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2024年4月8日 第337号 World News Insight             (Alumni編集室改め)                      今だからこそ、翻訳のすすめ!!                                 バベル翻訳専門職大学院 副学長 堀田都茂樹

「学問のすすめ」

天は人の上に人を造らず、人の下に人をつくらず、と云えり。

 人は生まれながら平等であると言われているが、現実には大きな差がある。それはなぜであろうか。その理由は、学んだか学ばなかったかによるものである。学問を身につけ、自分の役割を果たし独立すべき。自由とわがままは異なる。学問とはその分限を知ることである。自分の行いを正し、学問を志し、知識を広め、各自の立場に応じて才能と人格を磨き、外国と対等に付き合い、日本の独立と平和を守ることが急務である。 

  福澤諭吉の「学問のすすめ」は、明治維新の5年後、1872~76年に書かれています。 

 人口が3500万人の当時、340万部も売れた驚異のベストセラー、今日で言えば、日本の人口が1億2千万人であるとすると、なんと1200万部ということになります。 当時の日本は明治維新を経て、言わば強制的に鎖国を解かれ、本格的なグローバル社会へ突入した、まさに激動期、社会、国家革命を目前にした時です。 

 この本は、まさに新しい時代を拓く指南書として多くの日本人が貪り読んだ本でした。

従って、「学問のすすめ」は単なる個人の能力至上主義を唱えたものではなく、個人の社会的あり方、役割を説いたもので、個人が自立するなかで国家自体の繁栄が成し遂げられる事を説いています。これが独立自尊という事です。

 今という時代の課題を考えると、当時、日本が直面していた難題と不思議と符合すると言われます。

・グローバル化の波が押し寄せ、右往左往する主体性を欠く日本

・近隣諸国が謂れなき侵略意図をほのめかし、

・国は長期の財政赤字で破綻寸前

・政府は企業優先、庶民を顧みない

・社会制度の崩壊、遅々として進まない構造改革

等々の状況を見ても、当時、福澤が指摘すると同様、今こそ、次の時代への明確な展望を持つべきときに来ていると思います。国に依存せずに、個々が自らできることを自覚するときにあると考えます。 

 そんな時代に福澤諭吉が唱えたのが 「実学のすすめ」です 。ここで私は、時代意識を転換する新しい視点として、優れて実践的な学であるべき翻訳、日本の世界における新たな役割を示唆する「翻訳のすすめ」を今こそ皆さんとともに考えていきたいと考えます。 

 世界がボーダレス一つになる中、各々の言語を生かしつつ、情報の共有化を図り、世界を融和、相互発展させるには『 翻訳 』は欠かせない方法論と考えます。日本は翻訳立国と言われて久しいにも係わらず、国家レベルの施策において翻訳の占める位置付けはあまりにも低いとしか言いようがありません。細やかなコミュニケーションスタイルをもつ日本人の特性を持ってすれば、多・双方向翻訳で『翻訳再立国』を果たし、東西、南北の橋渡しとなり、日本と世界との情報格差を無くし、その多・双方向翻訳力を持って世界に貢献するという図式もあながち夢物語ではないと考えます。 

 そのために、本年で創業50年を迎えるバベルは翻訳専門職大学院を2000年に設立しましたが、翻訳高等教育の在りかたにとどまらず、国家レベルの施策としての『 翻訳ナショナリズムの構築』をめざしてきました。 

 日本は明治維新以来、福沢諭吉をはじめ、西周、中江兆民をはじめ多くの啓蒙家が、西欧の文化、文物を和魂洋才を念頭に急速に取り入れ、日本語を堅持しつつ、国家の近代化を果たしてきました。これは、換言すれば、翻訳を通して日本語で当時の西欧の先進文化、文明を移入してきたと言えます。俗に、翻訳立国日本と言われる所以です。 

 六世紀から七世紀にかけて中国文化を移入したときには大和言葉と漢語を組み合わせて翻訳語を創り、明治維新以降は西欧の人文科学、社会科学等のそれまで日本にはなかった抽象概念を翻訳語として生み出してきました。societyが社会、  justiceが正義、truthが真理、reasonが理性、その他、良心、主観、体制、構造、弁証法、疎外、実存、危機、等々、これらの翻訳日本語は現在のわたしたちには何の違和感もなくなじんできているのは承知の通りです。 

 翻って、この翻訳の現代に占める社会的位置は、と考えてみると、不思議なくらい、その存在感が読み取れません。 

 もちろん、巷では、翻訳書を読み、政府、また企業でも多くの予算を翻訳に割いています。また、ドストエフスキー、トーマス・マンをはじめ、世界中の古典文学を何の不自由もなく親しめる環境があるのも事実です。また、将来を展望しても、AIテクノロジーによる更なるボーダレス化を考えても翻訳は計り知れないビジネスボリュームを抱えています。 

 一説には、一般企業が年間に外注する翻訳量は金額に換算して、3000億円市場とも言われます。これに、政府関係、出版関係(デジタルを含む)、更にアニメ、マンガといったコンテンツ産業関連を加算すれば、優に、2兆円を越える市場規模になると言われます。ニューロコンピューティング、AIも視野に入れるとその規模は幾何級数的に試算できるかも。 

 とすると、過去は言うに及ばず、今後、日本のビジネス取引、文化形成における翻訳の役割は、想像以上に大きいと言わざるを得ません。そうした認識をふまえ、現状の日本の翻訳の在るべきかたちを見直し、西と東の融合に大きなきっかけを提示できればと考えます。 

 今、偉大なる翻訳者、福澤諭吉が生きていれば???

かれは豪放にこう言い放ったかもしれません。 

『一身独立すれば一家が独立し一国が独立する。一人ひとりがその目で世界を観て、世界の中で日本の果たすべき役割を考えよ。日本はその深く、細やかなコミュニケーション力をもって世界の融和に果たせる力量を備えているということは誰しも否定しないであろう。まずは大志を抱き一人ひとりが行動してみよう。やってもみないで事の成否を疑うな!』 

  更に、福澤諭吉は、翻訳者はどうあるべきかを問われて、こう言うかもしれません。

『行動する翻訳者たれ!!、翻訳を再定義せよ!! その目で、その五感で良きものを見極め、それを己の文化に取り込み、更に己の文化を掘り下げこれを世界に伝えよ!そして、

東西の半ばに立ち、東西文化、東西文明の融合に尽力せよ!!』と。

 

 諭吉さん!これが、今まさにバベルが取り組んでいるいる ‘知求翻訳図書館’ 事業かと!!

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