新着情報
第67回アメリカ書籍レポート

世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第67回

アメリカ書籍レポート - 2月 

気候変動をテーマとしたYA作品

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


私の住む地域では、朝晩の冷え込みが厳しく、氷点下になる日が続いています。
日本の冬はいかがでしょうか。
今回ご紹介するYA作品は、気候変動をテーマとした作品です。映画『The Day After Tomorrow』などは大変有名ですが、昔からハリウッドでは自然災害による人類滅亡をテーマにした作品が生まれてきました。ここ最近ティーンの間では、そうした気候変動や自然災害をフィクションでありながら現実にも起こりえるような作品が注目を集めているようです。
2つ目はイギリスの作家ですが世界的ベストセラーであり、日本語訳された作品もあるジョセフ・ノックスの新作です。どんでん返し好きな私としては、ぜひチェックしたい作品でした。登場人物の誰一人信用ならないのですが、きっと騙されます。
最後にご紹介したのは、昨年8月にも注目作品をご紹介したフリーダ・マクファデンの新作です。今注目すべきサイコスリラー作家は彼女です。正直なところ「スリラー」というジャンルは得意ではないのですが、決定的な1行で全てをひっくり返されるどんでん返しを期待する人にお勧めです。B&Nオーディオブックジャンルで第3位でした。

The Last Bookstore on Earth (2025)

著者:Lily Braun-Arnold

邦訳:なし

作品について:

気候変動がもたらした大災害により文明が崩壊した世界で生き抜く二人の少女たちの物語です。地球全体を完膚なきまでに吹き飛ばした超巨大ストームの生存者は、リズを含めたほんの一握りの人々でした。リズはかつて自分がアルバイトをしていた、ニュージャージーにある荒廃した書店で何とか生き延び、本と日用品を交換して食つなぐ日々を過ごしていました。そんなある日、一晩の寝る場所を求め、メイヴが書店に侵入してきます。次の大災害までに壊れかけた書店を修復し、補強するには、メイヴの助けが必要でした。互いに警戒しつつも、徐々に心の距離を縮める二人。愛と喪失感、そして緊迫した生存への渇望を、文明が失われつつある世界の中で文化を象徴する書店を舞台として描いた作品です。今年のNYタイムズ・ベストセラーにも選出された、話題のYA小説です。

著者:

Lily Braun-Arnoldは、マサチューセッツ州の私立大学に通う大学生。執筆は主に地元の独立系書店で行っている。本書がデビュー作。

Imposter Syndrome (2024)

著者:ジョセフ・ノックス

邦訳:なし

作品について:

巧妙な欺瞞と陰謀が交差するミステリー。過去から逃げるようにしてロンドンに到着した詐欺師のリンチは、電話も金も頼れる人もいない状態。そんな彼の前にボビーという若い女性が現れ、彼を5年前に失踪した兄ヘイドン・ピアースだと勘違いします。ボビーの提案で、リンチはピアース家にヘイドンになりすまして近づき、金をだまし取ろうと計画。しかし、偽装はすぐに見破られてしまいます。そこでリンチは、口外しない代わりに、ヘイドンの失踪の真相を探る協力をすることを約束させられます。捜査を進める中で、ヘイドンがロンドンの危険な権力者たちと関わっていた事実が明らかになります。関係者たちはそれぞれの思惑が、真相の解明を阻もうとします。錯綜する状況の中で、リンチが唯一信じられるのは自分自身だけ。

この物語は、予測不可能な展開と緊張感あふれる描写が魅力で、読者を最後まで翻弄します。

著者:

国際的ベストセラー作家であるジョセフ・ノックスは、ロンドン在住。デビュー作『Sirens』(邦題:堕落刑事、訳者:池田真紀子、新潮社 2019年)はマンチェスター市警エイダン・ウェイツ三部作の第1作目で、ベストセラーとなり日本語を含む18言語に翻訳された。スタンドアロン作品『True Crime Story』(邦題:トゥルー・クライム・ストーリー、訳者:池田真紀子、新潮社 2021年)はサンデー・タイムズで1位を獲得している。

The Crash (2025)

著者:フリーダ・マクファデン

邦訳:なし

作品について:

サイコスリラーの名手、フリーダ・マクファデンによる、雪の降る季節に読むべき新作です。

8か月目の妊婦ティーガンは、パートナーには逃げられ、人生のどん底からの救いを求めて、兄のもとに向かう決心をします。しかし、彼女は途中で猛吹雪に直面し、目的地に到達できません。車が故障し足首も負傷したティーガンは、メイン州の田舎で立ち往生する羽目に。絶望の中、親切そうな夫婦が現れ、吹雪が過ぎるまで自宅のキャビンでの滞在を勧めてくれます。

安堵したのもつかの間、その「安全な避難所」は次第に奇妙な様相を呈します。何かがおかしいと気づいたティーガンは、時間が経つにつれて自分とお腹の中の我が子が重大な危険にさらされていることを悟ります。この場所に留まることこそ、命を脅かす最大の過ちだったのです。

読み始めたら止まらない、息もつかせぬスリラーです。

著者:

フリーダ・マクファデンは、脳障害を専門とする開業医として活躍する一方、ニューヨーク・タイムズ、USAトゥデイ、パブリッシャーズ・ウィークリー、サンデー・タイムズでも取り上げられる世界的ベストセラー作家。彼女の第一作目はAmazon KDPでの自費出版から始まり、本作品のシリーズ『The Housemaid』は世界的なヒットとなる。『Never Lie』(2022)は、Netflixでのドラマ化も決定している。インターナショナル・スリラー・ライター賞のベスト・ペーパーバック・オリジナル賞とグッドレッズ・チョイス賞のベスト・スリラー賞を受賞。彼女の小説は40以上の言語に翻訳されているものの、日本語へは未だ翻訳されていない。

このレポートはアメリカ書籍レポート - 2月号です。これまでの内容は以下から、会員登録していただけるとすべてご覧いただけます。

 


柴田きえ美

カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。

PDF版

0
おすすめの記事