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ハリウッド脚本家の危機に学ぶ

世界最大のエンタメ産業であるハリウッドで、脚本家の雇用が深刻な危機に直面しています。
アメリカ脚本家組合(WGA West)の2024年年次財務報告によると、テレビや映画の脚本家の収入と雇用は大幅に減少しました。2023年は組合員による148日間のストライキがあり、その影響で一時的に雇用や収入が落ち込みました。しかし、ストライキがなかった2024年も状況は改善せず、それどころか雇用はさらに42%減少したのです。一方で、組合員全体の収入総額は前年比で12.7%増加しましたが、2022年比では21%も下回っています。

背景にあるビジネスモデルの変化
The Hollywood Reporterは、この統計結果の背景として次のような要因を挙げています。
• 配信サービスの投資抑制:2010年代に急成長したストリーミング配信市場では大量のオリジナル作品が制作されましたが、その成長期は終わりを迎えました。現在は作品数が抑制され、脚本家の仕事も減少しています。
• リスク回避的な経営文化:投資家から「コンテンツにお金をかけすぎだ」という圧力が強まり、スタジオや配信会社はコスト削減を優先。作品数や予算が縮小しています。
• ジャンルの縮小:ニュース、宣伝、情報番組などの分野では特に雇用が急減しています。
結果として、物語を生み出す根幹を担う脚本家が最も大きな打撃を受け、キャリアを維持することが難しくなっているのです。

日本での脚本家の現状
この課題はハリウッドだけの問題ではありません。日本の脚本家も同じような状況に直面しています。
• 地上波テレビではドラマ枠が縮小され、一本あたりの脚本料も高額とは言えません。
• NetflixやAmazon Primeといった配信サービスが日本作品を扱うようになったものの、報酬体系はまだ発展途上です。
• 新人がデビューしても継続的に仕事を得るのは難しく、脚本だけで生計を立てられる人はごく一部に限られています。

打開策の方向性
それでも、脚本家にとって新たな可能性は広がっています。以下のような打開策が考えられます。
• メディア形態の多角化:ゲームシナリオ、オーディオドラマ、YouTubeなど、多様なメディアで活躍の場を広げることができます。脚本家のシナリオライティングの能力は、さまざまな領域に応用しやすいという利点があります。
• ニッチ分野での専門性確立:メディア形態は多角化する一方で、コンテンツの専門性が問われています。特定の地域・観光・文化関連のストーリー制作、特定読者層(高齢者、子育て世代など)向けに深堀りしたコンテンツには需要があります。また、企業研修や教育コンテンツも、安定収入を確保できる可能性があります。
• 海外市場への展開:海外作品への理解や言語力を活かし、日本の作品を翻訳して海外に発信したり、国際共同制作に参加したりする道もあります。多様性が重視される今、異なる文化の視点を持つ脚本家は貴重な存在です。
• 個人ブランドの確立:これまでの記事でも述べてきたような、オリジナル作品を自ら発信し、ファンとの接点を築くことで、ライターとしてのブランドを強化できます。

ハリウッドの脚本家たちが直面する仕事の減少は、日本の脚本家にとっても決して他人事ではありません。むしろ、同じ波はすでに押し寄せています。しかし、メディアが多様化する今だからこそ、脚本家の仕事の場も広がる可能性があります。
大切なのは「テレビだけ」「映画だけ」にとらわれず、自らの表現を発信し続けること。
これから脚本家を目指す方にとって、課題は多いものの、新しい可能性も同時に広がっています。
そして、この課題と可能性は、脚本家に限らず作家・ライター全般に通じるテーマでもあるでしょう。

【参照記事】
The Hollywood Reporterの記事
https://www.hollywoodreporter.com/business/business-news/tv-film-writing-jobs-down-earnings-up-2024-1236301943/

<ライタープロフィール>

村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。

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