第 9 回 世界のブックフェア、2024 年の振り返りと 2025 年の展望
2024年に開催された主要な国際ブックフェア
フランクフルト・ブックフェア(ドイツ)
2024 年のフランクフルト・ブックフェアは、若い成人層をターゲットにした「ニューアダルト」ジャンルが注目を集め、また、韓国、中国、インドを中心とするアジア市場の成長に関心が向けられました。さらに、AI やデジタル出版に焦点を当てたセミナーが人気を博し、出版におけるサステイナビリティも大きなテーマとなりました。
ニューデリー・ワールド・ブックフェア(インド)
アジア最大級のニューデリー・ワールド・ブックフェア。2024年は、インドの多言語文化とその豊かな伝統を称える場として開催されました。インド国内で話されている 22 の公用語をはじめ、地域言語や方言による文学の展示が行われ、多文化共生の象徴的なイベントとなりました。また、出版業界を通じて、インドの多様な文化的アイデンティティを国際的に発信する成功例となりました。
ロンドン・ブックフェア(イギリス)
2024 年のロンドン・ブックフェアは、パンデミック後の出版業界の復活と成長を象徴するイベントでした。特に、翻訳文学の需要増加、セルフパブリッシングの台頭、AI 技術の活用、サステイナビリティが今後の業界を形作る重要な要素として浮き彫りになりました。今回のフェアでは、ロマンスとファンタジーを融合した「ロマンタジー」ジャンルが注目を集めました。
北京国際ブックフェア(中国)
2024 年の北京国際ブックフェアは、アゼルバイジャン、チェコ、ナイジェリア、ノルウェー、スロバキア、カタールなど、15 の国と地域が初めて参加し、国際的な広がりを強化する中、特に学術出版や教育分野での国際協力が深化しました。さらに、デジタル出版や AI を活用した新技術の活用、サステイナブルな出版形態など、今後の出版業界の方向性を示唆する内容となりました。翻訳権取引が例年を超える規模で行われ、中国語圏と国際市場の橋渡し役を果たしました。
2024 年ブックフェア概観
2024 年の国際ブックフェアは、多文化共生、環境問題、デジタル技術などの多様なテーマを取り入れた成功の年でした。各地のフェアがそれぞれの地域性や国際性を活かし、文学と出版業界に新たな刺激を与えたのが特徴です。特に、AI やサステイナビリティが出版物やイベントの中核テーマとなり、未来志向のトレンドが明確に見られました。
出版業界、2025 年の展望
2025 年は、出版業界がさらなるデジタル化、持続可能性、多様性を推進しながら、国際的な文学交流を深める年になると期待されています。
最も注目されるのはAI 技術の目覚ましい進歩ですが、今後は、AI を利用した翻訳、物語生成、マーケティングツールの活用がますます広がると予想されます。また、特に若い世代を中心に、デジタル形式の出版物が増加する傾向にあり、オーディオブックや電子書籍が、グローバルな出版市場の成長を牽引するものと思われます。同時に、環境に配慮した印刷技術や再生可能な素材の採用も拡大しており、従来の紙の本も共存する形で存続すると予想されます。
また、セルフパブリッシングの普及により、新人作家やニッチなジャンルの声が世界中の読者に届くことが期待されています。同様に、小規模出版社が独自のアプローチで国際的な注目を集める機会も増えてきており、出版される書籍の多様性の広がりに継続して貢献することになりそうです。
出版ジャンルのトレンドとしては、今世界中の注目を集めている気候変動をテーマにした文学、いわゆる気候変動フィクションが、出版業界で重要なジャンルに成長しています。このジャンルは、2025 年のブックフェアでも話題となりそうです。
このように、2025 年のブックフェアは、デジタル技術や持続可能性、多文化的な視点が主軸となり、出版業界全体の革新と成長を促進する年になるでしょう。それぞれのフェアが独自の特徴を持ちながら、出版業界の国際的な交流を深め、読者と作家の新しいつながりを生み出す場となることが期待されます。
荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。