロジックによると、201721年に中国不動産デベロッパーはドル建て債券で2580億ドルを調達した。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの米銀大手はその引き受け業務で172,000万ドルの手数料を得た。

記事は、上記のような状況の下で、バブルは悪化の一途を辿ったと次のように報じる。音楽が鳴りやむのを誰も望まなかった。中国の不動産デベロッパーや住宅購入者、不動産仲介業者、さらにはブームを後押しした米ウォール街の銀行までもがみな警告の兆候を無視した。デベロッパーは銀行や弁護士の助けを借り、負債額をごまかす方法を考案した。購入者は不動産市場には建物が多すぎるとうすうす感じながらも、買い進めた。魅力的なリターンを追い求める国内外の投資家はデベロッパーに豊富な資金を供給した。中国政府が市場急落を許すわけがないという一見揺るぎない前提があったからだ。中国の人々はすでに財産の大半を住宅に投資していた。これが大幅に値下がりすれば、国民の貯蓄の多くが露と消え、共産党への信頼も失墜する可能性があるからだ。

こう報じた記事は、今の中国には、もっと早くブームを抑制する行動を起こさなかったツケが回っていると次のように指摘する。中国のデベロッパー50社余りが国際的債務の不履行(デフォルト)に陥った。中国不動産を専門とする民間シンクタンクKeyanによると、約50万人が職を失った。中国全土の約2,000万戸の住宅が未完成のままで、完成には4,400億ドル(687,000億円)が必要だと試算されている。主要都市の中古住宅価格は3月に5.9%下落した。デベロッパーへの土地売却による収入を絶たれた地方政府は、債務の支払いに苦しんでいる。かつて国内総生産(GDP)の約25%を占めた不動産関連産業が今や経済成長の足かせとなり、中国経済全体がぐらついている。

記事は最後に国際金融機関を含む金融機関の動向と中央政府の対応及び格付け機関の動きについて、次のように伝える。中国の銀行やフィデリティ、インベスコ、ブラックロック、ピムコなどの国際金融大手は中国の不動産関連債券に投資した。2桁の利回りがあるこうした債券は需要が強く、供給を大幅に上回った。投資家は怪しげな構造も許容する傾向があった。人気の手法の一つは、ダミー子会社を使って債券を発行し(銀行関係者や投資家は「穴掘り」と呼ぶ)、親会社の不動産開発会社がその債務を保証するものだった。本紙が確認した資料によると、630日と1231日を除き、年間を通じて保証が適用された。除外された2日は中国不動産会社の大半にとって決算の基準日だ。親会社はこの手法により、自らの貸借対照表において子会社の債務保証で発生した負債の額を開示することを避けられた。これは違法ではない、と弁護士や会計士は主張する。貸借対照表はある時点の企業財務状況のスナップ写真に過ぎないからだという。またデベロッパーは借り入れの際、同じ担保を何度も差し入れることがあった。デベロッパーやこうした活動をよく知る銀行関係者が明かした。ヘッジファンドのある幹部は、6件の私募債発行のタームシート(条件概要書)に同じ担保リスト――子会社の株式、売掛債権、会社役員の自家用ジェット機や住宅――があるのを見たと振り返る。同幹部は高いリターンが必要だったため、その債券を購入した。

中国の銀行はこの種の債券引き受けに熱心で、価格がどうあれ、自己資金を何千万ドルも投じることがあった。銀行関係者やあるデベロッパーの幹部はそう語る。銀行が参加すると、他の投資家は需要が強いと受け止める。その結果、金利が抑えられ、デベロッパーの資金調達コストは低下した。中国格付け会社3社は、恒大に「トリプルA」の最高格付けを与えた。一方、米格付け大手S&Pグローバル・レーティングは同社に投資不適格級の「Bプラス」しか与えなかった。

 2021年元日に規制当局は守るべき財務指針を定めた「三道紅線(三つのレッドライン)」を導入。過剰債務を抱えるデベロッパーの新規借り入れを制限した。銀行は融資の早期返済を要求し始めた。投資家はデベロッパーの債券を購入するのをやめた。恒大は数カ月以内に建築資材や建設サービスの会社への支払いに窮するようになった。20218月には数百カ所の開発プロジェクトで建設を中止した。同年、政府に支援を求めたが、救済措置は講じられなかった。中国の住宅購入者は、デベロッパーの資金が底を突き、物件が完成しない可能性を恐れて購入をやめた。デベロッパー大手100社の売上高は急激に落ち込んだ。ディールロジックによると、中国不動産企業のハイイールド債発行高は21年の230億ドルから22年には43,100万ドルに急減した。ドミノ倒しのようにデベロッパーは流動性危機に陥った。

モーニングスターによると、2021年末時点で米ブラックロックが運用するハイイールド債ファンドは中国不動産債券に依然94,100万ドルのエクスポージャー(投資残高)を抱え、米ピムコのファンドは74,100万ドルだった。フィデリティ・インターナショナルは債券ファンド1本に128,000万ドルのエクスポージャーがあった。

香港の会計士の1人は20218月、恒大株が高値から95%下げたとはいえ、まだ空売りでもうけられると指摘していた。株価はゼロになると見込んでいたのだ。同年12月、恒大の国際債券はデフォルトに陥った。20241月、香港の裁判所は恒大に清算を命じ、同社株は12セントで取引停止になった。3月、中国証券当局は、恒大が2019年と20年の売上高を計784億ドル水増ししていたと発表。過去最大級の金融詐欺疑惑となった。恒大の監査法人を務めていたプライスウォーターハウスクーパース(PwC)2023年初めに辞任した。一部の不動産販売の売上高の認識に関連する情報を得られなかったとしている。もう1人の香港会計士は最近、恒大に関する2016年の報告書をPwCの苦情窓口に送付した。返事は期待していないという。

以上のように記事は、天津市にある新開発地区計画を挙げて、不動産バブル発生の模様を報じ、不動産デベロッパーや住宅購入者、不動産仲介業者、さらには米ウォール街の銀行までもがみな警告の兆候を無視し、また政府が市場失速の兆しが見えるたびに購買意欲を刺激する新たな政策を打ち出したため、バブルは悪化の一途を辿ったと指摘する。今の中国に早くブームを抑制する行動を起こさなかったツケが回っていると述べ、国内総生産(GDP)の約25%を占めた不動産関連産業が今や経済成長の足かせとなり、中国経済全体がぐらついていると論じる。総じて、政府と不動産開発業者、それに外銀を含む金融機関がいわば三位一体となってバブル発生に加担したと言える。それだけにバブル後の処理には長い道のりを要するとみられる。 

台 湾

☆ 台湾はアジア(日中を除く)で最大のESG市場

世界で環境・社会・企業統治(ESG)に配慮するサステナブル・ファイナンスの重要性が高まるなか、ESG投資を行う金融商品のサステナブル・ファンドで台湾はアジア市場で24%のシェアを占め、日本、中国を除くアジアで最大となっている。

 57日付フィナンシャル・タイムズは、第1四半期にアジアESGファンドの資金流入は急減したが、台湾の同ファンドへの流入は好調で香港とシンガポールからの資金流出を相殺したと報じる。記事によれば、香港籍のサステナブル・ファンドは47,200万ドルの資金流出となり、シカゴに本社を置く米金融サービス会社モーニングスターのレポートで分析した単一市場の中で最大の減少幅となった。シンガポールのESG関連ファンドは2,950万ドルの資金流出となり、資産残高は前四半期比3.8%減の69,300万ドルとなった。日本のサステナブル・ファンドは13月期に17億ドルの資金流出に見舞われ、8四半期連続の資金流出となった。ただしモーニングスターによると、日本はファンド全体では、今年第1四半期に350億ドルの資金流入があった。オーストラリアとニュージーランドは、前四半期の資金流出から若干回復し、今年第1四半期には2,700万ドルの新規資金流入を記録した。

日本を除くアジアのサステナブル・ファンド総資産は、前四半期比1.6%増の630億ドルとなり、昨年第1四半期と同水準となった。最新の報告書によると、3月末時点で約3兆ドルに達している世界のサステナブル・ファンド・セクターのうち、日本を除くアジアが占める割合はわずか2%にとどまっている。アジア地域の大半の国では1月から3月にかけて小幅な資金流出が見られたが、台湾は際立った市場であった。国内籍のサステナブル・ファンドは12億ドル以上の新規資金を流入させ、地域全体の資金をプラスに押し上げた。

日本と中国を除くアジアのサステナブル・ファンドの第1四半期の資金流入は「低調」で、前四半期の17億ドルから63%減少した。モーニングスターのグローバル・サステナブル・ファンド・フロー・レポートによると、日本・中国を除くアジア地域の換金可能なオープンエンド型サステナブル・ファンドおよび上場投資信託の3月末までの3ヵ月間の純流入額は62,200万ドルだった。流入額は減少したものの、アジアの投資家は、モーニングスター社が環境・社会・ガバナンス(ESG)の基準で投資評価を行う「グローバル・サステナブル・ファンド・ユニバース」の回復にわずかながら貢献し、9億ドル近い純流入を記録した。これは、同セクターが2023年最終四半期に8,800万ドルという過去初の四半期純流出に見舞われた後のことである。

一般に日本を除くアジアの投資家は引き続きパッシブ・ストラテジーに投資しており、これらのファンドには当四半期に約18億ドルの資金が流入した。パッシブ・ファンドは現在、同地域のサステナブル・ファンド資産の48%を占め、前年同期から40%増加した。オーストラリアでは、パッシブ戦略が第1四半期に9,200万ドルの資金流入を記録した一方、アクティブ・サステナブル・ファンド は6,500万ドルの資金流出となった。

以上のように、台湾は日中を除くアジアで最大のESG市場を有し、今年第1四半期でも香港やシンガポール市場では資金が流出する中で好調な資金流入を維持した。中国の覇権主義的動きで台湾海峡の緊張が高まっているが、それにもかかわらず台湾が香港やシンガポールから資金が流出する中で、資金流入の受け皿となっていることに注目したい。 

韓 国

 ドル高の影響に苦しむ通貨ウォン

 418日付フィナンシャル・タイムズは、「日米韓、ドル高の抑制を模索」と題する記事で、日韓両政府は金利の先行き見通しの変化で両国の通貨が打撃を受け、「深刻な懸念」を表明したと以下のように報じる。

バイデン米政権は、金利の先行き見通しの変化によって市場が打撃を受けた数日後、アジア通貨に対するドルの最近の上昇を抑えるという日韓両国の試みに協力を表明した。中国もドル高の影響を抑えるための措置を講じたため、3カ国がドル高への懸念を表明することになった。18日の取引開始早々、ウォンは1%も上昇したが、円、インドネシア・ルピア、中国人民元は、イエレン財務長官と韓国、日本の財務相による異例の共同声明を受け小幅な上昇に止まった。日韓財務相は17日にワシントンで開かれた3カ国財務相会議の後、「外国為替市場の動向について緊密に協議する」と述べた。この声明は、米国のインフレ・データによって市場が米連邦準備制度理事会(FRB)の今年の利下げ観測を後退させた後、ドルがアジア通貨に対して大きく上昇したことへの懸念を示すものだった。声明はまた、「最近の急激な円安とウォン安に対する日本と韓国の深刻な懸念」を認めた。

アジア通貨は416日に急激な売りに見舞われ、円相場は1ドル=154円まで下落し、1990年以来の円安水準となった。市場は日本当局による直接介入の可能性に警戒を強めている。17日、韓国銀行の李昌永(イ・チャンヨン)総裁は、必要であれば中央銀行が為替変動抑制のために介入すると述べた。「最近の動きは少し行き過ぎだ」と李総裁はテレビのインタビューで語った。日本の通貨当局トップである神田財務官は7日、ワシントンで開催されたIMFと世界銀行の春季総会の傍らで記者団に対し、「乱高下が続くようであれば、安定化策を講じる用意がある」と語り、通貨の安定に対する日本のコミットメントを繰り返した。

人民元はここ数日、他のアジア通貨と同様に弱含んでいる。中国人民銀行は18日、人民元の基準値を強めに設定し、対ドルでの人民元売りを抑制するため、取引の中間点を1ドル7.102人民元に固定した。18日、人民銀行は「プロシクリカルな行動」と呼ばれるものを「断固として是正する」と述べた。人民銀行はさらに、通貨の方向性に関する見解の「一方的なコンセンサス形成と自己強化」を防ぐと付け加えた。「中央銀行は、人民元レートの相対的な安定を保つというスタンスに断固として揺るぎはない」と、国家外為管理局局長で人民銀行副総裁の朱鶴新氏は24日、北京で記者団に語った。INGエコノミクスはメモの中で、今回の発言により「重要な水準が破られた場合、日本と韓国が共同で為替介入を行う」可能性が高まったと述べている。

以上のように、韓国ウォンは円などともにドル高の影響を大きく受けている。この間の事情について54日付朝鮮日報は、次のように解説する。円とウォンが特に下落した背景として米中対立が挙げられる。韓国の対中輸出が大きな打撃を受け、為替市場と金融市場でウォンの需要が大幅に低下したためだ。韓国銀行によると、対中輸出が韓国の輸出全体に占める割合は、2010年に約25%だったが最近は20%を下回った。今年第1四半期の対米輸出額は310億ドルで対中輸出額(309億ドル)を上回った。対米輸出が対中輸出を上回ったのは、2003年第2四半期以来20年ぶりだ。

ただし、韓国銀行は今のところ市場介入には踏み切らず、口先介入だけに止まっているようである。17日、李昌ヨン総裁は不安定な為替変動に対処するリソースと手段が当局にはあるとし、ウォン防衛へ市場介入する用意があることを示唆したと54日付朝鮮日報は伝える。同紙によれば、李氏はワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)のパネルセッションで早期の米利下げ観測の後退がウォンに「多くの逆風」をもたらしていると指摘。過去数週間のウォンの動きについて「市場のファンダメンタルズ(基礎的条件)で正当化される状況からやや逸脱した」と述べた。一方、最近の為替市場の環境について、米国の高金利が継続するとの見方からドルが上昇の一途をたどった2022年半ばとは「やや異なる」とし、最近のドル高は米連邦準備理事会(FRB)の利下げ開始が遅れるとの見方による部分が大きいと指摘。米利下げ時期を巡る不透明感が後退すれば、新興国通貨への圧力は弱まる可能性が高いとし「1年半前と比べて影響は一時的だろう」と述べた。

以上のように、韓国銀行は市場介入に慎重姿勢だが日本の例もあり、引き続きウォン動向を注視したい。因みに日銀は、4月29日と5月2日の2回、計9兆円規模の介入に踏み切った可能性があると報じられている。 

北 朝 鮮

☆ 北朝鮮のロシア、中国、イランとの破れかぶれの連携

 417日付ワシントン・ポスト記事「ロシア、中国、イラン、北朝鮮の破れかぶれの連携」は、最近の朝露中そしてイランとの関係について以下のように論じる。

米政府当局者によれば、イランはロシア政府のウクライナ侵攻に伴うイラン製無人機の大量使用によって戦略的同盟関係を築き、その一環としてイランはロシア製兵器を購入し、イスラエルによる報復攻撃の可能性に対する防衛を強化している。ロシアが求めているこうした互恵関係はイランだけではない。昨年、プーチン大統領は北朝鮮の金正恩総書記と会談し、北朝鮮が切望していた高度な技術と引き換えに、ロシア軍が必要としていた弾薬やその他の戦争物資を提供するという取引を成立させた。しかし、こうした事態の推移において最も重要な相手は中国である。中国は西側の制裁の中でロシアに貿易の生命線を提供した。米国政府関係者が先週AP通信に語ったところによると、この支援の多くは通常のビジネスにとどまらず、中国はロシアがミサイルや戦車、飛行機を生産するために使える技術の輸出を急増させており、戦場での損失と米国とその同盟国による輸出規制の両方を補っている。

世界には欧米と敵対しているように見えるきわめて広範な国や運動(その中にはハマスやフーシのような比較的小規模だが影響力のあるグループも含まれる)が存在し、イラン、ロシア、北朝鮮、中国の4か国はその一部に過ぎない。ミッチ・マコーネル上院共和党院内総務を含む一部の西側政府高官は、これらの国々が新「悪の枢軸」であると繰り返し指摘している。これは、対テロ戦争開始時にジョージ・W・ブッシュ大統領が使った悪名高い言葉である。この言葉を作った人物は、どうやらこの新しい同盟は、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」よりもさらに広範なものとみているようだ。「世界は、テヘランからモスクワ、北京、そしてドナルド・トランプ前米大統領が住むフロリダ州のパームビーチに至るまで独裁者、凶悪犯、侵略者の世界的な連携に直面している」と、ホワイトハウスの元スピーチライターであるデイヴィッド・フラムは、イランによるイスラエル攻撃の失敗後、今週のXで語った。

しかし、これを単に「悪の枢軸その2」と見るのは欠陥がある。というのも、もともとの構想がよく言えばこじつけだったからだ。当初の「枢軸」の3カ国のうち、イランとイラクの2カ国は、その時点で正反対のイデオロギー(前者はシーア派神権主義、もう一方はスンニ派が率いる汎アラブ民族主義)に導かれており、彼らは少し前に血なまぐさい残忍な戦争を戦っていた。最後の国、北朝鮮は全体主義的社会主義国家であり、文字どおり、そして比喩的にも地球の裏側にあった。

新たな連携も同様に少しずれている。ロシアの国家資本主義社会は、強力なロシア正教会のような国内の宗教勢力と同盟を結んでいるかもしれないが、アヤトラ・アリ・ハメネイが信奉するイスラム教の教義や、その宗派であるシーア派の同盟国とはほとんど重ならない。中国と北朝鮮はともに社会主義的な政治形態を信奉しているが、両国のイデオロギーの公式的なレトリックと実際的な実践は大きく異なっている。最近の歴史においても両者は緊張関係にある。つまり、イデオロギーが少なくとも名目上は共産圏を西側諸国に対して束縛していた冷戦時代とは異なり、現在の状況は多くの異質な国家間の「便宜結婚」と理解した方がいいだろう。

しかし、だからといって離婚に至るとは限らない。こうした協定を後押ししているのは利便性だけでなく破れかぶれなのでもある。制裁措置や輸出規制によって、かつては緊張関係にもかかわらず欧米との貿易で活況を呈していたロシアは、貿易関係が明らかに不利であるにもかかわらず中国に頼らざるを得なくなっている。どの国も米国の軍事力には歯が立たないが、それぞれの強みがあり、他の国もそれを見習うことを望んでいる。別の言い方をすれば、「プーチンがこのまま戦争を続けたいのであれば、プーチンは東の中国に目を向けざるを得ない」ということだ。プーチンがウクライナで戦争を続け、欧米主導の世界経済秩序から経済的に孤立して生き残りたいのであれば、東側の中国を頼るしかない。中国としても今後の世界秩序を自国と米国の大国間戦争と見なすなら、できる限りの支援を結集する必要がある。

破れかぶれは危険な状況を招く。4カ国のうち2カ国は紛れもない強国であり、イランと北朝鮮という2つの小国は、中東におけるイランの同盟運動ネットワークを筆頭にそれぞれかなりの能力を持っている。この4カ国のうち3カ国は核武装しており、イランの核武装もそう遠くない。国連安全保障理事会の常任理事国である中国とロシアは、イランと北朝鮮に対する軍備管理措置を含め、以前は規範の設定において建設的な役割を果たしていた。そうした中国とロシアの協力がなければ、イランと北朝鮮に対する軍備管理措置のような努力は失敗に終わるだろう。

同時に西側諸国は独自のズレに直面している。米国は国内政治的な理由から対ロシアで内部分裂を起こしており、来年の大統領選で再登板を目指すトランプはNATO軍事同盟からの離脱を繰り返し示唆している。前大統領とその支持者の一部は、ロシアと中国の同盟関係を断ち切るようなウクライナ戦争の調停による終結を支持しているが、アナリストによれば、これは相互利益によって固められた中露関係を阻害する効果はほとんどないだろうとのことだ。カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンダー・ガブエフ所長は最近、「ロシアと中国を互いに引き離すという望みは、希望的観測にすぎない」と書いている。

欧州における米国の同盟国は、明白な歴史的理由から長い間ロシアの脅威を深刻に受け止めてきたが、米政府内の中国タカ派に同調し始めたのはごく最近のことである。しかし、こうしたタカ派でさえ、台頭する中国の脅威とどの程度戦うべきかについては意見が分かれている。トランプ・ホワイトハウスの元高官マット・ポッティンジャーとマイク・ギャラガー下院議員(ウィスコンシン州選出)がフォーリン・アフェアーズに寄稿した記事で、中国に対する「長期的な勝利」を求めたが、これに対して国防総省の元高官であるエルブリッジ・コルビーは今週末、「米国が中国に対する完全な勝利を追求していると中国が判断するならば、われわれとの戦いに全力を尽くしてくるだろう。そのマイナス面は何だろうかとのコメントをXに発表している。

以上のように記事は、北朝鮮がイラン、ロシア、中国と結びついた反米連合の一角として捉える理解を提示したうえで世界には欧米と敵対しているように見えるきわめて広範な国や運動があり、この4か国はその一部にすぎず、「悪の枢軸その2」でもないと指摘。現在の状況からみて、それは多くの異質な国家間の破れかぶれの「便宜結婚」と理解すべいきだと主張する。だが、だからといって離婚に至るとは限らないとし、破れかぶれは危険な状況を招くと警告を発する。特にロシアと中国を互いに引き離すという望みは、希望的観測にすぎないとの専門家コメントを紹介しているが、これは北朝鮮、中国、ロシアとの関係にもよくあてはまると考えるべきだろう。 

東南アジアほか

フィリピン

 「透明性イニシアティブ」で中国に対抗

 413日、中国海警局の警備船がフィリピンの海洋調査船とその護衛船を妨害した。事件はフィリピン沿岸からわずか35海里の地点で発生し、中国が自国領海として領有権を主張する際に使用する悪名高い「九段線」、すなわち、1953年から中華人民共和国がその全域にわたる権利を主張するために地図上に引いている破線のぎりぎり内側での出来事だった。この事件を受けて418日付エコノミスト誌は、フィリピンは南シナ海の次の大きな火種になり得るのかと問題提起し、両国の紛争状況を概略以下の通り報じる。

両国の衝突は、これに限らない。中国海警局の船がフィリピンの排他的経済水域内で、フィリピンが意図的に座礁させた錆びた軍艦シエラ・マドレ号の部隊に向かおうとする補給船に水鉄砲を発射したという報告もある。中国船はまた、フィリピンが占領している島々に群がりフィリピンの領海内でパトロールを行っている。

中国は以前から南シナ海の国々と対立関係にあった。最近の一連の事件は、フィリピン政府が「透明性イニシアティブ」の一環として中国の行動を強調するようになったこともあり、多くの人々に知られるようになった。この政策転換は、2022年に当選したフェルディナンド・"ボンボン"・マルコス大統領によって推進された。対照的に前大統領のロドリゴ・ドゥテルテは中国に宥和的で、南シナ海での侵略の拡大については概して沈黙を守っていた。彼は排他的経済水域をパトロールすることさえ望まなかった。しかしドゥテルテ氏の控えめ姿勢は何のメリットももたらさなかった。それどころか、中国はフィリピンの領海を以前にもまして強引に侵犯した。20232月、中国は軍用レーザーを第2トーマス浅瀬の上にあるシエラ・マドレへの補給任務中のフィリピン沿岸警備隊船に照射し、乗組員を一時的に失明させた。「最終的に私たちは、これらを飲み込むことは何の役にも立たないと判断した」とフィリピン大学のジェイ・バトンバカルは言う。

 2023年初頭からフィリピン政府は、中国の侵略が拡大しているビデオを公開し、中国の「グレーゾーン」戦術(全面戦争に至らない嫌がらせや威嚇戦略)を目撃するためにジャーナリストを巡視船に乗せている。こうした透明性の向上は、中国の侵略に対するフィリピン国民の意識を高めた。また、マルコス氏が国際的な支持を得るのにも役立っている。南シナ海における中国の威圧に対する懸念が高まるなか、大統領は今月初めにワシントンで米国のジョー・バイデン氏と日本の岸田文雄首相と会談し、3首脳による初のハイレベル会談を行った。バイデン氏は首脳会談で「南シナ海でフィリピンの航空機、船舶、軍隊が攻撃されれば、相互防衛条約が発動される」と警告した。

これまでのところ、中国の侵略を公表しても抑止力にはなっていない。米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies, CSIS)が運営するプロジェクト「アジア海洋透明性イニシアティブ」によれば、2023年に第2トーマスショール周辺の中国船の数が増加したという。このプロジェクトでは、自動識別システムのデータを使って南シナ海の中国船を追跡している。他方、中国の研究者は、AI制御の水鉄砲を開発したと主張している。世界で最も紛争が多い海域でのさらなるエスカレーションが予想される。

以上のように、2022年に当選したフェルディナンド・マルコス大統領が対中融和政策を転換し、「透明性イニシアティブ」政策を導入したことで南シナ海における中国の行動が広く知られるようになった。フィリピン政府は、中国の侵略が拡大しているビデオを公開し、中国の「グレーゾーン」戦術を目撃するためにジャーナリストを巡視船に乗せている。そうした政策の成果の一つが先ごろのワシントンでの日米比首脳会談であり、フィリピンは今後、日米両国から軍事、経済面で積極的な支援を受けることになった。しかし、それによって南シナ海での紛争発生の可能性が低まったとは言えない。むしろ事態を注視する必要性が高まってきたとも言えよう。 

インド

 落とし穴に直面する好調な経済

インド経済は好景気を謳歌しているが、富の分配という落とし穴に遭遇していると56日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルが警告する。記事は、インドが中国のような経済大国になるためには、所得格差の拡大への対応が急務だと次のように論じる。

目下進行中の世界最大の選挙で、世界で最も成長している国のひとつであるインド経済を誰が運営するかが決まる。選挙が発するメッセージは通常、大衆向けと投資家向けでは異なるが、インドの場合、貧困層に富が多く行き渡るようにすることが両者にとって最善の利益となろう。そして、選挙では相続税や富の再分配が問題にされ、与野党ともに庶民の擁護者として売り出していることから、この激戦の選挙を通じて急速な経済成長の中で拡大している所得格差問題が大いに注目を集めている。

インドは、中国に倣って製造業の拡大と若者の大量雇用に支えられた歴史的な好景気を再現しようと決意している。それには利益が人口の一部に限定されないようにするのが肝要だ。フランスの経済学者ルカ・シャンセル氏やトマ・ピケティ氏らの運営する世界不平等研究所(World Inequality Lab)の最近の調査結果によると、インドの上位1%の所得シェアは2022年には22.6%に達し、これは世界で最も高く、中国の15.7%よりもはるかに大きい。上位10%のシェアは57.7%で中国の43.4%を上回った。インドが有為な雇用を創出することで格差の拡大に対抗できなければ、GDPが目覚ましい伸びを示したにもかかわらず、国民の所得は大幅に上昇せず、政府の援助に頼り続けるかもしれない。そのための財政赤字の拡大とインフレ対策としての金利上昇、消費の伸び悩みが今後のインド経済の成長を抑制する恐れがある。

数字をよく見ると、消費動向にはいくつかの問題があることがわかる。成長パターンは過去数四半期にわたって歪んでおり、旺盛な投資需要が弱い消費需要を相殺している。例えば、2023年最終四半期のGDP成長率は8.4%に急上昇し、予想を大きく上回った。しかし、民間消費の伸びは3.5%にとどまり、依然として冴えない。家計消費はGDPの約6割を占める。主食や裁量的な品目に対する弱い消費需要と特に高級不動産に対する旺盛な投資需要という二律背反は、高インフレに見舞われた低所得世帯への課題が続いていることを反映している。世界不平等研究所によると、格差拡大の原因のひとつは労働力を農業から生産的で賃金の高い雇用にシフトさせていないことだ。政府は農業から製造業へと経済を再構築しようとしているが、必要とされる農業改革や労働改革が政治的反対に会うなどの困難に直面している。

インド政府が発表した2022年度の年次労働力調査によると、労働人口の45.5%が農業、12.4%が建設業、製造業はわずか11.6%で残りはサービス業である。不均衡の他の理由は、教育の格差とサービス主導の経済成長の不平等な効果である。格差はパンデミック時に悪化し、インフォーマル経済の大部分は企業部門よりも大きな生活の喪失に直面した。政府の政策対応は無料食糧プログラムを除いて財政の引き締めを維持することを選択したが、結果的にはフォーマル経済と資本市場を助けることになった。金利の低下はフォーマルセクターを押し上げたが、大衆の銀行貯蓄の利回りは低下した。国際労働機関(ILO)によれば、農業は依然として同国経済で最も不振なセクターのひとつであるにもかかわらず、パンデミックは非農業部門への雇用移行を逆転させた。

中国の驚異的な成長物語は、好景気に沸く都市での生産性の高い労働者に農村の人々を変身させたことにある。インドが人的資本を活用できなければ、巨大な隣国に追いつくことを期待する投資家は失望するだろう。

以上のように、インドでは上位1%の所得シェアが22.6%と世界で最も高く、中国の15.7%よりもはるかに大きいなど、富の偏在が著しい。このため高成長の経済を支えているのは、高級不動産に対する旺盛な投資需要であって、GDPの約6割を占める家計消費ではないといういびつな構造となっている。政府は中国に倣って製造業を拡大し、若者の大量雇用を確保すべく農業から製造業への経済再構築を試みているが、それに必要な農業改革や労働改革に対する政治的反対など、困難に直面していると記事は指摘する。そのうえで記事は、中国経済の成功は、農民を生産性の高い都市労働者に変身させたことにあるとダメ押しをする。インドがいびつな成長構造から脱皮するには、必要な改革に対する政治的な反対を克服することが不可避であろう。加えて、有為な雇用創出、高級不動産に対する旺盛な投資需要の抑制、教育の格差の是正、サービス主導の経済成長の不平等な効果の調整など課題は山積みと言える。 

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 主要紙の社説・論説から 

世界の中の日本(1)―新時代を迎える日米関係

激動する世界の中で日本も政治、経済、社会などの諸分野で新たな転機を迎えている。そうした日本の現状を新春第1号ともなる今回、「世界の中の日本」として多面的に観察するシリーズの第1回として取り上げた。テーマは、先ごろの岸田訪米に象徴される新時代を迎えた日米関係である。以下は、主要メディアの関連報道と論調を順次観察し取りまとめたものの要約である。 

まず42日付エコノミスト誌は「Why Japan Inc is no longer in thrall to America (日本企業が米国の言いなりにならない理由)」と題するビジネス欄記事の冒頭で、米国が最近、昔の日本のように保護主義的傾向を強めている一方で、日本は米国流の市場寄りの政策を導入し始めていると日米の状況が入れ替わっていると指摘する。特に日本の現場で驚くべき変化が起きていると述べ、過去33年間で最大の賃上げなどのデフレ脱却の動き、外国人嫌いの後退と移民の雇用、輸出の急増、半導体などのハイテク製品での産業ルネサンスなどの動きを挙げる。そのうえで、日米はもはや一方的な関係でなくなったとして、日本は防衛を自らの手に委ねるようになり、そのハイテク産業は欧米の軍事サプライチェーンで大きな役割を果たすことを望んでいると述べ、410日のバイデン・岸田会談で、ここ数十年で最大の安全保障条約のアップグレードを発表するだろうと報じ、最後に日本は非中国のリーダーとして、米国流の貿易促進的なプラグマティズムをアジア諸国に広めていけるだろうと期待を示す。 

 44日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルに掲載されたエマニュエル駐日大使による「日米関係は新時代に=防衛を見直す日本、インド太平洋地域の米同盟戦略で中心となる」と題する論文は、バイデン米大統領と岸田首相の会談で米日関係は新たな時代が始まり、2つの重大な変化を示すだろうと強調する。第1の変化として、日本が米国のインド太平洋戦略で安全保障上の中核的で完全なパートナーになりつつあることを挙げる。第2として、米国を中軸とする「ハブ・アンド・スポーク(車輪の中心軸と輪をつなぐ棒)」式の2国間同盟を同盟国同士も直接つながる「格子状の」同盟構造に変換するというバイデン氏の取り組みを挙げ、この新たなアプローチは、組織や情報が孤立し共有できていないサイロ化状態にあった多くの同盟関係を多様化し、米国の抑止力を高めると強調する。米国はそれぞれの同盟国の強みを活用して集団的抑止力を高め、高圧的で攻撃的になった中国に対峙できると指摘し、今回の岸田氏の訪米は、格子状のアプローチの最新例となると述べ、バイデン氏は米国・日本・フィリピンの3カ国による首脳会談を開催する予定だと補足する。

こうした日本の変容は岸田首相のリーダーシップの成果だとし、岸田氏が取った手段で最も重要なものは防衛費の拡大だと主張する。具体例として防衛予算の対GDP2%への増額、巡航ミサイル「トマホーク」400発の購入、防衛装備品輸出指針の変更、日米韓3国間関係の戦略的レベルへの引き上げ、安全保障関連3文書の改定などを挙げる。

論文は、最後に日本を不変の要素として格子状の同盟枠組みを更新するバイデン政権の試みは、インド太平洋地域における安全保障の基盤を構築し、中国が近隣諸国への圧力と威嚇を強める中で極めて重要だと再度強調する。そのうえで、バイデン氏は米国が太平洋地域で永続的な大国であり続けると提唱してきたと述べ、同盟諸国は米国の永続的関与に確信を持って信頼してほしいと訴える。 

 47日付ニューヨーク・タイムズの「Biden and Japan’s Leader Look to Bind Ties to Outlast Them (離任後も存続する絆を考える日米指導者)」と題する記事は、岸田訪米にはドナルド・トランプ再登場と米国外交政策変動の可能性が漂っていると概略次のように報じる。目下、両首脳とも現職を維持するための戦いのただなかにあるが、劇的な変化のリスクは、米国側の方がはるかに高いようだ。日本側は、岸田首相が今秋の党首選を乗り切れなかったとしても少なくとも次の総選挙までは、そしておそらくそれ以降も自民党が政権を握ることになる。つまり、日本政府の政策公約が大きく変わる可能性は低いということだ。また今週、日米両首脳はフィリピンのフェルディナンド・マルコスJr.大統領と会談する。これについて岸田首相は、「非常に複雑で困難な安全保障環境」を考えると複数のパートナー間のハイレベル協議は極めて重要であると述べている。バイデン氏は、米国がすでにウクライナやガザでの戦争に巻き込まれている今、中国の侵略を抑止するために太平洋諸国の結束ネットワークを強化することを望んでいる。日本側も長年にわたる名目上の平和主義を経て防衛政策を大胆に転換した。軍事費の計上額を倍増させ、米国からトマホーク・ミサイルを獲得し、武器輸出を制限する戦後政策を転換、日本製の米国設計パトリオット・ミサイルを米国政府に売却することにも同意した。今週、加えて両首脳は日本製パトリオットや巡航ミサイル、戦闘機パイロットが使用する練習機などの追加輸出を含む更なる輸出を模索する共同防衛協議委員会の結成について話し合う予定だという。

岸田訪米には経済的な要素もある。岸田氏はノースカロライナ州にあるトヨタの電気自動車用バッテリー工場への視察を予定しているが、これは日本の対米投資を公に思い出させ、新日鉄によるU.S.スチール買収を認めるよう圧力をかける意図があるかもしれない。先月、バイデン氏はU.S.スチールが「国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠だ」と述べた。ホワイトハウス当局者は、国家安全保障への影響について検討する意向を示している。専門家は「取引が成立しなければ、日米間のビジネス関係が複雑になる可能性があるとし、今後、日本の投資家や他の同盟国、パートナー国の投資家の目を冷やさないかどうかが問題だと指摘するが、駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏は、日米間の同盟関係は「単一の商業取引よりもずっと深く、ずっと強く、戦略的な連携がある」と反論している。 

 48日付フィナンシャル・タイムズの「Japan doubles down on the US alliance as China looms (中国が不気味に迫るなか、米国との同盟を倍強化する日本)」と題する同紙外交関係論評責任者のギデオン・ラックマンの論文は、冒頭で日本の外交・安全保障政策の転換は、権威主義的な中国によるインド太平洋の支配を阻止するという日本の決意が原動力となっていると指摘する。具体的には、岸田政権の防衛費増額の約束や武器輸出禁止方針からの脱却、英伊と共同開発中の新型戦闘機の海外販売の認可、韓国との関係修復などを挙げる。また岸田首相のワシントン訪問の最後を飾るのは、日米比3カ国首脳会談であり、これは南シナ海で圧力を強める中国からフィリピンを救援するという日米両政府の共同決意を強調していると指摘する。論文はさらに日本政府の政策転換の一因として、ロシアのウクライナ侵攻を挙げ、日本の地政学的思考が根本的に変化し、岸田氏は安倍首相が提唱した改革を推し進められるようになったと述べる。ウクライナ侵攻は自国の安全保障には何の影響もないと考えているインドやインドネシアといったアジアの重要な国々と違い、岸田首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返し語っていると指摘する。

また日本政府関係者は、米国が今後ますます予測不可能性を深めると考えており、そのために思慮深いヘッジを行ったとし、英伊との新型戦闘機開発を挙げ、日本が他の民主的な中堅国家(middling powers)に手を差し伸べる一例となったと述べる。最後にバイデン米政権にとって、日米関係はますます問題を抱える世界において稀有な明確で明るい話題だと論じる。 

最後に411日付フィナンシャル・タイムズは「US and Japan announce ‘most significant’ upgrade to military alliance (日米、軍事同盟の「最も重要な」アップグレードを発表)」と題する記事で、閉幕直後の日米首脳会談について次のように報じる。バイデン大統領は記者会見で日米同盟が数十年前に創設されて以来「最も重要な」アップグレードを行ったと語り、岸田首相とともに日米両軍が「シームレスで効果的な方法で協力」できるよう重要なステップを踏んでいると語った。同大統領はさらに、この3年間で日米関係は「真にグローバルなパートナーシップ」へと変貌を遂げ、同盟は今や「世界全体への道標」としての役割を果たしていると指摘した。また両首脳は共同声明でバイデンが日米相互防衛条約に核戦力が含まれ、東シナ海に浮かぶ尖閣諸島(日本が統治しているが中国が領有権を主張している)にも適用されることを確認した。さらに両首脳は、中国海警局によるフィリピンに対する最近の攻撃的行動に言及し、「力や強制によって現状を変えようとするいかなる試みにも強く反対する」と表明。岸田首相は記者会見で世界は「歴史的な転換点」に直面しており、両首脳は「中国に関する課題に対応し続ける」ことで合意し、自由で開かれたインド太平洋を「断固として守り、強化する」と語った。このためフェルディナンド・マルコスJr比大統領と初の3カ国首脳会談をワシントンで開催することを予定している。

記事はさらに、米日豪による「航空、ミサイル、防衛のアーキテクチャー」の構築、防衛当局によるミサイルの共同開発・製造する方法の模索、情報共有の強化、そして軍事的な不測の事態に備えた協力と計画を強化するための指揮統制機のアップグレードなどについて伝える。最後に、日米首脳会談は日本が安全保障政策において劇的な変化を遂げる中で開催されたと指摘。「日本政府は、北朝鮮や中国、ロシアが現状を変えようとしているのをもはや傍観していない。不作為の危険性を認識している。その目的は、誰も日本の力を過小評価しないようにすることだ}との専門家の見解を伝え、北朝鮮の金正恩総書記と会談するための岸田首相の努力を挙げる。 

結び:以上のようなメデイアの論調を第1に、日米両国に起きている国内情勢の変化に関する見解、第2に新時代の日米同盟に対する見方、そして、第3に日本に寄せるメディアの期待に分けて観察する。

1の日米両国の国内情勢の動きに関しては、日本が米国流の市場寄り政策を導入し始めている一方で、米国がかつての日本のような保護主義的傾向を強めていると指摘しているのがまず注目される。日本側の動きとして、賃上げ、外国人嫌いの後退と移民の雇用、輸出の急増、半導体などのハイテク産業の再生などが挙げられているが、大きな変化はなんといっても安全保障政策のアップグレーであろう。

具体的にはメディアは岸田政権による防衛費の拡大、すなわち、防衛予算の対GDP2%への増額や巡航ミサイル「トマホーク」400発の購入、防衛装備品輸出指針の変更、日米韓の3国間関係の戦略的レベルへの引き上げなどを挙げるが、新型戦闘機の英伊との共同開発とその海外販売の認可、軍事的な不測事態に備えた協力と計画を強化するための指揮統制機構のアップグレードの動きなども注目する必要があろう。なお、こうした日本の政策転換の一因として、ギデオン・ラックマン論文がロシアのウクライナ侵攻による日本の地政学的思考の根本的変化を挙げていることに留意しておきたい。

両国の政局に関してメディアは、日本は自民党支配が継続する確率が高く、政情が激変する可能性が少ないとみられるのに対し、トランプ再登場の可能性が増す米政局の方が変動のリスクが高いとの見方を提示する。今回の日米サミットが両首脳がともに離職の危機にさらされている状況の下で挙行されただけに一つの見方として参考になる。

2の日米同盟の動向に関するメディアの見解では、同盟が軍事同盟として強化され、それは権威主義的な中国によるインド太平洋支配の阻止という日本の決意が原動力となっているとの指摘に注目したい。その原動力の下敷きがウクライナ情勢であるのはメディアの指摘どおりであろう。こうした日米関係は、世界で多くの問題を抱えるバイデン米政権にとって、稀有な明確で明るい話題だと論じられているのも現下の世界情勢を考えると説得力がある。日本と国民は相応の覚悟をしておく必要があろう。また米国が今後、予測不可能性を深めていくのは避けられず、日本が、たとえば英伊との新型戦闘機開発案件が示すように他の民主的な中堅国家に接近していくのは自然な動きといえよう。

岸田訪米の経済的な要素の一つとしてメディアが指摘する新日鉄によるU.S.スチール買収案件は、バイデン氏はU.S.スチールが「国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠だ」と述べ、ホワイトハウス当局者も国家安全保障への影響について検討する意向と報じられており、今後の日米関係のあり方に関連する観点から、その動向を注視すべきであろう。

3の日米サミットに関連してメディアが日本に寄せる期待は極めて多い。軍事サプライチェーンを含む軍事的役割の増大や非中国のリーダーとして米国流の貿易促進的なプラグマティズムをアジア諸国に広めることなど軍事、経済分野など広範囲にわたる。その中で最も注目すべきは、エマニュエル駐日大使の論文であろう。今回の日米首脳会談は2つの重大な変化を示すと述べ、日本が米国のインド太平洋戦略で安全保障上の中核的で完全なパートナーになりつつあることと、米国を中軸とするハブ・アンド・スポーク式の2国間同盟を同盟国同士が直接つながる「格子状の」構造に変換するというバイデン氏の取り組みを挙げる。確かに米国との一対一の同盟関係を他の同盟諸国同士が直接結びつく関係に変化させるのは、同盟関係の効率化と強化に役立ち、高圧的で攻撃的な中国に対する抑止力を高めるだろう。

また論文は、日本を不変の要素とする格子状の同盟枠組みを更新すると述べ、今回の岸田氏の訪米をそうした格子状アプローチの最新例として位置付けている。これは日本の韓国やフィリピンとの関係の改善、強化に向けた努力を当然含めているだろうが、例えば韓国とフィリピンあるいは豪州との間など、主要な米国同盟国間の関係を直接結びつけるものではない。その意味で格子状の関係は完成された形にはなっていない。米国を中軸とするハブ・アンド・スポーク式の2国間同盟に日本を軸とする2国間同盟が加わったというべきであろう。つまり、日米両国を中軸とするハブ・アンド・スポーク式の2国間同盟が成立し、これにより車の両輪が形成されたのである。その意味で、日本は両輪のひとつとして車を支える重い責任を負うことになった。論文はまた同盟諸国は米国のアジアに対する永続的関与に確信を持って信頼してほしいと強調している。日本は明らかにその片棒を担ぐことになったのである。

総じてメディアは次のようなメッセージを発信する。いわく、日米同盟は創設以来で「最も重要な」アップグレードを行った、日米両軍が「シームレスで効果的な方法で協力」できるよう重要なステップを踏んでいる、この3年間で日米関係は「真にグローバルなパートナーシップ」へと変貌を遂げた、同盟は今や「世界全体への道標」となったなどである。こうした文言の背景にあるのは、「中国に関する課題に対応し続ける」ことで合意し、自由で開かれたインド太平洋を「断固として守り、強化する」という日米首脳の決意だと報じる。それは、不作為の危険性を認識し、現状を変えようとするいかなる試みをもはや傍観しないという日本の覚悟を伝えているのであり、その目的は、誰も日本の力を過小評価しないようにすることだと補足する。メディアとしては、こうしたメッセージを発信することで、日本に対して、そうした覚悟を再確認しようとしているのであろう。それはまた、世界が「世界の中の日本」のあるべき姿について自覚と決意を日本政府と国民に求めていると言えよう。

            § § § § § § § § § 

(主要トピックス)

2024

4月17日 バイデン米大統領、中国製の鉄鋼・アルミ製品のダンピング(不当廉売)

問題で制裁関税を3倍に引き上げると発表。

19日 インドで総選挙、開始。6月4日に開票。

20日    米下院本会議、インド太平洋の安全保障強化法案を可決。

台湾を中心にインド太平洋地域の同盟国・地域支援に約40億ドルを拠出。

21日  中国の王毅共産党政治局員兼外相、パプアニューギニア訪問。

トカチェンコ外相、マラペ首相と会談、経済連携の強化を確認。

25日  中国国防省、日本の「AUKUS(オーカス)」と 力検討に

「深刻な懸念」を表明。

26日  訪中したブリンケン米国務長官、習近平(シー・ジンピン)国家主席

と王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相と会談、中国のロシア支

援を批判。

ベトナム共産党序列4位のブオン・ディン・フエ国会議長、辞任。

事実上の更迭。

27日  中国共産党序列4位の王滬寧(ワン・フーニン)・全国政治協商会議

(政協)主席、台湾の国民党立法委員17人から成る訪問団と面会。

「台湾独立分裂活動」への反対を強調。

30日 南シナ海のスカボロー礁(黄岩島)周辺の海域でフィリピン沿岸警備

隊巡視船が中国公船による放水砲の攻撃を受けたと発表。

5月1日  中国で国家機密の管理を厳格化する改正国家秘密保護法を施行。

2日  米ハワイ州を訪問中の木原稔防衛相、米豪の国防相と会談、先端防衛

技術分野での共同開発・研究促進で協力することに合意。

4日 インドのジャイシャンカル外相、バイデン米大統領が日本や中国と並

べてインドを外国人嫌い」の国と発言した問題で、「とても開かれた国

だ」と反論。

5日   中国の習近平国家主席、フランス、セルビア、ハンガリーの欧州訪問に

出発。

  10日   米政府、中国と気候変動対策促進で協調することで合意と発表。

地球規模の課題を通じて2国間の対話を維持。

13日    韓国の趙兌烈(チョ・テヨル)外相、訪中。

中国の王毅共産党政治局員兼外相と会談。日中韓3カ国首脳会談の詳細を協議。

       日本政府、インドネシアのジャカルタ首都圏を通る都市高速鉄道(MRT)

新路線の建設支援に向けた約1400億円の円借款供与で合意。

15日 シンガポールのローレンス・ウォン副首相兼財務相が

リー・シェンロン首相の後を継ぎ、第4代首相に就任。

 

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名) THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)THE GUARDIAN (ガーディアン)BLOOMBERGBUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウィーク)TIME (タイム)THE ECONOMIST (エコノミスト) REUTER (ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教授

前田高昭

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