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第8回 海外の出版業界情報(2024年12月)

海外での日本出版業界分析

アメリカで日本の小説の翻訳書が注目されている一方で、イギリスでも日本文学の人気が急上昇しています。Guardianの記事によると、2024年現在、同紙が調査した翻訳フィクション部門の上位40冊のうち43%が日本文学です。その中でも、柚木麻子の『バター』はトップを飾り、イギリスの書店チェーンが主催する賞の新人作家の部門で受賞しました。
ここ10年で、より幅広い日本の作家がイギリス市場で注目を集めるようになったと同記事は述べています。特に日本の犯罪小説が大きく成長しており、『バター』に加え、松本清張の黄金期の作品『点と線』も上位にランクインしています。また、村田沙耶香、川上弘美、川上未映子といった作家たちによる、女性視点の文学作品も急増中です。さらに、「癒し系」フィクションと呼ばれる書籍が、今年の日本小説のベストセラーの半数以上を占めています。

日本文学の特異性と先見性

この記事では、日本文学を紹介するウェブサイトを運営するアリソン・フィンチャー氏が興味深い視点を提供しています。たとえば、大原まり子の『ハイブリッド・チャイルド』は、ジェンダーを超越したロボットとAIを描いた1990年の小説で、2018年に英訳されました。フィンチャー氏はこれについて「日本文学が資本主義後期の問題やジェンダー、フェミニズムといったテーマに取り組み始めたのは、英語圏の文学がこれらの問題に向き合うより20年も早かった」と述べています。

日本の出版市場の特徴:Publisher's Weeklyより

Publisher’s Weeklyも日本文学の人気復活を取り上げつつ、日本の出版市場が持つ独特な構造について以下のように説明しています。

  • 短編小説が主流
    純文学作家の多くは、大手出版社が発行する5つの文芸誌を中心に活動しています。これらの文芸誌は新人作家に短編小説の執筆を依頼することが一般的であり、志望作家はこの形式に適応する必要があります。
  • 作家が交渉者を必要としないシステム
    日本の作家は複数の出版社と同時にやり取りを行うため、創作上の意見の相違が生じた場合でも最初の編集者との関係を維持しつつ、別の出版社に原稿を持ち込むことが可能です。前払い金(アドバンス)は一般的でなく、すべての印刷部数に対して10%の印税が支払われるため、作家が巧みな交渉者を必要とする機会は少ないとされています。しかし、これが障害となる場合もあり、日本の出版社は著者のマーケティングへの投資を控える傾向があり、純文学作家はPR活動に参加する文化がほとんどありません。そのため、海外での出版時にPR活動が求められると戸惑う作家もいます。
  • 独特な流通形態
    日本の出版社がニッチなタイトルを出版できる背景には、東販と日販という2大流通業者が小売売上の80%以上を管理している仕組みがあります。この体制は、全国どこでも同じ価格で書籍を販売可能にし、返品代金を新刊書で精算する仕組みを通じて、流通業者が出版社の銀行のような役割を果たしています。

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これらの記事を読むと、日本の書籍が独特なテーマや先見のあるテーマを発信していることや、日本の出版システムの利点がよくわかりますが、海外市場への発信には販売モデルやプロモーション方法の違いを理解する必要があります。主に以下のポイントを挙げたいと思います。

海外発信への提案

    • 売れているジャンルの見極め
      短編集や侍小説といった日本国内で人気のあるジャンルが、海外では売れにくい場合があります。海外市場のニーズに合わせた作品選定が求められます。
    • オンライン書店と電子書籍の活用
      海外では、書店が買い切り方式を採用していることが多いため、リスクを抑えるには電子書籍プラットフォームの活用が効果的です。Amazonだけでなく、IngramSparkなどの多くのサービスがあります。
    • 現地のパートナーシップ
      現地のリテラリーエージェントや出版社と連携することで、市場の知識やネットワークを活用することができます。優れた翻訳者を起用し、作品の質を保つことももちろん重要です。
    • PR活動の強化
      海外市場では、著者自身が積極的にPR活動に参加することが求められます。ソーシャルメディアの活用、ブックフェアや現地イベントへの参加、インタビューなどを通じて作品の認知度を高めることができます。また、特定のニッチ市場に特化したブックコミュニティや、InstagramやBookTokといったプラットフォームでのプロモーションも効果的です。

これらの取り組みを通じて、日本の多様な作品が海外市場でより広く受け入れられることを期待します。

<ライタープロフィール>

村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。

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