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第12回 世界のライターズマーケット近況(2025年7月)

AIと共存したライティングキャリアの進め方

かつて「AIはライターの仕事を奪うのでは」と恐れられてきましたが、このところ、その問いは少し変わってきており、「AIとどう共存し、キャリアを築くか」ということに焦点が当てられています。今回は、2つの記事をもとに考えます。 

ライティング修士過程への進学辞退という決断            Business Insiderが報じた一人の若者は、名門シドニー大学のクリエイティブ・ライティング修士課程に合格したものの、AIの台頭によって修士課程後の将来性に疑問を抱き、進学を辞退しました。 

出版業界では、AI生成コンテンツの急増やライターの大量解雇といった現実が起きています。この若者は、2年後の自分の姿を思い描きました。学位を取得し、エージェントに原稿を売り込む自分の姿。時間をかけて素晴らしいエッセイを書いても、まずは「AIフィルター」にかけられて、より安価に同様のストーリーを生成できるかどうかを判断される…そんな未来を想像すると、自分が時代遅れになるのではという恐怖に襲われたといいます。

現在は、さまざまなストーリーテリングのプロジェクトに関わりながら、フルタイムのフリーランスとして活動し、ストーリー重視のライティング・コミュニティにも参加しているとのことです。 

もちろん、大学の修士課程に意味がないということではありません。この若者は、「自分で物語を書く舵をとる」ために、あえて別の道を選んだのではないでしょうか。AIが即座に大量のテキストを生成する時代にあって、自分の声がその中に埋もれてしまうのではないかという不安が、選択の根底にあったように思われます。 

AIが人間の能力にもたらす影響                                    一方、ARAB NEWSの記事ではマサチューセッツ工科大学(MIT)が行った実験を取り上げており、AIがもたらす影響を科学的に、冷静に示しています。この実験では、54人の学生を対象に、次の3グループに分けて20分間のエッセイ執筆を行わせました。

  • ChatGPTを使用するグループ
  • 検索エンジンを使用するグループ
  • 自分の思考力のみで取り組むグループ

科学的測定によると、ChatGPTを使用した学生たちは、脳内の異なる領域同士の連携が低く、情報の記憶保持や再構成の力が弱まっていました。また、エッセイの内容について後から質問された際、ChatGPTグループの学生の80%以上が、自分の書いた文章から一文も思い出せず、引用できなかったと報告されています。

教師たちは、ChatGPTグループのエッセイを「文法や構成は整っているが、創造性や洞察力、個人的な温度が欠けており、”魂のない”文章だった」と評しています。 

書けるようにはなる。でも考えなくなる

これは、教育分野だけでなく、ライティングビジネス全体の質の問題でもあります。もし書き手が過渡にAIに依存するようになれば、「物語の核」や「人間らしい言葉の温度」は失われていくかもしれません。 

「人間の可能性」に光を当てる                                    では、私たちはどうすればよいのでしょうか。多くの記事や専門家が指摘しているように、AIと共存しながら「人間にしかできない表現」を磨いていくことが今後の鍵となります。そのためには、人間の「強み」を再認識することが不可欠です。

人間の潜在的な強み

  • 経験という素材:旅行記、取材記事、子育てブログなどは、すべて「生きた経験」に根差します。AIには書けません。
  • 価値判断と構成力:取材内容をどう選び、どの順番で伝えるかという編集の力は、今後も人間の重要な仕事です。
  • 文化や感情の繊細な読解:同じ言葉でも、背景や文脈によって受け取り方は変わります。そうした「行間」を読む力は人間の共感力に依存します。
  • 倫理的責任:誰に向けて、何をどう表現するかという判断には、書き手自身の価値観や社会的責任が求められます。 

ライターにできる実践戦略

  1. AIを「道具」として使いこなす

AIを使ってリサーチの下調べや仮構成を行う。校正・要約にも活用する。ただし、アウトラインや主張の「軸」は自分で決める。

  1. 「体験の深堀り」に価値を置く

「自分しか書けないこと」に集中する。失敗談、葛藤、人生の選択など、AIが持ちえない素材こそが武器になります。

  1. クライアントや読者と「人間的接点」を築く

SNSやニュースレターなど、読者やクライアントとの接点を積極的に作る。ただ文章を提示するのではなく、背景の説明や制作意図を丁寧に共有する。読者のコメントにも丁寧に返す。そうしたやりとりが信頼を生みます。 

「自分にしか書けない文章」を持っている人には、AIは強力なアシスタントになります。ライティングの本質を手放さない限り、書き手としての未来は必ず開けるでしょう。 

体験=自分のドメインを深堀りしたいとお考えの方は、ぜひTPWのコンサルティングをご利用ください。 


参照

Business Insiderの記事https://www.businessinsider.com/turned-down-graduate-program-ai-destroys-industry-2025-7

ARAB NEWSの記事:https://www.arabnews.com/node/2607524

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