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第59回 アメリカ書籍レポート

第 59 回 世界の出版事情-アメリカ書籍レポート-柴田きえ美

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより 第 59 回
アメリカ書籍レポート
-12 月 2023 年話題の書籍をチェック 柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)

2023 年も、もうそろそろ締めくくりが近づいてきました。今年一年、米国ではどんな本が話題となったのか、米国大手書店 Barnes & Noble のランキングから見てみたいと思います。同サイトでは、2023 年に出版された話題作が様々なテーマ別に選出されており、なかなかに興味深いタイトルが、いくつも並んでおりました。全体的な傾向としては、多種多様な文化や人種を織り交ぜた作品が多いような印象です。
その中でも特に目を引いたのが「Cozy」な物語 3 選でした。注目すべきは、3 作とも日本の小説の翻訳書だったことです。これらとは別に翻訳書部門(海外書籍部門)も用意されているので、「翻訳書」として選ばれたわけではなく、総合的に見て「まったりと読みたい物語」という評価を受けたのでしょう。どの表紙にも猫のイラストが入っていることも「Cozy」な印象です。日本語版の表紙と並べてご紹介します。それぞれに「日本らしさ」や「アメリカっぽさ」がありますね

 


What You Are Looking For Is in the
Library (2023)

日本語原書「お探し物は図書室まで」
著者:青山美智子
出版社:ポプラ社(2020 年)

Days at the Morisaki Bookshop (2023)

日本語原書「森崎書店の日々」
著者:八木沢 里志
出版社:小学館文庫(2010 年)

The Goodbye Cat (2023)

日本語原書「みとりねこ」
著者:有川ひろ
出版社:講談社 (2021 年)

 


さて、次にチェックしたのは「中学生向け」の児童書です。昨今の世の風潮を表す作品が選出されています。

School Trip : New Kid (2023)

作:Jerry Craft
邦訳:なし
対象年齢:9-12 歳
シリーズ:New Kid シリーズ第 3 巻
グラフィック・ノベル

作品について:
中学生向けのグラフィックノベルとして、ニューベリー賞をはじめとした複数の文学賞を受賞した『New Kid』。多感な時期の中学生たちの日々の葛藤をユーモラスに描きます。主人公のジョーダンはアートが大好きで、将来はアーティストになりたいという夢がありました。しかし、両親の意向により、裕福層向けかつ白人ばかりの私立学校に編入させられてしまいます。自分だけが異端。住んでいる生活環境も何もかも、同級生たちとは異なることに悩みながらも、活路を見出してきました。その第三作目となるのが、この作品です。今作品では、ジョーダンと、同じく周りと違うことに葛藤していたドリュー、リアム、モーリーたちが、学校の修学旅行でパリに行くことになりました。ところが手違いから修学旅行は思いもよらない方向へ向かいます。知らない言葉、知らない文化、見たこともない食事。果たしてジョーダンたちはどのように成長して帰国するのでしょうか。

著者:
JERRY CRAFT: ハーレム生まれワシントンハイツ(マンハッタン)育ちのアーティスト兼作家。ティ
ーンの入り口に立つ子供たち向けに『New Kid』を出版し、各所で5つ星の高評価を受ける。この現
代に生きる多感な時期の子供たちに大切なメッセージを届ける。Schomburg’s Annual Black Comic Book
Festival の共同設立者の一人。

 


2023 年総合で「今年の一冊」に選ばれたのは、こちらです。

The Heaven & Earth Grocery Store (2023)

作:James McBride
邦訳:なし

作品について:
1972 年、ペンシルベニア州ポッツタウンで、開発中の土地にあった古井戸のそこから、白骨死体が見つかった。白骨死体の正体と、古井戸の底にあった理由。それらは近隣の荒廃した地域、チキン・ヒルに暮らすユダヤ系移民とアフリカ系アメリカ人住民たちが長年守り続けてきた秘密だった。そのチキン・ヒルにある「Heaven & Earth」商店の店主 Chona と同じくチキン・ヒルにある劇場の用務員にして黒人コミュニティーの長 Nate が聾啞の少年を州の役人から守るために動き出す。登場人物たちの物語が幾重にも重なり、明らかになっていくのは、キリスト教系白人アメリカ人社会の片隅で暮らす人々がどれほど苦闘し、生き残るために何をしなければならないかだ。
著者:
James McBride:2013 年に『The Good Lord Bird』で全米図書賞を受賞。貧しい黒人コミュニティーで生まれ育ち、ユダヤ系白人だった母親は結婚後キリスト教に改宗した。彼の半生を書き綴った『The Color of Water』はベストセラーとなり、全米の高校や大学のみならず、16 か国語に翻訳され世界中で読まれた。
そして、書籍以外の発信から書籍になり、堂々と「長寿と繁栄」(啓蒙)部門に選ばれたのは次の本です。

 


Financial Feminist (2023)

作:Tori Dunlap
邦訳:なし

作品について:
性別の違い、人種の違いで金融教育に差があり、それゆえに生じる貧富の差がある。Tori Dunlap の両親は彼女が幼い時から通帳や家計簿を毎月しっかりと確認し、家計の管理をしていたのを見てきた。両親に教えられ、欲しいものを買うために小銭を貯めることを学んだ。けれども、成長するにつれ、周りの女友達と金銭感覚の違いに気が付くようになった。この気づきをきっかけに調べてみると、女子は「節約」を教育される一方、男子は「投資」を教えられるケースが多いことが分かってきた。大人になると、女性は無駄遣いするというステレオタイプなレッテルが付きまとい、男女の貧富の差は「無駄遣いが」原因だとする声も多い。そして世界パンデミックのようなことが起きると、真っ先に足切りされるのは女性で、女性が再就職にこぎ着けるのは最後の方。Tori Dunlap が立ち上げた「Her First $100K」という会社では、女性向けに金融教育を行っており、尼のように清貧に暮らす節約を押し付けるのではなく、本当の意味で賢くお金と付き合う方法を教えている。Tori Dunlap のように目標を掲げ、4年弱で$100K を貯めることもできるかもしれない。本書では、実践的なワークブッで現在のあなた(読者)の金銭管理状況、改善点を明確にするとともに、投資についての初期知識や方法、また各専門家へのインタビューも掲載し、目に見えないお金の仕組みを学ぶことができる。
著者:
Tori Dunlap:世界的に活躍するファイナンシャル・キャリア・アドバイザー。本書は彼女のPodcast番組をもとにしている。同番組はSpotify とAppleでビジネス番組No.1 となった。主に女性向けに金融教育を施し、給与の交渉、借金の返済、貯蓄、そして投資といったお金に関するアドバイスを行っている。
最後に、「ホリーデーサプライズ」部門から 12 月らしいクリスマスをテーマにした書籍をご紹介します。

 


The Christmas Guest (2023)

作:Peter Swanson
邦訳:なし
対象年齢:8-12 歳

作品について:
クリスマスカラーでクリスマスらしいイラストにもかかわらず、空恐ろしさを感じる表紙です。ロンドンに留学中のアメリカ人美大生 Ashley Smith は、クリスマスには特に予定がなかったのだが、クラスメイトの Emma Chapman から Starvewood Hall にある別荘に急遽招待される。松の木で飾られた素敵なマナーハウスで、Emma の兄 Adam と出会い、淡い恋の予感に浮かれる Ashley 。
けれども、Adam は最近村の少女が惨殺された事件で地元警察の捜査を受けていた。
時は流れ、30 年以上たったころ、当時の日記が発見される。イギリスのあの小さな村で 1989 年のクリスマスに何があったのか。過去から現代のニューヨークへと恐怖の物語はつながってゆく。
著者:
Peter Swanson はベストセラー作家として『The Kind Worth Killing』をはじめとするいくつものサスペンス・ミステリーを出版している。これまでに 30 か国以上に翻訳出版され、世界中で読まれている。マサチューセッツ在住。

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