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東アジア・ニュースレター

海外メディアからみた東アジアと日本

第182回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教

 中国で人民解放軍の最高幹部である張又侠氏が粛清された。理由は党規律や国家法違反とされるが明らかにされていない。これにより、台湾問題で慎重を促す可能性のあった権威ある声が排除されたとみられている。ただし習主席は銃弾を撃たずに台湾の決意を砕く作戦に軸足を移し、日本などに対する威嚇も台湾の外交的孤立を狙っていると指摘されている。

 台湾は米国政府と対米輸出品に対する関税を15%に引き下げる合意に達し、日韓、EUなど米国の他の主要貿易相手国と同等の地位を獲得した。ただし、これには台湾による巨額の半導体産業関連の対米投資という条件が付けられているが、台湾の半導体企業TSMCの対米輸出品に対する米国の国家安全保障関税の免除条項も付されている。

韓国経済は2025年末に前四半期比0.3%縮小し、年間成長率は1.0%と5年ぶりの低水準となった。要因として、米国のトランプ高関税や尹政権時代の政情不安の影響、2025年末にかけて政府支出と民間消費が鈍化したことなどが挙げられている。2026年は2.0%前後の成長予想。

 北朝鮮が核保有国である現実を認め、その核兵器の規模と射程を制限する現実的な議論を始めるべきだとメディアが強調する。実際、北朝鮮は既に多数の核弾頭を保有し、製造する能力を保有していると指摘する。米中両国も北朝鮮の非核化をあきらめたとみられる事実を挙げたうえで、非核化から「凍結と上限設定」への政策転換を提言する。

 東南アジア関係では、ベトナム共産党が5年に一度開催される党大会を召集した。そこでトー・ラム書記長が再選され、国家主席を兼任するとみられる。また党指導部は低付加価値製造業からの転換を望んでおり、急速な経済改革への明確な方向性が示されるとみられている。

インドとEUが自由貿易協定を締結し、20億人を抱える自由貿易圏が誕生する。米国の同盟国は、貿易、防衛、その他のパートナーシップにおいて結束を強めており、インドは既に英国、ニュージーランド、オマーンと同様の協定を締結している。モディ首相は本協定を史上最大の自由貿易協定と位置づけ、経済活性化の手段となることが期待されている。

主要紙社説・論説欄では、日本国債市場で最近起きた異変について取り上げた。1月下旬、超長期国債が大きく売り込まれて急落した。その背景、原因に関するメディアの報道と論調を観察した。 

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北東アジア

中 国

☆ 習近平主席、軍の最高幹部を粛清

 中国人民解放軍の制服組トップの張又侠氏が粛清された。同氏は、習氏が「ビッグブラザー(兄貴)」と呼ぶほど近い関係の幼なじみだった。2月2日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、習氏は軍掌握で台湾政策の全権をその手に握ったと概略以下のように論評する。

 習近平国家主席は、最高幹部の粛清を行うことで軍の指揮権を手中に収めた。今や中国政府と台湾との差し迫った対立を決めるものは同氏の意向だけだ。張又侠氏が逮捕されたことにより、習氏が台湾にいかなる対応を取った場合でも慎重を促す可能性のあった権威ある声が軍から排除されたことになる。また、粛清の時期も重要だ。中国軍は習氏が軍の「近代化」に向けて設けた2027年の期限に向け進んでおり、これはしばしば、台湾有事への準備が整うことを意味すると解釈されている。一方、複数の外交および軍事アナリストは、近い将来に中国が台湾へ侵攻する可能性は低くなったと指摘。その背景には、習氏自身がわずか3年前に軍を率いるために自ら選んだ6人の上級将軍のうち、5人を粛清したことがある。同氏は一発も銃弾を撃たずに台湾の決意を打ち砕く作戦に軸足を移していると述べている。アナリストたちはまた、中国政府はあからさまな衝突の一歩手前の戦術にますます依存するようになるだろうと予想。これには台湾の海上および航空封鎖を想定した執拗な演習などが含まれ、中国政府はこれらを通じて心理的攻勢を支える力を誇示しようとしているという。

 バイデン前政権時に米国の台湾における代表機関のトップを務めたローラ・ローゼンバーガー氏は、「習氏の現在の手法は、軍事的な威嚇を経済的およびサイバー圧力と統合した、より広範かつ強制的な作戦だ」と述べた。中国政府は「法律戦」を通じて新たな戦線も展開している。これは中国の国内法を根拠に台湾当局者を標的にするもので、台湾の人々が中国本土へ渡航するリスクを高めている。その中でかつては日常的な政治的表現と見なされていた活動が現在は犯罪行為として再分類される可能性が生じている。さらに中国は、台湾のエネルギーや医療インフラを麻痺させることを目的にサイバー攻撃に関与していると複数の台湾当局者は指摘。一方で日本などの国に対する中国政府の威嚇は、台湾を外交的に孤立させることを目的としている。

 これら方針の狙いは、中国の軍事指導部が流動的であっても台湾に対する習氏の焦点は衰えていないことを示すことにある。台湾の供給網を締め付け、その経済的回復力を消耗させる同氏の能力は揺るぎないものとなっている。

 そうした中で1月24日に発表された張氏の解任について、習氏の動機は今も明らかになっていない。中国の軍事指導部は非公開の説明の場で、張氏が核に関する機密情報を米国に漏らし賄賂を受け取ったと告げられた。これは軍高官を解任するのに十分に重大な容疑だが、共産党は指導部に対しても習氏による判断の背後にある事情を完全または真実のままに常に伝えるわけではない。中国国防部の報道官は29日に記者たちに対し、根拠のない臆測を行うことに対して警告を発し、張氏を巡っては党規律や国家法に違反した疑いに関連する当初の調査に再び言及した。

 中国軍がいつ台湾との戦闘に備えるべきかについて、張氏と習氏の意見が対立していたとする新たな説も浮上している。米首都ワシントンのシンクタンクであるジェームズタウン財団のアナリスト、K・トリスタン・タン氏は、1月26日の公表した政府公式記録の分析の中で、習氏は「2027年までに台湾侵攻のための統合作戦能力を達成することを軍に望んでいたが、張氏は明らかにこの目標を2035年に近い時期に設定していた」とした。タン氏はまた、張氏逮捕後の軍主要新聞の社説に言及。張氏は軍の主席責任制、つまり習氏の軍に対する絶対的な指揮権を成文化した原則に関し、これを「深刻に踏みにじった」と非難されていると述べた。この表現は張氏の方針が「習氏の権威を覆そうとする政治的挑戦」に相当していたことを意味するという。ローゼンバーガー氏は習氏の方針について、信頼できる軍事的選択肢を維持することが引き続き根幹となっていると説明。なぜなら、「これは習氏が台湾政府の決意を消耗させるために必要かつ本質的な影響力を提供するものだから」だという。

 トランプ米政権はこの中で、台湾海峡の現状に対するいかなる一方的な変更も支持せず、それを維持するための軍事態勢を保つと主張している。張氏と習氏の政策面での潜在的な対立は、軍の人員配置、訓練、そして装備の方法を巡るものだった可能性があるとするアナリストもいる。シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究所のドリュー・トンプソン氏は、「米国の抑止戦略が効果的であるためには、客観的な助言を与える有能な将軍に習近平氏が囲まれている必要がある」と最近の分析で主張。軍の最高意思決定機関を骨抜きにすることで習氏は指揮統制がより困難になり、「一人委員会」を通じて100万人の軍隊を指揮しようとする作戦上の危険性が生じるとした。トンプソン氏はそのうえで、「張又侠氏が排除されたことで誤算が生じるリスクは高まる」と述べた。

 張氏の今回の解任は、習氏が2012年に権力の座に就いて以来、「統一」の見通しについてこれまで以上の自信を浮き彫りにするものだと、中国政府当局と協議を行っている人たちは指摘する。この自信は、軍に対する習氏の絶対的な支配力によって支えられている。さらに中国政府にとっては、米政府の決意に対する根本的な見直しも支えになっている。中国側は台湾海峡での費用のかかる軍事介入に関し、ドナルド・トランプ大統領はほとんど関心がないとみている。

 米シンクタンク、スティムソン・センターで中国プログラム担当ディレクターを務める孫韻(ユン・スン)氏は、トランプ政権が最近になり史上最大の111億ドル(約1兆7,000億円)相当の「一人委員会」を通じて100万人の軍隊を指揮しようとする作戦上の危険性誤算が生じるリスクは高まる」、「統一」の見通しについてこれまで以上の自信を浮き彫りにする中国側は台湾海峡での費用のかかる軍事介入に関し、ドナルド・トランプ大統領はほとんど関心がないとみている。武器を台湾に売却したことでさえ、中国では安全保障面の約束を示すものではなく、「防衛産業の促進」と解釈されていると述べた。孫氏は「中国政府は、トランプ氏ほど台湾海峡に無関心な米国大統領を二度と見ることはないかもしれないと確信している」と述べている。習氏は今年予定されているトランプ氏との会談も、台湾の自信をさらに低下させる戦術的な機会と見なしている。習氏は数十億ドル規模のボーイング機発注など貿易面での譲歩と引き換えに台湾防衛に関して疑念を抱かせるような戦略的な声明を確保しようと模索している。

 しかし、米政権当局者らによると、ホワイトハウスは「拒否的防衛」を通じて中国政府の攻撃的姿勢を鈍らせることに注力しているという。この防衛戦略は第1列島線を軸としている。第1列島線とは日本から台湾、フィリピンへと延びる一連の島々で、中国海軍の拡張に対する自然の障壁として機能している。さらに米国と台湾が最近署名した「シリコン協定」は、先進的な半導体製造を米国内に戻すことを目指しているが、当局者たちは同時に台湾の安全保障を強化することになると述べている。この協定は台湾の産業エコシステムを米国経済に組み込むことで、台湾のハイエンドな半導体生産を米国にとって事実上不可欠な国家安全保障資産にするものだとした。米国当局者らによると、全体として米政府は中国政府にとっての軍事行動のコストを引き上げることで不必要な対立を招くことなく、中国軍による攻撃や同地域の支配を防ぐことを目指しているという。

 以上のように、習主席は軍の最高幹部の張又侠氏の粛清に踏み切った。その理由は、党規律や国家法に違反した疑いとされるが明らかにされていない。習氏は2027年までに台湾侵攻の統合作戦能力の達成を望んでいたが、張氏はこれを2035年に近い時期に設定していたという意見の対立も報じられている。張氏粛清により、台湾への対応で慎重を促す可能性のあった権威ある声が軍から排除されたとみられている。ただし、習主席は現在、一発も銃弾を撃たずに台湾の決意を打ち砕く作戦に軸足を移しているとされ、軍事的威嚇や経済的・サイバー圧力、法律戦などを駆使した新たな戦線を展開、日本などに対する威嚇も台湾の外交的孤立を狙っていると指摘されている。その一方で習主席は、費用のかかる台湾軍事介入にトランプ米大統領は関心がないとみていると報じられている。台湾への武器売却も自国の「防衛産業の促進」と解釈されているという。こうした見方は習主席による台湾への冒険主義を助長する危険があると言えよう。他方、米政府は中国にとって台湾への軍事行動のコストを引き上げることで中国をけん制しようとしているとみられている。張氏粛清により、習主席一強体制の下で軍事政策上の誤算が生じるリスクが高まる一方で、台湾問題をめぐり米中の駆け引きがますます熱を帯びてきているといえよう。

台 湾

☆ 米国とチップ投資を条件とした貿易協定を締結

 台湾は、米国への2,500億ドルのチップ産業への投資と引き換えに台湾からの輸入品の関税を15%に引き下げる貿易協定に署名したと、1月16日付フィナンシャル・タイムズが報じる。記事によれば、米国としては、米国製造業への投資を促進する動きの中で半導体のサプライチェーンを確保することになる。同時にトランプ米政権は、日本や韓国に対する関税に合わせて、台湾からのほとんどの商品の関税を20%から15%に引き下げ、ジェネリック医薬品、航空宇宙部品、および米国では入手不可能な天然資源の関税を免除すると発表した。台湾の半導体およびテクノロジー企業は2,500億米ドルを米国に投資し、台湾は少なくとも同額の信用保証を提供すると両国政府は発表した。

 協定は、ホワイトハウスが昨年、外国企業が米国の製造業に投資しない限り、半導体に100%の関税を課すと脅した後の台湾政府による重要なチップ産業を保護する取り組みにおける大きな進展となる。また協定には、世界最大の半導体メーカーである台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)が製造するチップの無税輸入枠も設定されている。この合意により、台湾は新たな二国間関税率と最恵国待遇により、他の主要な米国貿易相手国と同等の立場となり、不利な状況が解消される。台湾政府は「確保した15%の関税率は日本、韓国、EUなどの同盟国を含む米国との貿易黒字額が最大の国々の中で最も有利なものであり、公平な競争環境を創出する」と声明で述べる。

 対米交渉を主導した台湾の鄭麗君副首相は、両国が企業のグローバル拡大戦略に基づく計画を基に投資額を合意したと説明する。「交渉過程で複数回にわたり企業と協議し、サプライチェーン全体の投資計画を集計して導き出した対外直接投資額である」とワシントンから中継された記者会見で述べた。鄭氏はさらに、この合意は台湾の半導体産業を国外に移転させるものではないと付け加えた。この発言には、中国の攻撃から台湾を守るよう米国に促す産業の役割が、製造拠点を米国に移すことで損なわれるのではないかという懸念を和らげる狙いがある。これは合意が発効するために野党が支配する台湾議会の承認を得る必要があるためとみられる。

 技術産業の専門家らは、半導体関連条項の影響を依然として精査中だ。両政府の発表によれば、米国に半導体工場を建設する企業は、建設期間中、新施設の計画生産能力の2.5倍を国家安全保障関税なしで輸入できる。既に米国に半導体製造拠点を建設済みの台湾企業は、生産能力の1.5倍を無税で輸入可能となる。バーンスタインのアジア半導体アナリスト、マーク・リー氏は金曜日のリサーチノートで「これは実質的にTSMCが最終的に生産能力の40%を米国に配置した場合、残りの分は全て米国に輸出されても関税が免除されることを意味する」と指摘。「この40%に達する前には一定の免除があり、TSMCは割当量を超える分に対して低い優遇税率を支払う」と述べた。このルールが適用される場合、TSMCは米国での投資をさらに拡大する必要がある。コンサルティング会社テックインサイトズのG・ダン・ハッチソン副会長は「関税削減効果を得るには少なくとも1,000億ドルの投資が必要だ」と指摘する。

 しかし他の観測筋は、TSMCが米国顧客に販売するチップの大半は他のデバイスに組み込まれた状態で輸入されるため、この割当ルールはほとんど影響しないと指摘する。「TSMCは容易にクリアできるはずだ。台湾のシリコンのわずか15%がチップとして米国に輸入され、大半は完成品の一部として輸入されている」と匿名を条件に語った業界専門家は述べた。ワシントンは昨年、トランプ氏が世界の大半に「相互主義」に基づく包括的な関税を課した際、半導体への課税を延期した。代わりに関税を最適に適用する方法を評価するためセクション232調査と呼ばれる国家安全保障調査を開始した。

 世界の先端半導体の約90%を生産するTSMCは、既にアリゾナ州にチップ製造・加工工場と研究開発施設を建設するため米国に1,650億ドルを投資すると約束している。しかし同社の米国生産能力は、台湾の生産ラインと比べると見劣りする。同社は2025年末にアリゾナ州第1工場でNVIDIAやAppleなど向け量産を開始し、アリゾナ複合施設が完全に稼働する2027年までに最先端の2ナノメートル以下の生産能力の30%を米国に配置する見通しを示している。ただし、これはTSMCの現在の全世界生産能力の10%強に過ぎず、同社が大幅な追加投資を予測していることから、数年後にはさらに小さな割合となる見込みだ。TSMCは「世界中の顧客にサービスを提供する半導体ファウンドリとして、米国と台湾間の強固な貿易協定の見通しを歓迎する」と述べた。「当社の先進技術に対する市場需要は非常に強く、台湾への投資を継続するとともに海外展開も拡大している。全ての投資判断は市場状況と顧客の需要に基づいている」としている。

 以上のように、台湾は米国への2,500億ドルの半導体産業への投資と引き換えに台湾の対米輸出品に対する関税を15%に引き下げることで合意に達した。これにより台湾は日韓、EUなど米国の他の主要貿易相手国と同等の立場を獲得した。またトランプ米政権は国家安全保障の維持を理由として国家安全保障関税を導入している。記事によれば、協定の条件となっている半導体産業への対米投資が、世界の先端半導体の約90%を生産する台湾企業、TSMCの対米輸出製品に対する米国の国家安全保障関税を免れる方策として機能している。これも協定の重要な意義の一つとして注目したい。 

韓 国

☆ 昨年の経済は関税の影響で減速

 韓国経済は2025年最終四半期に前四半期比で縮小し、また関税措置と政情不安もあり、年間成長率は1.0%増と5年ぶりの低水準となったと、1月22日付ウォール・ストリート・ジャーナルが報じる。記事によれば、韓国銀行は米国通商政策と国内政治紛争の影響を織り込み予測を下方修正した後、この数値を予想していた。2024年の経済成長率は2.0%だった。関税圧力下でも韓国の輸出は堅調を維持し、当局は建設投資や内需の低迷を補う財政刺激策を実施し、これにより2026年の回復が期待されている。

 韓国銀行の速報値によると、2025年最終四半期の国内総生産(GDP)が前期比0.3%減となったのは、第3四半期(改定値1.3%増)の反動減が一部要因だ。前年同期比では第4四半期に1.5%の成長を記録したが、前期の改定値1.8%から減速した。最新の数値は市場予想を下回ったものの、投資家の心理を損なうことはほとんどなかったようだ。韓国株式市場の指標であるコスピ指数は木曜日の朝、過去1年間の堅調な上昇基調を継続し、初めて5,000を突破する急騰を見せた。ウォ-ル・ストリート・ジャーナルが調査したエコノミストたちは、第4四半期の成長率について前期比0.2%、前年比1.5%と予測していた。2025年終盤には、消費支出や企業活動を活性化させるための現金給付を含む財政刺激策が縮小したため、政府支出と民間消費が弱まった。また年末の3か月間では、建設・設備投資と輸出が前期比で減少した。

 輸出は、半導体需要の活発化に支えられ、米国関税や世界貿易の不透明感という問題があったにもかかわらず、過去2四半期に力強い成長を見せていたが、その堅調な伸びが一時的に停滞した。ただし、韓米間の2025年貿易協定により関税の逆風が和らいだことで韓国経済は今年中に回復基調を取り戻すと広く予想されている。

 2026年は、2024年末に当時のユン・ソンニョル大統領が短期間発令した戒厳令に端を発した政治危機の余波も解消され、また韓国が半導体・電子産業の強国として、人工知能(AI)ブームの恩恵を受けると見込まれている。政府はこの分野への継続的な投資を約束し、成長の柱とする方針を示している。しかしウォンの持続的な弱さと海外での地政学的摩擦の再燃がリスク要因として残る。経済財政部は今月初め、2026年の経済成長率を従来の1.8%から2.0%に上方修正すると発表した。国際通貨基金(IMF)も韓国の今年度の成長率予測を0.1ポイント引き上げ、1.9%とした。

 以上のように、韓国経済は2025年末に前四半期比0.3%縮小し、年間成長率は1.0%と5年ぶりの低水準となった。これは米国のトランプ高関税や尹政権時代による政情不安の影響が尾を引いたこと、2025年末にかけて政府支出と民間消費が鈍化したことなどが要因として挙げられている。2026年は政治危機の余波から脱し、人工知能(AI)ブームの恩恵を受けると見込まれることから2.0%前後の成長率が予想されている。 

北 朝 鮮

☆ 核保有国、北朝鮮

 1月18日付ワシントン・ポスト社説は、今こそ北朝鮮が核保有国であることを認め、北朝鮮の核兵器の規模と射程を制限する現実的な議論を始めるべき時だと主張する。社説は、ホワイトハウスも12月に発表した国家安全保障戦略で北朝鮮についてまったく言及しなかったと指摘。このトランプ大統領の沈黙は、その事実を認めたものといえると以下のように論じる。

 核武装した北朝鮮は、依然として米国にとって最も危険で予測不可能な脅威であるといえるが、トランプ政権は今後どのような方向性を打ち出すのだろうか。国家安全保障戦略での北朝鮮への言及の欠如は計算されたものである。2017年に発表されたドナルド・トランプ大統領の第一期戦略は、北朝鮮の核兵器追求が「国際的な対応を必要とする世界的な脅威である」と強調し、米国は「朝鮮半島の非核化を強制する」ことを約束した。今回変化した点、そしてトランプ政権が口に出して言うことを嫌がる点は、朝鮮半島の非核化がもはや選択肢ではないということだ。北朝鮮は核保有国として居座り続ける。

 最も妥当な予測では、北朝鮮は最大50個の核弾頭を保有し、さらに40個を製造するのに十分な核分裂性物質を保有している。国際原子力機関(IAEA)は昨年6月の報告書で、北朝鮮の豊渓里核実験場が短期間での核実験実施に備えた状態を維持していると指摘した。韓国情報機関も11月にこの評価を確認している。北朝鮮はここ数週間でミサイル実験を加速させ、新型原子力潜水艦の建造も推進中だ。1月4日には、国営メディアによれば金正恩独裁者は極超音速ミサイルの試験発射を視察している。金氏は「最近の地政学的危機と様々な国際情勢」に言及した。これは米軍がカラカスでベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を拘束した週末と重なる。

 北朝鮮を核保有国の恒久的な一員と認めることは、劇的かつ苦渋を伴う政策転換となる。しかし、この現実を受け入れることで核弾頭やミサイルの数量制限をめぐる交渉の扉が開かれる。こうした転換には危険も伴う。韓国と日本は、米国の核の傘による完全な保護が得られないと感じれば、自国の核兵器開発に踏み切る可能性がある。

 一方でトランプ大統領は、北朝鮮の核拡散問題で中国の習近平国家主席との共通点を見出す可能性がある。中国の11月27日付軍備管理白書も従来の白書に記載されていた「朝鮮半島の非核化」という長年の目標に一切言及せず、代わりに「半島の平和、安定、繁栄」の実現に向けた取り組みのみを掲げた。韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は今月4日間にわたり中国を訪問したが、習近平氏に非核化支持の再表明を促せなかった。しかし李氏は、北朝鮮の核兵器を現状の数で凍結し、将来の弾道ミサイル実験を停止させることについて「それだけでも成果だ」と述べた。

 最善の道は率直さである。米政府が非核化から「凍結と上限設定」へ姿勢転換する用意があるならそれを明言し、リスクを認め、同盟国と緊密に連携することが有益だろう。また、見返りとして北朝鮮から何らかの譲歩を引き出す努力もすべきだ。沈黙は持続可能ではない。

 以上のように、社説は北朝鮮が核保有国である現実を認め、その核兵器の規模と射程を制限する現実的な議論を始めるべきだと強調する。実際、北朝鮮は既に最大50個の核弾頭を保有し、さらに40個を製造するのに十分な核分裂性物質を保有していると指摘する。さらに中国も北朝鮮の非核化をあきらめたとみられる事実を挙げたうえで、非核化から「凍結と上限設定」への政策転換を提言する。社説は政策転換のリスクとして日韓両国が核兵器開発に踏み切る可能性に言及するが、日本としても現実的メリットを勘案し、冷静に対処すべきだろう。

東南アジアほか

ベトナム

☆ 老いる前に豊かになる最後の機会に直面するベトナム

 1月19日、ベトナム共産党は党大会を召集した。党大会は、党書記長選出と政治・経済の優先事項を決定するため5年に一度開催される。1月19日付ニューヨーク・タイムズは、ベトナム共産党は民間企業の力で経済を加速できるかと問題提起し、アジアで最も躍動する国の一つであるベトナムが、政府統制と5年間で一人当たりGDPを約70%引き上げる目標とのバランスを模索していると、以下のように報じる。

 アジアで最も活気ある新興中堅国の一つであるベトナムは、「老いる前に豊かになる」ための最良かつ最後の機会に直面している。40年にわたる改革と貧困からの驚異的な脱却を経て、人口1億200万人のベトナムは韓国や台湾といった近隣諸国に追いつくため、より大胆な改革を迫られている。社会が高齢化する前に急速な成長を推進できる十分な労働年齢人口を維持できる期間が縮小しつつあるなかで、地政学的な変化は機会と圧力を同時にもたらしている。中国も米国もベトナムを戦略的に重要視している。南シナ海の係争海域に沿った長い海岸線を有し、中国のサプライチェーンに依存する急成長中の製造業基盤を持ち、対米輸出量で他国を圧倒している。米国と中国に加え、ロシアや欧州諸国もベトナムの動向を探りつつ、自国寄りの姿勢を示すよう圧力をかけている。ハノイで開催中の党大会は1月25日に閉幕する。

 数十年にわたり、ベトナムの一党独裁体制は共産党政治局のトップ4人——書記長、国家主席、首相、国会議長のいわゆる「四本柱」——によって統治されてきた。この仕組みは権力が単独指導者に集中するのを防ぐために設計された。しかし党は現在、前回大会で設定した野心的な目標達成を急いでいる。2030年までに一人当たりのGDPを約70%増の8,500ドルに引き上げ、2045年までに十分な工業経済を構築して高所得先進国となることだ。ハノイのビン大学政治学者グエン・ホン・ハイ氏は「党にとってこれらの目標達成は極めて重要だ」と指摘。「共産党の正当性は実績によって強化される」と述べた。

 米国と中国による不確実性の時代において、党書記長のトー・ラム氏は国家主席も兼任することでさらなる権力を掌握する見通しだ。キューバと中国も党と国家を単一指導者が統括する同様の体制を採用している。複数の政府高官や外交官(党人事に関する議論のため匿名を条件)によると、68歳のラム氏が両職の唯一の候補者だという。現職のルオン・クオン大統領(68歳、軍将軍)は退任する見通しだ。ラム氏の二役就任が承認されれば、戦争以来の有力勢力である軍部が、ラム氏が権力を固める中で少なくともある程度は脇に追いやられたことになる。

 最近まで、ラム氏は主に「執行役」として知られていた。公安省元長官である彼は、前任者グエン・フー・チョン氏の死去後、2024年にベトナムの最高指導者に昇り詰めた。その後、ラム氏の党指導部は激動の変化をもたらした。まず大規模な行政改革で省を統合し、数万人の公務員を失職させた。サッカー、ジャズ、クラシック音楽を愛好する彼は、スタジアムやオペラハウス、新たな道路、鉄道、空港の建設ラッシュも推進している。裏では忠誠派の登用、準国営大企業との結びつき強化、前任者が厄介者扱いした党幹部や南部ベトナムの有力者たちの懐柔を図ってきた。その手法の一つとして、海外訪問には大規模な随行団を伴い、民間セクターの役割拡大を伴う「国家隆盛の時代」を頻繁に訴えている。ラム氏は、より幅広い民間企業にとって好ましい環境を整える可能性を秘めた過渡期の人物と見られている。しかし批判派は、党が依然として中央集権を優先していると強調する。生産性が低いにもかかわらず、国有企業や国が優遇する企業は依然として特別待遇を受けている。

 党大会には1,586人の代表が集結し、登録党員560万人を代表する。大半の代表は党によって任命される。今週の彼らの任務は、共産党の昇進人事について議論することだ。そこで約200名の中央委員会委員を選出。同委員会は党の最高意思決定機関である政治局の17~19名のメンバーを選出し、そこから総書記やその他の「支柱」となる幹部を選出する。党内での権力争いは数か月前から続いている。最重要な人事に関する内部情報漏洩や議論から、大会では継続性と急速な経済改革へのより明確な方向性の両方が示される見通しだ。警察将軍で元情報将校のファム・ミン・チン首相(67)は退任し、政治局最年少メンバーのレ・ミン・フン氏(55)が後任となる見込み。同氏は金融分野の経歴を持ち、ベトナム国家銀行総裁を歴任した。4人の「柱」の最後を飾るチャン・タン・マン氏(63)は、国会議長職に留任すると見込まれている。省や省庁レベルでの昇進を期待する多くの人物は、ラム氏の出身地であるフンイェン省とのつながりを持つ。

 ベトナム指導部は低付加価値製造業からの転換を望んでいる。党は経済成長の新たなモデルを策定し、低技能労働への依存を減らし、科学技術への依存を高める計画だ。党大会で提出予定の報告書によれば、「ベトナムは依然として非常に重大な課題に直面している。これには経済的にさらに遅れを取るリスク、気候変動や環境悪化への適応が十分に速く進まないリスクなどが含まれる」。同報告書は「主要パートナー国との間では信頼が依然として低く、不均一で真に持続可能とは言えない」として、他国との戦略的プロジェクトを模索すると表明した。これは米国を指すものと見られる。米政府との貿易協定は未だ最終合意に至っていない。関税による負担にもかかわらず、ベトナムの経済成長率は昨年8%を超えた。これは主に中国工場が急速にベトナムへ移転したためである。

 アナリストによれば、同国の主な課題は開放性・効率性・競争力を高める政策の実施にある。国内では生産性の低い国営企業による寡占体制が危険要因の一つだ。米国との貿易摩擦や中国政府の多額の補助金を受けた中国工場の急増も、ベトナムが目指す強力な国内産業経済の発展を阻害する恐れがある。近年の党大会では政策調整は漸進的だった。今年は安定と緊急性の力が競合する中、多くのベトナム人がより断固たる動きを期待している。

 以上のように、党指導部は5年に一度開催される重要な党大会を召集した。党の目標は、2030年までに一人当たりGDPを約70%増の8,500ドルへ引き上げ、2045年までに高所得先進国となることである。このため指導部は低付加価値製造業からの転換を望んでおり、党大会では継続性と急速な経済改革への明確な方向性が示される見通しである。権力の中心にいるのは、有力勢力である軍部を脇に追いやって国家主席も兼任する見通しのトー・ラム党書記長である。同氏は民間企業寄りとみられているが、依然として中央集権を優先しているとも批判されている過渡期の人物とされる。「老いる前に豊かになる」ための最良かつ最後の機会に直面しているベトナムの党大会後の今後を注視したい。

インド

☆ 欧州連合と大規模貿易協定を締結

 1月27日付ワシントン・ポストは、インドが欧州連合(EU)と大規模貿易協定を締結したと概略次のように報じる。この世界の二大経済大国間の合意により、20億人を抱える自由貿易圏が誕生する。トランプ米大統領の関税脅威を背景に主要経済国が大型自由貿易協定の締結を追求するなか、その最新の動きとなる。この協定は、不安定な米国から市場を守るための新たなパートナーシップを模索するものでEUと世界で最も急成長している主要経済国の一つであるインドとの関係をさらに深めることになる。

 トランプ大統領の関税攻勢が続くなか、欧州の指導者たちは、保護主義的な姿勢を強める米国が参加するか否かに関わらず、開放的な世界市場の維持に貢献しようとしており、EUはインドネシアや南米など、世界中で貿易協定の締結や交渉の強化を急いでいる。また米国が気候、健康、国際援助に関する協調から撤退するなか、欧州からカナダに至るまで動揺する米国の同盟国は、貿易、防衛、その他のパートナーシップにおいて結束を強めている。

 新たな友好国を探し、リスク分散を図る動きは欧州だけではない。インドと米国の関係は数十年で最悪の状態にあり、トランプ大統領が5月にインドとパキスタンの停戦を仲介したと公言した主張をインド政府が公然と否定したことで緊張が高まっている。インドは昨年、トランプ大統領が数十カ国に相次いで関税を課した後、同政権との貿易協定交渉をいち早く開始した国の一つだったが両者は合意に至っていない。米国はインドに対して最も高い関税率の一部を適用し、インドに中国との緊張緩和と戦略的自律性の誓約強化を迫った。インドは過去1年間で英国、ニュージーランド、オマーンと貿易協定を締結している。

 モディ首相は火曜日、EUとの協定を「インド史上最大の自由貿易協定」と位置付け、同国の農家、中小企業、サービス業が欧州市場に進出する助けとなると述べた。この協定はインド経済が成長を続ける一方で、製造業の低迷、消費の弱さ、雇用創出の不十分さが続く中での締結となった。インドにとってこれは市場を拡大し投資を呼び込み、国内経済の活性化を図る手段である。モディ首相は言う。「これは単なる貿易協定ではない。共有の繁栄のための青写真だ」

 EU当局者によると、国内自動車産業が最も保護されている国の一つであるインドは、欧州から輸出される商品の90%以上に課している関税を引き下げまたは撤廃し、EU域内から輸入される最大25万台の自動車に対する関税を引き下げる。米国の関税と厳しい中国との競争に直面する欧州自動車メーカーは、新たな市場へのアクセス見通しを歓迎している。この協定は金融サービス、海上輸送、専門サービス分野の貿易拡大も約束している。両国は長年、関係拡大の基盤を整えてきたが、一部のアナリストは世界の大国による最近の政策が協定推進の原動力となったと指摘する。ニューデリーに拠点を置く政策研究所「社会経済進歩センター」の上級研究員コンスタンティーノ・ザビエル氏は「米国、中国、ロシアが引き起こした大規模な地政学的変動がなければ実現しなかっただろう。困難な時期に双方は単なる約束を超え、行動で示す友人となった」と記した。

 インドとEUの間で最も深い溝の一つは、インドのロシアとの長年の関係である。インドは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻と同国でのほぼ4年に及ぶ戦争を非難することを避けてきた。「欧州は『欧州の問題は世界の問題だが、世界の問題は欧州の問題ではない』という思考から脱却すべきだ」と、インドのジャイシャンカル外相は2022年6月、ロシアのウクライナ侵攻から数か月後にスロバキアで述べた。この姿勢は、ウクライナの主要な軍事支援者となりロシアとの対立を激化させている欧州指導者たちにとって居心地の悪いものだ。EUはロシアに対し、石油・エネルギー部門を含む複数回の制裁を発動。ロシアの財政基盤をさらに圧迫すべく、最近ではインドや中国など第三国企業を標的にしている。これらの国々は戦争中もロシア産石油の購入を継続している。

 以上のように、インドとEU間に20億人を抱える自由貿易圏が誕生することになった。かつての米国の同盟国は貿易、防衛、その他のパートナーシップにおいて結束を強めており、インドは既に英国、ニュージーランド、オマーンと貿易協定を締結し、EUもまたインドネシアや南米など、世界中で貿易協定の締結や交渉の強化を急いでいる。本協定によりインドは、対EU輸入の90%以上に関税を引き下げまたは撤廃し、EU域内から輸入される最大25万台の自動車に対する関税を引き下げる。また金融サービス、海上輸送、専門サービス分野の貿易拡大も約束している。モディ首相は本協定をインド史上最大の自由貿易協定と位置付けており、その狙いどおり、インド国内に投資を呼び込み、国内経済の活性化を図る手段となることが期待される。 

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主要紙の社説・論説から 

日本国債市場の現況―長期国債市場に混乱発生、根源は高市政権の財政拡大策 

 日本の国債市場に異変が起きている。1月下旬、超長期国債が大きく売り込まれて急落した。40年債利回りが一時4.2%に達し、2007年の発行開始以降の最高水準を記録した。30年国債の利回りも0.25%上昇し、1999年以来の1日当たりの利回りとしては最大となった。今回、こうした国債を中心とする日本の資本市場の動きに関する主要海外メディアの報道と論調を観察した。以下は、その要約である。筆者論評は末尾の「結び」を参照。

 1月22日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは「Bond-Market Backlash Triggers Reality Check for Japan Leader Ahead of Election (日本版記事:長期金利急騰、選挙前の高市氏に厳しい現実)」と題する記事で、生活費を意識した有権者を取り込もうとする高市首相の計画が投資家を動揺させ、世界的な債券売りに発展したと、概略以下のように報じる。

 日本の国債市場は、来たる衆議院解散・総選挙に向けて高市早苗首相が打ち出した最初の大きな政策に対しその評価を下した。それは見るに堪えないものだった。日本の長期国債利回りは20日に急上昇した。高市氏が2月8日に予定されている総選挙で有権者を取り込むため、大規模な消費税減税を公約したことに反応したのだ。日本国債利回りの上昇は世界の債券市場に波及し、米国債利回りにも上昇圧力がかかった。今週の株式・債券・ドル相場は、ドナルド・トランプ米大統領のグリーンランド領有という野心や欧州同盟国への追加関税の脅しによって動揺していた。

 今回の事例は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領や英国のリズ・トラス元首相といった政治指導者を試してきた債券市場主導の混乱の最新例だ。英国では2022年、トラス首相(当時)の減税公約を巡って英国債利回りが急上昇し、同氏は就任からわずか6週間で退陣に追い込まれた。フランスでは昨年、政局が一時不安定になったことを受けて国債利回りが上昇し、長らく欧州債務問題の代表格だったイタリアの国債利回りを上回った。日本国債の利回り急騰は、各国政府が防衛や重要産業といった高額項目への新規支出を賄い、高齢化する国民への公約を果たすための借り入れ拡大に向けた準備を進める中で、新たな警告サインとなっている。

 世論調査が示すように、高市氏率いる連立与党が総選挙で過半数を大きく上回る議席を獲得した場合、政府の借り入れが増える可能性がある。投資家はそれを織り込み、長期国債が大きく売り込まれた。20日には、40年債利回りが一時4.2%に達し、2007年の発行開始以降での最高水準を記録した。21日には若干低下したが、それでも4%台を維持している。20年債と30年債の利回りも突然上昇し、長期金利の指標となる10年債利回りは21日に2.3%を付けた。高市氏が昨年10月下旬に就任した時点では1.7%だった。政府内からは21日、冷静な対応を求める声が上がっている。アナリストらは、日本国債の急激な値動きは需要の弱さによって増幅されたと指摘する。日銀が国債購入ペースを減速させているうえ、長年国債を買ってきた年金基金や保険会社が、将来の支払いに備えるための長期債をすでに十分保有しているためだ。

 それでも一部のエコノミストは、日本の債務危機に対する懸念は誇張されているとの見方を示す。ムーディーズ・アナリティックスで日本・フロンティア市場経済の責任者を務めるステファン・アングリック氏(東京在勤)は、日本は新型コロナウイルス禍以降、財政赤字を抑制しており、経済成長とインフレの加速に伴って債務残高の対GDP比は低下していると語る。データ会社CEICによると、昨年9月の債務GDP比率は約203%で、2021年のピークである219%を下回る。同氏は「パニックになる理由はない」とし、高市氏のこれまでの財政政策は控えめで、過去の政権の政策規模と同程度だと述べる。 

 こうした日本の債券市場の動きに関連して、1月21日付エコノミスト誌は、「Japan’s bond-market tremble reflects a fiscal-monetary clash (日本の債券市場の動揺は財政と金融の衝突を反映)」と題する記事で、混乱の直接的な原因は、財政政策への懸念であると以下のように論じる。

 日本国債(JGB)に異変が起きている1月20日、国内最長期国債が急落した。この混乱の直接的な原因は、財政政策への懸念である。1月19日、昨年10月に首相に就任したばかりの高市氏は、自らが「責任ある積極的」財政拡大策への信任を求めて2月8日の総選挙を呼びかけた。高市首相は、食料品に対する8%の消費税を2年間停止し、防衛・産業政策への支出を増やすことを公約している。食料品税の停止だけでも年間5兆円(320億ドル)の費用がかかり、これは直近の会計年度の予想税収の6%に相当する。たとえ高市氏が選挙で敗北したとしても、同氏が減税を強く支持していることから、日本の政界で財政緊縮を訴える人はほとんどいない。高市氏は減税の財源は追加債務なしで賄うとしているが、投資家は懐疑的だ。

 最近、投資家が不安になるのには十分な理由がある。日本の国債市場はこれまで以上に外国人投資家への依存度が高まっているからである。これは特に、売られたセグメントである超長期債(すなわち、満期が10年超)において顕著である。2025年には、長期国債の最終需要の53%を外国人が占め、パンデミック前の22%から増加した。これは主に、保険会社や日銀といった伝統的な国内の買い手が姿を消したためである。彼らの多くは、利回り以外の理由(例えば、日銀が景気のリフレーションを試みていたため)で債券を購入した。外国人が主に気にするのは価格と利回りである。

 さらに、インフレ率はほぼ正常に戻っている。総合消費者物価指数は、日銀の2%目標を上回るペースで4年近く上昇している。しかし、日銀はデフレを永久に撲滅しようと決意しており、利上げは慎重なものにとどまっている。今や、インフレが定着しつつあるという証拠がある。「日本の基調的なインフレ率は着実に2%に近づいている」と、日銀の植田和男総裁は12月に述べた。彼は、記録的な企業収益、深刻化する人手不足、2年連続の大幅な賃金上昇、そして急上昇するインフレ期待を指摘した。植田氏の指摘が正しければ、日銀のマイナス実質金利(インフレ調整済み)政策は終焉に近づいていることになる。日銀は金利を「中立」、つまり経済を刺激も抑制もしない水準にまで引き上げる必要がある。現在の名目金利は0.75%だが、ゴールドマン・サックスによると、中央銀行の研究者による推計では、日本の中立金利は1~2.5%の範囲にある。これは債券市場の見方と一致しているように見える。債券保有者が今後10年間の平均金利を最も正確に推測した10年国債利回りは、2年前のわずか0.6%から2.2%に上昇している。

 これは、金融政策と財政政策が衝突に向かっていることを意味する。植田総裁はインフレを抑制し、円高を狙うために借入コストの上昇を望んでいる。高市首相は財政拡大を望んでおり、おそらく新たな借り入れを伴うだろう。いずれにせよ、既にGDPの130%に上る純債務を抱える政府にとって、財政赤字はさらに悪化するだろう。高市氏は利上げを「愚か」だと批判している。彼女の師である安倍晋三氏は2013年、日銀を屈服させることで同様の対立に終止符を打った。高市氏の政策は、今後しばらくの間、インフレ率の上昇を招くリスクがあり、日本の家計の購買力を低下させると同時に国債の価値を下落させる。また、タイミングも悪い。日本は景気刺激策をほとんど必要としていない。政府が推計する「需給ギャップ」(経済が潜在成長率にどれだけ近づいているかを示す指標)はほぼゼロだ。これは、2022年に英国が経験したような、突発的な財政緩和によって引き起こされるパニック、いわゆる「リズ・トラス・モーメント」ではない。国内で保有される国債が多すぎるため、資本逃避は大きなリスクとはならない。しかし、投資家は当然ながら警戒している。 

 他方、こうした債券市場の異常な状況を受けて1月21日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは「The Bond Vigilantes Head to Tokyo (日本版記事:【社説】日本に向かう「債券自警団)」と題する社説で、長期金利の上昇は経済政策を改めるよう警告を発していると以下のように論じる。

 国債を売却して財政規律に警鐘を鳴らす債権投資家、「債券自警団(ボンド・ビジランテ)」は、ついに東京に上陸したのだろうか。日本の40年物国債利回りは20日、日本政府が2007年に発行を開始してから初めて4%を上回った。利回り曲線全体が上昇し、10年債利回りは一時2.33%を付け、1999年以来の高水準となった。背景には、グリーンランドを巡るドナルド・トランプ米大統領と欧州の対立に関する世界的な市場不安もある。しかし日本の投資家がもっと大きな懸念を抱いているのは、高市早苗首相が衆議院を解散して来月に実施すると表明した総選挙のようだ。いわゆる財政拡張路線は彼女の経済計画の中心的要素となっている。選挙戦は、一部の品目を対象に2年間消費税を引き下げるという彼女の公約が争点になるだろう。この引き下げは年間約310億ドル(約4兆9,000億円)の税収減につながる。

 この措置自体は実施する価値があるかもしれないが、明らかに価値のない他の多くの支出に追加されるものだ。その一つが、昨年11月に承認された高市氏の18兆3,000億円の「景気刺激策」だ。この刺激策には、エネルギー補助金、物価高対策を名目とした家計への現金給付、半導体や人工知能(AI)といった分野への産業政策補助金が盛り込まれた。日本政府の問題、そして債券自警団が乗り込もうとしている真の理由は、これらの施策がいずれも経済成長に寄与しない点にある。日本は、債務が積み上がるだけで良い効果が得られないにもかかわらず、あちこちに現金をばらまくのがすっかり癖になっている。

 経済対策は1992年以降、「補正予算」の形で約20回実施されてきた。2020年代に入ってから現在までに特別な景気刺激策の費用として計上された額は、ざっと387兆円に上る。大半を占めるのは新型コロナウイルスのパンデミック期の支出だが、高市氏の直近の経済対策の費用も含まれる。このうち、大きな経済成長につながったものは一つもない。だが、債務のGDP比は250%にまで上がった。1990年のバブル崩壊時は約63%だった。この数字が何を示しているのかは明白だ。全ての景気刺激策が経済活動を促していたなら、GDPの伸びは債務の増加ペースを上回っていたはずだ。実際には、債務返済費用が政府予算の4分の1を占めるに至っている。2025年度には国債の償還と利払いに28兆円かかった。防衛費は8兆7,000億円で、予算の7.5%を占める。日銀が政策金利を引き上げているだけに投資家はこうした数字が将来どれほど増えるのかと疑問に思っており、それは当然だ。

 日本経済はもはや財政支出を重視する計画ではなく、アニマルスピリット(企業などの強い意欲)の復活にもっと焦点を合わせた計画が必要だ。小泉純一郎氏は首相として、2000年代初めに金融改革を開始した。安倍晋三氏は景気刺激策と同時に少なくともコーポレートガバナンス(企業統治)の改革など、市場の規律を強化する政策を導入した。日銀の利上げは、収益化の目処も立たず資源を食いつぶすだけのゾンビ企業を淘汰することで、日本経済の新陳代謝を促すかもしれない。しかし高市氏はこれまでのところ十分な内容の改革計画を示せていない。日本政府の段階的な金融正常化の動きと悲惨な財政状況は現在、世界の金融市場の安定に対する極めて深刻な脅威の一つに数えられている。大半の西側諸国の経済は重債務・低成長の政策モデルによってむしばまれているが日本は極端なケースだと言える。日本はこの状況をいかに打破するのか、あるいはしないのか。その成否は世界各国にとっての教訓、そして恐らくは警告になるだろう。 

 その一方で1月23日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは「Japan’s Economy Is Worse and Better Than the Doom and Gloom (日本版記事:【オピニオン】日本経済、悲観的状況ばかりではない)」と題する同紙論説委員、ジョセフ・スターンバーグ氏の論説記事を発表する。記事は、世界の投資家が日本に多大な注意を払い始めるのが良い兆候であることは、めったにない(It’s rarely a good sign when global investors start paying a lot of attention to Japan)が、今週は一部のみだが例外的な部分があると以下のように論じる。

 日本国債は20日、「節目」と呼べるかもしれない局面を迎えた。利回りが急上昇し、40年債では4%を上回り(ほぼ30年ぶりの高水準)、10年債では2.3%を大きく上回った(27年ぶりの高水準)。これに伴って、円相場は過去36年間で1回(2024年)しか越えたことがない1ドル=160円の水準に向けて下落した。こうした動きの組み合わせは通常、投資家が経済に対する信頼を失っていることを示す。市場が心配するのは無理もない。高市早苗首相は衆院を解散して来月上旬に総選挙を行うと表明しており、誰もが選挙戦で掲げようとしている経済政策は日本政府にはない資金の支出を伴うものばかりだ。高市氏が(一時的措置と主張する)一部品目の消費税引き下げという公約はメディアの注目を最も集めているが、それは問題の最も小さな部分にすぎない。その費用は数百億ドルで、高市氏がそれと共に求めている大規模な財政「刺激」策に比べれば小さい。いずれも経済成長を促進することはない。投資家がこれら全てを見て、日本国債と円を売ることに決めたとしても不思議ではない。

 しかし他の面から見れば、悲観的な説明は日本に関する最近の一連の明るいニュースに合わない。アニマルスピリット(企業などの野心的な意欲)は数十年の休眠状態を経て動き出している。多数のゾンビ企業は長年、日本経済停滞の原因となってきた。これらの半分死んだ企業を間引くことで資金や労働力は解放され、起業家精神のある生産性の高い企業に向かうようになり、健全な企業の収益性改善が可能になる。また、企業のM&A(合併・買収)が急速に拡大している。昨年のM&A件数は過去最多となり、取引総額は約3,500億ドル(約55兆5,000億円)に上る。合併や敵対的買収、上場企業の非公開化(経営陣らによる自社買収を含む)がいずれも動き出している。さまざまな形で物言う株主の活動も増加している。企業は株主への現金還元に関して新たな圧力に直面しており、迅速な増配や自社株買いを迫られている。

 こうした動きの多くは、故安倍晋三首相が10年前に導入したコーポレートガバナンス(企業統治)改革の結果だ。通常、「コーポレートガバナンス改革」とは、左派活動家が企業の活力をそぐために用いる策だ。日本ではむしろ、これが資本主義を拡大するものになっている。機関投資家は顧客に対するフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)への一層の配慮を求められ、企業には社外取締役の起用や、他社との株式持ち合いの削減が義務付けられたことが例として挙げられる。こうした措置(および上場企業に資本効率の改善を求める東京証券取引所の新たな規則)によって企業支配権を巡る市場が形成された。企業支配権市場は欧米では昔から存在するが、日本では整っていなかったことが不利になっていた。こうした状況に加え、日本の金融政策が段階的に正常化されつつあるため、経済がいずれ正常に機能するようになることが過去数十年よりも想像しやすくなっている。しかし今週の出来事は、経済正常化の過程がいかに危険に満ちたものになり得るのかを思い起こさせた。

 国債市場で起きた動きの直接的原因は、選挙戦略とまずい財政政策の組み合わせかもしれないが、背景には金融システムがニューノ―マルへと転換していることがある。経済成長の持続的回復には通常、全般的な金利上昇が伴う。こうした転換の具体的影響の一つは、生命保険各社がここ1、2年の間に超長期国債の保有を減らし、10年債などの保有を増やすといったリバランスを進めてきたことが、40年債の利回り急上昇を悪化させたことだ。10年債などの利回りは以前より高くなっている。こうした生保の対応は、数理的に理にかなっている。そうは言っても、日本の4大保険会社だけで運用資産の合計が1兆5,000億ドルを超えていることを考えれば、こうした変化は市場に深刻な影響をもたらす。現在、同様のリバランスを検討する動きが、国内外の他の金融機関や金融分野以外の企業、そして一般家庭にまで広がっている。その影響は何倍にも拡大するはずだ。こうした転換が債券利回りや円相場、日本と諸外国との間の資金の流れにどのような影響を及ぼすのかは、誰も予想できないだろう。

  上述の日本と諸外国間の資金の流れに関連して、日本国債の利回り上昇に伴い米国債から日本国債への大規模資金移動が起こらないかとの懸念が台頭している。これに関して、1月23日付フィナンシャル・タイムズは「The Japanese yield panic (日本の利回りパニック)」と題する記事で、その可能性に否定的な所見を次のように伝える。

 日本の債券市場はケン・グリフィン(米ヘッジファンドマネージャー・実業家・投資家。マイアミの有力ヘッジファンド、シタデルの創業者)が言うところの「ミニ・リズ・トラス的瞬間」を迎えている。円安が進むにつれ利回りが急騰している。直接的な問題は、2月8日の総選挙で高市早苗氏が勝利した場合の放漫財政への懸念だ。彼女は減税と支出拡大を公約している。よりグローバルな懸念は、日本国債利回りの上昇が金利環境、ひいては世界の経済的現状を揺るがす恐れがあることだ。米国債市場の約13%を日本の投資家が保有している。国内利回りが十分に魅力的になれば、日本資本が本国に還流、それに応じて米国債利回りが上昇し、世界の利回りが追随する——というシナリオだ。これにより負債を抱えた金融システムが不安定化に向かう。ソシエテ・ジェネラルの「永久弱気派の王」アルバート・エドワーズは警鐘を鳴らす。世界の金融市場は長年にわたり、日本の数十年にわたる超低金利と大規模量的緩和に依存してきた。特に欧米の政治家は、その膨張した財政赤字に見合わない水準で欧米債券利回りを抑制してきた流動性の蛇口を日本が事実上、閉めることに戦慄すべきだと。

 しかし、ヘッジされていない市場は懐疑的だ。第一に、日本が発行する債券の規模は、米国債から(理論上)離脱する可能性のある投資家のごく一部を受け入れるのにさえ十分な量ではない。流通する米国債は約30.5兆ドル、取引量は1日あたり1兆ドルを超える。日本国債の流通量はその規模の4分の1未満で取引は薄く、ブルームバーグが昨日報じたように、わずか2億8,000万ドルの取引で、7.2兆ドル規模の日本国債市場は崩壊に追い込まれた。米国債から日本国債への大規模な資金移動は、象がネズミの穴を通ろうとするようなものだ。そんなことは起こりえない。出来高や流動性のダイナミクスはさておき、日本の投資家がそのような取引を望まない可能性がある。オックスフォード・エコノミクスのハビエル・コロミナス氏は「JGBのボラティリティが近年の典型的な水準を大幅に上回っている状況では、高利回り水準であっても、日本の投資家が自国債市場に戻ることを躊躇すると考える」と語り、「むしろ日本の投資家は外国証券の保有を増加させ続けているようだ」と指摘する。 

結び:以上のようなメディアの報道と論調を以下の4つの観点からまとめてみたい。第1は、日本国債市場の混乱の背景や原因に関する見解、第2に、今後の市場動向に関する見方、第3に、その内外経済や海外市場への影響に関する見解、そして第4に、今後の対策に関するメディアの提言や助言である。 

 第1の問題は、まず国債市場の混乱の内容からみていくと、40年債利回りが一時4.2%と、2007年の発行開始以降の最高水準を記録し、20年債と30年債の利回りも急上昇し、長期金利の指標となる10年債利回りも2.3%を付けた。高市氏が昨年10月下旬に就任した時点では1.7%だった。こうした混乱の背景についてメディアは、ずばり高市政権の財政政策にあると主張する。特に財源を明らかにしないまま、食料品の消費税率を2年間ゼロにすると公約したことが放漫財政への懸念を高めたと指摘、食料品税の停止だけでも年間5兆円(320億ドル)の費用がかかり、これは直近の会計年度の予想税収の6%に達すると警告を発する。

 さらにメディアは、日本の債券市場の動揺は財政と金融の衝突を反映していると指摘する。インフレ率がほぼ正常に戻り、日銀のマイナス実質金利(インフレ調整済み)政策は終焉に近づいており、日銀は中立金利、つまり経済を刺激も抑制もしない水準にまで引き上げる必要に迫られている。日本の中立金利は1~2.5%の範囲にあると計測されており、今後10年間に10年物国債利回りも、2年前のわずか0.6%から2.2%に上昇すると見込まれている。こうした状況の中で政府は国債増発を伴うとみられる財政拡大路線を走っており、これをメディアは、金融政策と財政政策が衝突に向かっていると指摘する。高市首相は減税の財源は追加債務なしで賄うとしているが、当然、投資家は懐疑的である。

 市場の混乱のもう一つの要因としてメディアは、超長期債への需要の弱さによって増幅されたと述べる。日銀が国債購入ペースを減速させているうえ、長年国債を買ってきた年金基金や保険会社が、将来の支払いに備えるための長期債をすでに十分保有していたことを挙げる。この動きも一般事業法人や個人などに拡大していくのか、また後述するように超長期国債市場で依存度が高まっている外国人投資家の動向などと合わせて引き続き注視すべき問題といえる。 

 第2に、今後の市場動向に関する見通しでは、日本の債務危機に対する懸念は誇張されているとの見方がまず注目される。経済成長とインフレの加速に伴って債務残高の対GDP比は低下しており、昨年9月の債務GDP比率は約203%で、2021年のピークである219%を下回ったと報じる。従って、パニックになる理由はないとし、高市氏のこれまでの財政政策は控えめで、過去の政権の政策規模と同程度だと指摘する。

 しかし、投資家が不安になるのには十分な理由がある。日本の国債市場はこれまで以上に外国人投資家への依存度が高まっているからである。これは特に売られたセグメントである超長期債(満期が10年超)において顕著である。2025年には、長期国債の最終需要の53%を外国人が占め、パンデミック前の22%から増加した。これは主に保険会社や日銀といった伝統的な国内の買い手が姿を消したためである。ただし、国内で保有される国債が依然として多く、資本逃避は大きなリスクとはならないとされるが、投資家は当然ながら警戒しているとみられる。 

 第3に、内外経済や海外市場への影響に関してメディアは、高市政権の財政拡大による政府支出が価値のない他の多くの支出に追加されていると指摘。その一つとして昨年11月の18兆3,000億円の「景気刺激策」を挙げる。この刺激策には、エネルギー補助金、物価高対策を名目とした家計への現金給付、半導体や人工知能(AI)といった分野への産業政策補助金が盛り込まれたが、これらの施策はいずれも経済成長に寄与しないと批判する。

 さらに経済対策は1992年以降、「補正予算」の形で約20回実施されてきており、これら景気刺激策が経済活動を促していたなら、GDPの伸びは債務の増加ペースを上回っていたはずだが、政府債務のGDP比は1990年のバブル崩壊時の約63%から250%にまで上がったと批判する。そのうえで、債務返済費用が政府予算の4分の1を占めるに至り、2025年度には国債の償還と利払いに28兆円かかったとし、日銀が政策金利を引き上げているだけに、投資家はこうした数字が将来どれほど増えるのかと疑問に思っており、それは当然だと批判を強める。

 ただし、こうした見方に対する反論もメディアは紹介する。すなわち、アニマルスピリット(企業などの野心的な意欲)は数十年の休眠状態を経て動き出し、日本経済停滞の原因となってきた多数のゾンビ企業を間引くことで資金や労働力は解放され、起業家精神のある生産性の高い企業に向かうようになり、健全な企業の収益性改善が可能になっていると伝える。上場企業に資本効率の改善を求める東京証券取引所の新たな規則制定、企業支配権を巡る市場の形成、さらには企業間のM&A(合併・買収)の急速な拡大や合併や敵対的買収、上場企業の非公開化(経営陣らによる自社買収を含む)などが動き出し、また物言う株主の活動も増加、企業は増配や自社株買いを迫られていると報じる。

 海外市場への影響についてメディアは、高市氏はこれまでのところ、十分な内容の改革計画を示せていないとし、日本政府の段階的な金融正常化の動きと、悲惨な財政状況は現在、世界の金融市場の安定に対する極めて深刻な脅威の一つになっていると報じる。西側諸国経済の多くは重債務・低成長の政策モデルによってむしばまれているが、日本はその極端なケースと言え、日本はこの状況をいかに打破するのか、あるいはしないのか。その成否は世界各国にとっての教訓、そして恐らくは警告になろうと指摘する。

 日本と諸外国間の資金の流れに関連して、米国債市場の約13%を保有する日本の投資家は国内利回りが十分に魅力的になれば、本国に資金を還流させ、それに応じて米国債利回りと世界の利回りが上昇し、これにより負債を抱えた金融システムが不安定化するのではないかとの懸念が台頭していると報じる。ただし、日本国債の規模は、米国債から(理論上)離脱する可能性のある投資家のごく一部を受け入れるのにさえ十分な量ではなく、米国債から日本国債への大規模な資金移動は、象がネズミの穴を通ろうとするようなもので起こり得ないと伝える。しかも日本国債のボラティリティが近年の典型的な水準を大幅に上回っている状況にあり、高利回り水準であっても日本の投資家が自国債市場に戻ることを躊躇するだろうとの専門家の見方を伝える。

  第4に、今後の対策に関するメディアの提言や助言である。メディアは、日本経済はもはや財政支出を重視する計画ではなく、アニマルスピリット復活にもっと焦点を合わせた計画が必要だと述べ、日銀の利上げはゾンビ企業を淘汰することで日本経済の新陳代謝を促すとみられると期待を表明する。

 以上を要するに、今般の日本国債市場の混乱は、高市政権の財政拡大策に根源があるといえよう。石破政権の時には自制していた消費税減税策について、その政策を唐突に転換し選挙公約に盛り込んだのは、投資家や市場関係者には一種の不意打ちになったといえよう。その意味でメディアが評するように、英仏などの欧州政治指導者を試してきた債券市場主導の混乱の最新例であり、社会保障や防衛関係で多大な出費が避けられないなかで市場が発した新たな警告サインでもある。高市首相は減税の財源は追加債務なしで賄うとしているが、これに懐疑的な投資家は納得していないのである。総選挙の結果やその後の政権与党の動き如何でさらなる国債市場の動揺が避けられないかもしれない。状況によっては、日本国債の格付けへの影響も出てくる可能性も否定できず、しばらくは市場動向から目が離せない。

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は文中での略称)THE WALL STREET JOURNAL(WSジャーナル)THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)THE NEWYORK TIMES(NYタイムズ)THE LOS ANGELES TIMES (LAタイムズ)THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)GUARDIAN(ガーデイアン)BUSINESSWEEK(ビジネス・ウイーク)TIME (タイム)THE ECONOMIST (エコノミスト) REUTER(ロイター)など。なお、各国統計数値は日経、産経などの一部本邦紙資料を利用。

                                                                          前田 高昭


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