2024/8/7
第13回 機械翻訳支援ツール「GreenT」
小室誠一:Director of BABEL eTrans Tech Lab
今回から、翻訳に役立つツールを具体的に紹介して参ります。
最初に取り上げるのは、機械翻訳支援ツールの「GreenT」です。
GreenTは、CATツールというより、Word用のアドインとして設計されたニューラル機械翻訳支援ツールです。このツールは、クラウドベースの機械翻訳エンジンと連携し、暗号化された通信を使用して翻訳と編集を強化します。用語集を使用して正確な用語を維持しながら、翻訳をカスタマイズするための前編集と後編集のプロセスがあります。
すでに5年ぐらい前から公開されているツールで、その当時、The Professional Translatorでも取り上げたことがありますが、本年(2024年)5月のバージョンアップで、翻訳や推敲の支援としてChatGPTを利用できるようになったということで、改めて紹介したいと思います。
■GreenTを使ってみる
GreenTは、エヌ・アイ・ティー株式会社代表の新田順也氏が開発したWordアドインで、翻訳者のためのニューラル機械翻訳(NMT)の翻訳支援ツールです。
https://www.wordvbalab.com/word-addin/greent/
無料お試し版が用意されているので、手軽に試用することができます。
https://www.wordvbalab.com/word-addin/greent/how-to-start-free-trial/
お試し版は、無料で60日間10万文字(もしくは5万語)試用でき、試用期間中の機能制限もありません。
早速、ダウンロードしてインストールしましょう。
ダウンロードファイルは2種類ありますが、自動インストーラー付き「GreenT」のほうが簡単にインストールできるのでお勧めです。
うまくインストールされるとWordの「アドイン」タブに、一連のボタンが表示されます。
まず、体験版のライセンスコードを取得する必要がありますが、詳しくは、この「GreenT 無料お試し版のご利用方法」のページをご覧ください。分かりやすく説明されています。
準備が整ったら、翻訳する文書をWordで開いて、上図の「GreenT」ボタンをクリックしてください。GreenTの画面が開きます。
この例では、英語から日本語へ翻訳するので、「E2J」にチェックを入れています。
これで、とりあえず準備完了です。
色々な設定は後回しにして、一通り、翻訳の流れを見てみましょう。
原文の先頭にカーソルがあることを確認して、「次へ」をクリックします。
すると、最初の文が、GreenTの原文欄にコピーされます。
訳文欄のタブを見るとデフォルトで「DeepL」がアクティブになっています。そのまま「GreenT」ボタンをクリックしてみましょう。
出力文を見ると、後半の「ビデンの呼び出しを拒否」が不自然ですね。「ビデン」って一体誰のこと?という感じです。
試しに、「Google」タブをアクティブにして、再度「GreenT」ボタンをクリックしてみます。
今度は納得できる訳文が出力されました。
さて、ここで、GreenTの最新バージョンで追加された「ChatGPT」の訳文を見ておきましょう。
「ChatGPT」では、3つまで訳文を出力することができますが、今回は2つに設定しています。
GoogleとDeepLが、DECLINESを「拒否」と訳しているところを、ChatGPTは、「断る」「応じず」と訳していて、表現の幅が広がっています。(ChatGPTに関する機能は最後にもう一度取り上げます)。
機械翻訳は複数のエンジンの出力を比較することで十分に役に立つという見本です。
ここで、「比較」ボタンをクリックしてみてください。
「GreenT Diff Tool Tabs」画面が開いて、2つの翻訳エンジンの訳文が比較されています。異なった部分が黄色くマーキングされているので違いが一目で分かります。
この辺りは、実務を知り尽くした開発者のセンスが際立っています。
さて、訳文欄の訳文は自由に編集できます。
ひとまず、Googleの訳文を採用したうえで、見出しに相応しいように、少し手直しして完成させます。
完成したら、「挿入」をクリックします。
訳文が原文に上書きされます。
それと同時に、次の文が原文欄にコピーされます。
このようにして、1文ずつ翻訳を進めていきます。
スタイルの設定
ニューラル機械翻訳では、スタイルのコントロールは難しく、最終的に訳文を修正する必要があります。最近のDeepLなどでは、文体(常体、敬体)の指定はできるようになっていますが、その程度です。
GreenTの「Style」タブを表示してみると、多くの指定項目があります。
スタイルの設定は、「General」と「Field Specific」に分かれていて、「Field Specific」では、「特許明細書」「法務」「IT Manual」の3ジャンルから選択できます。
「General」では、「文末表現の自動修正」で「常体」「敬体」を選択できるほか、日付の形式の指定など、ツボを押さえた項目が並んでいます。
事前にこれらの項目を指定しておけば、あとで修正する手間が少なくなります。
機械翻訳を支援する機能
機械翻訳を活用するには、作業プロセスが大切であることは、この連載でも何度も説明してきましたが、このGreenTでもしっかりと基本となるプロセスが組み込まれています。
上図の右側を見ると、「プリエディット」「用語集」「ポストエディット」「数字チェック」の項目があり、この順番に処理されていきます。
例えば、「プリエディット」では、[Punctuation] [Insert Paragraph]が指摘されていて、この項目をダブルクリックすると原文の該当箇所がマーキングされます。
その状態で「適用」をクリックすると該当箇所で改行されます。
その結果、2つの文に訳されます。
次に、「ポストエディット」に注目してみましょう。
「その理由の一つは、」の「は」に対する書き換え候補が示されています。
必要に応じて「適用」してから文を整えます。
QA機能:用語集のチェック、数字のチェック、特許翻訳での図面番号のチェックなどができます。「QAチェックを自動で実行する」設定にしておけば、機械翻訳を実行した直後に毎回チェックが実行されます。
ChatGPTに対応
最後に、今回追加されたChatGPTの機能を見ておきましょう。
GoogleやDeepLと同様にChatGPTの訳文を出力するのはもちろんですが、それ以外に、翻訳作業の各ステップで役に立つ機能が備わっています。
「ChatGPT」タブを開いてみると、さらに「Pre-edit」「Translate」「Revise」のタブがあり、ここでそれぞれの設定ができます。
「Pre-edit」を使うと、原文を別の表現に言い換えることができます。
「Translate」では翻訳する場合の指示(プロンプト)を指定できます。
「Revise」では訳文のブラッシュアップを行うことができます。
ChatGPTの持つ、翻訳周辺の支援機能を効率的に利用するための工夫が詰め込まれています。
詳しい使い方は、作者のWebページで、動画も含め、分かりやすく解説されています。
BABEL eトランステクノロジー研究室
https://www.youtube.com/channel/UCpwhJgDgTHkwia7EVUvorcg
PDF版