第3回海外の出版業界情報 2024年7月
2024/7/22
アメリカ:懐かしいコミックのリバイバル
日本でも「昭和レトロブーム」といって、少し昔の懐かしいものに注目が集まっていますが、アメリカでも1980年代から2000年代の懐かしい要素を取り入れたグラフィック・ノベルが人気を博しています。Publishers Weeklyによると、コミック業界は懐かしさのあるメディアとのタイアップに力を注いでいるとのこと。今回はこの記事を取り上げます。
『トランスフォーマー』と『ミュータント・タートルズ』
アメリカのSkybound Entertainment社は『Transformers(邦題:トランスフォーマー)』と『G.I. Joe(邦題:G.I.ジョー)』のライセンスを購入し、これに基づく新しいシリーズを2023年にリリースしたところ、大ヒットとなりました。
また、現在人気沸騰中なのが『Teenage Mutant Ninja Turtles(邦題:ミュータント・タートルズ)』です。2024年はこのコミックが初めて自費出版されてから40周年にあたり、7月からは新しい脚本家や作画担当者で大々的にリニューアルされたシリーズが始まります。2022年に単体で刊行されたグラフィック・ノベル『The Last Ronin(邦題:ラスト・ローニン)』は、大人向けアメリカン・コミックのベストセラーに入り、2025年には映画化もされます。
ディズニーの漫画へのアレンジ
ディズニー社とマーベル社は、北米の日本漫画翻訳出版会社ビズメディア社と提携し、アメリカの作品に「漫画のひねり」を加えようと試みています。例えば、Disney+で配信中のX-Men '97アニメシリーズが人気となっているタイミングで、1990年代の『X-Men: The Manga』を2024年11月にオムニバスでリリースします。
漫画出版社TOKYOPOP社は、ディズニーのライセンスを最大限に活用し、映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)と『リロ&スティッチ』(2002年)を題材にした漫画を出版しています。漫画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は定番人気の作品となっており、フルカラー版が8月に発売されるようです。
出版社は古い作品を単に再販するだけでなく、新しいクリエイターや著名な編集者に参加してもらうことで、懐かしさを感じさせつつ新しい作品を生み出そうとしています。懐かしさと新しさを融合させることで、幅広い世代の読者を引きつけることに成功しているのです。
中国の出版市場
Publishing Perspectivesの記事を紹介します。
ショート動画プラットフォームの影響
中国の出版市場は、2023年度に成長指標がマイナスからプラスに転じました。その要因の一つとして、ショート動画によるプロモーションの増加が挙げられます。中国の書籍小売市場では、TikTokの中国版Douyinなどのショート動画配信が、電子商取引(EC)プラットフォームに次ぐ第2位の販売ルートとなり、大きな推進力となりました。
2023年に成長が見られた主なカテゴリは以下の通りです。
健康、医学、生活に関するコンテンツ
知識やスキル向上に関する書籍(自己啓発、経済、管理など)
話題になっているトピックや、映画・テレビに関連する書籍
学生向けの学習補助教材
児童向けベストセラー:『自分を守るために知っておくべきこと』
2024年3月、河北省で13歳の少年が同級生3人に暴行され死亡する事件が発生し、少年犯罪問題に対する激しいメディア論争を引き起こしました。教育省は5月14日に過剰な宿題やいじめに対処する新たなキャンペーンを発表しました。事件後、多くの人々が学校のいじめ、子供の保護に関する法律、自衛手段などのトピックに対して大きな関心を寄せました。その結果、これらの問題に関する書籍の売り上げが急増しました。
特に注目されたのは、2023年11月に北京理工大学出版社から出版された『自分を守るために知っておくべきこと:マンガ民法典』(仮訳、原書タイトル『漫画民法典用什么保护自己』)(全6巻)です。この本は、2024年3月に売り上げチャート6位にランクインしました。また、2024年1月に別の出版社から出版された『女の子が自分を守るために知っておくべきこと』(仮訳、原書タイトル『女孩, 你該如何保护自己』)も注目を集めています。
この記事の後半で紹介されている、子供たち自身が自発的に学ぶことを促す書籍の人気は、中国の若い世代が自己防衛や自身の権利を守ることに対して積極的な姿勢を持っていることを示しています。これは、個人の権利意識が高まりつつある現代の中国社会の一面を反映しているのでしょう。
村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。