2022年8月22日 第322号 World News Insight (ALUMNI編集室改め)
発行:バベル翻訳専門職大学院 ALUMNI Association
こども家庭庁は本当に'日本の子ども'のことを考えているのか ?!
バベル翻訳専門職大学院(USA) 副学長 堀田都茂樹
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今回は、日本のこども家庭庁の安易な子供施策を世界的な視野から、批判的に観ていきたいと思います。
そもそも、こども家庭庁とは、内閣府の外局として4月1日から発足し、岸田政権が重要政策として挙げている子どもの権利や福祉の向上など、今まで内閣府や厚労省が別々にやっていたところを1つにしていくということで発足しています。
確かに、子どもが親などから虐待を受けたとして、児童相談所が相談を受けて対応した件数は昨年度20万7,000件余りで過去最多を更新したとのことで、これを改善する試みは最優先かとは思います。
しかし、その他の施策を見る限り、拙速、稚拙な対応は避けるべきかと思います。
こども家庭庁での課題として認識とされている少子化の問題ですが、2022年に生まれた赤ちゃんの数、出生数が前年比5.1%減の79万9,728人で、1899年の統計開始以来、初めて80万人を下回り、ここ数年で急速に落ち込んでいると言われます。国の推計よりも10年早いペースでということなので、これは確かに大きな問題です。2040年になると、もう2人に1人が独身になるというデータもあるそうです。しかし、そもそも、この少子化の主たる要因は、それぞれの家庭が子供を産まなくなったというより、若い人が経済的不安で結婚できなくなっていることが主因でこれを問題とするべきでしょう。デフレを30年も脱却できていない、日本政府の国家運営の失策がその主要因なので、本末転倒としか言いようがありません。
小倉將信こども政策担当大臣は、少子化対策や子育て支援に対する理解を広げるために、「こどもまんなかアクション」という国民運動を始め、全国各地でリレー形式のシンポジウムを開いたり、企業や自治体の子育て支援をSNSで発信したり、サッカー元日本代表の丸山桂里奈さんや岸田総理が参加して子育て体験について話し合いの場を設けたと言います。
その予算は5兆円と言われていますが、実のところ、例えば15歳以下の扶養控除とか、特定扶養控除をカットしたりしているだけです。児童手当拡大といっても、扶養控除を廃止して出しています。「控除を廃止して手当にするので財源がありません」とのこと。更には、高校1年生、16歳以上の扶養控除もなくそうという案まであるのです。
結局のところ、 社会保障費、すなわち増税を考えているとのこと。あきれるばかりです。これは家計が苦しくなって結局子どもをつくらなくなってしまうと、これは本来のこども家庭庁の少子化対策に反することになります。
また、日本政府はデジタル庁に象徴されるように、何かとデジタル、デジタルと謳い、個人情報を食い尽くし、売り飛ばそうとしています。マイナンバーカードのお粗末な制度設計からはじまり、デジタル化に猛進をしています。欧米ではすでにこの方向での失敗を経験して、揺り戻しが起こっているにもかかわらず、です。子供の個人情報を、内外の企業に売り飛ばそうともくろんでいるとしか思えません。
デジタルバカの極めつけは、「埼玉県久喜市立鷺宮中学校では、生徒31人の手首に脈拍を計るリストバンド型の端末を巻き、集中度をほぼリアルタイムで把握できる日本初のシステムを今年5月に開始した。データは専用の機器に自動送信され、インターネットを通じてサーバーへ集められる。サーバー上で脈拍データから1人1人の集中度が割り出され、教師のパソコンに折れ線グラフで表示される仕組みだ」と言う。
こんな愚行は、使い方に気を付けないと教室全体が息苦しくなります。子どもの集中度が先生の手元のパソコンにグラフ化される訳です。しかし、集中というのは、先生の話が面白ければ集中できるわけで、先生の職務放棄としか思えません。先生も生徒の表情を見てではなくて、パソコンを見るようになります。子どもたちがデータになってしまいます。テクノロジーに乗り遅れたくないというのがすごく日本の各自治体や学校や政府は強いので、テクノロジーをワーッと入れてしまうのですが、特に教育分野に関してはアナログの大事さという原点をしっかり見つめるべきでしょう。
それから更に問題なのは、今回のこども家庭庁の施策が、日本人の子供に注視しているより、外国人、外国人の子供を増やしていこうという施策に見えてしまうという事です。
現代の奴隷制度などといって批判されている特定技能実習生ですが、これが中抜きビジネス、ものすごい利権になってしまっています。それは日本側のエージェントもそうだし、外国から実習生が来る時の本国のブローカーのすごい利権になってしまっているという情けない状況です。
アメリカではご存知の通り、移民の問題は不法移民も含めて社会の火種になっていて、トランプ大統領がメキシコの壁を再建し国の安全を確保しようとしたにも関わらず、バイデンさんがそれをまた戻して、大きな社会問題になっています。
ヨーロッパですと、ドイツとかスウェーデンが多くの移民を入れたのですが、犯罪率が非常に上がってしまって社会問題になっています。ですから今は、先進国では、脱移民政策を揚げた党が政権を取ったり、移民政策が厳格化の方向に向かっており、言わば、揺り戻しが起こっています。
マイナンバー制度のようなものもしかりですが、同じように見直し、揺り戻しになっているというのが世界の潮流なのです。しかし、なぜか日本は、世界で問題がたくさん起きて1回引き返している時に始めるという時代錯誤。水道民営化、マイナンバーカード、移民受け入れ、食の安全基準、外国人への自国の土地の規制など、こういうのは全部ほかの国が「ちょっと規制をしましょうよ」という時に日本は食いつく。
そもそも、最近、ハーバード大学のジョージ・ボージャス教授が移民の経済効果を計算したのですが、移民によるGDPの上昇効果というのは、12%ありましたけれど、移民労働者の賃金を引いた経済効果というのを計算したら0.3%くらいしかなかったのです。プラス、警察とか治安維持サービスの経済負担をそこからまた引くとマイナスになってしまうそうです。さらに移民を安く財界が使うので、米国民の賃金がまたそれで価格競争になって下がってしまって、そこでマイナス5%となり、結論としては、途上国からの移民が勝者であり、先進国の大衆、自国民が敗者ではないかと、こういう報告書が出たのです。
すなわち、これは低賃金の仕事に就く前提で入ってくるから、結果として犯罪や治安維持とか自国民の賃金が下がるという結果が出て、経済的には帳尻はマイナスになるということです。
岸田総理たるや、「アラブ首長国連邦は人口1,000万、自国民が100万で900万人の外国人と共生している。カタールは人口300万人で自国民30万人、全国民の9割が外国人という国もある」、という話をしています。しかし、アラブ首長国連邦と日本というのは、まず全然国が違うので、なぜこれを比較したのか、これはかなり意味不明です。かれらは石油収入で潤っている君主制国家ですから、確かに出稼ぎ労働者は多いのですけれども、やはりすごく条件が厳しいのです。単身が条件、日本のように家族をみんな連れてきていいよ、ということはありません。それから失業したら強制送還で、国籍や永住権は取れません。これは完全に今の日本の政策とは違います。
ことほど左様に、こども家庭庁は、先の見通しを待たない、短期的弥縫策、似非代替策に終わっていると言わざるを得ません。象徴的なのが、こども家庭庁発足の2001年の第1次安倍内閣の時から今に至る25年間、四半世紀、担当大臣が21人も変わっていることに現れています。
ここで、翻って、欧米のこども教育事情と比較、対象してみましょう。日本は以下のようなマイナスの幻想をもって、海外に追いつけ、追い越せと空回りしているのが現状です。その辺の事情は、谷本真由美さんの著書「世界のニュースを日本人は何もしらない」に詳しく書かれています。
海外のこども教育の現状に学ぶ必要あるという、そんな教訓です。
・欧米の学校はIT化が当たり前という幻想
オンライン教育の充実は上層だけ
日本のように、 スタディサプリ、進研ゼミ、Z会など、民間の遠隔教育、また問題集、参考書が充実している国では、ある意味オンライン化は不要
・欧米の学校は自由という幻想
欧米では、進学率が高い学校ほどむしろ厳格
・危険な教育環境―誘拐が多発
FBIによると、米国の1年間で行方不明者、76万5千人(日本の出生数とほぼ同じ)、
すなわち、40秒に一人が被害にあっている。対して、日本は年間1万7千人。
かれらは性的目的の人身売買、児童労働搾取、性的虐待のために誘拐され、ここ20年間で救済されたのはたった、2000人に満たない。
ことほど左様に、欧米の教育事情を概観したように、日本は問題がないとは言わないですが、拙速に本来の目的を他に履き替えて実行する愚は控えたい。こども家庭庁の中央からの政府の様々な施策は、利権まみれの本末転倒の施策ばかりと言って過言ではないのではないでしょう。
その意味では、最近は、明石市モデルなど、地方自治体が実施している肌感覚の様々な子供施策に注目していきたい。周回遅れで他国の反省を土台にできる日本だからこそ、拙速は慎みたい。