第10回 世界のライターズマーケット近況(2025年5月)
Vogue Businessが新たなライターを発掘するコンペティションを開催
今回は、ビジネス・ジャーナリズムに関するトピックをご紹介します。
ファッション業界のビジネスメディアとして知られるVogue Businessは、18歳以上の英国在住者を対象に、新しいライターを発掘するコンペティション「Vogue Business 2025 Talent Competition」を開催しています。今年で4回目となるこのコンペティションでは、記事掲載のチャンスだけでなく、メンターシップやインターンシップなど多彩な特典が用意されており、多くの若手クリエイターやライター志望者にとって大きなチャンスとなっています。
Vogue Businessは、ファッション雑誌『Vogue』とは異なり、ファッションやビューティーの業界をビジネスや戦略の視点から掘り下げるオンラインメディアです。主な読者層は経営者やブランド戦略担当者、業界関係者などで、グローバルな視点と鋭い分析で知られています。
そのため、記事の切り口も「流行の色」や「今年のスタイル」といった消費者向けの内容ではなく、「ブランドがZ世代とどう向き合うか」「サステナビリティをどう実装するか」といった経営課題や社会的責任に関するものが中心です。
応募者は、1,000ワード以内の英文記事を執筆し、提出します。ファッションおよびビューティービジネスに関連するものであれば、テーマは自由です。英国在住者という制限はありますが、国籍は問われません。イギリス国内に居住していれば、出身国にかかわらず応募が可能です。
Vogue Businessは、このコンペティションの趣旨について次のように述べています。
The Vogue Business Talent Competition ... aims to champion new voices in the world of fashion and beauty business journalism.
(Vogue Business タレント・コンペティションは、ファッションおよびビューティービジネスのジャーナリズムにおいて、新たな視点を積極的に支援することを目指しています。)
近年、ファッション業界は「多様性」と「包摂性(インクルージョン)」をキーワードに、大きな転換期を迎えています。かつては欧米中心で構成されていたブランドやメディアも、今ではアジア、アフリカ、中南米などのマーケットや文化を強く意識するようになりました。
これにともない、メディア側にも「従来とは異なる視点」が求められています。新しい消費者に響くストーリーとは何か。ブランドの信頼性や価値観を、どのように言語化できるのか。それを担うのは、これまで注目されてこなかったバックグラウンドを持つライターかもしれません。
このコンペティションは、ライターはもはや「文章を整えるだけの存在」ではなく、「視点を提供する存在」として評価される時代に入っているということを象徴しています。「誰が書くか」だけでなく、「どのような視点を社会に届けたいか」が、メディアの価値を左右する時代に入っているのです。これはつまり、肩書きや経験にとらわれず、あらゆる人にライティングやジャーナリズムの扉が開かれつつあることを意味します。
また、メディアにとっても、読者との距離を縮めるためには、画一的な語り口ではなく、よりリアルで多様なストーリーが必要です。今回のような動きは、ファッション業界に限らず、他分野や日本国内にも波及していく可能性があるでしょう。
皆さんなら、このコンペティションにどのような記事を書き、どのような視点を発信したいと思いますか?そう想像してみることが、ライターとしての第一歩になるかもしれません。
参照:Vogue Business 2025 Talent Competitionの概要https://www.voguebusiness.com/story/companies/introducing-the-vogue-business-2025-talent-competition
村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。