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世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第 64回

アメリカ書籍レポート - 10月 

様々なバックグラウンドの著者- 今月発売の書籍から

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


 

10月に入り朝晩の気候は穏やかになったものの、今週は再び40℃を超えそうな予想が出ています。大体サンクスギビングまでは暑さ寒さが交互に続くので、果たして「秋」とはどんな季節だったか、思い出せなくなってきました。

さて、今月発売の書籍から、いくつか気になる著者の作品をご紹介いたします。様々なバックグラウンドの著者がいらっしゃいます。海を渡り、国を超え、あるいはコミュニティーを横断して様々な知見を得ることでしょう。そうした体験から形作られた考えを書籍として読むことができるのは、素晴らしい体験だと感じます。

The Heartbeat Library (20241022)

著者:ラウラ・今井・メッシーナ

邦訳:なし

作品について:

『天国への電話』(早川書房 2022、訳者:粒良 麻央)で一躍国際的ベストセラー作家となったラウラ・今井・メッシーナの最新作『The Heartbeat Library』が今月22日に発売されます。日本のとある静かな島・手島には、世界中から集められた心臓の鼓動を保存する「心音図書館」があり、生者や故人の心音が響き続けます。そこから数マイル離れた地、鎌倉では、40歳のイラストレーター、シュウイチと8歳の少年ケンタが出会います。亡き母の家を修理するために故郷に戻ったシュウイチは、その家の周りで度々ケンタに出くわします。次第に2人は交流を深めていき、やがて手島の心音図書館へと向かうことになります。この作品は、喪失と希望、痛みと喜び、そして絆の力をテーマに、現実と想像が交錯する心温まる物語となっています。

著者紹介:

ラウラ・今井・メッシーナは23歳で東京に留学し、東京外国語大学で修士・博士号を取得した。2014年に『Tokyo Orizzontale』(東京オリゾンターレ)を発表し、作家活動を開始。15年間日本に在住。夫と2人の子供と鎌倉在住。著書『The Phone Booth at the Edge of the World(天国への電話)』は25カ国で出版され、国際的ベストセラーとなっている。

The Mighty Red (2024101)

著者:ルイーズ・アードリック

邦訳:なし

作品について:

18歳の少女キスメットは、母親と二人でノースダコタ州の小さな町アーガスで暮らしていた。大きな農場を受け継いだゲイリーがキスメットに求婚する一方、ごく一般的な家庭で育った心優しい赤毛のヒューゴもキスメットを振り向かせようと努力する。また、母クリスタルはゲイリーが経営する農場で砂糖を積み込む仕事をしていた。2008年、予兆もなく突然始まった大不況の影響で教会のお金とともに失踪したキスメットの父親に、いったい何が起きたのか。若者たちの恋愛、大自然の力、小さなコミュニティーに属することの意味、そして不可抗力による環境の変化。どこにでもいる普通の人々が直面する超自然的な試練を乗り越えて見出すものとは―――。悲しみとユーモアが交錯する感動的な物語です。

著者紹介:

ルイーズ・アードリックは、ネイティブ・アメリカンの作家として、これまでに多数の小説や詩集、児童書等を執筆している。著書は複数の言語に翻訳され、世界中で読まれている。全米図書賞、世界幻想文学大賞ピューリッツァー賞 フィクション部門など多くの賞を受賞している。和訳された代表作も数多く、『ラブ・メディシン』(筑摩書房 1990、訳者:望月佳重子)、『ビート・クイーン』(文芸春秋 1990、訳者:藤本和子)、『五人の妻を愛した男』(角川書店 1997、訳者:小林理子)などがある。チペワ族のタートルマウンテン・バンドの一員としても活動する。ミネソタ州で娘たちと暮らし、ネイティブ・アメリカンのコミュニティーをサポートする独立系書店「Birchbark Books」を経営している。

Revenge of the Tipping Point (2024101)

著者:マルコム・グラッドウェル

邦訳:なし

作品について:

本書『Revenge of the Tipping Point』では、25年前の『The Tipping Point』で探求した「小さな行動が大きな変化を引き起こす」社会的伝染の概念に対する新たな視点を提示していた。本の小さなきっかけが、良い方向へ作用すると、犯罪率の低下、子供たちへの教育促進、喫煙量の低下などの望ましい結果が得られると述べてきた。しかしながら今回、著者は、当時提唱した「少数者の法則」「文脈の力」「スティッキーファクター」をもとに、社会的伝染が悪用される可能性を探る。どこを一押しすれば世界が動くかを知る人々が持つ権力に注目し、彼らの意図や手法を調査。さまざまなケースを通じて、同じ手法が善にも悪にも使えることを明らかにしていく。

著者紹介:

マルコム・グラッドウェルは、イングランド出身、カナダ育ちでNY在住のジャーナリスト。過去に7冊のNew York Timesベストセラーを出版している。代表作は『ティッピング・ポイント』(飛鳥新社2000、訳者:高橋啓)または改題後の邦題『急に売れ始めるにはワケがある』(ソフトバンククリエイティブ 2007、訳者:高橋啓)、『天才! : 成功する人々の法則』(講談社 2009、訳者:勝間和代)などがあり、本書は『ティッピング・ポイント』の続編にあたる。


柴田きえ美                                             カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を勉強中。これまでに7冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。

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