世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第 62回
アメリカ書籍レポート - 6月
Teen向けの実用書
柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)
昨年12月の記事にてご紹介しました、英訳出版された日本の小説です。写真は5月上旬に撮影したものです。実際に書店でどのように陳列されているのかがお分かりいただけるでしょうか。この小さな特集テーブルは、入り口からまっすぐ進んだ本棚と本棚の間のメイン通路の真ん中に設置されており、探さずとも目に留まる位置にありました。日本の素晴らしい書籍がもっとたくさん、広く世界の書店に並べられる日が楽しみです。
今回ご紹介したい書籍は、Teen向けの実用書です。私自身は、時間管理やお金の管理に関する実用書が好きで何冊か読んできましたが、「これは子供に教えておきたい」「ぜひ我が家でも実践したい」というものはいくつもありました。子供に分かりやすく教え、実行可能なサイズに分解するというのは思うようにいかないことが多いです。しかし、ここでご紹介する『Life Skills for Teens』を店頭で見かけてパラパラとページを開いてみて、これは間違いなく役立ちそうだと思いました。
Life Skills for Teens (2021)
著者:カレン・ハリス
読者対象:13-18歳
作品について:
ティーンになったら一読すべき、生きるためのハウツー本です。本書で学べるライフスキルは、料理や身だしなみ、お金の管理・予算、感情と向き合う方法から、車のメンテナンス方法まで多岐にわたる独り立ちするために知っておくべき知識が満載です。
例えば、保険の仕組みについて書かれたページには、保険の種類の違いやDeductibleとは何か、といった大人でも曖昧で、今更人には聞けないような「常識」がティーンに分かりやすい言葉でイラストとともに解説されています。将来について考える章では、ただ単に将来の夢を決めるだけでなく、そのために必要な最初の一歩は何か、情報はどのように集めるか、という「夢」を現実の世界に落とし込むアドバイスが書かれています。そして、最も読者に伝えたいことは「気が変わっても良い」ということです。日本とは少し事情が違うかもしれませんが、平均的な一般人が一つの職場に留まるのは4~6年、生涯に5~7回転職するのだそうです。だから、間違いを恐れず、計画に変更があったとしても気に病むことはない、と勇気付けています。また、更に実用的なハウツーとして、洗濯の仕方や家のブレーカーのあげ方、小火が出たときの対処方法などもわかりやすく説明されています。
子供のためにと手に取った本ですが、大人も学べる良書だと思います。充実した内容にもかかわらず、コンパクトな本です。分厚い事典のような本はしり込みしてしまう子供もいるかもしれませんが、この厚さ0.5センチほどの本なら、パラパラとめくってくれるのではないでしょうか。
著者紹介:
著者は、本書の他に『Life Skills for Teenage Girls』(2022)と8歳から12歳向けの『Life Skills for Kids』(2022)を出版している。
Essential Life Skills for Teens (2023)
著者:Cristina Turingray
読者対象:9-16歳
作品について:
同じくこちらもティーンに不可欠なライフスキルをわかりやすく教えてくれる一冊です。時間管理の方法やサイバーセキュリティーのいろは、ローンについてなど、大人になって絶対に役立つ知識が満載です。また、対人関係、友人との会話の仕方もカバーしています。ただし、こちらはインディペンデント・パブリッシュ、すなわち商業出版と個人出版のハイブリッド型の出版のため、Amazon上でしか購入はできないようです。
そして、特筆すべきは表紙にも描かれているイラストです。日本の漫画風のイラストが各所にちりばめられており、最近のティーンならば思わず手に取ってしまうかもしれません。描かれた手指を見てみると、もしかするとAIで描かれたイラストかもしれません。
著者紹介:
クリスティーナ・タリングレイは、3人の子供をもつ母親でありながら、経済学者、会計士としてのキャリアを積んできた。そして数字だけでなく、文を書くことも好きだったことから、自身の経験や専門知識を存分に生かし、本書を書き上げた。
<ユーモア部門>
The 7 Habits of Highly Effective Teens on the Go (2022)
著者:Sean Covey
読者対象:13-18歳
作品について:
時代を超えて今もベストセラーとして世界中で読まれているスティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』(日本語版1996年、原書初版1989年)に基づき、ティーン向けに再編成した『7つの習慣ティーンズ』(出版社:キングベアー出版、2002)のさらにダイジェスト版です。
7つの習慣の考え方・原理のポイントを押さえて1週間ごとの現実的なフォーマットに落とし込んでいます。著名な自己啓発本のティーン向けは人気の分野でもありますが、ダイジェスト版は、この著書の存在を知り読み始めるきっかけにもなりそうです。
著者紹介:
ショーン・コヴィーは、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー作家であり、フランクリン・コヴィー・エデュケーション社の社長でもある。これ以前にも、『リーダー・イン・ミー :』(訳:フランクリン・コヴィー・ジャパン、出版社:キングベアー出版、2014)、『実行の4つの規律』(訳:フランクリン・コヴィー・ジャパン、出版社:キングベアー出版、2016)『戦略を、実行できる組織、できない組織。』(訳:フランクリン・コヴィー・ジャパン、出版社:キングベアー出版、2021)などを出版している。特に教育現場にリーダーシップ・アプローチを導入し、世界中の教育を変革することに力を注いでいる。この取り組みは、現在50カ国、4,000校以上で実施されている。また、定期的に学校や団体で子供や大人に向けて講演を行い、ラジオやテレビ番組にも数多く出演している。
PDF版
柴田きえ美
カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。