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第 13 回 世界のブックフェアー

第49回ブエノスアイレス国際ブックフェア

2025年4月24日から5月12日まで、アルゼンチンのブエノスアイレスで第49回ブエノスアイレス国際ブックフェア(Feria Internacional del Libro de Buenos Aires)が開催されました。

 このフェアは、1975年に始まり、毎年この時期に開催されており、南米はもとよりスペイン語圏で最大級の書籍イベントとして知られています。主催は非営利団体のFundación El Libro。一般読者から出版関係者、教育者、作家まで幅広い層が参加し、書籍販売、講演、ワークショップ、著者との対話など、多彩なプログラムが展開されます。このブックフェアは、業界関係者による権利取引の場という側面がありながらも、一般読者の参加型イベントといった色合いが強いのが特徴です。サイン会や読書会など、読者が著者と交流できる場が多く用意されており、一般の参加者が楽しめる「本の祭典」として親しまれています。

 49回目となる今回のフェアは、ブエノスアイレス市内にある見本市会場ラ・ルーラル(La Rural)の45,000平方メートルの敷地内で開催され、国内外から465社が出展。前年は経済的・政治的混乱により成果が限られたものの、今年は来場者が前年比約10%増の123万8,986人を記録し、回復の兆しを見せました。

 今年のフェアには、主賓としてサウジアラビアの首都リヤドが招待されました。リヤド・パビリオンでは、アラビア語文学のスペイン語翻訳書の展示や、サウジアラビアの文化、芸術、教育、宗教、スポーツに関する多様なプログラムが実施され、サウジアラビアの文化的多様性と現代性が紹介されました。

 今回特に話題となったのは、アルゼンチンの国民的グラフィックノベル『エル・エテルナウタ(El Eternauta)』です。アルゼンチン人なら知らない人はいないと言われるこの作品は、エクトル・ヘルマン・オエステレルド(原作)とフランシスコ・ソラーノ・ロペス(作画)によって1957年に雑誌で連載が開始されました。ブエノスアイレスを舞台に、突然降り注ぐ「死の雪」によって荒廃した世界で、生き残った市民が目に見えない敵と闘う姿を描いたSF作品ですが、単なるフィクションではなく、国家による暴力や検閲、社会的抑圧などへのメタファーとしても読み継がれ、アルゼンチン文学の象徴的作品となっています。この作品は、2025年にNetflixによるドラマ化が発表され、新装版が出版されたことで再び注目が集まりました。会場では関連展示も行われ、作品はフェア期間中に完売するほどの人気を博しました。

 最終日には、ミュージシャンのケビン・ヨハンセンとイラストレーターのリニエルスによる音楽とビジュアルのライブパフォーマンスが行われ、観客を魅了しました。また、言論の自由や検閲をテーマとする討論会も開かれ、表現の自由や文化的記憶の継承に関する活発な議論が交わされました。

 今年のフェアでは、4月に逝去したフランシスコ教皇を追悼する特別企画も注目されました。1965年、若き日の教皇がボルヘスと共に行った創作ワークショップに基づく書籍『El Papa Francisco, Borges y la literatura』が再刊され、文学と教育における教皇の思想が紹介されました。あわせて開催されたパネルディスカッション「誰も一人では救われない」では、教皇の社会・教育的遺産に関する議論が交わされました。

 来年2026年には、記念すべき第50回が4月21日から5月11日の期間予定されています。ブエノスアイレス国際ブックフェアは今後も、ラテンアメリカの出版と読書文化を牽引する中心的存在であり続けることが期待されます。

<ライタープロフィール>

荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。

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