第 52 回 アメリカ書籍レポート-柴田きえ美
世界の出版事情― 各国のバベル出版リサーチャーより 第 52 回
アメリカ書籍レポート
-2 月- 恋愛小説の季節
柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)
二月に入りましたがいかがお過ごしでしょうか。こちらは日中少し暖かくなってはきているものの、朝、学校へ子供達を送る際には車のフロントガラスが凍っていて、車を暖めてからでないと出発できません。日本にも大寒波が訪れていたようですが、春が待ち遠しいですね。
今回は恋愛小説をご紹介します。書店で特集され、人気ランキング入りした物の中から 3 つ、系統の異なるものを選びました。いろいろと調べていく内に、ロマンス系や恋愛小説といっても様々なジャンルがあることを、改めて実感しました。この機会に、普段は恋愛小説を手に取らないような方にも手に取っていただけたらな、と思います。
著:Jesse Q Sutanto
邦訳:なし
作品について:
しまった。やってしまった。メデリンはちょっとした手違いから、ブラインド・デートの相手を殺してしまった。大学を卒業し、写真家としての仕事にも慣れてき始めた頃だった。悩んだあげく母に相談したところ、たちまちメ
デリンは母と三人のおせっかいな叔母達に囲まれる。中国系インドネシア人の叔母達は、「おばちゃん達にまかしとき。何とかしたるわ!」という“心強い”言葉とともに、死体を処理して事件をなかったことにしようと奮闘す
る。ところが手違いから、メデリン親子と叔母達が仕事として引き受けた、超大金持ちのアジア系カップルの結婚式会場に死体が移送されてしまう。さらにその会場となった、カリフォルニアの豪華ホテルの支配人は、メデリンの大学時代の元彼だった。
実はこの元彼との失恋を大きく引きずっていたメデリン。優しい笑顔を見せる元彼に動揺を隠せない。
だが果たして死体は隠し通すことはできるのか。幸せそうな新郎新婦の秘密とは? このお話には、ロマンス・コメディー・ミステリーの三要素がバランス良く織り交ぜられており、そこにうまくアジア圏の文化がアクセントを聞かせています。メデリンは移民二世。アメリカで育ったメデリンと、アジア文化色の強い叔母達との価値観の違いから悩む様子は、リアルで、著者が体験したそのままを描いている様でもあります。
著者:
インドネシア、シンガポール、オックスフォードを転々としながら育った。オックスフォード大学で修士号を取得。本作品がデビュー作で、シリーズとして次作に『Four Aunties and a Wedding』を出版したほか、ヤングアダルト向けのロマンチックコメディーも書いている。現在はジャカルタで夫と子供達と暮らしている。
著:Dustin Thao
邦題::なし
作品について:
「はい、サムです」17 歳のジュリーは、進学先も決まり、恋人のサムとも順調で、高校卒業後の夏休みには日本に行ってみようと輝かしい未来に胸を躍らせていた。だが、大好きなサムは、亡くなってしまった。悲しみに打ちひしがれるジュリー。サムを失った悲しさをどのように対処すべきか分からず、ただ闇雲にサムを忘れようと、彼を思い出す全ての物を処分してしまう。そして、お葬式にも行かず、閉じこもっていた。――でも、声を聞きたい。会えなくても、せめて声だけでも。サムの携帯番号に発信してみる。「はい、サムです」という留守番電話のメッセージが耳に飛び込んでくる。ジュリーを支える友達や家族、周囲のサポートのもと、少しずつ立ち直り成長していく少女。17 歳という大人に近いがまだまだ幼さも残る年齢の彼女は、この先どのように“生きて”行くのだろうか。さよならを言えなかった相手に、きちんとさよならを言える機会があるのなら、あなたはどうしますか?
著者:
ニューヨーク在住のベトナム系アメリカ人。現在、Northwestern 大学で PhD を目指して勉強中。本作品
がデビュー作で、New York Times や USA TODAY のベストセラー作品として選出された。
著:Misha Bell, (Anna Zaires & Dima Zales)
邦題::なし
作品について:
作品について:
植物学を専攻し、植物を愛するジュノと、鉄面皮で知られる若き億万長者のルシウス。そんな二人がエレベーターに閉じ込められ、ジュノが(うっかり)ルシウスを殺しかけ、無事脱出した二人はパパラッチに『熱愛』報道されてしまった。ルシウスは自分の祖母を安心させるため、背に腹は代えられない、とジュノに婚約者のフリをするよう依頼します。祖母と世間の目をごまかすために始まった「婚約者ごっこ」は、時間が経つごとに本物へと変わって・・・いくのでしょうか。交差することのないはずの二人の人生が、ひょんなことから接点が生まれ、大きなラブストーリーへと紡がれていく。ロマンチックコメディーの王道中の王道です。
著者:
Misha Bell は、Anna Zaires と Dima Zales という作家 2 人組のペンネーム。Anna Zaires はシカゴ大学で経済学を学んだ後、しばらくはウォールストリートで働いていたが、本を書きたいという夢を忘れられず、作家としてデビュー。Dima Zales は、ニューヨークでソフトウェア開発をしていたが、2013 に作家へと転向。ファンタジーやサイエンスフィクションを得意とする。