東アジア・ニュースレター
海外メディアからみた東アジアと日本
第190回

バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座
中国と米国政府は9月の米中首脳会談の数日後、600億ドル相当の品目について関税引き下げに合意したと発表した。米国の対中輸出と中国の対米輸出についてそれぞれ約300億ドル分の品目を対象としている。この合意は今後、貿易や関税に関するより真剣な対話の場を設ける仕組みとなる可能性があるとの見方もあり、注目されている。
台湾におけるAIブームの経済全般に対するトリクルダウン効果が注目されている。メディアは、米国よりも経済規模が小さく、かつAI用半導体産業の最先端を走る台湾や韓国での事例が参考になると指摘し、両者は共に輸出の増大でGDP成長率が飛躍的に伸びて個人消費も加速し、特にそれが台湾で顕著だと報じる。
韓国政府がアラスカ・ガス案件をめぐってトランプ米政権と対立している。米政府は開発業者がまだ未承認の同案件に関し、韓国政府が投資を約束したと大々的に発表したためである。韓国は自国の参画は「商業的合理性」および国内の法的要件に従うと反論している。日本のエネルギー事情にも大きく関わる案件であり、動向を注視したい。
北朝鮮がロシアのプーチン大統領との関係強化と資金源の多様化を狙って、交戦地帯にあるロシアの工場へ女性を含む労働者の派遣を増やしている。同時に金総書記の対ロ関係強化の狙いの背景として、中国が歴史的に有してきた強大な影響力を抑え、外国からの支援を分散化させる思惑があると指摘されている。
東南アジア関係では、フィリピン政府がEUとの貿易協定で実質的合意に達した。EUはフィリピンにとって第4位の貿易相手国であり、協定は政府調達契約、知的財産、デジタル貿易などを対象とし、貿易総額の97%以上を占める94%以上の関税品目を自由化するとされており、フィリピンにとって大きな意義がある。
インドが中国に追いつくための最善策は、民主主義体制を守り続けることだとメディアが強調する。中国が経済、技術、軍事の面でインドを凌駕しているとはいえ、それだけで権威主義が優れた体制だとは限らないと主張する。中国のインドを凌ぐ急成長は、権威主義体制のためという見方は単純で根拠となる証拠はないと指摘する。
主要紙社説・論説欄では、日銀の金融政策の現状を取り上げた。日銀は、インフレと円相場動向、日本投資家による対米投資資金の対日還流の動きなどの問題を抱えながら、日米両政府からの相反する圧力に直面している。
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北東アジア
中 国
☆ 米中両政府、大規模な関税引き下げに合意
米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席は9月24日、米国のワシントンD.C.で、トランプ政権の2期目で3度目となる首脳会談を行った。その数日後、米中両国が600億ドル相当の品目に対する関税の引き下げで合意したと、9月29日付けタイム誌が報じる。記事は、この合意は習主席とトランプ大統領がワシントンD.C.で会談し、貿易休戦を1月10日まで延長することで合意してから数日後のことであり、昨年の貿易戦争の激化により関税が法外な水準にまで引き上げられた後、世界の大国である両国間の経済的緊張を緩和するための最新の取り組みとなると述べ、さらに以下のように報じる。
米国と中国は9月27日、米国の石炭から中国製のおもちゃに至るまで、600億ドル相当の品目に対する関税を引き下げることで合意した。27日の夜に行われたこの発表は、「30対30」枠組みに基づくもので、米国から中国への輸出約300億ドル分と、中国から米国への輸出約300億ドル分を対象としている。5月のトランプ大統領の北京訪問時に設立された米中貿易委員会は、「非敏感品」に対するより有利な関税措置を推奨していた。提案されている関税引き下げは、生きた馬やラクダ、釣り具など、幅広い品目に恩恵をもたらすことになる。ホワイトハウスは、関税引き下げの規模や実施時期についてはまだ明らかにしていないが、中国商務省は、各リストに掲載された製品の約90%について、製品ごとに異なる通常の基準関税率である「最恵国待遇」の水準に戻ると述べた。ジェイミソン・グリア米国通商代表は声明で、「トランプ政権は、農産物およびエネルギーの購入に関する約束の履行を確保し、非敏感品目における均衡のとれた貿易を追求し、米国の農家、製造業者、企業、労働者の市場アクセスを確保することで、中国との公正かつ均衡のとれた互恵的な貿易を追求し続ける」と述べた。中国商務省は月曜日、この合意が米中貿易関係を「さらに安定させる」とともに、中国からの対米輸出に「好条件をもたらす」と語った。
両国は2025年5月、中国製品に対する追加関税を30%、米国製品に対する追加関税を10%にそれぞれ引き下げることで合意して以来、貿易休戦を繰り返し延長してきた。2月に最高裁がトランプ大統領の緊急関税を無効とした後、トランプ政権は、中国の貿易慣行を対象とした以前の「セクション301」関税や「セクション232」のセクター別関税に加え、多くの中国製品に対して別途12.5%の関税を課した。トランプ氏は、関税を活用して中国との貿易赤字を縮小し、製造業を米国に呼び戻そうとしてきた。グリア代表は金曜日、CNBCに対し、トランプ氏の大統領就任以来、中国との物品貿易赤字は40%減少したと語った。国勢調査局のデータによると、2024年の2,950億ドルに比べ、今年の赤字額は1,400億ドルになる見通しだという。
しかし、関税戦争は両国の経済に負担をかけ、中国の輸出業者に他の市場を模索させる結果にもなった。米国の企業経営者たちは以前、本誌に対し、急激な関税の変更がコストを押し上げ、中国からの生産移転を検討せざるを得なくなったと語っていたが、その移転には法外な費用がかかる可能性がある。「これは関税の壁を打ち壊すというよりは、安全弁を開けるようなものだ。圧力を逃がすには十分だが、対立の構造を変えるには不十分だ」と、シンガポール経営大学の法学部教授であるヘンリー・ガオ氏は述べる。「双方に一息つく余裕を与えるかもしれないが、これは貿易戦争を終わらせるというよりは一時停止させることを主眼としており、単に次の戦いの土台を築くだけかもしれない」。シンガポールを拠点とするヒンリッヒ財団の通商政策責任者であるデボラ・エルムズ氏は、今回の関税引き下げは「主要な課題に取り組むことなく関税を引き下げることができることを示す、主に象徴的な手段だ」と語っているが、次のように付け加えた。「少なくとも、これは将来、より真剣な貿易や関税に関する対話の場を設けるための仕組みを提供するものである」。
この合意には、日常品など1,619品目の米国産製品に対する関税引き下げも推奨されている。ガオ氏は、トランプ政権が「中国の日常的な消費財」に焦点を当てていることは、11月の中間選挙を前に「家計の負担を軽減し、有権者に具体的な価格面での救済を提供しようとする取り組み」を示していると指摘する。中国の立場からすれば、農業、エネルギー、木材、医療機器などを含む米国の品目リストは、「国内のニーズに対応しつつ、政治的に影響力のある米国の有権者層にも利益をもたらす」ものだと同氏は述べている。エルムズ氏は、「中国の『極めて長いリスト』には、中国へ大量に輸出されていない膨大な量の商品が網羅されている」と付け加えた。上海にある中央ヨーロッパ国際ビジネススクール(CEIBS)の副学長兼共同学部長で経済学教授の朱天氏は、本誌に対し、製品の選定は「慎重な」アプローチを反映しており、この合意はむしろ双方間の「信頼醸成措置」であると示唆した。
いわゆる「30対30」枠組みの下で米国と中国はそれぞれ、2024年の貿易額に基づき、「将来、より有利な関税待遇の恩恵を受ける可能性のある」非敏感品目の貿易を300億ドル分ずつ提案したと、グリア氏は日曜日に述べた。「このリストにより、中国向け米国輸出の約30%について市場アクセスが改善されるだろう」とグリア氏は述べた。貿易委員会は「緊張緩和に制度的な枠組みを与えるものだ」とガオ氏は本誌に語った。しかし同氏は、この枠組みが「技術、補助金、産業政策、国家安全保障をめぐる核心的な争点」を回避している点にも言及した。拘束力のある条約上の約束ではなく、国内措置を通じて実施される可能性が高い多くの譲歩は、容易に撤回されかねないと同氏は警告する。また、休戦期間が1月に満了することを踏まえ、ガオ氏は「これは永続的な平和というよりは、ヘビー級ボクサー同士の試合におけるハーフタイムの休憩のようなものだ。双方が一息つくことはできるが、最終ラウンドのゴングはまだ鳴っていない」と述べている。
この枠組みの対象外となっている「敏感品目」には、半導体、バッテリー、電気自動車などが含まれる。「両政府は、政治的に有益な分野では自由化を進めつつ、戦略的に必要な分野では圧力を維持している」とガオ氏は述べる。
それでも、「30対30」の枠組みは、米国と他国との間の「迅速かつ取引ベースの貿易交渉のための有用なテンプレート」となり得ると指摘する。このような枠組みにより、各国は「譲歩額をドル換算で一致させ、戦略的分野を保護し、包括的な貿易協定を交渉する負担を負うことなく、政治的に目に見える成果を上げることができる」という。2024年の貿易額(米国から中国への輸出が1,435億ドル、中国から米国への輸出が4,389億ドル)に基づくと、対象となる商品の額は、米国から中国への輸出の約21%、中国から米国への輸出の約7%を占める。ガオ氏は、関税引き下げは「特定の輸出業者、輸入業者、および消費者にとって有意義な救済となる」と述べているが、これはあくまで提案段階であり、まだ実施されていないと注意を促している。
貿易休戦が1月10日以降も延長されるかどうかを含め、不確実性が依然として残っているため、企業、特に昨年の関税戦争の最中に代替サプライヤーの模索を始めた企業にとっては、計画立案が依然として困難になる可能性がある。「貿易額が同等であっても、必ずしも同等の経済的利益が得られるとは限らない。また、容易に撤回可能な関税引き下げでは、企業が長期的な投資や供給網の構築を行う上で確固たる見通しを得ることが難しい」。「貿易額の均衡が必ずしも同等の経済的利益をもたらすとは限らず、容易に撤回可能な関税引き下げでは、企業が長期的な投資やサプライチェーンの計画を立てる上で確固たる見通しを得ることが難しい」とガオ氏は述べる。特に米国産の大豆(丸豆)は中国の対象リストに含まれておらず、依然として10%の追加関税が課されている。中国がこの製品の購入量を減らしたことで米国農家に打撃を与えたことを受け、同製品は貿易交渉における重要な交渉材料となってきた。「明らかに、クリスマスオーナメントの注文をまだ受け取っていない米国の輸入業者にとっては、今回の関税引き下げは助けになるだろう」とエルムズ氏は、木製のクリスマスオーナメントや造花が米国の中国製品リストに含まれたことに言及して述べた。「しかし、概して言えば今回提案されている関税引き下げは、どちらの市場の消費者にとっても経済的圧力を緩和することにはならないだろう」。
以上のように、米中両国は9月の首脳会談の数日後、突然、600億ドル相当の品目に対する大幅な関税引き下げに合意したと発表した。合意は、米国の対中輸出約300億ドル分と中国の対米輸出約300億ドル分を対象とする「30対30」枠組みに基づくもので、半導体や電気自動車などの敏感品目は除外されている。また、この合意は、国家安全保障をめぐる核心的な争点を回避しており、拘束力のある条約上の約束でもないことなどから、貿易戦争を一時停止させるだけの措置だとも指摘されている。ただし、米中両国の経済的緊張を緩和するための最新の取り組みであり、将来、より真剣な貿易や関税に関する対話の場を設けるための仕組みを提供するとの見方もあり、米中の貿易戦争の終結に結び付いていくのか、注目したい。
台 湾
☆ 台湾と韓国が示唆するAIブームの経済効果
AIブームによる、水がしたたり落ちるようなトリクルダウン効果、すなわちAIへの投資は、どれほどの速さで社会全体への利益になるように浸透していくのかと、9月17日付けエコノミスト誌が問題提起し、その答えは台湾と韓国の事例が示唆すると概略以下のように論じる。
そもそもAIには一体どんなメリットがあるのか。米国人への世論調査を信じるなら、あまりメリットはなさそうだ。圧倒的多数が自宅のすぐ近くにAIデータセンターが設置されることに反対している。ほぼ同数の人がこの技術そのものを嫌っており、自分の職を失うかもしれない、あるいは人類の未来さえ脅かされかねないと恐れている。AI支持派は、AIが約束通り生産性を飛躍的に高める前にさえ、データセンターへの投資ブームが経済成長を後押ししていると反論し、その恩恵は、ほんの一握りのハイテク富豪だけでなく、すべての人に徐々に浸透していくと主張する。
経済規模が巨大で多様な米国では、初期の効果が薄まってしまう可能性が高い。「トリクルダウン型チップノミクス」の兆候を探るには、機械学習のワークロードを処理するために不可欠な高度なメモリチップで世界をリードする韓国や、その他のあらゆるAI用半導体で世界的な強豪である台湾に注目すべきだろう。AIブームの恩恵は、両国の主要統計データからもすでに明らかだ。輸出の急増により、韓国の年間GDP成長率は堅調な4%前後、台湾では驚異的な12%に達した。1年前には停滞していた個人消費も加速している。今年の第2四半期には、台湾のGDP増加分の約5分の1、韓国の増加分の約3分の1を個人消費が占めた。
この経済的な恩恵が最も顕著に表れているのが台湾だ。世界のAIチップのほぼすべてを製造する台湾を代表するTSMCは、生産量を2019年の標準シリコンウエハ1,000万枚から昨年は1,500万枚に増やした。同期間の設備投資はさらに急速に増加し、150億ドルから410億ドルへと拡大した。これにより2023年後半以降、台湾の実質固定資本形成は40%近く押し上げられた。半導体サプライチェーンには資源が集中している。台湾の労働力のうち、電子部品やコンピューターを製造する従業員の割合は11%近くに達しており、2016年以来の最高水準となっている。賃金の上昇は台湾の電子産業で最初に始まったが、2024年以降は労働者全体に広がっている。
コンサルティング会社「East Asia Econ」のポール・ケイヴィー氏は、「バラッサ・サミュエルソン効果」を指摘している。これは、貿易財を生産する産業における高い生産性が労働コストを全面的に押し上げるという経済現象である。政府は、その「金の卵を産むガチョウ」である半導体産業から得られる増大する税収を、給付金に充てる準備を進めている。2027年には社会福祉支出が40%増加する見込みだ。先月、頼清徳総統は、台湾の全市民に約300ドルの「AI配当」を支給する案を提示した。その総費用は70億ドル(予想歳入の約6%)に上る。新たな児童手当の導入も検討されている。
韓国では状況がそれほど明確ではない。その主な理由は、韓国の半導体に対する需要が徐々にではなく、突如として高まったためだ。韓国最大の半導体メーカーであるサムスン電子とその主要なライバルであるSKハイニックスは現在、政府主導の5,000億ドルの投資計画に参加しているが、まだ両社の支出には反映されておらず、過去3年ほどの間、実質固定資本形成はわずか3%しか増加していない。したがって、過去1年間の輸出増加の大部分は、台湾のように輸出量の増加によるものではなく、価格の大幅な上昇によるものである。韓国では、過去1年間で経済全体の輸出価格が57%上昇した。そのため恩恵を直ちに享受できるのは、半導体業界で働く韓国人労働者の1%未満とメモリ大手2社およびそのサプライヤーの株主(さらに間接的には、この幸運な少数派にサービスを提供する企業)に限られている。名目ベースで見ると、経済全体の平均年間賃金上昇率は、パンデミック前の3.5%を下回っている。株式市場の急騰により消費者が支出を増やす「資産効果」も目立ったものにはなっていない。韓国のKOSPI株価指数は2023年以降、2倍以上に上昇しているが、韓国銀行(中央銀行)の調査によると、株式利益1ドルあたりの個人消費の増加額はわずか1セントにとどまっている。
韓国政府の財政運営もより倹約的だ。2027年には税収が50%増加すると予測されているにもかかわらず、政府は国民に現金をばらまく予定はない。その資金は主に、財政赤字の削減と長期投資のための新たな「未来対応基金」に充てられることになる。サムスンとSKハイニックスが投資を拡大するにつれ、生産量は増加するだろう。これにより、台湾で起きたように労働力への需要が高まり、最終的にはすべての人の賃金が引き上げられるはずだ。韓国政府が計画しているインフラや教育への投資も、台湾の現金給付では得られなかった生産性の向上をもたらす可能性がある。こうした政策の効果はすぐには現れないだろう。しかし、その効果はより持続的なものとなるかもしれない。
以上のように、記事はAIブームの経済全般に対するトリクルダウン効果の調査には、米国よりも経済規模が小さく、かつAI用半導体産業の最先端を走る台湾や韓国での事例が参考になると指摘する。両者は共に輸出の増大でGDP成長率が飛躍的に伸び、個人消費も加速し、特にそれが台湾で顕著だと述べる。台湾の名目平均賃金の伸び率は現在、年間3%となっており、パンデミック前の傾向である1.9%を上回っている。しかも台湾政府は増大する税収を給付金に充てる準備を進めており、2027年には社会福祉支出が40%増加する見込みだと伝える。韓国では半導体に対する需要が徐々にではなく、突如として高まったため台湾ほど状況が明確ではなく、また韓国政府の財政運営もより倹約的だが、サムスン電子とSKハイニックスが投資を拡大するにつれ生産量は増加し、これにより台湾で起きたように労働力への需要が高まり、最終的にはすべての人の賃金が引き上げられるはずだと指摘する。今後の韓国の動向を注視したいが、日本における事態の推移にも当然注目したい。
韓 国
☆ アラスカ州LNG案件で米政府と対立する韓国
9月30日付ニューヨーク・タイムズによれは、トランプ大統領が同日、韓国がテキサス州の8基の原子力発電所やアラスカ州の液化天然ガス(LNG)施設など、米国内の様々な電力プロジェクトに最大2,000億ドルを投資すると発表した。記事は、この韓国による投資パッケージの中のアラスカ・ガスプロジェクトについて、以下のように報じる。
アラスカ州クック・インレットにある天然ガス生産プラットフォーで計画されているLNG施設は、企業がガスを需要のある場所へ輸送する一助となるだろう。この長らく延期されてきたプロジェクトは、開発業者がまだ正式に承認していないが、アラスカ産のガスをアジア市場に供給しようとする案件である。建設には数年を要する見込みだ。これらのプロジェクトは、11月の中間選挙を控え、経済実績をアピールしようとするホワイトハウスが発表した一連のプロジェクトの一部である。アラスカ州は、民主党が上院の支配権奪還を目指して狙いを定めている数ある「レッドステート(共和党優勢州)」の一つだ。先月行われた同州の無党派予備選では、共和党の現職ダン・S・サリバン上院議員の得票数が、民主党の挑戦者メアリー・ペルトラ氏より少なかったのだ。
30日の発表は、昨年の貿易協定の一環として、韓国が米国に3,500億ドルを投資するという公約に基づくものである。しかし、多くの専門家は、韓国が現在の対米投資額の3倍以上に相当するこの公約を果たせるかどうかについて疑問を呈している。商務省のデータによると、2025年時点で韓国からの対米直接投資総額は950億ドルであった。韓国政府は、投資はプロジェクトの経済的実現可能性に基づいて行われるとしている。また、アラスカのプロジェクトの実現可能性についても疑問が呈されている。このプロジェクトはかねてより検討されてきたものの、開発業者による正式な承認はまだ得られていない。商務省の発表において、両政府は同プロジェクトへの韓国の参画が「商業的合理性」および国内の法的要件に従うものであると述べた。トランプ大統領は自身のソーシャルメディアへの投稿でこうした条件には触れず、韓国がアラスカのガスプロジェクトに参加するとのみ述べたため、ソウル当局は自らの立場を明確にする必要に迫られた。
韓国の金正官(キム・ジョングァン)産業通商資源相は木曜日、トランプ大統領の発表を受けて、韓国政府がラトニック商務長官に対し「遺憾の意」を伝えたと述べた。金氏は記者会見で、「本日報じられた内容は、合意されていた条件の範囲を超えていた」と述べ、「韓国政府と米国政府は、アラスカ・プロジェクトを『商業的に妥当である』という前提の下でのみ進めることで合意していたことを明確に申し添えておく。この『アラスカLNGプロジェクト』は、少なくとも紙面上では単純な問題を解決することを目的としている。アラスカのノーススロープでは大量の天然ガスが産出されており、企業が需要のある場所へガスを輸送できれば、高い価値を生み出すはずだ。主要なエネルギー輸入国である日本と韓国は、当然の顧客となるだろう。その実現策の一つとして、ガス不足のリスクに直面しているアンカレッジ方面へ約800マイルのパイプラインを敷設し、余剰の天然ガスをLNGとして輸出するという方法がある」と述べた。
企業は数十年にわたり、この構想のさまざまな案を検討してきた。ただし、こうした事業には多額の費用がかかることが常に問題になっていた。このプロジェクトの主導開発会社であるグレンファーン社の最高経営責任者(CEO)、ブレンダン・デュバル氏は水曜日、同プロジェクトについて楽観的な見方を示した。「パイプラインの建設には3年かかるが、資金調達が完了次第、直ちに着工できる」と、デュバル氏はホワイトハウスで述べた。「そして、その約2年後にLNGの輸出を開始する予定です。」デュバル氏の発言には触れられなかったが、グレンファーン社は「アラスカLNGプロジェクト」を推進するかどうかについて、まだ正式な決定を下してはいなかった。同社は今年前半までにパイプライン部分の建設を承認する予定だったが、その期限はすでに過ぎてしまっていた。その後、このプロジェクトに対する州の税制優遇措置案は、アラスカ州議会議員から十分な支持を得られなかったのである。韓国当局者は今月、テキサス州のガス火力発電所への投資を推進するとともに、韓国が設計した原子炉への投資も検討すると述べた。また、韓国は米国の原子力技術企業ウェスティングハウス社の株式5~10%の取得も検討している。
トランプ政権はまた、日本との合意に基づく投資約束の一環として、「アラスカLNGプロジェクト」にも注目している。2025年2月、トランプ大統領は、日本が「まもなく、記録的な量のクリーンな米国産液化天然ガスの歴史的な新規輸入を開始する」と述べた。10月の訪日中には、同プロジェクトが「順調に進んでいる」とし、日本がその最大の顧客の一つになると主張した。トランプ氏は、自身の業界が米国にもたらした外国投資額について、繰り返し誇張した主張を行ってきた。同氏は、20兆ドルを超える投資が米国に流入していると述べており、この総額は米国のGDPの3分の2以上に相当する。トランプ政権は、EUや日本など、関税を回避しようとしている国々から巨額の投資約束を引き出しており、一部の国はすでにそれらの投資を進めている。トランプ氏の任期中に5,500億ドルの投資を約束している日本は、オハイオ州の大型ガス発電所やテキサス州沖の深海原油輸出施設への投資を発表している。各国は、3回目となる投資枠の発表に向けて取り組んでいる。
トランプ大統領は30日の発表について、「米国史上最大級のエネルギーインフラ投資の一つ」と評した。大統領執務室でラトニック長官やエネルギー業界の幹部数名と共に演説したトランプ氏は、「我々は素晴らしい取引を成立させる」と付け加えた。トランプ氏は2025年7月に韓国との貿易協定を発表したものの、両国は一部の条件をめぐって依然として対立を続けている。2月、最高裁は韓国やその他の国々との貿易協定の根拠となっていた関税を無効とする判決を下し、トランプ政権の当局者は、これらの関税を課す別の方法を模索するために一から検討をやり直すことになった。この協定に基づき、トランプ政権は自動車を含む韓国製品に対する関税を、日本やEUと同様の15%に引き下げた。韓国は、米国への3,500億ドルの投資に加え、1,000億ドル相当のLNGを購入することを約束した。韓国当局者は、投資の一部を造船業に振り向け、残りの資金は半導体、技術、エネルギー分野に充てる方針を示した。その後、トランプ氏は韓国が貿易協定を十分に迅速に履行していないと批判し、関税を再び引き上げる可能性を示唆した。
中間選挙が近づくにつれ、トランプ政権は投資に関する計画を相次いで発表し、激戦州の有権者に自政権の経済政策の成功をアピールしようとしている。30日、トランプ大統領は大統領執務室で、共和党が上院議席の維持を目指しているアイオワ州に、インド企業が150億ドル規模の製鉄所を建設すると発表した。翌日には、大統領がテキサス州を訪れ、トラック工場で演説を行う見通しだ。
以上のように、トランプ政権は開発業者がまだ正式に承認していない「アラスカLNGプロジェクト」に対して、韓国政府が投資を約束したと大々的に発表した。これに対して韓国政府は、同プロジェクトへの韓国の参画は「商業的合理性」および国内の法的要件に従うものであると反論している。こうした米政府の動きの背景には、中間選挙を意識したトランプ政権の思惑があると記事は指摘する。アラスカ州は、民主党が上院の支配権奪還を目指して狙いを定めている数ある「レッドステート」の一つであり、トランプ政権はアラスカ州に限らず、激戦州の有権者に自政権の経済政策の成功をアピールしようと次々と海外からの投資計画を発表している。とはいえ、「アラスカLNGプロジェクト」は日本のエネルギー事情にも大きく関わる案件であり、注視したい。
北 朝 鮮
☆金総書記、交戦地帯にあるロシア工場に女性労働者を派遣
北朝鮮がウクライナの攻撃圏内にあるロシアの工場に女性労働者派遣していると、9月18日日付ウォール・ストリート・ジャーナが報じる。記事は、北朝鮮の金総書記は交戦地帯への労働者派遣でプーチン大統領との関係強化を狙っていると、概略以下のように報じる。
北朝鮮の金正恩総書記は近年、ロシアとの同盟関係を深める新たな方法を見いだした。プーチン大統領による対ウクライナ戦争の長期化が打撃となっているロシア経済を支援するため、女性を含む北朝鮮人労働者を数千人単位で送り込んでいるのだ。この夏、これらの労働者の派遣先が、もはや交戦地帯から十分に離れた場所ではないことが明らかになった。ロシアの通販大手ワイルドベリーズの倉庫のうち20棟近くが今夏、ウクライナによる一連の長距離ドローン攻撃を受けた。現地の映像を確認した韓国当局者によると、これらの施設のうち少なくとも一つには北朝鮮人女性が雇用されていた。ロシア当局によると、この攻撃で少なくとも9人が死亡した。犠牲者の国籍は明らかにされなかった。
ロシアの対ウクライナ戦争を支援するためにミサイルと兵士を供給してきた金総書記にとって労働者の派遣は収入を得るための、そしてプーチン氏との同盟関係を強化するための手段だ。そうした派遣は、これらの目的を果たすために自国民を危険にさらすことも辞さないという金総書記の姿勢を示すものでもある。韓国のシンクタンク、世宗研究所のピーター・ウォード研究員は「北朝鮮人労働者が命を落とそうが、金総書記はあまり関心がない」とし、「彼の動機は金銭的なものだ」と述べた。北朝鮮は、ロシアに派遣した推定1万5,000人の兵士のうち何人が帰還したかを明らかにしていないが、金総書記は3月、戦死した北朝鮮兵士のための追悼施設を平壌に開設した。そこには数百の墓がある。
米国など11カ国で構成し、北朝鮮の制裁違反を追跡する多国間制裁監視チーム(MSMT)が16日に発表した報告書によると、北朝鮮人労働者の一部は戦争遂行に直接関与しており、ロシアのドローン工場で働いている。ロシアと北朝鮮の関係は先週、両国間初の道路橋の開通によって強化された。全長約1キロの2車線の橋は豆満江に架かり、ロシア政府によると1日最大300台の車両と2,300人以上の通行に対応できるという。北朝鮮にとってロシアとの関係深化は、豆満江を挟んだもう一つの隣国である中国が歴史的に有してきた強大な影響力を抑え、外国からの支援を分散化させる効果も生んでいる。
ロシアにとって北朝鮮人労働者は、戦争中に拡大してきた労働力不足への対処に役立っている。ロシア労働省によると、同国は2030年までに新たに約1,100万人の労働者を必要とする。ロシアは数十年にわたり、ウズベキスタンやタジキスタンなど中央アジア諸国からの安価な労働力に依存してきた。しかし、戦時下でのロシア民族主義の高まりや移民の徴兵事例を受け、こうした労働者のロシア離れが進んでいる。
MSMTによると、ロシアで働く北朝鮮人は1万5,000~3万人に上る。平均年収は7,500ドル(約118万円)で、中国で働く北朝鮮人の最大5倍だ。国外で働く北朝鮮人は昨年、金政権の核・ミサイル計画の資金として最大8億ドルを生み出したと述べている。北朝鮮出身の元国外労働者らによると、金政権は労働者の収入の最大90%を吸い上げている。北朝鮮は長年、ロシアの建設現場に男性労働者を供給してきた。世宗研究所のウォード氏によれば、金政権は女性労働者の派遣を増やすことで収入源を多様化している。
通訳として働いた21歳の学生、アリサ・スビトバさんによると、労働者らは団長・料理人・通訳・医師・現場監督に付き添われて集団でロシアに渡った。労働者の多くは、「ありがとう」「良い」「コメ」といった基本的なロシア語をいくつか覚えたという。多くの労働者は「ロシアでの仕事について、自分たちがロシアを助け、両国の友好を促進していると考えている」とスビトバさんは言う。ロシアの領事データによると、昨年ロシアは北朝鮮人に3万6,000件超のビザ(査証)を発給しており、これは2024年の総数の4倍に当たる。その大半は教育ビザだった。観測筋によると、国連の制裁が北朝鮮の出稼ぎ労働者による外貨獲得を禁じているため、ロシアは北朝鮮人労働者の雇用を偽装するために教育ビザを利用している。職業紹介業者や求人広告から、ロシアには北朝鮮人労働者への根強い需要がうかがえる。ロシアの外国人労働者仲介業者MMCパーソネルが運営するチャットルームでは、北朝鮮人労働者を求めるロシアの管理者がほぼ毎日のように依頼を投稿している。北朝鮮人労働者は「生産性が高く規律正しい」という。
以上のように、金総書記はプーチン大統領との関係強化と収入源の多様化を狙って、交戦地帯にあるロシアの工場へ女性を含む労働者派遣を増強するという新たな動きをみせている。北朝鮮労働者の派遣先でウクライナの攻撃にさらされる工場では、すでに何人かの北朝鮮労働者が被害にあっているとみられているが、金総書記は自国民を危険にさらすことも辞さないと報じられている。ただし、こうした金総書記の対ロ関係強化の狙いの背景として、中国が歴史的に有してきた強大な影響力を抑え、外国からの支援を分散化させる思惑があるとの指摘に留意しておきたい。
東南アジアほか
フィリピン
☆ フィリピン政府、欧州連合(EU)と自由貿易交渉で合意
フィリピンがEUと自由貿易交渉で画期的な合意に達したと、9月22日付ウォール・ストリート・ジャーナが報じる。記事は、双方が貿易総額の97%以上、関税品目の94%以上を占める品目の自由化に合意し、EUのマロシュ・シェフチョビッチ通商担当委員は、この合意がすでに年間80億ユーロ以上の商品をフィリピンに輸出しているEUの輸出業者にとって大きな好機となると述べたと、以下のように伝える。
EUとフィリピンは、2国間の貿易と投資を深化させるための実質的な自由貿易協定に合意した。これは、絶え間ない地政学的ショックや関税が、新たな貿易パートナーを探す必要性を浮き彫りにしているなかで実現したものである。EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は22日、フィリピンのフェルディナンド・R・マルコス・ジュニア大統領と合意に達したと語った。これは、3年前に交渉を再開するために同氏が東南アジア諸国を訪問して以来の画期的な成果である。双方は二国間の貿易と投資の深化を目指しており、この協定は今後数ヶ月以内に正式に締結される見通しだ。
EUのマロシュ・シェフチョビッチ通商担当委員は22日、記者団に対し、双方が貿易額の97%以上を占める94%以上の関税品目ブリュッセルとマニラ間の協定は、レジリエンスが戦略的優先課題となっている現在、企業(特に中小企業)に新たな機会をもたらし、雇用を創出し、サプライチェーンを強化することを目的としている。EU委員会は声明の中で、この協定が政府調達契約、知的財産、デジタル貿易、持続可能性に関する協定にも及ぶと述べた。2025年、EUはフィリピンの第4位の貿易相手国であり、同国の商品貿易総額の8.3%を占めていた。この東南アジア諸国からのEU向け主要輸出品には、電子製品や農産物などが含まれる。
EU委員会は、米国や中国への依存を抑制するため、他国との関係を強化する取り組みを加速させている。今年初め、EUはインドと画期的な協定を締結し、マレーシアやタイとも各段階において貿易協定交渉を進めている。インド・ニュージーランド間のFTAは来月発効する予定だ。米政府との報復関税合戦が続くカナダも、アジアに目を向けている。今週初め、カナダの貿易担当高官がムンバイでインドの担当官と会談し、貿易・投資関係の強化について協議した。カナダのマニンダー・シドゥ国際貿易大臣は、Xへの投稿で、「インドとの交渉が成功裏に終わった」ことを受け、現在、フィリピンへ向かっていることを明らかにした。同大臣は、フィリピンおよび11カ国で構成される東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)交渉を前進させるため、ASEAN経済大臣会合に出席する予定だ。2025年、カナダとASEAN間の二国間商品貿易額は24%増加し、524億カナダドル(373億3,000万米ドル相当)に達した。
以上のように、フィリピン政府はEUとの貿易協定で実質的合意に達した。フィリピンにとってEUは2025年に第4位の貿易相手国であり、その商品貿易総額の8.3%を占めていた。協定は政府調達契約、知的財産、デジタル貿易、持続可能性に関する協定を対象とし、貿易総額の97%以上、関税品目の94%以上を占める品目を自由化するとされており、フィリピンにとって大きな意義があると言える。EU側にとっても、米国や中国への依存を抑制するため、他国との関係を強化する取り組みを加速させる意義が指摘されている。EUはタイ、マレーシアなどとの貿易交渉も進めているようであり、東南アジア諸国との関連で動向を注視したい。
インド
☆ インドの実験―権威主義か民主主義か
インドが中国に追いつくための最善策とは何か、それは民主主義だと9月25日付ウォール・ストリート・ジャーナルが概略次のように論じる。
独裁的な統治ではなく、経済の自由化と実力主義こそが、輝かしいメガシティを生み出した。トランプ大統領が習近平氏にレッドカーペットを敷いた際、一部の評論家は、これを米国が主要な競争相手を対等な存在として愚かにも認めたものと見做すとともに、米中両国が支配する「G-2」の世界の到来を告げるものだと解釈した。インドのような発展途上国の民主主義国家にとって、中国の台頭による脅威は地政学の域を超えている。中国当局や多くの親中派コメンテーターは、中国の権威主義的な政府を民主主義よりも本質的に優れているものとして描いている。インドは比較の対象として魅力的な存在だ。しかし、中国が経済、技術、軍事の面で南隣の国を凌駕しているとはいえ、それだけで権威主義が優れた体制だとは限らない。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のグローバル経済学教授であるヤシェン・ファン氏は、「中国がインドよりも急速に成長したのは、中国が権威主義体制だからだという単純な見方がある」と言う。「ただ、その根拠となる証拠はまったく見当たらない」。学者たちはかねてより、中国とインドの経済競争が持つ広範な意義に注目してきた。1949年の中国における共産党による政権掌握は、インドが英国から独立してから2年後のことだった。世界でもっとも人口の多いこの2カ国は、工業化された西側列強によって屈辱を味わわされた古代文明であると自認していた。
「アジアにおけるこれら2カ国の現在の役割と、世界における戦略的重要性を踏まえると、両国の開発努力の相対的な成功度合いが、国際情勢において彼らが果たしうる役割を決定づけることになるだろう」と、MITの経済学者ウィルフレッド・マレンバウムは1956年の論文で記している。同氏は、この競争の勝者が、他の新独立国が「世界中に自由で開かれた社会が広がることに主に賛成の勢力となるか、それとも反対の勢力となるか」を決定づける一因となると主張した。インドの国家計画による経済実験の失敗を早期から批判していたミルトン・フリードマンは、1963年のエッセイで次のように記している。「我々は、インドを世界の非同盟諸国をめぐる争いにおける鍵となる国、そして極東で中国が及ぼしている影響に対する主要な対抗勢力として、正しく見なしてきた。」
中国は1978年に市場経済改革を開始した。国際通貨基金(IMF)によると、1980年の名目一人当たりGDPは中国が310ドル、インドが275ドルで、両国は拮抗していた。インドも1991年に経済改革を開始して以降、成長が加速したが中国には追いついていない。IMFの推計によると、昨年、中国の1人当たりのGDPは約14,000ドルで、インドの約2,700ドルの5倍以上となっている。貧しい国では通常、商品やサービスの価格が安くなることを考慮した購買力平価(PPP)ベースでは、中国の1人当たりのGDPは約29,500ドルで、インドの12,000ドルの2.5倍だった。
一見すると、中国の体制は魅力的に見える。同国の経済改革の立役者である鄧小平は、「猫が黒か白かはどうでもよい。ネズミを捕まえればよい」や「一部の人々や地域が先に豊かになってもいい」といった格言を用いて、毛沢東主義からの脱却を説いた。選挙に勝つ必要がなかったからこそ、彼はそのような発言ができたのだ、というのが一般的な見方だ。対照的にインドの政治家は、有権者に無料の給付を約束したり、カーストや宗教に訴えかけたりするレベルから抜け出すことはめったにない。中国の政治体制は、指導者が次の選挙を意識して短期的な政策を練るのではなく、長期的な視点に立つことを可能にしていると言われている。インドでは、中国三峡ダムのようなプロジェクトは、市民団体による終わりのない訴訟や抗議活動に巻き込まれる可能性が高いだろう。
民主主義は時に肥大化や官僚主義の代名詞と見なされることもあるが、民主主義政府は、国民を虐げることなく繁栄をもたらすという点で、より確かな実績を残している。中国の経済成長は40年足らずの歴史しかなく、すでに衰えの兆しを見せている。一人当たりのGDPで言えば、中国は米国に後れを取っており、日本や韓国に追いつくには至っていない。ヤシェン・ファン教授は、毛沢東や習近平氏を含む最も権威主義的な中国の指導者たちの経済実績は、比較的リベラルな鄧小平氏やその直系の後継者たちよりもはるかに劣っていると指摘している。権威主義に惹かれる人々は、それが輝かしいメガシティや世界をリードする企業を生み出すと信じている。しかし、戦争で荒廃したミャンマーや破産したジンバブエは、独裁的な統治がしばしばどのような結果を招くかを示す例である。中国は依然として、インド―そしてあらゆる民主主義国家―にとって教訓となっている。コロンビア大学の中国専門家ジュリアン・ゲウィーツ氏は、中国の経済的飛躍について、「他の何よりも、ボトムアップによる実験と国際的なアイデアの探求の物語である」と述べている。能力主義を積極的に取り入れることで、中国は自国の大学を世界トップクラスに育て上げた。中国は都市を単に農村後背地のための「金づる」ではなく、成長の原動力と見なしている。しかし、以上のような議論はインドの民主主義を改善するためのものであり、そうすることで、いつの日かインドが発展途上国に対して、中国よりも優れた手本を示せるようになるかもしれないのだ。
以上のように、記事はインドが中国に追いつくための最善策は民主主義体制を守り続けることだと強調する。中国が経済、技術、軍事の面でインドを凌駕しているとはいえ、それだけで権威主義が優れた体制だとは限らないと主張する。中国の体制は一見魅力的にみえ、IMF推計によると、PPPベースで中国の1人当たりのGDPは約29,500ドルで、インドの12,000ドルの2.5倍だが、中国がインドよりも急成長したのは、中国が権威主義体制だからだという見方は単純で、根拠となる証拠はまったく見当たらないと指摘する。そのうえで、民主主義は時に肥大化や官僚主義の代名詞と見なされることもあるが、民主主義政府は、国民を虐げることなく繁栄をもたらすという点でより確かな実績を残していると主張する。民主主義が世界的に試練にさらされている現在、いわゆる「グローバルサウスの代表」と自ら名乗るインドは、民主主義国家としても重い責任を負っていると言えよう。
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主要紙社説・論説欄から
日本銀行の金融政策の現状―重大な岐路に立たされ続ける日銀
日本銀行は9月18日、政策金利である無担保コールレート翌日物の誘導目標を1.0%程度から1.25%程度に引き上げることを決定した。6月以来3カ月ぶりとなる異例に短い間隔での利上げで、政策金利も1995年4月以来約31年ぶりの高水準となった。以下は、こうした最近における日銀の金融政策に関する主要メディアの報道や論調の概要である。筆者論評は末尾の「結び」を参照。
まず利上げ前の主要メディアの論調から見ていく。9月14日付フィナンシャル・タイムズは「Japan’s central bank set for pivotal moment on rates (金利をめぐり正念場を迎える日本銀行)」と題する東京特派員記事で、植田和男総裁が日本政府と米国政府からの相反する圧力に直面しており、日本銀行は金利政策の重大な岐路に立っていると以下のように報じる。
日本銀行と植田和男総裁は今週、政策金利を31年ぶりの高水準に引き上げる見通しだ。この決定には、国内経済のリスク、世界市場への衝撃、そしてトランプ政権からの前例のない圧力とのバランスを図ることが求められている。市場では、植田総裁が政策金利を0.25パーセントポイント引き上げて1.25パーセントにすると見られているが、トレーダーによると、日銀の金融政策決定会合を控えた状況は異例なほど緊迫しており、植田総裁のシグナルや日銀の今後の政策スタンス――さらなる利上げが急速なペースで行われるか、あるいは突然の利上げ休止――については、極めて不透明な状況が続いている。同時にベッセント財務長官が日銀の次の一手について「情報の非対称性」があると繰り返し主張していることが、植田総裁の独立性に前例のない圧力をかけている。高市早苗首相がリフレ政策と低金利を支持する一方で、米国政府は日本の金利引き上げを望んでおり、日本の金融政策への干渉にますます抵抗を感じなくなっているようだ。
「市場での大きな動きが、経済のファンダメンタルズや政策の変化よりも、そうしたファンダメンタルズが何を意味するかという市場心理に左右されがちなために植田氏には大きなプレッシャーがかかっている」と、エコノミストで長年にわたり日本経済を観察してきたリチャード・カッツ氏は語る。同氏はさらに、2023年に日銀総裁に就任する前は学界にいた植田氏が、コミュニケーション能力の面ではあまり目立った活躍を見せていないと付け加えた。市場は、日銀の声明と植田総裁の発言の両方を精査し、日銀の決定がインフレ安定化の必要性と円高の勢いを維持するという日銀の責務とのどちらを重視しているのか、その手がかりを探ろうとしている。日本当局は7月と8月、40年ぶりの安値まで下落した円相場を支えるため、米国と協力して960億ドルの為替介入を行った。
植田氏は、政策委員会内部での対立にも直面している。7月に日銀が金利据え置きを決定した際、高田創(はじめ)審議委員は利上げに賛成票を投じた。今月の公の場で高田氏は先手を打つためにより迅速かつ大幅な利上げなど、より積極的な措置を検討すべきだとほのめかした。日銀が前回利上げを行ったのは6月で、金利を1%に引き上げた。これにより、金曜日に予想される利上げは、これまで6カ月ごとに着実に進められてきた「正常化」スケジュールを大幅に前倒しすることになる。一方、アナリストらは、高市首相が経済成長の促進という自らの政策を推進するなか、植田氏が高市首相の側近たちから大きな圧力にさらされる可能性が高いと指摘する。その鍵を握るのは、日銀の政策委員会に出席する経済財政担当相の城内実氏だ。議事録に後日掲載される同氏の発言は、金融政策に関する高市首相の考えを示すシグナルとなるほか、今後の利上げペースを緩めるよう求める圧力として市場に受け取られる可能性がある。「市場関係者もベッセント氏も、植田氏が直面しているジレンマを十分に理解していないと思う」とカッツ氏は述べた。
日銀と植田総裁が最も恐れているのは、あまりにも積極的な動きをした結果、日本経済を再びデフレに陥らせるリスクがあることだ。これは、彼らが数十年にわたり脱却を試みてきた状況である。「円相場が(政府や)日銀にとっての主要な変数の一つであるならば、実体経済のデータを重視する植田総裁がここでリスクを冒す必要はあるのだろうか」と、東京のドイツ銀行チーフストラテジストの大森氏は語る。特に重要なのは、政策金利が引き上げられた後も「金融環境は緩和的である」という表現が維持されるかどうかをアナリストたちが注視していることだ。シティの日本為替戦略責任者の高島修氏は、リスクが非常に高い状況下で植田氏にとっての最善の策は、極めて微妙な均衡を崩さないようにすることだと述べた。「植田氏は市場を驚かせないように努めるだろう……市場は不安定になりつつある。
9月17日付ニューヨーク・タイムズは「Japan Raises Interest Rates in a Decision Muddied by U.S. Pressure (米国の圧力により判断が揺れるなか、日本が利上げ)と題する記事で、日本銀行の利上げの動きは広く予想されていたが、これはベッセント財務長官による異例の利上げ要請キャンペーンを受けてのものだったと、以下のように論評する。日本銀行は金曜日、トランプ政権による前例のないほどの厳しい監視を受けるなか、注目を集めていた利上げを実施した。近年、物価が着実に上昇していることから、市場では9月会合で日銀が利上するとの見方が広がっていた。中東戦争によるエネルギー価格の高騰に苦慮する中、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が相次いで利上げを行ったのに続く形となった。ベッセント財務長官は、日本政府に対し金融引き締めを公に迫っていた。先週テキサス州で講演したベッセント氏は、日銀の利上げ計画について内部情報を把握しているかのような発言さえ行った。バンク・オブ・アメリカのチーフ・ジャパン・エコノミストのイズミ・デヴァリエ氏は、「最近の米国からの発言は、法律上独立している日本銀行が「政策に巻き込まれた」という印象を与えていると指摘し、「これは金融政策にとって良くない」と述べた。
一方、日本政府はこれとは逆の方向に動いている。高市早苗首相は、日本の債務返済能力について投資家に懸念を抱かせずに政府支出の拡大に必要な財源を確保するため、日本銀行に対し低金利政策の維持を働きかけてきた。今月、10年物日本国債の利回りは30年ぶりの高水準に達した。日本銀行の政策委員会委員9人のうち7人が利上げに賛成票を投じた。反対した2人は、いずれも高市首相によって任命された人物だった。高市政権の低金利推進姿勢は、ベッセント氏との対立を招いている。同氏は、低金利が円安を招いていることについて、日本の財務大臣に不満を伝えてきた。米国の金利上昇により日本から資本が流出した結果、円は対ドルで数十年ぶりの安値を記録した。7月、日米両国は円相場を支えるため、共同で為替市場に介入した。ベッセント氏はこの介入を受けて、インタビューで日本銀行が次回の会合で「正しい判断を下す」と確信していると述べた。ベッセント氏はここ数週間、その発言をさらに強め、トレーダーたちに円安を予想して賭けてみろと挑発した。「我々が日本円に対して介入する際、私は日本、そして日本銀行が何をするかについて、かなり確かな見通しを持っている」と、サザン・メソジスト大学でのイベントで彼は語った。「今や私が胴元(主役)だ」と彼は語った。
植田総裁はこの数カ月間、いわゆる「コアインフレ率」――一時的なショックを除いた長期的な物価変動率――が、中央銀行の目標である2%に近づいていることを示唆してきた。「コアインフレ率が2%に達した今、インフレの上方リスクについては、実際にはさらに警戒を強める必要がある」とデヴァリエ氏は述べる。その理由として、「インフレが2%で止まらず、さらに上昇を続け、目標値を上回ってしまうリスクに対処しなければならないからだ」と説明した。現在の主なインフレリスクは、輸入品の価格を押し上げる円安とエネルギー市場の混乱に起因する物価上昇である。日本はこれまで石油のほぼすべてを中東から購入してきたが、今年は米国やその他の地域からのより高価な供給源に頼らざるを得なくなっている。植田総裁は金曜日、日本銀行は2%のコアインフレ率目標を「確固たる足場として確立する」ことを目標に、引き続き金融政策を策定していくと語った。
9月18日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Bank of Japan Raises Rates, Making U.S. Less Alluring for Tokyo Investors (日銀が利上げ、東京の投資家にとって米国の魅力が薄れる)」と題する記事で、日銀が政策金利を1995年以来の最高水準に引き上げたと概略以下のように報じる。
日本銀行は政策金利を30年ぶりの高水準に引き上げ、さらなる利上げの可能性を示唆した。この政策転換は、日本の国境をはるかに超えて大きな波紋を広げる可能性がある。日本の投資家は米国株、債券、その他の金融資産を約2.5兆ドル保有しており、これは日本が保有する5兆ドルという巨額の海外ポートフォリオ資産の約半分を占めている。金利が上昇するにつれ、国内でより魅力的なリターンが得られるという見通しから、その資金の一部が日本へ還流する可能性があり、これまで米国やその他の世界市場の価格を支えてきた確実な資金の流れが鈍化、あるいは逆転することさえあり得る。「円という超大型タンカーが方向転換している」と、ロンドンのGlobalData TS Lombardでアジア・新興市場調査責任者を務めるロリー・グリーン氏は述べる。
この決定は、水曜日にFRBが利上げを行ったこと、およびベッセント財務長官が日本に対し借入コストの引き上げを要請する異例の公開キャンペーンを展開したことを受けたものである。イランでの戦争によりエネルギー供給が逼迫し、インフレが加速していることから、他の中央銀行もこれに追随すると見られている。こうした動きは、世界中で債券利回りが急上昇している中で起こっている。米国10年物国債の利回りは最近5%に達した。日本では、10年物国債の利回りが3%前後となっており、これは1990年代半ば以来の水準である。利回りの上昇は、インフレや政府支出に対する投資家の不安を反映している一方で、AIやそれが経済成長にどのような変革をもたらすかについて、ある程度の楽観的な見方も反映している。
日本での低金利を背景に、日本の投資家は長年にわたりより高いリターンを求めて海外に目を向け、米国債や欧州国債、さらには株式、社債、その他の資産を大量に買い漁ってきた。日本の銀行は、国内で低金利の資金を調達し、海外へ融資することで利回り差を利益として得ていた。日本の労働者を代表して2兆ドル以上を運用する世界最大級の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、かつて資産の約60%を日本国債に投資していた。10年以上前から、同基金は海外債券や株式へのシフトを開始し、現在ではポートフォリオの約4分の1を日本国債が占めている。最近の財務諸表によると、GPIFは約2,400億ドルの米国債を保有している。海外株式の保有銘柄としては、NVIDIA、アップル、マイクロソフトが最大だ。
米国にとっては、日本の投資家が米国債への関心を失うことは、債券価格と逆の動きをする利回りに対するさらなる上昇圧力となるだろう。円相場を支えるため東京当局と異例の共同介入を行った際、ベッセント氏は、将来的には日本が米国債を売却するのではなく、FRBからドルを借り入れることを検討すべきだと述べた。米財務省のデータによると、日本は米国債の最大の保有国であり、7月末時点で約1.1兆ドルを投資している。これは、日本が円相場を支えるための措置を講じる前の2月に記録したピーク時の1.2兆ドルから減少している。
アナリストや投資家は、日本資本の還流は緩やかなものにとどまり、経済に一部弱さが残る中でも日銀がさらなる利上げを継続するかどうかが鍵となると指摘している。一部のアナリストは、日本の金利が緩やかに上昇したとしても、日本の投資家が米国ハイテク株に投資したり、依然として日本よりも利回りが高い他国の債券でより高い利回りを獲得したりすることが可能な状況では、それほど多くの資金を本国に呼び戻すには不十分かもしれないと述べている。「現時点では、米国債から日本への巨額の資金還流は予想していない」と、東京のオックスフォード・エコノミクス主任日本エコノミストの山口氏は述べた。同氏は、日本の投資家が国内資産へのシフトをさらに進めるよう促すには、日銀が政策金利をどの程度まで引き上げるつもりなのかについて、より明確な見通しが求められると指摘する。
結び:以上のようなメディアの論調を次の4つの観点からまとめてみたい。第1は今回の日銀利上げ自体に対する見方、第2に利上げの背景に関する見解、第3に利上げの各方面に与える影響、そして第4に今後の展望である。
第1の利上げ自体に対する見方については、政策金利である無担保コールレート翌日物の誘導目標の1.0%程度から1.25%程度への引き上げは、前回利上げからわずか3カ月後と異例に短い間隔で実施され、6カ月ごとに着実に進められてきた「正常化」スケジュールを大幅に前倒しすることになったとし、その結果、金利水準も約31年ぶりの高水準となったと指摘する。そして、中東戦争によりエネルギー価格が高騰するなかでFRBやECBに次いで利上げを行った形となったと評する。
第2に利上げの背景についてメディアはまず、近年、物価が着実に上昇していることから市場では9月会合で日銀が利上するとの見方が広がっていたと伝える。次いで、日銀が日本政府と米国政府からの相反する圧力に直面していたと報じる。すなわち、トランプ政権による前例のないほどの厳しい監視を受けるなか、状況は異例なほど緊迫していたと述べ、特にベッセント財務長官からの利上げを求める容赦ない強い圧力の下で今回の利上げは実施されたと指摘する。メディアは、こうした米国からの発言は、法律上独立している日本銀行が「政策に巻き込まれた」という印象を与えており、金融政策にとって良くないと批判する。
一方、日本政府からは米国とは逆の方向、すなわち、低金利政策の維持の働きかけという圧力を受けていると報じる。今月、10年物日本国債の利回りが30年ぶりの高水準に達するなか、日銀政策委員会委員のうち高市首相の任命した2人が利上げに反対票を投じた。そのうえで高市政権の低金利推進姿勢は、円相場をめぐってベッセント氏との対立を招いていると伝える。米金利の上昇により日本から資本が流出した結果、円は対ドルで数十年ぶりの安値を記録した。7月、日米両国共同で為替市場に介入し、ベッセント氏はこの介入を受けて、インタビューで日本銀行が次回の会合で「正しい判断を下す」と確信していると語り、さらにトレーダーたちに円安を予想して賭けてみろと挑発したと報じる。他方、植田総裁は、政策委員会内部での対立にも直面していると報じる。7月、日銀が金利据え置きを決定した際、利上げに賛成した審議委員の一人は、より迅速かつ大幅な利上げなど、より積極的な措置を検討すべきだと述べ、同時に高市首相の側近たちからは利上げ反対の大きな圧力を受けているとみられるとし、鍵を握る人物として、政策委員会に出席する経済財政担当相の城内実氏の名を挙げる。
メディアはまた、FRBやECBそして日銀による利上げに関連して、こうした動きは、世界中で債券利回りが急上昇している中で起こっており、米国10年物国債の利回りは最近、5%に達し、日本でも10年物国債の利回りが1990年代半ば以来の水準である3%前後となったと報じる。こうした利回りの上昇は、インフレや政府支出に対する投資家の不安を反映している一方で、AIやそれが経済成長にどのような変革をもたらすかについて、ある程度の楽観的な見方も反映しているとコメントする。
第3に利上げの各方面に与える影響についてメディアは、国内経済へのリスク、世界市場への衝撃、そしてトランプ米政権からの前例のない圧力とのバランスを図ることなどを挙げる。特に注目されるのは世界市場、とりわけ米国金融、資本市場への影響である。メディアは、日本は5兆ドルという巨額の海外ポートフォリオ資産を保有し、日本の投資家はその約半分となる約2.5兆ドルを米国株や債券、その他の金融資産で保有していると報じ、一例として、世界最大級の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を挙げる。GPIFは10年以上前から海外債券や株式へのシフトを開始し、現在、約2,400億ドルの米国債を保有し、NVIDIA、アップル、マイクロソフトなどの海外株式も保有している。金利上昇によって国内で魅力的リターンが得られるようになれば、その資金の一部が日本へ還流する可能性があるとし、米国その他の世界市場の価格を支えてきた資金の流れが鈍化、あるいは逆転することさえあり得ると懸念を表明する。すなわち、円という超大型タンカーが方向転換し、イラン戦争によりエネルギー供給が逼迫し、インフレが加速していることから、他の中央銀行も追随するとみられると危機感を示す。
第4の今後の展望では、インフレ動向に関してメディアは、コアインフレ率が日銀目標の2%に達した現在、インフレの上方リスクについて警戒を強める必要があると警告する。主なインフレリスクは、輸入品の価格を押し上げる円安と、エネルギー市場の混乱に起因する物価上昇だと指摘。植田総裁も日銀は2%のコアインフレ率目標を「確固たる足場として確立する」ことを目標に、引き続き金融政策を策定していくと語っていると述べる。同時に日銀と植田総裁が最も恐れているのは、経済を再びデフレに陥らせるリスクがあることだと報じ、アナリストたちが注視しているのは、政策金利が引き上げられた後も金融環境は緩和的である」という表現が維持されるかどうかだと伝える。市場は日銀の声明と植田総裁の発言の両方を精査し、日銀の決定がインフレ安定化の必要性と円高の勢いを維持するという日銀の責務とのどちらを重視しているのか、その手がかりを探ろうとしていると述べ、植田氏にとっての最善策は、極めて微妙な均衡を崩さないようにすることであり、不安定になりつつある市場を驚かせないように努めることだとの市場関係者の意見を伝える。
さらに、日本への資金還流の動きの見通しについては、こうし日本の投資家が米国債への関心を失うことは、米国債利回りに対するさらなる上昇圧力となるが、アナリストや投資家は日本資本の還流は緩やかなものにとどまり、経済に一部弱さが残る中でも日銀がさらなる利上げを継続するかどうかが鍵となると指摘していると述べる。そのうえで、「現時点では、米国債から日本への巨額の資金還流は予想していない」との見方を紹介、日本の投資家が国内資産へのシフトをさらに進めるよう促すには、日銀が政策金利をどの程度まで引き上げるつもりなのかについて、より明確な見通しが求められると伝える。
以上のように、日銀は6カ月ごとに着実に進めてきた「正常化」スケジュールを大幅に前倒し、異例に短い間隔で利上げを実施した。その結果、政策金利の水準も約31年ぶりの高水準となった。だが、日銀はなお金利政策をめぐり重大な岐路に立たされている。焦点はインフレと円相場動向、日本投資家による対米投資資金の対日還流の動きである。日銀はこうした問題を抱えながら、日米両政府からの相反する圧力に直面し、その独立性について厳しい試練を受けている。また日銀は、FRBやECBに続いて利上げを実施し、それは世界で債券利回りが急上昇している中で行われており、日銀はさらなるインフレの上方リスクについて警戒を強める必要と経済を再びデフレに陥らせるリスクへの両方への対応に迫られている。不安定を増す市場を驚かせないようにどう対処するのか。日銀は重大な岐路に立たされたままである。
主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は文中での略称)THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)、GUARDIAN (ガーディアン)、BUSINESSWEEK (ビジネス・ウィーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER (ロイター)など。なお、各国統計数値は日経、産経などの一部本邦紙資料を利用。
前田 高昭
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