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第80回世界の出版事情-アメリカ書籍

世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第80回

アメリカ書籍レポート - 10月 

Barnes & Noble書店ベストセラー・ランクインしている3冊

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


まだまだ暑さの残るカリフォルニアですが、書店では一足早く秋の読書シーズンに向けた売り場づくりが始まっていました。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

さて、Barnes & Nobleの店内には、秋の読書に向けたさまざまな特集コーナーが設けられていました。なかでも目を引いたのが、YA(ヤングアダルト)ロマンスの特集です。秋の読書シーズンに向けて、恋愛をテーマにした作品が広いスペースを使って紹介され、色とりどりの表紙の新刊がずらりと並んでいました。
さらに興味深かったのは、クラシック作品を現代的なデザインの装丁で甦らせた書籍のコーナーです。時代を超えて読み継がれてきた名作が、現代の読者の目を引く新しい装いで並んでいるのを見ると、古典作品もまた新たな形で読み継がれているのだと感じます。
そして、今回特筆したいのが、横溝正史の『本陣殺人事件』です。なんとB&Nのベストセラーランキングにランクインし、店頭では平積みで紹介されていました。金田一耕助シリーズが英語で読めるなんて、とてもワクワクします。日本のミステリーを代表する古典作品が、アメリカの書店でベストセラーとして並んでいる光景は、日本人としてなんとも嬉しいものです。

今回は、そんなB&Nの店頭で見つけた作品の中から、最近発売された書籍のベストセラーランキングにランクインしている3冊を選び、ご紹介したいと思います。

Protocols: An Operating Manual for the Human Body (2026)

著者:アンドリュー・D・アンドリュー・ヒューバーマン(Andrew D. Huberman Ph.D.)

出版社:S&S/Simon Element

邦訳:なし

作品について:

世界的に人気の健康・科学系ポッドキャスト「Huberman Lab」のホストであり、スタンフォード大学医学部の神経科学者・教授としても知られるアンドリュー・ヒューバーマンによる、注目の新著書。脳と身体の機能を高め、心身の健康やパフォーマンスを向上させるための科学的な実践法をまとめた一冊である。睡眠、運動、ストレス管理、栄養、光、集中・学習、自己成長という7つの分野を軸に、日常生活に取り入れやすい「プロトコル」を紹介している。

たとえば、朝起きてできるだけ早く日光を浴びる睡眠習慣や、ストレスをその場で和らげる呼吸法、筋力や体力を高める方法、学習効率を上げるための実践法など、具体的なテクニックを科学的根拠とともに解説。さらに、それぞれの方法を自分の生活や目的に合わせて調整する方法も紹介している。最新の神経科学や生理学の研究をもとに、心身の状態をより良く整えたい人に向けた実践的なガイドである。

著者:

アンドリュー・ヒューバーマンは、スタンフォード大学医学部の神経科学者であり、神経生物学・眼科学、精神医学・行動科学の分野で教鞭を執る教授である。脳の発達や機能、神経可塑性の研究で数多くの成果を上げ、その研究は『Nature』『Science』『Cell』などの著名な学術誌に掲載されている。2017年には、視覚研究における重要な発見を成し遂げた研究者に贈られるCogan Awardを受賞。2021年に始めたポッドキャスト「Huberman Lab」は、健康やフィットネス分野で世界的な人気を誇り、世界のポッドキャストランキングでも常に上位に位置している。

21 Days of Fear: One Day, One Letter (2026)

著者:エルヴェ・コメール

出版社:Simon & Schuster Books For Young Readers
邦訳:なし

想定読者年齢:14~18歳

作品について:

本書は、行方不明になった妹を取り戻すため、21日間という限られた時間の中で真相を追う少年ルーカスを描いたYAミステリー・スリラー。

10年前、ルーカスの妹は突然姿を消した。事件をきっかけに家族はばらばらになり、母親は深い苦悩に陥り、父親は事件について口を閉ざしたまま。そしてルーカス自身も、妹を救えなかったという罪悪感を抱え続けていた。そんなある日、彼のもとに一通の手紙が届く。妹を取り戻すために与えられた時間は、わずか21日間。妹は本当に生きているのか。ルーカスは何を犠牲にしてでも妹を取り戻すことができるのか。

本書の最大の特徴は、物語の設定と連動したユニークな読書形式にある。全21章がそれぞれ封筒に封印されており、読者は一日に一通ずつ封筒を開けて、ルーカスの物語を読み進めていく。次の手紙を開くまで明かされない新たな謎や展開を待ちながら、21日間にわたって物語の緊張感をリアルタイムで味わえる仕掛けになっている。読むというより、毎日一つずつ謎を解き明かしていくような感覚を楽しめる、遊び心あふれる一冊である。

著者:
エルヴェ・コメールは、現代文学を学んだ後、バーテンダーやバーの経営を経験し、現在はフランスを代表するミステリー作家の一人として活躍している。短編や長編小説を多数発表し、『悪意の波紋』(山口羊子訳、集英社、2015年)でPrix marseillais du polar、『その先は想像しろ』(田中未来訳、集英社、2016年)でリエージュ国際警察映画祭のPlume de Cristalを受賞。ほかにも複数の文学賞を受賞し、『Sauf』は批評家と一般読者の双方から高い評価を得ている。これまでに日本語、中国語、英語にも翻訳されている。

Fruit Fly (2026)

著者:ジョシュ・シルバー (Ben Azadi)

出版社:CROOKED LANE BOOKS

邦訳:なし

 

作品について:

主人公は、マロリー・マドックス。華々しく作家デビューを飾ったものの、この7年間スランプに苦しみ、創作の行き詰まりから抜け出せずにいた。なんとか再びベストセラー作家の座に返り咲こうと焦る彼女の前に現れたのが、橋の下で暮らし、薬物依存を抱えながらその日を生き延びている若い男性、レオだった。ゲイであることを理由にさまざまな困難にさらされてきたレオは、傷つきやすく、謎めいた過去を持つ。そんな彼の人生に、マロリーは自分が求めていた「物語」を見つける。レオの経験を作品にすれば、もう一度世間の注目を集められる――そう考えたマロリーは、彼の人生を自分の物語として書き始める。

ところが、執筆を進めるにつれて、レオが抱えていた秘密が次々と明らかになり、マロリーの思惑にも少しずつ狂いが生じていく。果たして彼女は、どこまでレオの人生を利用し、どこまでそれを「自分の物語」として描くことができるのか。

他者の人生を作品として描くことの危うさや、作家の創作欲と倫理の境界を鋭く問いかける、風刺の効いたミステリー・スリラー。ブラックユーモアを交えながら、現代の文学界やアイデンティティをめぐる社会の風潮にも切り込んでいく。最後まで先の読めない展開が楽しめる一冊である。

著者:
ジョシュ・シルバーは、ロンドンの名門王立演劇学校(Royal Academy of Dramatic Art)で演技を学び、卒業後はロンドンのウエストエンドやブロードウェイの舞台で俳優として活躍した。現在は進路を転換し、メンタルヘルス・ナースとしてティーンエイジャーの支援に携わっている。YA作品『Happy Head』、『Dead Happy』、『Erase Me』を手がけ、批評家からも高い評価を受けている作家である。


柴田きえ美                                        カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を学ぶ。これまでに日英・英日両方を含め7冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得。現在は、BTCで翻訳プロジェクトマネージャーとして翻訳に携わっている。


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