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2024年7月22日 第344号 World News Insight             (Alumni編集室改め)                                    移民問題に揺れるフランス、                             7月7日の国民議会選挙でハングパーラメント(宙づり議会に)                                バベル翻訳専門職大学院 副学長 堀田都茂樹

フランスで、7月7日に行われた議会選挙の決選投票で移民拒否派のマリーヌ・ルペン氏率いる(極右)勢力が有権者に拒絶され(極右)勢力は第3位に後退し、フランスの左派政党メランション氏が健闘したことにより、マクロン大統領率いるフランスは崖っぷちに追いやられた。議会はどの勢力も過半数に達しない三すくみの「ハングパーラメント(宙づり議会)」に至った。

フランスは新たな不確実性に陥ったと、日刊紙ル・パリジャンは、困った表情をしたエマニュエル・マクロン大統領の顔写真を1面に載せ、「さあ、どうする?」という見出しを掲げた。

ここで、改めて、三者の立場を振り返ってみよう。

与党連合のエマニュエル・マクロン大統領は比較的寛容な移民政策を支持しており、経済的・人道的理由から移民の受け入れを促進する立場をとっている。彼の政府は移民の統合を重視する政策を推進している。

一方、マリーヌ・ルペン氏は極右(何が極右?)政党である国民連合(旧・国民戦線)の党首であり、移民に対して非常に厳しい立場をとっており、彼女の政策は以下のような特徴がある。
1. 移民制限の強化:ルペン氏は移民の流入を厳しく制限する政策を提案しており、新規移民の受け入れを大幅に減少させることを主張している。
2. 国境管理の強化:シェンゲン協定からの脱退や国境管理の強化を求めており、不法移民の流入を防ぐための厳格な措置を導入することを提唱している。
3. 移民の送還:不法移民や犯罪を犯した移民の強制送還を推進し、移民がフランスに留まることを難しくする政策を支持している。
4. フランスのアイデンティティの保護:フランスの文化や価値観を守るため、移民の同化を強調し、フランス語の習得やフランスの法と規範の尊重を強制することを求めている。

ルペン氏のこれらの政策は、移民に対する警戒感や反発を背景にしており、フランス社会の一部で支持を集めているが、一方で他の部分では批判や反対も多く見られる。

ジャン=リュック・メランション氏はフランスの新人民戦線、左派政党「不屈のフランス(La France Insoumise)」のリーダーであり、移民政策において比較的寛容な立場をとっている。彼の移民政策に対する主な姿勢は、
1. 人道的アプローチ:メランション氏は移民を人道的に受け入れることを強調しており、難民や亡命希望者に対する支援を拡充することを主張している。彼は国際的な人権規範を遵守することの重要性を強調している。
2. 社会的包摂と統合:移民の統合を重視し、移民がフランス社会に円滑に参加できるような政策を推進している。これには、教育や職業訓練、フランス語の習得支援などが含まれる。
3. 平等な権利の確保:メランション氏は移民がフランス人と同じ権利を享受するべきだと主張しており、移民に対する差別や排除に反対している。彼は法的・社会的平等を強調し、移民が社会の一員として受け入れられることを目指している。
4. 国際協力の強化:移民問題の根本的な解決には国際協力が必要だと考えており、移民の発生原因となる紛争や貧困に対する国際的な取り組みを強化することを提唱している。
5. 欧州連合(EU)との協調:EUの移民政策に対しても協調的な姿勢を示しており、EU全体での連携を通じて移民問題に対処することを重視している。

メランション氏の移民政策は、社会的公正や人道主義を基盤としたものであり、移民の権利と尊厳を守ることに重点を置いています。このため、彼の政策は左派の支持者を中心に広く支持されていますが、同時に移民に対して厳しい姿勢を求める保守層からは批判を受けることもある。

翻って、世界の移民状況を見てみると、1990年代、国民意識の喪失、ナショナリズムの崩壊は、明らかに移民受入に代表されるグローバリズムによって推し進められた。

ヨーロッパ各国がグローバル化、移民の大量移入、それによって疲弊しきっている状況は皆様も様々なニュースでご承知でしょう。また、コロナパンデミックの要因は間違いなく、人の自由すぎる移動だったでしょう。ウォール街に代表される金融資本家に踊らされて、人、モノ、金の自由化に踊らされた結果、国体を破壊され今の悲惨な状況となったヨーロッパ各国。

「我が国は古来こういう国なので、こうありたい」、と堂々と自国を主張しにくくなっているのが昨今のヨーロッパ事情。人、モノ、金、情報の自由な移動、グローバリズムを盲目的に良しとしている人、中国共産党をはじめ、文化的、物理的浸食を受け入れている人には、そもそもこうした願い自体が意味のない事と言うのかもしれません。

例えば、方向転換したとはいえ、ドイツは、ドイツはこういう国だ、と堂々と言えない国になりつつあると言う。年間何十万人もの移民が、特にイスラム系の移民が流入してきたからで、かれらが自国のことを声高に主張すると、レイシスト呼ばわりされる国になりはて、おまけに、流入する移民たちは凶悪犯罪の温床にもなっていると言うのが現状。

また、英国の国勢調査によれば、ロンドンの住人のうち「白人の英国人」が占める割合はすでに半数を切っている。ロンドンの33地区のうち23地区で白人は少数派に転落している。英国民に占めるキリスト教徒の割合も、過去10年間で72%から59%と大幅に減少し、2050年までには国民の三分の一まで減る見込みとのこと。

他には、例えばスウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン人(スウェーデン系スウェーデン人)は少数派に転落するという予測もある。

このように、グローバリスト主導の外国人労働者の受け入れに端を発する移民国家化によって、ヨーロッパ諸国は、民族構成や宗教や文化のあり方が大きく変容しつつある。正面から十分に国民の意思を問うたわけでもなく、いつの間にか、「国のかたち」が、 なし崩し的に大きく変わってきてしまった。その結果、ヨーロッパ文明は死に、ヨーロッパ人はかけがえのない故郷を失っていく、更に人命までも。

これらの惨状は、都市化、グローバル化を安易に推し進める日本の行く末のような気がする。世界第4位の移民大国、日本。留学生、技能実習生という名の下で、多くの不法就労者を生んでいる。いまは中国系からベトナム系移民に移行しつつあり、犯罪の多くはベトナム人によるものである。これらの都市の現象はグローバリズムのなれの果てと言えないでしょうか。

さあ、どうする? 『必死に「政府」を探し求めるフランス、議会選で不確実性の時代に突入。政党のライバル関係が妥協を阻み、政治が膠着する恐れがある。安堵の後に混乱が訪れた。

欧州のほかの国なら話はまだ簡単かもしれない。ライバル政党が膝詰めで議論し、どうすれば連立政権を組めるかを探る。ところが、フランスでは政治において妥協することは好まれない。フランスは誰なら国を統治できるかを探りつつ、はったり、ポーズ、混乱、 そして駆け引きが展開される局面に入った、と言われる。いわゆる民主主義(今回は民主制ではなく民主「主義」)は、試練に直面している。

民主制とは、ナショナリズム(国民意識)を共有する有権者が議論し、投票し、多数派を確認することで政策を決定する政体です。少なくとも表向きは。つまりは、いかなる選挙結果になろうとも、先日のイギリス総選挙のスナク・前首相のように、負けが確定した際には、潔く敗北宣言し、勝者を称え、「ノーサイド」の精神で共に国家を前進させなければならない。

思えば、2020年のアメリカ大統領選挙で、トランプ・元大統領はバイデン大統領に敗れたが、敗北宣言はなされませんでした。

そして、今回、ルペン率いるフランスの国民連合(旧・国民戦線)は敗北宣言をしていない。もちろん、与党連合もマクロン大統領も。結果が、「完全なる勝者がいない」形になってしまい、三すくみ状況に陥った以上、仕方がないのかも知れませんが、現在のフランスの政治家らは、「同じ国民なのだから、共に政治を進めよう」といった国民意識が全く感じられない、と言う。

ナショナリズムを否定する真正グローバリストのマクロン政権が続いていた以上、当然と言えば当然ですが、現在のフランスは「グローバル化疲れ」に加え、そもそも民主制の基盤となる国民意識を喪失してしまっているように思える。これは、日本にとっても他人事ではない。

しかも、国民意識の喪失、ナショナリズムの崩壊は、明らかに移民受入に代表されるグローバリズムによって推進された。

整理すると、グローバリズム、特に移民受入と緊縮財政が、グローバル政権(マクロン政権)への反発を呼び起こした。 話がこれで終わればシンプルなのだ。「グロバーリズム 対 反グローバリズム」になるだけなので。ところが、移民問題を巡り、反グローバリズムが左右に分裂し、三すくみ状態に陥ってしまった。

果たして、マクロン大統領やメランション氏、ルペン氏、そして彼らが率いるフランス議員たちが、「同じ国民なのだから、議論し、何とか妥結点を見つけ、新内閣を発足させようと、できるのかどうか。

何しろ、現在のフランスは、まさにこの「同じ国民なのだから」が失われているように思えてならない。「国民連合にとって(あるいは新人民戦線にとって)、新人民戦線は(あるいは国民連合は)絶対に分かり合えない不倶戴天の敵なのだ!」 などとやっていた日には、フランス新政権樹立は遠のくばかりでしょう。

それにしても、人々がトランプ派とバイデン派に分かれ、互いに「国家の敵」呼ばわりして攻撃し合っているアメリカと、実によく似ている。国民が分裂してしまった国において、健全な民主制は成立しうるのか?これが、現在の民主主義が突きつけられた問いでしょう。

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