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第60回 アメリカ書籍レポート

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより 第 60 回

 

アメリカ書籍レポート - 2 月 BookTok でトレンドとなった書籍

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


 

寒さ厳しい季節ですが、いかがお過ごしでしょうか。今回はまず、個人的に楽しみな話題を書かせてください。

2022 年 12 月の記事でご紹介した同年のベストセラー&ロングセラー、『LESSONS IN CHEMISTRY』(著者:ボニー・ガルマス)が、今年 1 月に日本語訳版『化学の授業をはじめます。』(訳:鈴木美朋、文藝春秋)としで刊行されました。米国の書店では現在も面陳列されており、まだまだ人気の作品です。60 年代という時代背景ですが、当時の米国と日本では、世の中の様子はまるで違ったのではないでしようか。果たして日本の読者の反応はどのようなものなのか、気になります。主人公のイメージは同じでも、表紙の印象が異なるのも大変興味深いです。

さて、今月の本のご紹介です。

皆さんは BookTok を利用されているでしょうか。若い世代では TikTok が大変人気との事ですが、 BookTok もそのサービスの一つです。本好きが集まり自分のおすすめの本を紹介し、ユーザーは自分の好みと同じ他ユーザーとつながり、情報共有できます。必ずしも新しい書籍ばかりではなく、昔気に入っていた書籍を掘り起こすこともあり、そればかりか「お勧めしない本」を紹介することもあるのだとか。
この BookTok でトレンドとなった書籍の一部は、ハリウッドで映画化されたり某動画配信サービスでドラマ化されたりといった実績もあるそうです。残念ながら私は SNS に疎いため、つい最近このサービスを知りました。そこで今回は昨年 BookTok で話題となった書籍をいくつかご紹介します。若者向けの SNS だからか、全体的にヤングアダルト向けフィクションが多いような印象です。

 

The Atlas Six (2022)

 

  • 作:オリヴィー・ブレイク
  • 邦訳:『アトラス6』
  • 翻訳:佐田 千織
  • 出版社:早川書房(2023)

作品について:
本書は元々、著者オリヴィー・ブレイクが 2020 年に自費出版したファンタジー小説でした。ところが、BookTok
で話題沸騰となり、注目を集めました。すると、出版社から声が掛かり、編集・追記後に再出版したところ、瞬く間に NYタイムズベストセラーへと選出されました。
魔法使いたちが存在している世界。謎めいた管理人アトラス・ブレイクリーに導かれ集まったリビー、ニコ、カルム、トリスタン、レイナ、そしてパリサの6人は、大昔に滅びたと思われていた、世界中の英知が集まるアレクサンドリア大図書館が実は今も存在していることを知る。秘密結社アレクサンドリア協会は、10 年ごとに特別な力を持つ魔法使いを6人選出し、一年かけて訓練を施したのちにその大図書館の保守管理を任せるのだという。言い換えれば、図書館の管理人となることは、世界最大の権利や名声を得ることと同義だ。しかし、最終選考で選ばれるのは 5 人だけ。果たして、誰が死ななければならないのか――

著者:
オリヴィー・ブレイクはロサンゼルス在住の若手作家。別に Alexene Farol Follmuth 名義でも物語を書いており、主にファンタジー、超常現象、超自然をテーマとした作品を得意としている。イラストレーターの Little Chmura とのウェブトゥーン『クララと悪魔』(原題:Clara and the Devil)や本書アトラス・シリーズなど、いくつかのインディーズ SFF

 

The Inheritance Games (2020)

 

  • 作:ジェニファー・リン・バーンズ
  • 邦訳:なし

作品について:
なんの変哲もない普通の高校生、エイブリー・グラムスのもとに、ある日突然莫大な遺産相続の話が舞い込んだ。全く面識のないトビアス・ホーソンという億万長者が、エイブリーに全財産を譲るという遺言を残したというのだ。遺産相続の条件に従い、エイブリーはホーソン邸に住みこまなければならない。だがそこは、広大で隠し通路が張り巡らされたミステリアスなお屋敷だった。さらに、トビアス氏が生前に追い出したはずの4人の孫も住んでおり、エイブリーを詐欺師だと疑うグレイソン・ホーソンやエイブリーこそが最後のカギであると考えるジェイムソンといった、一筋縄ではいかない面々を相手にしなくてはならない。パズルや謎をこよなく愛していたというトビアス氏。莫大な遺産をかけ、謎と危険に満ちたゲームが今、始まる。Amazon のTV シリーズとして映像化されることが発表されている。

著者:
オクラホマ出身、イエール大学卒。19 歳で初めて小説を書き、大学在学中に5 作品を出版した。同大学でPhD を取得後、自閉症の研究を続け、現在は心理学とプロフェッショナル・ライティングの両方で助教授を務めている。これまでにヤングアダルト小説を20 作以上刊行しており、19 歳で出版した『オーラが見える転校生』(訳:鹿田昌美、ヴィレッジブックス)は日本語訳も出版されている。

 

A Little Life (2015)

 

  • 作:ハニヤ・ヤナギハラ
  • 邦訳:なし

作品について:
マサチューセッツの小さな大学を卒業した4 人が、それぞれの道に進むため、ニューヨークにやってきた。優しくて二枚目、俳優志望のウィレム。頭の回転は速いが時に毒舌、ブルックリン生まれで画家志望のJB。有名な大会社に就職したものの不満を抱えるマルコム。そして、引っ込み思案だが聡明、謎めいたジュード。ジュードが彼らの中心となってグループは繋がっている。数十年にわたり、彼らの関係性はより深まり、より暗くなる。薬物中毒、成功、プライド。様々な経験を経て、よりほの暗く鮮明になるのは、ジュードの抱える闇だった。彼は誰にも言えない幼少期のトラウマを抱えており、克服不可能なそのくらい陰に一生付きまとわれてしまうのだ。
そしてその闇はジュード本人のみならず、周囲の人々の人生にも歪を生じさせてしまう。

著者:
ハワイ出身、ニューヨーク在住。スミス大学卒業後、ニューヨークタイムズの編集者となる。2013年に『森の人々』(訳:山田美明、光文社)を出版し、同年のベストノベルに選ばれる。2015 年に出版した『A Little Life』は、ブッカー賞の最終候補にも残った。

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