おすすめ記事
第77回アメリカ書籍レポート

世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第77回

アメリカ書籍レポート - 6月 

Barnes & Nobleで見かけたベストセラー、新着書籍

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


6月に入りましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。こちらでは記録的な暑さが続いたかと思えば、その翌週には大雨とともに気温が一気に下がるなど、天候の振れ幅が大きく、体調を崩す人も多いようです。とはいえ、日中の気温は徐々に上がりつつあり、いよいよ夏の到来を実感する季節となってまいりました。

さて先日、Barnes & Nobleを訪れたところ、『変な家』(著者:雨穴、出版社:飛鳥新社)の英訳版がベストセラーとして並んでおり、大変驚かされました。というのも、つい先日原著を読了したのですが、とりわけ日本特有の住宅の間取りや文化的背景といった要素は、単純な翻訳では伝わりにくいのではないかと感じておりました。同じく『変な絵』も英訳されており、英語圏の読者からも高い評価を得ているようです。ミステリーとして英語圏の読者を引き込むのは容易ではなさそうだと思っていたのですが、その認識が改まりました。訳者のJim Rion氏は横溝正史作品の英訳も手がけており、ミステリー翻訳に精通している方なのでしょう。

今回はBarnes & Nobleで見かけたベストセラーおよび新着書籍をご紹介いたします。

Yesteryear (2026)
著者:キャロ・クレア・バーク(Caro Claire Burke)
出版社: Knopf Doubleday Publishing Group

作品について:
SNSで800万人ものフォロワーを持つ人気ライフスタイル・インフルエンサー、ナタリー。美しい農家風の家、素敵な夫、6人の子どもたち。誰もが憧れる理想の暮らしを発信し、成功を手にしている。しかしある朝目覚めると、ナタリーはまったく別の世界にいた。そこは電気もなく、洗濯も薪割りもすべて手作業という過酷な19世紀さながらの生活。SNS映えする「伝統的な暮らし」を演出してきたナタリーは、本物の伝統的生活の厳しさに直面することになる。
本作は、近年アメリカで話題となっている「tradwife(伝統的主婦)」文化やSNS上の自己演出を鋭く風刺した話題作。主人公ナタリーは決して共感しやすい人物ではなく、その強烈な個性と予測不能な行動に思わず引き込まれてしまう。ユーモアとサスペンス、社会風刺が巧みに織り込まれた物語で、海外レビューでは、SNS時代の女性像や家族観を描いた鋭い社会風刺として高く評価されており、先の読めない展開と意外な結末も話題となっている。家族、信仰、名声、そして女性らしさとは何かを問いかける、刺激的で読み応えのある作品。

著者:
本作は、キャロ・クレア・バークのデビュー作。ベニントン・ライティング・セミナーズで美術学修士号を取得し、現在は、政治と文化をテーマにしたポッドキャスト『Diabolical Lies』の共同ホストを務めている。

The Midnight Train (2026)
著者:マット・ヘイグ(Matt Haig)
出版社:Penguin Publishing Group

作品について:
人生の最期に、もう一度だけ過去へ戻れるとしたら――。
主人公ウィルバーは、心臓発作で生死の境をさまよった後、不思議な「ミッドナイト・トレイン」に乗り、自身の人生における重要な瞬間を再び訪れる機会を与えられる。彼が最も心を引かれるのは、最愛の妻マギーと過ごしたベネチアでの新婚旅行の日々。しかし、その幸せな記憶の先には、自らの過ちと深い後悔が待っていた。
過去を変えたいという願いと、ありのままの人生を受け入れることの意味を描きながら、愛、喪失、赦し、そして人生の選択について問いかける一冊である。幻想的な設定の中に温かな人間ドラマが息づく、幻想的な時間旅行小説である。

著者:
マット・ヘイグはイギリス・シェフィールド出身の作家。小説『ミッドナイト・ライブラリー』(訳者:浅倉卓弥 訳、出版社:ハーパーコリンズ・ジャパン2022)、『今日から地球人』(訳者:鈴木恵 訳、出版社:早川書房2014)、『トム・ハザードの止まらない時間』(訳者:大谷真弓 訳、出版社:早川書房2018)などで知られ、『ミッドナイト・ライブラリー』は全世界で1400万部以上を売り上げるベストセラーとなった。ノンフィクションでは精神疾患をテーマにした『生きていく理由 : うつ抜けの道を、見つけよう』(訳者:那波かおり 訳、出版社:早川書房2018)などを執筆し高い評価を得ている。児童書『クリスマスと呼ばれた男の子』は映画化もされた。作品は56言語に翻訳され、読書や図書館、メンタルヘルス支援の重要性を訴える活動も行っている作家である。

True Crime: A Memoir (2026)
著者:パトリシア・コーンウェル
邦訳:なし
出版社:Grand Central Publishing

作品について:
パトリシア・コーンウェルによる回想録『True Crime: A Memoir』は、世界的ベストセラー作家が自らの人生を初めて詳細に語るノンフィクションである。代表作検屍官ケイ・スカーペッタシリーズの着想源ともなった、検視局での経験や犯罪報道の現場に至るまでの道のりが明かされるとともに、幼少期の家庭環境や養育家庭での虐待、伝道者ビリー・グラハムの妻ルースとの関係、九死に一生を得た大事故や入院といった過酷な体験が率直に描かれる。そうした経験がいかにして彼女の執筆活動や法医学への関心につながり、作家としての成功を形づくったのかが浮かび上がる内容である。犯罪小説の裏側と作家自身の原点を重ね合わせた、極めて個人的かつ衝撃的な記録である。

著者:
パトリシア・コーンウェルは、世界的人気を誇る犯罪小説作家である。法医学ケイ・スカーペッタを主人公とする検視官シリーズで知られ、作品は36言語以上に翻訳され、120か国以上で出版されている。エドガー賞をはじめ数々の文学賞を受賞。法医学や犯罪捜査の知識を生かしたリアリティあふれる作風で、多くの読者を魅了し続けている。


柴田きえ美                                        カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を学ぶ。これまでに日英・英日両方を含め7冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得。現在は、BTCで翻訳プロジェクトマネージャーとして翻訳に携わっている。


PDF版

 

 

おすすめの記事