WEB TPT 2025年8月22日 373号 巻頭言 バベル創立51周年を想う 翻訳からPlain English・Plain Japaneseへ ―バベル51年の必然と未来戦略 バベル ・グループ代 表 湯浅 美代子
翻訳を国の基盤と捉える発想
バベルは創立当初から「翻訳立国」という理念を掲げ、翻訳を単なる技術ではなく言語政策の一環 と位置づけてきました。
- 翻訳文法の開発:語彙変換にとどまらず、論理・構造を整理する体系を構築。
- 翻訳専門誌『翻訳の世界』(約600号発刊):翻訳の理論・実務・文化を日本に広める役割を担う。
- 翻訳大学院(米国連邦政府認証):翻訳を学術的に教育する専門職大学院を創設。
- 機械翻訳、AI翻訳等、翻訳のサポート技術の開発
これらはすべて、「言葉をどうすれば誤解なく伝えられるか」 という問いへの半世紀にわたる挑戦でした。
翻訳が示した核心:伝わる言葉とは何か
翻訳の営みは常に「意味を誤解なく、他者に届ける」ことを目的としてきました。
- 原文の意図を正確にとらえる
- 読み手の背景を踏まえて最適な表現に置き換える
- 文体を整えて理解を容易にする
つまり翻訳は、「誰にでも届く言葉」を追求する営み に他なりません。
ここに、後に登場する Plain English/Plain Japanese の理念 がすでに内包されていたのです。
Plain English への接続
翻訳の国際的な現場で最も使われてきたのが英語です。しかしその英語は「ネイティブらしい流麗さ」ではなく、非ネイティブにも誤解なく伝わる英語 が必要とされてきました。
このニーズに応える形で体系化されたのが Plain English です。
Plain English は翻訳と同じく、
- 簡潔性(冗長を避ける)
- 直接性(具体的な表現)
- 結束性(論理的、わかりやすさ)
- 適切性(受け手への配慮)
という基準を持ちます。これはまさに翻訳教育で培われてきた「伝わる文章」の原則と一致しています。
したがって、Plain English は「翻訳が実務の中で育んできた要請を理論化したもの」と位置づけられるのです。
Plain Japanese への展開
日本語においても同様の課題が存在します。行政・教育・医療・ビジネスの現場で、文書が「わかりにくい」と批判され、外国人住民にとっては社会参加の障壁ともなっています。
翻訳で培われた「誤解なく届く表現」のノウハウを日本語にも応用したのが Plain Japanese です。
- 国内的意義:情報アクセスの公平性を確保し、社会的包摂を進める。
- 国際的意義:外国人にも理解可能な日本語スタイルを提供し、日本語の存在感を高める。
すなわち Plain Japanese は翻訳51年の知を日本語の未来に転用した戦略 なのです。
翻訳 → Plain の必然性
バベルが翻訳で歩んだ51年は、Plain English/Plain Japanese に直結します。
- 翻訳の本質は「誤解のない伝達」
- Plain English は「国際的に通じる英語」という翻訳現場の要請の答え
- Plain Japanese は「国内外に開かれた日本語」という翻訳知の応用
したがって、翻訳 → Plain English/Plain Japanese という流れは偶然ではなく必然であり、バベルの事業戦略の妥当性と世界性を示しています。
教育と検定へ
翻訳で培った基準を学習・評価の体系に落とし込むことで、Plain English/Plain Japanese は単なる理念ではなく社会実装へ進みます。
- Plain English 検定
- 読みやすい日本語検定
- 読ませる日本語検定
これらの検定は日本翻訳協会が実施、翻訳教育の伝統を踏まえつつ、「伝わる言葉」を学び → 実践 → 認定 する仕組みとなっています。
まとめ
翻訳の51年は、「Plain English/Plain Japanese」への道のりそのものでした。
- 翻訳は「伝わる言葉」の原点
- Plain English は「翻訳現場が求めた英語の理想モデル」
- Plain Japanese は「翻訳知を日本語社会に応用した未来戦略」
こうして、翻訳の歴史は「Plain」という形で次の段階へ進み、日本から世界に向けて新しい言語文化の提案 を可能にしているのです。