東アジア・ニュースレター
海外メディアからみた東アジアと日本
第181 回

バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教
中国は兵器産業でも自立推進の成果を挙げて一部軍事技術で米ロなどの主要兵器生産国と肩を並べ、極超音速ミサイルのように追い抜く実力を備えるにいたった。この成功により輸出が拡大し、兵器輸出国として米国、フランス、ロシアに次ぐ第4位を占めた。これにより紛争発生時には強力な立場で戦闘できるようになったとメディアが報じる。
台湾関係では、ベネズエラ情勢の台湾問題への影響について2つの見方が提起されている。中国による台湾侵攻を正当化すると、中国は米国の行動を非難し、国際システムにおける米国との対比を鮮明にすることに注力するとの見方である。いずれにせよ地政学的状況は中国にとって有利な方向に働く可能性が高いとみられる。
韓国の李大統領が就任後初めて訪中し習近平国家主席と会談した。中国は日中関係が緊張する中で韓国を自国陣営に引き込むこと、韓国側は冷え込んでいた対中関係の修復が狙いだったとみられる。両首脳立会いの下で多数の貿易協定を調印するなど、今回の首脳会談では中国よりも韓国が多くの実利を得たとみられる。
北朝鮮が自称「原子力潜水艦」の完成船体を公開した。ロシアから技術支援を受けているとみられるが、艦艇の完成・配備時期についてはまだ発表していない。北朝鮮が同計画に固執する背景として韓国に同様計画があること、新年に北朝鮮で最も重要な政治イベントとされる党大会が開催され、金総書記は軍事的成果を誇示しようとしていることなどが挙げられている。
東南アジア関係では、東南アジア諸国はトランプ米大統領の高率関税によく耐えているとメディアは報じ、要因として安価な製造コスト、中国からの商品の迂回、米国のハイテク製品需要の3つを挙げる。ただし、米国がグローバルサプライチェーンから中国投入品を排除する動きに出れば打撃を受ける可能性があると指摘する。
今年のインドの経済、株式市場、政治の動向について、メディアがインド社会の特徴として二面性を挙げて論じる。経済は今年も高成長を遂げるだろうが、恩恵が富裕層に集中し大半の国民に実感されていないと指摘。根本問題として失業率と家計債務を挙げる。政治ではモディ政権の基盤は盤石だが、それを活用して不人気な政策を推進するのかと問題提起する。
主要紙社説・論説欄では高市政権下の金融、経済政策に関するメディアの論調を観察した。
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北東アジア
中 国
☆ 兵器産業の自立推進で成果を挙げる政府 中国が兵器産業についても自立推進で成果を挙げて外国依存からの脱却を加速していると、1月7日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルが以下のように報じる。
中国政府は2016年、中国航空発動機集団(AECC)という新たな航空宇宙分野のコングロマリット(複合企業)を立ち上げた。同社の任務は困難なものだった。それは中国が長年、技術の習得に苦労してきた最先端の航空機エンジンを開発することだ。それから10年足らずで最新ステルス戦闘機は、当局が「中国の心」と呼ぶ国産エンジンを搭載して配備されている。こうした進展は、世界で台頭する大国にふさわしい軍需産業を構築しようとする中国の取り組みにおいて重要な節目となった。長年にわたり、中国の台頭は厳しい現実を覆い隠していた。自国の兵器を全て自前で製造することができなかったのだ。中国は今や自国の兵器を生産するだけでなく、国外への輸出も拡大している。一部の軍事技術においては、ロシアや米国といった主要な兵器生産国と肩を並べる、あるいは追い抜くほどの実力を備えているようだ。
高性能兵器を大量生産する能力は、食料やエネルギーから半導体に至るまで、あらゆる分野で他国への依存度を低下させるという、習近平国家主席が掲げる構想の重要な部分だ。習氏は中国が西側諸国から戦略的に締め付けられることを防ぐため、自立性の向上が不可欠だと主張してきた。独立系シンクタンクのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、20年前の時点では中国は最大の武器輸入国で、戦闘機や航空機エンジン、防空システムの確保をロシアやフランスなどに依存していた。1980年代にはレーダーシステムや砲兵技術を含む軍事装備を米国から購入する契約も結んでいた。しかしSIPRIのデータによると、中国が世界の兵器輸入に占める割合は大幅に低下し、ここ数年では購入国上位10カ国から外れている。アナリストらは、中国がコストや品質の理由で一部の外国製装備品を使い続けているとしても、必要な軍事技術のほとんどを自国で生産できるようになったとの見方を示している。
この戦略的成功により、中国は超大国間の紛争が発生した場合に強力な立場で戦闘できるようになった。これは、科学研究の強化や国営軍需産業の再編、防衛ニーズを満たすための民間企業の活用といった中国の取り組みを反映している。西側当局者やアナリストは、中国がスパイ活動や輸入装備品の違法なリバースエンジニアリング(分解・解析)を通じて、一部の技術格差を埋めてきたと指摘する。米当局者らは、航空宇宙、海事、その他の技術分野で米国の機密情報を盗むことを目的とした中国のサイバー攻撃について明らかにしている。SIPRIのデータによると、中国は世界の兵器輸出国として米国、フランス、ロシアに次ぐ第4位となっている。音速の少なくとも5倍の速度で飛行し、ほとんどの防空システムを回避できる中国の極超音速ミサイルは、西側諸国の能力を上回っている。中国国防省は「兵器装備の開発において独立、自力更生、自主革新の原則を常に堅持し、自国の力に依拠して研究開発と生産を行っている」と、問い合わせに回答した。兵器プログラムは完全に「国家主権、安全保障、発展利益の保護」を目的としているという。
中国政府は国防産業の再編も行った。同産業は非効率で汚職がはびこる国有大手が支配し、民間企業との協力を促進する政府の取り組みに抵抗していた。AECCは、数十の航空宇宙企業と研究機関からトップクラスの科学者とリソースを集めて設立された。同社は20年と21年に米国から制裁を受けている。中国政府は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)やプラット・アンド・ホイットニーなどと競争するため、この新しいコングロマリットに数十億ドルを投じた。また、国有企業2社を統合して世界最大の造船会社を設立した。こうした取り組みを通じて、中国は国産空母、潜水艦、戦闘機の開発を加速させた。例えば、中国政府の2機目のステルス戦闘機J35は24年に公開され、中国は複数のステルス戦闘機モデルを運用する国として米国に次ぐ存在となった。ジェットエンジンの技術習得は最大の課題の一つだった。中国軍のトップのテストパイロットは16年に現地紙に対し、国産エンジンは推力不足、燃費の悪さ、信頼性の低さに苦しんでいると語った。
AECCは中国の大学との研究協力を強化し、エンジンの設計とテストを加速するために人工知能(AI)を含む新たな技術を活用したと明らかにした。国営メディアはAECCのエンジニアを、中国が欧米の技術独占を打破するのを後押しする、人々に刺激を与える人物として描いた。こうした取り組みは成果を上げ始めている。当初ロシア製エンジンを搭載して設計された中国ジェット戦闘機の新型機(J10やJ11などのいわゆる「第4世代」戦闘機を含む)には、AECCの傘下に入った中国企業が開発・製造したエンジンが搭載されている。かつての中国の戦闘機の多くは、輸入エンジンまたはライセンス生産品に依存していた。2000年代前半から半ばにかけて配備されて以来、中国空軍の主力となっているJ10は、当初はロシア製エンジンを搭載していた。中国製の同等のエンジンはそれほど高性能ではなかったためだ。中国は戦闘機への国産エンジン搭載を増やしており、これには米国のF35におおむね相当する新型J35も含まれる。両機とも空中戦と地上攻撃任務を遂行でき、レーダー反射断面積を低減するステルス機体設計と素材を採用している。
米ジョージタウン大学安全保障・先端技術研究センター(CSET)の研究者らが入手した調達資料によると、AECC関連の研究者らは低速から極超音速モードへ移行できるエンジンなど、先進的な推進技術の開発を進めている。GEエアロスペースの先進軍事プロジェクト部門エジソン・ワークスのゼネラルマネジャー、スティーブ・ラッセル氏は、米国製エンジンは信頼性の面で依然として「桁違いに優れている」とし、オーバーホール(分解整備)が必要になるまでの稼働時間がはるかに長いと指摘した。それでも同氏は、中国には「優秀なエンジニアが多数いる。彼らは迅速に取り組んでいる」と最近行われたシンクタンクでの討論会で述べた。「精度を高めている」。中国製兵器がどれほど高度なものか西側のアナリストが明確に判断するのは難しいが、昨年5月に発生したパキスタンとインドの衝突で手がかりが浮上した。パキスタンが配備したJ10が中国製レーダー誘導ミサイルを使用して、少なくとも1機のフランス製戦闘機ラファールを含むインド軍用機数機を撃墜したと伝えられた。中国製戦闘機が西側の戦闘機に対して空中戦で勝利を収めたとされるのは、これが初めてだ。
中国は他の軍事能力の国産化も進めており、軍艦を迅速かつ安価に建造する能力では米国を上回っている。独立系の防衛アナリスト、トム・シュガート氏の推計によると、15年から24年にかけて中国海軍が152隻の艦船を進水させたのに対し、米国は70隻だった。中国艦隊は現在、艦船数では世界トップだが米海軍は自国の艦船の方が依然として優れていると述べている。中国にとって3隻目で最新の空母「福建」は、国内で完全に設計・建造された初の空母で、航空機を射出する電磁カタパルトを備えている。アナリストらは、中国が軍全体を国産の装備で整えるにはまだ道のりがあると指摘する。
戦略爆撃機を含め、中国が保有する航空機は依然としてソ連とロシアが設計したものが大きな割合を占めており、外国設計のエンジンは今でも多くの中国の軍用機やヘリコプターに搭載されている。中国の軍事・防衛産業に関する著書がある米カリフォルニア大学サンディエゴ校のタイ・ミン・チェン教授は「習氏の考えでは、軍事・技術革新・産業の結びつきにおいて、中国は米国に比べて引き続き劣勢にある」と述べた。しかし、習氏の目標は、最終的に中国が「世界の軍事的主導権を巡って米国に全面的に挑戦する」ことだとチェン氏は指摘した。
以上のように、中国は兵器産業についても自立推進で成果を挙げ、一部の軍事技術で米ロといった主要兵器生産国と肩を並べる、あるいは極超音速ミサイルのように彼らを追い抜くほどの実力を備えるにいたった。この戦略的成功により輸出が拡大し、世界の兵器輸出国として米国、フランス、ロシアに次ぐ第4位を占め、また超大国間の紛争が発生した場合に強力な立場で戦闘できるようになった。昨年5月に発生したパキスタンとインドの衝突ではパキスタンが配備した中国戦闘機J10が、中国製レーダー誘導ミサイルを使用して、少なくとも1機のフランス製戦闘機ラファールを含むインド軍用機数機を撃墜している。また中国艦隊は現在、艦船数では世界トップである。こうした中国の取り組みは、台頭する大国にふさわしい軍需産業を構築しようとする習近平主席の目標に沿ったものであり、中国は最終的に「世界の軍事的主導権を巡って米国に全面的に挑戦することを目指していると記事は報じる。
台 湾
☆ ベネズエラ情勢の台湾問題に与える影響について 米国がベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を迅速に排除したことを受けて、中国政府が台湾の指導部に対して同様の行動を試みる可能性があるとの見方が出ていると、1月4日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルが伝える。記事は、ただし中国専門家らはこうしたシナリオに疑問を呈していると補足し、さらに以下のように報じる。
マーク・ケリー上院議員(民主党、アリゾナ州)は、マドゥロ氏の失脚はトランプ氏が理解していない影響をもたらす可能性があり、中国政府が「台湾への攻撃を正当化する」ことを許すことになると述べた。ベネズエラと台湾の類似性を指摘する一部の人々は、習近平国家主席が最近行った国民向け演説で、台湾の支配権を獲得する動きは「止められない」と述べたことを強調している。
だが、米シンクタンク「ブルッキングス研究所」のライアン・ハス氏は、ベネズエラでの行動が台湾に関する中国の判断を変えるという結論を導き出すことに警告を発している。ハス氏はXへの投稿で「中国政府は、この出来事から着想を得て台湾へのアプローチを変えることよりも自国の利益を守り、米国の行動を非難し、国際システムにおける米国との対比を鮮明にすることに注力するだろう」と述べた。テキサス大学の国家安全保障アナリストのシーナ・チェスナット・グレイテンス氏もXへの投稿で、中国政府は「この出来事を利用して米国に批判的な戦略的物語を強化し」、自国を世界の安定と平和の主要な源として描こうとするだろうと述べた。
同じく1月4日付ワシントン・ポストも、アナリストによると中国は米国の攻撃から教訓と機会を学んでいると以下のように報じる。
アナリストによると、ドナルド・トランプ大統領がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束するという劇的な動きは、北京が軍事介入を強く非難しているにもかかわらず、最終的には米国との競争において中国に有利に働く可能性があるという。3日の早朝に突然行われた米国の攻撃は、対照的に中国が責任ある世界大国としての地位を高める機会となり、また、台湾を含む自国の裏庭で中国当局者が自国の利益を強力に主張することを容易にするだろうと、安全保障および政治アナリストらは語る。中国の強い反応は、ベネズエラとの緊密な外交・経済関係を部分的に反映している。中国は、米国の制裁のなかでベネズエラに融資を行い、ベネズエラの石油輸出の大部分を購入することで苦境にあるマドゥロ政権に命綱を提供してきた。マドゥロ大統領が拘束されるわずか数時間前、カラカスで中国政府高官団と会談していた。一行は北京のラテンアメリカ・カリブ海担当特使、邱小岐氏が率いていた。
上海復旦大学アメリカ研究センター副所長の趙明浩氏は、中国当局はトランプ大統領の地政学的思考を推し量る手がかりとしてベネズエラ情勢を注視していると述べる。
趙氏は「西半球における米国の支配力を再活性化・強化したいという願望」が読み取れると指摘。さらにトランプ氏が「イデオロギーや独裁体制を民主主義で置き換えるという素朴な物語」ではなく、ベネズエラの石油資源支配といった「現実的な利益に駆られている」ことも明らかだと付け加えた。
中国のネット上では、この「勢力圏競争の世界への回帰」を中国が利用し、台湾の賴清徳(ライ・チンテ)総統に対する同様の攻撃を計画すべきだと主張する声も出ている。例えば中国SNS・微博のコメント欄では土曜日、「ベネズエラ情勢は台湾統一の解決策を示している:まず特殊作戦で賴清徳を逮捕し、直ちに台湾接収を宣言せよ」との投稿が2,500件以上の「いいね」を集めた。
以上のように、ベネズエラ情勢の台湾をめぐる問題への影響について2つの異なる見方が提起されている。一つは、それが中国による台湾侵攻を正当化するという見方、もう一つは、中国は台湾へのアプローチを変えることよりも米国の行動を非難し、国際システムにおける米国との対比を鮮明にすることに注力するとの見方である。前者の見方については、中国のSNS・微博での「ベネズエラ情勢は台湾統一の解決策を示しており、特殊作戦で賴清徳を逮捕し、台湾接収せよ」との呼びかけが大方の賛同を得ていると報じられている。いずれにせよ、今回の出来事によって米国は莫大な石油資源を獲得するかもしれないが、地政学的状況は中国にとって有利な方向に働く可能性が高いと言えよう。
韓 国
☆ 韓国が実利を得た中韓首脳会談
李在明大統領は1月5日、国賓として中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。昨年6月に就任して以来、初めての訪中となる。同日付USニュース・アンド・ワールドリポートは、中韓両国は地域緊張が高まるなか、関係強化と貿易拡大、地域安定の維持を宣言したと以下のように伝える。
韓国大統領の訪中を機に中国と韓国の指導者は5日、貿易拡大と地域安定の維持を誓約した。今回の訪中は北朝鮮の弾道ミサイル実験の影に覆われた。国営の中国中央電視台(CCTV)が放送した会談要旨によると、人民大会堂で李大統領を迎えた習主席は、両国が「地域の平和維持と世界の発展促進において重要な責任を担っている」と強調した。李氏は「変化の時代」における「韓中関係発展の新たな章」を開く意義について言及し、「両国は繁栄と成長の基盤である平和促進に向け共同で貢献すべきだ」と述べた。
今回の訪問は、日本との緊張が高まるなか、中国が地域の支持基盤を強化したいと考えている時期に実施された。中韓関係は近年、過去の韓国保守政権が中国よりも米国と日本を優先し、米国によるミサイル防衛システムの韓国国内配備を認めたことで変動してきた。李氏はリベラル派として、米日関係を強化しつつ、中国との関係改善を目指している。李氏訪中の数時間前、北朝鮮は複数の弾道ミサイルを海上に発射した。超音速ミサイルも含まれると主張しているが、これは音速の5倍以上で飛行し、探知・迎撃が極めて困難な兵器である。外国の専門家は北朝鮮が実用可能な超音速兵器を開発したとは疑わしいと見ている。
首脳会談で両国は、朝鮮半島の緊張緩和に向けた創造的な方法を模索し続けることで合意し、平和促進に向けた取り組みにおいて中国が「建設的な役割」を果たす決意したと韓国の魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安保室長はブリーフィングで述べた。中国は北朝鮮の主要な同盟国であり、経済的な生命線を供給している。過去数年間、中国はロシアと共に米国などが北朝鮮に対する国連制裁を強化しようとする動きを繰り返し阻止してきた。また今回のミサイル実験は、北朝鮮が米国によるニコラス・マドゥロ大統領の排除を含むベネズエラ攻撃を非難した直後に実施された。長年、米国が平壌政権の転覆を図ることを恐れてきた北朝鮮は、この攻撃を「ベネズエラの主権に対する甚だしい侵害」であり「米国の無法で残忍な本質を示す事例」と非難した。中国もまた、この攻撃が国際法に違反しラテンアメリカの平和を脅かすものだとし、米国を非難していた。
李氏の訪問は、より広範には日本の新指導者が中国による台湾侵攻に介入する可能性を示唆した発言を巡り、日中間の緊張が高まっている時期とも重なった。先週、中国は台湾周辺で2日間にわたり大規模な軍事演習を実施し、分離主義勢力と「外部干渉」勢力への警告を発した。李氏との会談で習近平国家主席は、中韓両国が日本に対して歴史的に対立してきたことに言及し、両国が「手を携えて第二次世界大戦の勝利の果実を守り、北東アジアの平和と安定を堅持する」よう呼びかけた。韓国と米国の軍事協力について、李氏は訪中前のCCTVインタビューで「韓中関係が対立に向かうべきではない」と述べた。さらに訪中の目的について「過去の誤解や矛盾を最小化・解消し、韓中関係を新たな段階へ発展させること」と説明した。
中国と韓国は強固な貿易関係を維持しており、2024年の二国間貿易額は約2,730億ドルに達した。CCTVによると、会談中に習近平国家主席と李明博大統領は、技術、貿易、運輸、環境保護などの分野における15の協力協定の調印を立ち会った。李氏は同日午前、北京で開催されたビジネスフォーラムに出席。サムスン、現代、LG、アリババグループなど韓国・中国主要企業の代表者と会談した。この席で李氏と何立峰中国副首相は、消費財、農業、バイオテクノロジー、エンターテインメントなどの分野における協定調印を立会人として見守った。
以上のように、今回の李大統領の訪中に際して中国側は、日中関係が緊張する中で韓国を自国陣営に引き込む狙いがあったと思われる。これに対して韓国側は、政治問題と距離を保ちつつ、主として冷え込んでいた対中関係の実利的観点からの修復が狙いだったと言える。会談の成果を見ると、訪中の間に習近平国家主席と李明博大統領は、技術、貿易、運輸、環境保護などの分野における15の協力協定の調印に立ち会い、さらに李大統領はビジネスフォーラムに出席して、サムスン、現代、LG、アリババグループなど韓国・中国主要企業の代表者と会談したと報じられている。その意味で韓国側はかなりの実利的成果を挙げたとみられる。他方、中韓両国が「手を携えて第二次世界大戦の勝利の果実を守り、北東アジアの平和と安定を堅持しよう」と呼びかけた中国が、どの程度まで成功したのかは判然としない。今回の中韓首脳会談では中国よりも韓国側が多くの実利を得たと考えられる。
北 朝 鮮
☆ 原子力製水管の完成船体を公開
金正恩政権が自称「原子力潜水艦」の完成船体を公開したと、12月25日付ニューヨーク・タイムズが報じる。記事によれば、今回の公開は、北朝鮮が新型地対空ミサイルの初試験を実施した直後、また攻撃型米原子力潜水艦が韓国寄港のため到着したタイミングで行われた。北朝鮮国営メディアが25日に公開した写真には、金正恩総書記が非公開の場所で原子力潜水艦の製造現場を視察する様子が写っていたという。
記事はさらに次のように伝える。南北間の軍拡競争が水中領域へ拡大した。北朝鮮は木曜日、韓国の原子力潜水艦建造計画を安全保障上の脅威と非難すると同時に自国で建造中の原子力潜水艦の完成した船体を公開した。金氏は2021年に開催された労働党大会において、原子力潜水艦の建造を最重要兵器プロジェクトの一つに指定していた。3月には国営メディアが建造中の潜水艦写真を公開。木曜日には金氏が「原子力戦略ミサイル潜水艦」と称する完成船体を視察する写真を報じた。
外部専門家らは長年、北朝鮮が原子力潜水艦の複雑な技術・部品をいつまでに習得できるか、また推進に必要な小型原子炉をどこから調達するかを疑問視してきた。木曜日の公開は、北朝鮮が進展を遂げていることを示唆しているが、同国は艦艇の完成・配備時期についてはまだ発表していない。完成・溶接された船体は「すでに原子炉を内部に設置したことを意味する」と、ソウルに拠点を置く政府系シンクタンク「韓国統一研究院」の北朝鮮軍事専門家、ホン・ミン氏は述べた。ホン氏は、北朝鮮がウクライナ戦争におけるロシアの軍事作戦を支援するため兵士や武器を派遣した見返りとして、ロシアから技術支援を受けている可能性を指摘した。軍事専門家によれば、この北朝鮮潜水艦は弾道ミサイルや巡航ミサイル、魚雷を搭載する設計とみられる。北朝鮮は近年、潜水艦発射型ミサイルや魚雷の各種試験を実施し、これらが核弾頭運搬用に開発されたと主張している。
北朝鮮は、米国とそのアジアの同盟国である日本・韓国からの軍事的脅威が増大していることを理由に核兵器開発は正当化されると主張している。今週木曜日、北朝鮮は米ロサンゼルス級原子力攻撃潜水艦「グリーンビル」が韓国南東端の釜山海軍基地に到着したことに反発した。韓国海軍は、米艦艇が物資補給と乗組員の休息のために寄港したと説明した。これに対し北朝鮮国防省は「不安定化を招き軍事的緊張を高める重大な行為」と非難した。また木曜日、北朝鮮は金正恩氏が開発中の新型高高度長距離地対空ミサイルの初試験を視察したと発表した。水曜日に実施された試験では、ミサイルが高度124マイル(約200キロ)の模擬目標を撃墜したと述べた。韓国軍は北朝鮮による複数の地対空ミサイル発射を確認したが、詳細は明らかにしなかった。
11月、米国は韓国が初の原子力潜水艦を建造するのを支援することで合意し、朝鮮半島周辺海域の哨戒能力強化を図った。韓国は自国の原子力潜水艦が核兵器を搭載しないことを表明。米国が核の傘による保護を提供しているため、核兵器を保有する必要性を感じていないと述べた。しかし金氏は、北朝鮮が韓国の計画を「攻撃的行為」かつ「対応すべき安全保障上の脅威」と見なしていると指摘。これにより北朝鮮は「海軍力の近代化と核武装化」を加速せざるを得ないと述べた。
金氏のこうした動きは、ロシアのウクライナ侵攻以降、勢いを増している。金氏は兵士や大量の砲弾、ミサイル、その他の武器を送り、ロシアの戦争遂行を支援してきた。韓国の情報当局者やアナリストは、ロシアが北朝鮮に燃料や食糧、さらに老朽化した海軍や防空システムを含む軍事近代化を支援する資材や技術を提供することで報いたと指摘している。北朝鮮は来年早々に党大会を開催する見通しだ。5年に1度開催される党大会は北朝鮮で最も重要な政治イベントであり、金氏はここで軍事的成果を誇示し、今後5年間の新たな政策目標を掲げるとみられる。
以上のように、北朝鮮が自称「原子力潜水艦」の完成船体を公開した。北朝鮮の原子力潜水艦計画はその複雑な技術・部品を習得できるか、推進に必要な小型原子炉をどこから調達するかなどで完成が疑問視されてきたが、船体の公開は完成に向けて進展を遂げていることを示したといえよう。同国は艦艇の完成・配備時期についてはまだ発表していないが、ロシアから技術支援を受けたことは間違いないとみられる。北朝鮮が原子力潜水艦に固執する要因の一つに韓国による同様計画があると指摘されている。北朝鮮が韓国の計画を「攻撃的行為」かつ「対応すべき安全保障上の脅威」見なしていると報じられ、さらに新年早々に北朝鮮で最も重要な政治イベントとされる党大会が開催される見通しで、そこで金総書記は軍事的成果を誇示しようとの思惑もあるとみられている。いずれにせよ南北間軍拡競争のエスカレーションが懸念され、当面は党大会の動向を注視したい。
東南アジアほか
☆ トランプ高関税に耐える東南アジア諸国
東南アジア諸国はトランプ関税の嵐をどう乗り切っているかと、1月5日付フィナンシャル・タイムズは問題提起し、中国からの商品の迂回と米国によるハイテク製品の需要がこの地域の貿易を支えていると、以下のように報じる。
貿易データの分析によると、東南アジアは米国のハイテク製品需要、安価な製造コスト、中国からの商品の迂回により、ドナルド・トランプ大統領による関税攻撃を乗り切っている。米国国勢調査局のデータによると、東南アジアから米国への商品輸出は2024年同期と比較して、7月から9月の間に25%増加した。サプライチェーンの多様化に向けた世界的な取り組みを背景に東南アジアにおける主要製造国への海外投資も増加し、トランプ関税がこの地域に打撃を与えるのではないかという懸念を覆えしている。トランプ大統領は4月、東南アジアの主要製造国に対して最大49%の「報復的」関税を発表したが、その後、米政府との交渉により約20%に引き下げられた。
コンサルティング会社EYのマクロ・地政学戦略責任者のマツ・パーソン氏は「当初は誰もが報復関税を懸念していたが、アジアでの製造コスト優位性を考慮すれば20%の関税では製造拠点を移転する価値はない」と指摘する。英財務省元顧問でもあるパーソン氏は、さらに関税後もこのコスト優位性は「米国や欧州での生産に比べて20~100%以上」と指摘。このことはトランプ大統領の最初の任期中に「中国プラスワン」戦略を展開した企業にとって安心材料となっている。これら企業は東南アジア諸国を第二の輸出拠点として活用し、中国に課された高関税の影響を軽減していた。パーソン氏は「この戦略は依然有効だ」と指摘。米国国勢調査局のデータによれば、2025年第3四半期の中国から米国への輸出は前年比40%減となったが、アジア全体からの米国向け輸出は堅調に推移している。
靴や衣料品の大規模生産国であるカンボジアでは、4月に49%の関税が課されたにもかかわらず、米国との貿易は拡大を続けている。その後、ホワイトハウスとの交渉を経て関税率は19%に引き下げられた。衣料品はカンボジアの対米輸出の最大品目である。貿易データモニターによると、ニット衣料品の輸出は2024年第3四半期から2025年第3四半期にかけて25%増加した。カンボジア繊維・アパレル・靴・旅行用品協会のケン・ルー事務局長は、トランプ氏の関税が当初は業界に「ストレス」を与えたと認めつつも、バングラデシュ、ベトナム、インドネシアの競合他社も同様の関税に直面していることが判明したため懸念は解消されたと述べた。ただしルー氏は、顧客が関税影響の相殺を求めて値引きを要求しているため、業界全体の利益率が圧迫されていると付け加えた。それでも最新の関税措置後も外国企業による新規投資はカンボジアに流入し続けており、カンボジアの衣料品・靴・旅行用品産業への新規投資の約90%は中国本土に本拠を置く企業からだと述べた。
コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスの分析によると、37%の報復関税対象となっている中国からの貿易迂回量は、トランプ大統領の最初の任期以来増加を続け、9月には過去最高の237億ドルに達した。その結果、中国から米国への間接輸出は現在、両経済圏間の直接貿易と同規模に達していると推定している。キャピタル・エコノミクスによれば、カンボジアは貿易迂回で最大の伸びを示し、9月の中国から米国への間接輸出額は前年比約73%増となった。ベトナム、インドネシア、タイ経由の貿易迂回も顕著に増加している。ベトナムの対米貿易黒字は、公式データによると2025年1~11月期に過去最高の1,216億ドルに達した。
タイの中国からの原材料・製品輸入は10月に34%急増した一方、米国向け輸出は33%増加した。しかしアナリストは、トランプ政権が「積み替え」品に40%の関税を課すと脅して迂回ルート取り締まりを公約しているため、東南アジア諸国は不透明感が続くと警告する。米国がこうした製品をどう定義するかは依然不明だ。東南アジア諸国は中国の原材料や中間財に大きく依存しており、トランプ政権は地域諸国との協議で、米国向け最終製品における中国産部品比率の高さを容認しない可能性を示唆している。
キャピタル・エコノミクスの中国アナリストのリア・フェイ氏によれば、同地域がこれまで耐性を示してきた背景には、米国の技術ブームも一因として挙げられる。半導体、半導体製造装置、コンピューター、スマートフォンなど多くの技術関連輸出品は、米政府により関税免除措置が適用されている。キャピタル・エコノミクスは最近の顧客向けレポートで「電子製品の輸出は現在、前年比約40%のペースで増加している。これはパンデミックのピーク時——ロックダウンで消費者がアジア製電子製品を買い漁った時期——を上回る伸びだ」と指摘した。同社は、この強い需要が2026年まで「持続する可能性が高い」と予測している。この地域最大の輸出国であるベトナムを最近訪問したガベカル・コンサルティングのトム・ミラーアナリストは、外国投資家は同地域が貿易戦争を乗り切れると確信しているものの、その経済はトランプ政権の意向に左右され続けるだろうと述べた。ミラー氏は12月の顧客向けレポートで「まだ比較的初期段階ではあるが、米国がグローバルサプライチェーンから中国の投入品を積極的に排除する動きに出れば、ベトナムが最も深刻な打撃を受けるだろう。中国バリューチェーンへの統合度でベトナムに匹敵する国はない」と付け加えた。
以上のように、トランプ米大統領は東南アジア諸国に対して最大49%の「報復的」関税を発表、その後約20%に引き下げられたものの依然として高水準のなか、東南アジア諸国は安価な製造コスト、中国からの商品の迂回、米国のハイテク製品需要という3つの要因によって高率関税の影響に耐えている。製造コストの優位性は米欧での生産に比べて20~100%以上と指摘され、一例として、靴や衣料品の大規模生産国であるカンボジアが挙げられている。中国からの商品迂回につては、カンボジアの他、ベトナム、インドネシア、タイ経由の迂回が急増していると指摘されている。特にベトナムの対米貿易黒字は昨年1~11月期に過去最高の1,216億ドルに達したという。ただし、米国向け最終製品における中国産部品比率の高さを米政府が容認しない可能性も示唆されている。米国の技術ブームについては、背景に半導体、半導体製造装置、コンピューター、スマートフォンなど多くの技術関連輸出品に対する米政府の関税免除措置の適用が挙げられている。ただし、ここでも米国がグローバルサプライチェーンから中国の投入品を積極的に排除する動きに出れば深刻な打撃を受ける可能性があると指摘されていることに注目したい。
インド
☆ 今年の経済、市場、政治について
1月6付フィナンシャル・タイムズは同紙のインド・ニュースレター編集者であるヴィーナ・ヴェヌゴパル氏の論説記事を掲載している。同記事は、インド経済は今年も成長するだろうが国民はより豊かになるのかと、問題提起し、経済・市場・政府に待ち受けるものと題して以下のように論じる。
インドは二面性を持つ国だ。それが美点であり、同時に重荷でもある。あらゆる経済階層に広がる14億の人口を抱えるこの国について、ほとんどの主張は同時に真実でもあり虚偽でもあると証明されうる。これは常にそうであった。それでもなお、本ニュースレターの読者にとって関連性のある三つの側面——経済、市場、政府——について考えるとき、インドは最も二面性を帯びた状態で2026年を迎えようとしているように感じられる。
まず経済は予想を大幅に上回るペースで成長している。7月から9月期のGDPは前年同期比8.2%増となった。インド準備銀行は2026年の成長率予測を従来の6.5%から6.8%に引き上げた。ここで二極化が顕著なのは、この成長が大半の国民に実感されていない点だ。経済的恩恵は主に富裕層に集中している。不動産販売がその好例で、価値は上昇しているものの取引量は伸び悩んでいる。100万ドル超の超高級マンションは発売後数日(しばしば即日)で完売する。一方、中所得層向け住宅プロジェクトは数四半期にわたり売れ残りが残る。インド人口の大多数が享受すべき経済的幸福を阻害する根本的な問題は二つ存在する。
第一は失業である。政府統計によれば、失業率は2025年11月に4.7%の低水準を記録した。にもかかわらず、数週間おきに地元メディアが報じるのは、各州で数千件に満たない求人に対し数十万人の応募者が面接に殺到する光景だ。都市部ではギグワークが大量の失業者を吸収している。雇用には違いないが、こうした一時的な仕事には成長の機会も安全網もない。第二の懸念材料は、インド中産階級にかかる信用負担である。RBIのデータによれば、2025年3月時点でインドの世帯債務はGDPの41%を超えた。このほぼ半分は住宅購入者向け住宅ローンやその他の賃金上昇の鈍化と高い失業率がインド人に借金を強いられている。家計貯蓄率は依然としてパンデミック前の水準を下回っている。しかし、全体的なマクロ経済の見通しは依然として良好だ。過去数四半期にわたりインフレ率は一貫して低く、中央銀行は今年さらに利下げを行う誘惑に駆られるだろう。唯一の懸念材料はルピー相場であり、その行方はニューデリーではなくワシントンの動向に左右される見込みだ。では2026年はどうか? 表向きの数字は引き続き好調を維持するだろう。しかし実質雇用と賃金上昇が伴わなければ、大半の層で経済的苦境は続く。2026年のインドは成長するだろうが、大多数の国民の財布は厚くならない可能性が高い。
次に市場も経済と同様の問題を抱えている。技術的には、インド株式市場は2025年に史上最高値を更新したが、ポートフォリオはこれを反映していない。主要指数はごく一部の銘柄に支えられて上昇した。中小型株は低迷した年で、ほぼ半数の銘柄がマイナスリターンを記録し、残りは狭い範囲で推移した。全体として、2026年の市場予測は慎重な楽観論に見えるが、これさえも企業業績次第である。もう一つの懸念は流動性だ。米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げすれば、その資金の一部がインド市場に流入する可能性はある。しかしこれはもはや単純な相関関係ではない。昨年はFRBが利下げした後も外国ポートフォリオ投資家はインドから資金を引き続き引き揚げた。国内セクターで事業を展開する企業にとっては、民間セクターの設備投資と消費拡大が注視すべき主要指標となる。苦境にあるテクノロジーセクターは、米国との貿易合意が成立すれば一定の救済を得られるだろう。サービス業は現時点でトランプ氏の関税対象外だが、米国との関係が安定しているという一般的な認識(特にH1Bビザ問題など)が同セクターにとって重要となる。2025年の市場動向の相当部分は新規株式公開(IPO)に起因していた。プライマリー市場の高揚感は続き、アンバニ氏が所有するリライアンス・ジオに注目が集まる。年内に予定されるこの上場は、インド最大級の新規株式公開の一つとなる。次に市場が注目するのは、ニルマラ・シサラマン財務相の予算案だ。正確な日程は未定だが、通常2月上旬に演説が行われる。彼女がどのような案を提示するか興味深い。彼女の矢筒には残された矢はほとんどない。
最後に政治は、ナレンドラ・モディ首相の政権は安定した状態にある。今年選挙が行われるのは、アッサム、ケララ、タミル・ナードゥ、西ベンガル(および連邦直轄領プドゥチェリー)の4州である。インド人民党(BJP)がアッサムを維持する見込みは高い。BJPに伝統的に抵抗する南部諸州で大きな成果を上げる可能性は低い。残るは西ベンガル州のみであり、モディ政権はこの州で勝利を掴むべく激しい戦いを挑む。いずれの選挙も政権の命運を左右するものではないため、与党は短期的な選挙への影響を懸念せず、必要であれば不人気な決定を下す余地がある。とはいえ、11年に及ぶ政権運営を経て、ニューデリーにおけるBJP主導連合の輝きは幾分失われつつある。国内の家庭やソーシャルメディアでは政府への批判が増えている。かつては政府寄りが極端だったテレビ局でさえ、政府の決定に疑問を呈し始めた。最近では、古代の地質構造を維持するアラヴァリ山脈の採掘許可拡大について、最も政府寄りのテレビ司会者たちからも強い反発があった。
一方、野党は結束した戦線を築けず、近年の州選挙では概して不振に終わっている。モディ首相の選挙基盤は安定しているため、今年の懸念材料は主に内部問題となるだろう。首相の人気にもかかわらず、不人気な決定があまりに不人気になる可能性はあるのか。2026年にこれらの答えが見つかろうと見つからなかろうと、BJPが2029年の大選挙で何を足場として戦うかが確実に明らかになるだろう。
以上のように、記事は26年も経済は7%近い高成長を達成するとみられるが、それが国民を豊かにするのかという問題をインド社会の特徴である二面性現象を挙げて、そうした視点から、新年の経済と株式市場の動向そして政府に待ち受ける課題について観察している。経済については、成長の恩恵が富裕層に集中し大半の国民に実感されていないと問題提起し、不動産の例を挙げ、超高級マンションは発売後完売するが中所得層向け住宅は長く売れ残ると指摘する。そのうえで根本問題として高い失業率と家計債務を挙げる。失業率では、公式雇用統計に「家族経営における無給の補助者」として女性を雇用者に含めていること、家計債務は昨年3月にGDP41%超となり、それが資産形成ではなく消費目的の借金であることが問題であろう。また好調な株式市場は富裕層をさらに富ませ、中間層以下の国民の救いとはならないだろう。記事が指摘するように、実質雇用と賃金上昇が伴わなければ大半の層は救われない。基盤が安定しているモディ政権が2029年総選挙を睨んで、その政治的安定を活用して適切な政策を推進していくかに注目したい。
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主要紙の社説・論説から
高市政権下の金融、経済政策
-財政出動が試される高市政権、見方が分極化する今後の経済動向
高市政権は11月21日、新たな総合経済対策を閣議決定した。同日付ロイター通信によれば、大型減税の効果を含めて21.3兆円規模となり、高市早苗首相は、国民へ物価高対策を迅速に届けることを第一としつつ、危機管理投資、成長投資の戦略分野への頭出しとなる予算措置だと述べた。経済対策の財源の裏付けとなる2025年度補正予算案の一般会計歳出は17.7兆円で、石破茂前政権が策定した経済対策(13.9兆円)を上回った。
次いで政府は12月26日、26年度の一般会計予算を閣議決定した。予算規模は122兆3,092億円と過去最大に膨らんだ。この間、日本銀行は12月18に開催した政策決定会合で政策金利を30年ぶりの高水準へ引き上げた。今回は、こうした高市政権下での金融、経済政策に関する主要英文メディアの報道と論調を観察した。以下はその要約である。(筆者論評は末尾の「結び」を参照)
まず11月の総合経済対策に関する論調から見ていく。11月27日付エコノミスト誌は「Japan’s big-spending Takaichinomics is ten years out of date (日本の大型支出政策「タカイチノミクス」は10年遅れ)」と題する社説で以下のように論じる。
円は過去6か月に対ドルで9%下落し、対ユーロでは単一通貨導入後27年間で最も弱い水準にある。価値が下落しているのは円だけではない。日本の長期国債価格も急落し、利回りが上昇している。10年物国債の利回りは現在1.8%で、2016年から2021年にかけての大半の期間にほぼゼロだった水準から上昇した。30年物国債の利回りは3.3%まで上昇し、1999年に長期債が初めて発行されて以来の最高水準となっている。
高市首相は17兆7,000億円(1,130億ドル)の補正予算を発表した。GDPに占める割合は小さいものの、悪いシグナルを送ることになる。同首相はまた、日本銀行の控えめな利上ですらこれを批判してきた。インフレ率と債券利回りが上昇する時代において、その政策は古びたハリウッド映画の焼き直しのように時代遅れだ。日本が直面する市場動向―利回り上昇と通貨安―は今や見慣れた光景だ。かつては問題を抱えた新興国経済と結びつけられ、外国投資家が現地資産を売却すると同時に為替ポジションを解消することでこうした苦境に陥った。しかしこの現象は先進国にも広がっている。2022年、リズ・トラス首相の短命な政権下、一部の年金基金の戦略が破綻し、英国国債の利回りは急上昇しポンドは急落した。今年初め、投資家はドナルド・トランプ氏の不安定な通商政策を懸念し、米国債とドルを売却した。
日本の膨大な政府債務残高は、国債利回りのわずかな上昇でも利払い費が急増することを意味する。近年、日本は財政状況が改善していたため危機を回避できた。今年の財政赤字はGDP比約1.3%と、英米両国に比べてはるかに小さい。現在約3%のインフレ率は、政府の純債務をGDP比162% (5年前)から130%に押し下げる一助となった。この改善は消費者の購買力を犠牲にして達成されたもので、特に低所得者や固定収入層に打撃を与えた。しかもこの状況は持続不可能だ。IMFは日本の赤字が2030年までにGDP比4.4%程度に拡大し、予測成長率を大きく上回ると見込んでいる。防衛費や高齢化社会への支出、そして債券利回りの上昇が負担となり始めるだろう。
これまでのところ、トラス政権下の英国でのような金融危機の兆候はほとんどみられない。実際、日本でそのような爆発的な危機が発生する可能性は低い。生命保険会社など主要な投資家の多くは、ヘッジされていない外貨建て資産と円建て負債を組み合わせており、通貨安が利益につながるからだ。しかし、他のリスクが表面化する可能性はある。一つの危険は、日本への信頼喪失が破滅的な資本逃避という形で顕在化することだ。日本銀行はこれまで利上げに消極的だったが、円売り圧力が長期化すれば、高市氏の反対にもかかわらず行動を迫られるだろう。財務省も1.3兆ドルの外貨準備の一部を円防衛に投入せざるを得なくなる可能性がある。
高市氏は、構造改革と金融・財政刺激策の組み合わせを約束した故・安倍元首相の路線を踏襲していると述べる。しかし実際には、安倍氏は自らの主張よりもはるかに財政保守的であった。さらに円はもはや過大評価されておらず、日本が長期デフレからの脱却を図っている状況でもない。経済情勢が変わった以上、処方箋も変わるべきだ。利回りが上昇し円安が進む世界において、高市氏の巨額支出と低金利政策の目論見は、得られる利益以上に多くの問題を抱え込むことになる。
次いで12月26日に発表した26年度一般予算案については、同日付けロイター通信が、「Japan's cabinet approves record $785 billion budget, vows to keep debt in check (日本の内閣、過去最高の7,850億ドル(122兆3,000億円)の予算を承認、債務抑制を誓約)」と報じ、以下のように論評する。
高市早苗内閣は金曜日、次年度予算として過去最高の122兆3,000億円(7,850億ドル)を承認した。新たな国債発行を制限することで、前向きな財政政策と債務急増懸念のバランスを取ることを目指している。国債利回りの上昇と円安に直面する高市政権は、政府が無責任な国債発行や減税に走らないことを投資家に保証する取り組みを強化している。来年4月から始まる新年度の予算は、来年早々に国会に提出される予定で、総額は過去最高の122兆3,000億円(7,846億3,000万ドル)に達し、今年度の当初予算115兆2,000億円を上回る。それでも、新発国債額は今年度の28.6兆円から29.6兆円へとわずかに増加するのみであり、債務依存比率は24.2%に低下し、1998年以来の低水準となる見込みだ。
税収は7.6%増の過去最高となる83兆7,000億円と予測され、支出増の財源となる見込みだが、急増する債務返済コストや社会保障・防衛費の増加を完全に相殺することはできない。利払いと債務償還による債務サービス費用は10.8%増の31.3兆円に跳ね上がる。日本銀行が超緩和的な金融政策から脱却するなか、想定金利は3.0%と29年ぶりの高水準に設定されている。
日本の債務負担は既に先進国で最も高く、経済規模の2倍以上に達している。このため借入コストの上昇に極めて敏感であり、高市首相が推進する積極的財政刺激策の計画を複雑化させている。高市氏は、日本の財政再建目標として毎年の基礎的財政収支(プライマリーバランス、annual primary budget balance)を使用する考えを放棄し、より柔軟な支出を可能にするため複数年にわたる新たな目標を設定する意向だ。
次に日銀の利上げに関する論調を観察する。12月18日付ニューヨーク・タイムズは、「Japan Raises Interest Rates to Highest Level in 30 Years (日本、30 年ぶりの高水準へ金利を引き上げ)」と題する記事で、日本銀行は、高市首相が産業育成と家計支援の野心的な取り組みに資金を充てるため借り入れを増やすなか、インフレ抑制に乗り出したと以下のように報じる。
今月、東京で開催された国際金融会議で、高市早苗首相は経済再生計画について聴衆を説得するために珍しい表現を用いた。高市氏は、人気漫画「進撃の巨人」のセリフを引用して、「口を閉じて、私にすべてを投資してください」と宣言したが、会場の数人はその意味を理解できなかったと認めた。「日本が復活しました。日本へ投資を」と彼女は続けた。高市氏は、政府支出によって日本経済を強化すると約束したが、それは「持続可能」かつ「責任ある」方法によるものだと述べた。この支出は、成長促進に十分であると同時に、すでに膨大な日本の債務水準を管理可能な範囲に抑えられるものだと語った。首相がこの 2 つの公約のバランスを取る能力は、まもなく試されるだろう。
日本銀行は12月18日、政策金利を0.75%に引き上げた。主要国と比べれば依然として低い水準だが、デフレ対策として長年ゼロ金利政策を続けてきた日本としては1995年以来の高水準となる。植田和男日銀総裁は記者会見で、経済の動向や物価の推移次第では追加利上げも視野に入れていると述べた。日銀の利上げ決定は、先進国で最も高い日本の公的債務の利払いコストがさらに上昇することを意味する。高市早苗首相率いる政府は、家計向け補助金や自衛隊への追加予算、半導体・造船産業への投資などを盛り込んだ18兆円規模の景気刺激策を可決したばかりだ。支出の半分以上は国債増発で賄われる。
大半のエコノミストは、高市氏の支出策が来年の日本経済に下支え効果をもたらし、米国の関税による悪影響の持続を相殺するとみている。輸出への高関税により、日本経済は7~9月期に1年余りぶりに縮小した。調査・分析会社フィッチ・ソリューションズの子会社BMIは、高市氏の支出計画を「手厚い財政パッケージ」と評し、民間消費と設備投資の両方を刺激すると予測した。この刺激策を受け、BMIは2026年のGDP成長率予測を0.7%から1.4%に引き上げた。
それでも金融市場では、高市氏の拡張的政策が日本の脆弱な財政健全性を悪化させるとの懸念が高まり、国債売りが加速している。日銀の金曜日の措置後、長期国債利回りは25年ぶりの高水準に上昇した。三菱UFJフィナンシャル・グループのジョージ・ゴンカルベス主席ストラテジストによれば、債務増加・金利上昇・積極的財政支出・関税という不安定な組み合わせが日本経済の先行き予測を困難にしている。「相反する力が不確実性を生んでいる」と同氏は指摘。歴史的に政策手段が一つだけ変更された場合、「その影響を理解するのははるかに容易だった」と付け加えた。ゴンカルベス氏は、東京の財政目標と持続可能な債務管理が両立できるかが最大の懸念だと指摘。「日本の救いは、金利がゼロ近辺、あるいはマイナスでずっと推移してきたことだ」と述べた。
これが、高市氏が従来から金融緩和政策を支持してきた理由の一つだ。「アベノミクス」の信奉者である彼女は、低金利が借り入れ・支出・投資を促進すると同時に、景気刺激策に伴う債務の返済コストを管理可能な範囲に抑えられると主張してきた。高市氏はかつて、日本銀行の利上げを「愚かだ」と評したこともある。2025年1月に政策金利を0.5%に引き上げて以来、日銀は借り入れコストを据え置いてきた。しかし最近では、日銀と高市政権は、長期にわたる低金利が円安に与える影響に焦点を移している。
植田総裁は金曜日、政策委員会の複数の委員が円安の物価全体に及ぼす影響を懸念していると述べた。
日本と主要国との金利差の拡大は、円安持続の要因の一つだ。円安は日本の輸出を支える一方で輸入コストを押し上げる。これがインフレを悪化させており、日銀が金曜日に発表したデータによると、インフレ率は44カ月連続で同行の目標である2%を上回っている。持続的なインフレは個人消費を抑制しており、今年は毎月、物価の上昇率が賃金の上昇率を上回っている。日銀の今回の利上げは、金利差を縮小し、円を支え、最終的にはインフレを抑制し、賃金が追いつく機会を与える試みと広く理解されている。日銀と高市政権の期待は、この回りくどい経路を通じて利上げが個人消費押し上げに寄与することにある。
それでも、円安対策が主目的の利上げにはリスクがあるとムーディーズ・アナリティクスのステファン・アングリック上級エコノミストは指摘する。「金融引き締めは企業と消費者の支出を抑制する」と最近のレポートで記した。金曜日の為替相場では、円は対ドルで小幅に下落した。植田総裁によれば、日銀が複数回にわたり金利を引き上げて、ゼロを上回らせた決定は「特に強い引き締め効果を生んでいない」という。今後の利上げについては「金利を0.75%に引き上げた後の経済・金融情勢・物価の反応を観察した上で判断すると考えている」。
上述のように政府は積極的財政策を打ち出し、日銀は政策金利を引き上げるなかで株式市場は活況を呈している。12月24日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、「Why Japan’s Stock Market Can Keep Rising (日本株はなぜ上昇し続けられるのか)」と題する記事で、金利は上昇しているが、日本の債務を巡る懸念は誇張されていると以下のように論じる。
日本は経済成長率・賃金・物価がいずれも上昇サイクルに入っており、確固としたリフレ局面にある。日銀は金利を30年ぶりの高水準まで引き上げて対応し、評論家や投資家の間に懸念を引き起こした。しかしこの利上げは、関税や世界的ショックに対する強靱性を示してきた日本経済への強力な信任投票と見なされるべきだ。日経平均株価は今年に入って26%上昇しており、17%上昇のS&P500種指数よりはるかに好調だ。投資家は通常、こうした上昇は円安によってドルベースでは薄められると見込む。以前の日経平均は円安から後押しを受けるのが一般的だった。円安になると日本の輸出業者の利益が増えるからだ。円は最近下落しており、市場の動揺を招いている。しかし2025年全体で見れば、円はまだ対ドルで基本的に横ばい状態にある。
日本が他の市場を上回っている理由の一つは、同国が依然、世界のハイテク分野のサプライチェーン(供給網)で重要な役割を担っているため、人工知能(AI)に対する楽観的な見方から恩恵を受けていることだ。もう一つの要因は、安倍晋三氏による企業統治改革の成功だ。改革によって企業の効率性が上がり、利益が増えた。最も心配なことは、よく知られている日本の重い債務負担だ。公的債務残高はGDP比200%という驚きの水準に達している。これに加え、日本国債の利率は、日銀による金融引き締め策と政府の景気刺激策を受けて上昇している。格付け会社フィッチ・レーティングスによると、高市早苗首相が発表した減税および景気刺激策の規模は、GDP比で3.4%前後だ。ファクトセットによると、10年物日本国債の利回りは今年1.09%から2.08%に、30年物の利回りは2.28%から3.43%にそれぞれ上昇した。
しかし、キャピタル・エコノミクスのアジア太平洋市場責任者トーマス・マシューズ氏によれば、日本は国債費を管理するツールを持っている。一つは、日本の発行済み国債の満期までの平均残存期間が9年強(フィッチ・レーティングスの推計)と比較的長いことだ。これに対し、米国債の平均残存期間は約6年だ。つまり日本の場合、既発国債の借り換えまでの期間が長いため、国債利回り上昇の返済コストへの影響はゆっくりとしか表れないことになる。また日本の財務省は今年、利回り上昇が最も著しい超長期国債の発行計画を縮小した。より広い視野で投資家が留意すべきは、日本の債務残高のGDP比が高くなった主因は数十年続いた低成長とデフレであり、放漫財政ではないことだ。これにより、債務残高のGDP比を計算する上で極めて重要な分母が徐々に縮小した。このプロセスは近年反転している。過去4年間の名目GDP伸び率は年平均3.1%で、債務残高のGDP比は22年の212%から現在は約200%に低下している。キャピタル・エコノミクスによれば、日本は他の主要先進国より速いペースで債務の対GDP比率を減らしている。
重要な点は、高市氏の景気刺激策は政治的なばらまきを含む一方で、国際的な競合国も財政支援をしている半導体や造船といった戦略的分野にも予算を振り向けていることだ。また、防衛費がGDP比2%に引き上げられるが、これは日本の近隣地域の状況を考えれば妥当と考えられる。無駄な支出とは到底言えない。最後の懸念材料は、日本の国債利回り上昇によって、国内の貯蓄が米国の財政赤字を埋めるのではなく、国内に引き戻されるのではないかという点だ。しかし、米国への影響は誇張されるべきではない。今年は日本の10年物国債利回りが1ポイント上昇しているのに対し、10年物米国債の利回りは約0.4ポイント低下している。結局のところ、米国債に対する真のリスクは、ドル安や米国機関に対する広範な信頼の喪失、例えばFRBの独立性が損なわれるといった事態だ。そうした信頼喪失はドルの準備通貨としての地位を揺るがしかねない。要するに、日本に起因するリスクというより米国内の問題なのだ。2026年の投資先として、日本は最適な場所の一つのように見える。
結び:以上のようなメディアの論調を次の4つの観点からまとめてみたい。第1に高市政権の財政政策と第2に日銀の金融政策に対する見解、第3に「タカイチノミクス」とメディアが呼ぶ高市首相の経済政策全般に対する評価、そして最後の第4に日本経済の現状と今後に関するメディアの見方である。
第1の高市政権の財政政策について、メディアは真っ先に日本が抱える重い債務負担との関連について言及する。高市首相が11月に発表した減税および景気刺激策の規模は、GDP比3.4%前後に達し、10年物日本国債の利回りが上昇していると懸念を表明する。その一方で、日本は国債費を管理するツールを持っているとし、日本の発行済み国債の満期までの平均残存期間が9年強と比較的長く、金利負担として跳ね返るのに時間が掛かることを挙げ、さら日本の債務残高のGDP比率が高くなった主因は数十年続いた低成長とデフレであり、放漫財政ではないとし、このプロセスが近年反転していると指摘、過去4年間の名目GDP伸び率は年平均3.1%で、債務残高のGDP比率は22年の212%から現在は約200%に低下していると述べ、財政危機の可能性に否定的見方を示す。
また重要な点として、高市氏の景気刺激策は半導体や造船、防衛費といった戦略的分野にも予算を振り向けており、無駄な支出ではないと述べ、大半のエコノミストは、この対策が来年の日本経済に下支え効果をもたらし、米国の関税による悪影響の持続を相殺するとみていると報じる。この分野はアベノミクスの第3の矢で、未完に終わっている成長戦略の一環として力点を置くべき課題と言えよう。さらにメディアは、高市氏の景気対策は民間消費と設備投資の両方を刺激する「手厚い財政パッケージ」と評する調査会社の見方を伝え、同社が2026年のGDP成長率予測を0.7%から1.4%に引き上げたと好意的に報じる。
なお、この関連では日本の国債利回り上昇によって、日本の貯蓄が米国の財政赤字を埋めるのではなく、日本国内に引き戻されるのではないかという問題を懸念材料として挙げているのが注目される。ただし、これは日本に起因するリスクというより米国内の問題だと述べ、2026年の投資先として、日本は最適な場所の一つのようだと締めくくる。
次いでメディアは、12月26日に発表した26年度一般予算案について、高市内閣は過去最高の122兆3,000億円(7,850億ドル)の予算案を承認したが、新発国債額は今年度の28.6兆円から29.6兆円へとわずかに増加するのみであり、国債依存比率は24.2%に低下し、1998年以来の低水準となる見込みだと報じる。政府は、新たな国債発行を制限することで、前向きな財政政策と債務急増懸念のバランスを取ることを目指し、無責任な国債発行や減税に走らないことを投資家に保証する取り組みを強化していると述べる。ただし、税収は7.6%増の過去最高となる83兆7,000億円と予測されるが、急増する債務返済コストや社会保障防衛費の増加を完全に相殺することはできないと指摘。利払いと債務償還による債務サービス費用は10.8%増の31.3兆円に跳ね上がると警告する。また高市氏は、日本の財政再建目標として毎年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を使用する考えを放棄し、柔軟な支出を可能にするため複数年にわたる新たな目標を設定する意向だと懸念を表明する。まさに政府は、財政出動による経済の強化と、それが「持続可能」かつ「責任ある」方法によるものであることが試される試練の時を迎えている。
第2に日銀の利上げに関してメディアは、政府が積極的に財政出動するなか、日本銀行は政策金利を0.75%に引き上げて、インフレ抑制に乗り出したと報じる。金利水準は主要国と比べれば依然として低いが、経済動向や物価の推移次第では追加利上げも視野に入れているとコメントする。また金融市場では、高市政権の拡張的政策が日本の脆弱な財政健全性を悪化させるとの懸念が高まり、国債売りが加速し、日銀の利上げ後に長期国債利回りは25年ぶりの高水準に上昇、金利上昇・積極的財政支出・債務増加・関税という不安定な組み合わせが、日本経済の先行き予測を困難にしていると指摘する。そして高市氏は、低金利が借り入れ・支出・投資を促進すると同時に、景気刺激策に伴う債務の返済コストを管理可能な範囲に抑えられると主張してきたが、最近では、日銀と共に長期にわたる低金利が円安に与える影響に焦点を移していると指摘する。
そのうえで円安動向について、日本と主要国との金利差の拡大が円安持続の要因の一つだとし、円安は輸入コストを押し上げインフレを悪化させており、持続的なインフレは個人消費を抑制し、今年は毎月、物価の上昇率が賃金の上昇率を上回っていると懸念を示す。今回の利上げは、金利差を縮小し、円を支え、最終的にはインフレを抑制し、賃金が追いつく機会を与える試み、すなわち、日銀と高市政権の期待は、この回りくどい経路を通じて、利上げが個人消費押し上げに寄与することにあると指摘する。ただし、金融引き締めは企業と消費者の支出を抑制するリスクがあるとも補足する。その意味で、高市政権と日銀は、危うい綱渡りを試みていると言える。こうしたメディアの懸念は、「タカイチノミクス」を時代遅れとする以下のメディアの評価に顕示されていると言えよう。
第3の「タカイチノミクス」、すなわち高市首相の全般的な経済政策に対する評価に関しては、まず11月に発表した大型景気対策についてメディアは、10年も時代遅れの対策だと切って捨てる。高市氏が安倍元首相の10年前の経済政策、アベノミクスの後継者として採用した政策は、日本経済の現状がアベノミクス時代とは真逆の状況にあり、背景が変化したからには、対策も変える必要があると批判する。確かに今は円安とインフレの時代であり円も過大評価されておらず、日本が長期デフレからの脱却を図っている状況でもない。経済情勢が変わった以上、処方箋も変わるべきだとの主張は、そのとおりである。したがって、高市氏の積極財政と低金利政策というポリシーミックスは、インフレを静まらせるどころか、返ってインフレを煽り、消費者心理を冷え込ませ、経済を弱体化させていく可能性があると言える。
最後に第4の日本経済の現状と今後についてメディアの見解は、警戒論と楽観論とに大きく分かれる。警戒論では、円は過去6か月に対ドルで9%下落し、対ユーロでは単一通貨導入後で最も弱い水準にあると指摘、国債市場では10年物国債の利回りが数年前のほぼゼロから1.8%へ、30年物国債利回りが3.3%へと最高水準に達したと述べ、膨大な政府債務残高は、国債利回りのわずかな上昇でも利払い費が急増すると懸念を示す。さらに国際通貨基金(IMF)は財政赤字が、2030年までにGDP比4.4%程度に拡大し、予測成長率を大きく上回ると予想しているとし、日本への信頼喪失が破滅的な資本逃避という形で顕在化するリスクがあると述べる。そうなれば利上げに消極的な日本銀行も行動を迫られ、財務省も1.3兆ドルの外貨準備の一部を円防衛に投入せざるを得なくなる可能性があると警告する。
楽観論は、日本でトラス政権下の英国でのような爆発的な金融危機が発生する可能性は低いとし、インフレ率も現在約3%でこれが政府の対GDP純債務比率を5年前の162%から130%に押し下げる一助となっていると述べる。日本は経済成長率・賃金・物価がいずれも上昇サイクルにあり、確固としたリフレ局面にあるとし、日銀の利上げは、関税や世界的ショックに対する強靱性を示してきた日本経済への強力な信任投票と見なされるべきだと主張する。日経平均株価は今年に入って26%上昇、17%上昇のS&P500種指数よりはるかに好調だとし、円についても2025年全体で見れば、まだ対ドルで基本的に横ばい状態にあると指摘する。そして、日本経済が好調の根拠として、依然として世界のハイテク分野のサプライチェーン(供給網)で重要な役割を担っていること、安倍晋三氏による企業統治改革の成功による企業の効率性の上昇と増益という実績を挙げる。
以上の楽観論と警戒論には、双方にそれなりの理由や根拠がある。どちらにふれるかは、高市政権の采配とその成果にかかっている。インフレ環境のなかでの財政出動による経済強化と、それが「持続可能」かつ「責任ある」方法による必要があるという試練を、いかに達成し、乗り越えていくか、そして未完に終わっているアベノミクスの第3の矢である成長戦略を連立相手の日本維新の会と力を合わせて実現していくことが鍵を握ると言えよう。
主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、THE GUARDIAN(ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。
前田高昭
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