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海外の出版業界情報 2024年9月                     

2024/9/22

イギリス:文学作品の多様性を学校教育に活かすプロジェクト

Penguin Books UKは、人種の平等を訴えるイギリスのシンクタンクであるThe Runnymede Trustと共同で、「Lit in Colour」というプロジェクトを2020年に立ち上げました。このプロジェクトは、学校での英文学教育において、有色人種の作家の作品を読む機会を増やし、より包括的な学習内容を提供することを目的としています。

この一環として行われた「Lit in Colour Pioneers」試験プログラムでは、約250校のセカンダリースクールで、29,000人以上の生徒(7~11歳)を対象に、様々な背景を持つ黒人、アジア人、少数民族の作家の本に触れる機会を提供してきました。オックスフォード大学教育学部の研究者らによると、有色人種の作家が書いた文章を教えることは「生徒の人生に変化をもたらす影響」がある可能性が示されました。生徒の学習意欲や共感力が向上し、試験結果にも良好な影響を与えたことが確認され、多様性を推進する教育の重要性が強調されています。

Penguin Booksウェブサイトの「Lit in Colour」ページでは、年齢層ごとに推薦書がリストアップされています。以下では、いくつかのテーマ別にその一部をご紹介します。

◆アクティビズムと政治:自分たちの権利のために戦い、政治に参加する人々を描いたフィクションやノンフィクションの本。
『Speak Up!』(仮訳:声を上げよう!)Nathan Bryon著
自分にとって大切なもののために立ち上がり、声を上げることを描いた絵本。
本を読むことが大好きだった少女ロケットは、毎週通っていた図書館が閉鎖されると知りショックを受ける。しかし、これまで読んだ本から学んだことを生かそうと決心し、図書館を救うために行動を起こす。

◆古代の物語:世界中の国や文化にまつわる物語。
『Nura and the Immortal Palace』(仮訳:ヌーラと不滅の宮殿)M. T. Khan著
パキスタンの雲母鉱山で働き続けてきた少女ヌーラの物語。
ヌーラの友人が鉱山事故で埋もれてしまい、彼を救おうと掘り進めるうちに、ヌーラはジン(イスラム教の教 えやアラビアの民間伝承に登場する霊的存在)の魔法に満ちた恐ろしい世界へ足を踏み入れる。そこでヌーラは、その新しい世界でも現実世界と同じように不公平さや困難が存在することを知る。イスラム文化とパキスタンの伝統に根ざしたファンタジー・アドベンチャーであり、子どもたちの搾取についても繊細に取り上げている。

◆友情と愛:友人、家族、コミュニティ、それらのさまざまな形についての物語。
『The Ocean Calls』(仮訳:海が呼んでいる)Tina Cho著
海女になりたいと願う韓国の少女ダヨンの物語。
祖母の跡を継ぎ海女になろうと決意したダヨンは、普段の生活でも海女になる練習をしている。海にまつわる怖い思い出がダヨンを岸辺にとどまらせるが、ダヨンが一歩前に踏み出す助けとなったのは、祖母の導きだった。
済州島の海女たちとその伝統的な慣習について学べる絵本。

◆実世界:歴史上の人物や出来事を題材にした、あるいはそれにインスパイアされたフィクションやノンフィクション。
『Brilliant Black British History』(仮訳:華麗なる英国黒人の歴史)Atinuke文、Kingsley絵
黒人としての最初のイギリス人から、テューダー朝、ジョージアン期、ビクトリア朝時代に至るまで、科学、スポーツ、文学、法律などあらゆる分野で活躍してきた黒人イギリス人の歴史を伝える本。
イギリスの読書推進団体Booktrustは、この本が「奴隷制度や植民地主義といった厳しい話題を、事実に基づいて遠慮なく取り上げている」と評価し、さらに「この本は情報に富み、目を開かせるものであり、学校図書館には必須の一冊だ」と述べている。

◆自信:幼い子どもたちに、悩みを抱えているのは自分一人ではないことを教え、自信を持ち、否定的な感情に対処する方法を伝える本。
『Laxmi’s Mooch』 Shelley Anand著
インド系アメリカ人の少女ラクシュミが、口ひげをからかわれたことをきっかけに、自分の違いを受け入れ、自分の文化を大切にすることを学んでいく物語。
友達に「きみは口の上にひげがあるから、完璧な猫になれるね」と言われたラクシュミは、自分の体のあちこちにある体毛に気づき始める。両親の助けを借りて、ラクシュミは毛が頭だけのものではなく、性別に関係なく体のどこにでも生えるものだと理解する。

多様な文化や民族が共存するイギリスならではのプロジェクトとも言えますが、出版社が社会を変えるためのプとも言えますが、出版社が社会を変えるためのプロジェクトを立ち上げるという発想は、日本でも何らかの形で取り入れられるのではないかと感じました。

参照Penguin BooksのLit in Colourページ:

<ライタープロフィール>

村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。

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