「JTA News & Topics 」 第179回
今回は、2023年6月23日に実施しました「日英技術翻訳の勘どころ」セミナー第1回(主催:バベルユニバーシティ、後援:一般社団法人 日本翻訳協会)受講者の吉田ひろみさんよりセミナーレポートを投稿していただきましたので掲載をしています。
情報提供:一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA) https://www.jta-net.or.jp/
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「日英技術翻訳の勘どころ」セミナー 第1回
― 日本人の弱点を克服して Readable な英文を書こう ―
・(株)日立製作所でメインフレームコンピューターの設計および輸出に35年間
従事した後、社内外国語研修所の運営に4年間携わり、定年退職後15年間 神奈川大学や早稲田大学で技術英語の教鞭をとった。 ・並行して(益財)日本英語検定協会顧問を11年間務める等、日本人の英語 能力評価に携わった。 ・日英・英日翻訳(含添削)歴は、社内従事や副業も含め49年に及ぶ(2023年 春現在)。 ・現職は、(有)平井ランゲージ・サービシズ代表取締役社長。 ・英語能力検定試験*の最上級54件取得(日本一ネットで日本記録認定)。 ・技術士(情報工学)、工学修士(米国ペンシルバニア大学) * 米国翻訳者協会 (ATA) (JE/EJ)、JTFほんやく検定1級(JE/EJ)、 「JTA公認翻訳専門職(Certified Professional Translator)」認定取得、 TEP 1級、工業英検1級、TOEIC®満点を含む 著書 ・『速く正確に読む IT エンジニアの英語』 ・『エンジニアのための英文超克服テキスト』 ・『エンジニアのための英語プレゼンテーション超克服テキスト』 ・『エンジニアのための英会話超克服テキスト-実戦! テクニカル・ミーティング』 ・『キクタンサイエンス: 情報科学編』 訳書 ・『はじめての STEP BULATS』 |
●レポーター :吉田 ひろみ バベル翻訳専門職大学院在籍中 米国ハワイ州在住。国際企業でフルタイム勤務の傍ら、子育てと学業の両立に奔走中。
この度、 技術翻訳セミナーへ参加させて頂き、平井 通宏講師 (技術士/情報工学) (有) 平井ランゲージ・サービシズ代表取締役社長 のお話を伺いました。
技術翻訳の専門知識等ないので理解できるのだろうか?と少し不安でしたが、講師のわかりやすいご説明を聞きながら、今まで参加した様々なセミナーの中で学んだ事や、法律翻訳や文芸翻訳といった他分野の翻訳とも重なる部分に気付き、専門分野にとらわれず、翻訳というもっと広い意味での共通点を発見しました。Readableな英語を書くこと、3C、7C、修辞について、また、ケネディ元大統領とトランプ元大統領の就任演説の比較もおもしろく、フィギュアスケート得点方式を例としたご説明も、フィギュアスケート好きな私にとって、親しみやすくわかりやすかったです。
概論• 技術コミュニケーションの目的と要件 • 技術英語の特徴
- 目標:Readableな英文を書くこと
- 日本語文と英文の構造的違い
- 日英翻訳の位置づけ
- 翻訳の品質
注) 本教材では「科学・技術」をまとめて「技術」と表記
- 技術コミュニケーションの目的: 技術的情報や意思を、対象と する読者/聴き手が理解できるレベルで、正確かつ明快に伝えること
- 技術コミュニケーションにおいて要求される“3C” Correct (正確であること、正しいこと) Clear (明快/明確であること) Concise (簡潔であること)
言葉の機能性を重視(他の側面を極力排除) 注)「コミュニケーション」には、ライティング以外に、スピーキング等(た とえばプレゼンテーション)による意思疎通/伝達も含む 参考)ビジネス・コミュニケーションに要求される 7C Correct, Clear, Concise, Complete, Concrete, Courteous, Considerate
目次 • 語彙 • 修辞の重視 • 構文および文体 ・受動態 ・無生物主語 • その他(規格等) ・規格/ガイドライン(技術文書作成等)
修辞の重視 • 修辞(rhetoric): 意思や情報を効果的かつ効率的に伝え たり、相手を説得したりするための、言葉の技法 古典的定義
・論理の展開のしかた(論理性)を重視 ・文書の構成、パラグラフィング、並列性等の重視
構文および文体 • 受動態が比較的多い
・事物の記述には、動作主を明示する必要が少ない、あるいは明示しない 方が自然、ただし、一般的には能動態の方が好まれる(状況次第)
• 無生物の主語が比較的多い: 事物の記述が多いため
注: 英訳の際、和文の主語をそのまま英文の主語にしない方がよいことが よくある
• 論理的で無駄のない文(sentence)が要求される
・1個の文の中でも、(できれば) 因果関係等を明確に示すこと
**Readable な英語を書くこと
• Readable: 読みやすい、読む気になる、読んで楽しい
文あたり平均語数等から単純に計算した数 値。非常に大雑把な評価指標。
・Flesch Reading Ease Score (FRES):
0 (超難解) -100(超易)点
・Flesch-Kincaid Reading Age (FKRA) (または Flesch-Kincaid Grade Level): 容易に読解できるのに必要な学習年数。
・手作業を中心にするマニュアル: 9(義務教育修了レベル)程度以下
・ICT分野のマニュアル: 5 – 12(高校卒業レベル)
米国ケネディ大統領の就任演説: 11.4(高校3年生レベル)
米国トランプ大統領の就任演説: 8.0(中学2年生レベル→一般庶民受けする事も大切)
Readability 広義のReadabilityを決める諸要素
• 文章(複数文)レベルの主な要素
・論理性 (“Does it make sense?”)
・スタイル(文体、読み手との距離感、言い回しの巧拙、編集的要素等)
・変化(variety vs. monotony) (語彙、言い回し、文型、スタイル等) 相反する要求
・一貫性(統一性) (語彙、言い回し、文型、スタイル等) 参考) テクニカル
・ライティング(特にマニュアル、特許)では、用語/言い回しの一貫性 (“1 meaning/word”) を強調
・パターン: 話の展開やスタイルに関する、書き手と読み手の暗黙の了解/期待
• パラグラフの主な要素
・統一性 (unity) ・首尾一貫性(coherence)
日本語と英語のコミュニケーション・スタイルの相違 (英語/ 日本語 )
日本語文と英語文の構造の相違- 日本語の論理の流れ: 逆茂木型 (Leggett の樹) 英語の論理の流れ • 日本語文の論理構造: 背景や理由等の説明を先に述べたり、複数の思考を関連させたりしながら、本筋(主節)へ合流させる--理由(「ので」) が結論より先行せざるを得ない構造
例: 「実は今朝いつもの時間に家を出たんですけど、駅に着いたら人身事故で遅れています、という掲示がでていて、是非定刻に出席するつもりだったんですけど遅刻してしまい、す みません」
• 英語文の論理構造: 本筋(主節)が先ずあって、脇道(修飾等の副次的 節/句)にそれる場合は、その始点で脇道であることを明確にしながら展開
例: Sorry, I was late because of a traffic accident along the way…
構造的相違 視点の違い
•日本語:
(1) 主語を示さない文が多い
・ 言わなくても分かっているという前提 ・主語を省略しても他の単語(動詞)の語形/語尾で主語が分かる
(2) 話者/作者が言いたい(相手の注意を引きたい)ことが先に来る(“主語”)
・それを、「…です」のような状態動詞(vs. 動作動詞)で受けることが多い
・日本文の主語をそのまま英文の主語にすると、不自然/非論理的 な英文になりがちで、よく注意を払わないと、日本語文章にはこのような点(構造)があふれている。
例: マーケティングに関しては、予算を大幅にカットしました。
As for marketing, we have cut the budget drastically. → We have drastically cut the marketing budget.
(2) 英語:
基本的には主語が必要 、動作を行う主体が主語、それを受けるのに動作動詞を使うことが多い
主語の省略を許容する欧米言語: ラテン語系(スペイン語、イタリア語等) スラブ系言語 ハンガリー語 フィンランド語 [トルコ語]
・主語を省略しても他の単語(動詞、形容詞等)の語形や状況で主語が分かる
• 自己視点 vs. 相手視点 (動詞の選択)
例: 明朝10時に貴事務所に伺います。
I’ll go to your office at 10 a.m. tomorrow. → I’ll come to (visit) your office at 10 a.m. tomorrow.
• 英文テクニカルライティング ・コミニュケーションの“3C”(言葉の機能性)を最優先
・Readability要件のうち、一貫性(統一性)を特に強調(変化(variety)を忌避)
・無味乾燥で単調な英文になる傾向あり
・必ずしも原文にとらわれず、新規に英文を作成する(深層翻訳)アプローチ
・必要/適切なら、原文の修正/手直し(含情報削除、構成変更や単語選択)が許される
・原文への忠実性は二の次
・“翻訳者”の「独創性」が発揮できる
翻訳の位置づけ 日英翻訳 vs. 和文英訳 • 日英翻訳
・対価をもらって行うプロの世界、したがって、成果物に対する[品質]責任を伴う
・高レベルの要求: 正確さ、[広義の] Readability (読みやすさ)
・専門家またはユーザーの主観による評価 ・評価者の感性、好みに依存 ・優れた翻訳に加点する、加点方式が加味される( フィギュアスケートや新体操競技の「芸術(印象)点」に相当)
・「公平性」の担保困難
・文芸翻訳やメディア翻訳には適している
• “客観的”評価
・品質を決める要素(メトリック、指標)を幾つか定義
・各要素について、エラー等を数および程度で評価(採点)
・減点方式 ・実務翻訳に適している 評価メトリクスによる“客観的”評価
以上
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「社内翻訳者としてのキャリアビルディング」セミナー
― 現在、過去、未来から考察する ―
日本において、翻訳者として仕事をする場合、多くの方がフリーランスとして在宅で仕事をすることを思い浮かべると思います。その一方で、一つの企業に常駐して、社内翻訳者として働く道があるのをご存知でしょうか。フリーランス翻訳者と比べて、社内翻訳という仕事についてあまり多く語られることはないですが、日本には社内翻訳者という大きな求人市場があります。その一方で、労働市場は常に変化しています。最近の労働市場の様子を踏まえながら、社内翻訳者として仕事していくことについてリアルにお伝えします。
<セミナー目次>
1、はじめに
2、社内翻訳者になるには
3、社内翻訳者の現在
4、社内翻訳職の歴史
5、社内翻訳職の未来
●講師:宮田 百合(みやた ゆり)
・2019年バベル翻訳専門職大学院修了
・外資系メーカーにて、翻訳担当
翻訳会社の翻訳者養成講座を受講したことをきっかけに、 翻訳会社に勤務。 その後、外資系IT企業、日系メーカーにて 社内通訳翻訳者として勤務し、現在に至る。
●セミナー日程: 2023年8月30日(水) 15時~16時30分(日本時間)
●申込締切 : 2023年8月24日(木)(日本時間)
◆セミナーの詳細・お申込みはこちらまで↓
https://www.jta-net.or.jp/seminar_230830.html
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「翻訳における視点と語り手をめぐる問題」セミナー
― 「~は」「~た」などの形式をめぐって「話し手の言語」としての日本語 ―
感情形容詞が「太郎はさびしい。」のように三人称には使用できないことなどにも示されているように日本語は「話し手の言語、立場志向」といわれている。「(「旅行行ったんだってね、」)うん、奈良の大仏は大きかったよ。」の「大きかった。」も、話し手の自分の経験した事柄に対する気持ち・反応の現れであって、発話時点でも大きいことに変わりはない大仏の属性の描写のみに収まりきらない。
このことは小説の語り手の位置の問題にも関係し、川端康成の「雪国」の冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」も英訳などでは客観的な描写になってしまうが、日本語ではあきらかに「汽車の中にいてそれを経験した人になりきっている語り手の声」である。
講義では以上のような問題点に関してこれまで指摘されていることがらのいくつかを整理、紹介していく。
そして以前扱った「機械翻訳」や「役割語」も含め翻訳においての問題点を考える。
●セミナー目次
1.はじめに
2.事実志向と立場志向
3.言語形式と語り手
4.「た」をめぐって:古語「き、けり」「つ、ぬ、たり、り」の意味用法から現代語「た」へ
5.「は」をめぐって:主題を提示する語り手の問題
6.翻訳における「話し手の立場」の扱い
●講師:猪塚 元(いのづか はじめ)
・上智大学外国語学部ロシア語学科卒業、
同大学大学院言語学研究科 博士前期課程修了 文学修士
・日本語教育能力検定試験 合格
・東邦大学等で講師、大学院では音声学の研究室に所属し10年ほど日本
各地で方言のフィールドワークに従事
大学院終了語、辞書出版社で露和・和露、英和・英英などの辞書の編纂
また情報処理振興事業協会でコンピュータ用日本語辞書のプロジェクトに
従事。
著書
(共著:猪塚恵美子)『日本語の音声入門 新版』2022バベルプレス
(共著:猪塚恵美子)『日本語音声学の仕組み』2003研究社
(共著:井口厚夫他)『Japanese Now(英文)』1993荒竹出版
『キクタン ロシア語 入門編』2014アルク
(共著 原ダリア)『キクタン ロシア語 会話編』2017アルク
(共著 原ダリア)『キクタン ロシア語 初級編』2019アルク
●セミナー日程: 2023年9月8日(金)15時~17時(日本時間)
<途中10分ほどの休憩が入る場合がございます>
●申込締切 : 2023年9月4日(月)(日本時間)
◆セミナーの詳細・お申込みはこちらまで↓
https://www.jta-net.or.jp/seminar_20230908.html
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●●翻訳試験のご案内●●
*試験は全てインターネット受験ですからご自宅での受験となります。
●●実施日:2023年9月2日(土)(日本時間)
●●締切:2023年8月29日(火)(日本時間)
◆第60回 JTA公認 翻訳専門職資格試験
https://www.jta-net.or.jp/about_pro_exam.html
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●●実施日:2023年9月9日(土)(日本時間)
●●締切:2023年9月5日(火)(日本時間)
◆《出版翻訳能力検定試験》
1) 第38回 一般教養書(ビジネス関連)翻訳能力検定試験 (英日)
2) 第38回 一般教養書(サイエンス関連)翻訳能力検定試験 (英日)
https://www.jta-net.or.jp/about_publication_exam.html
◆《ビジネス翻訳能力検定試験》
1) 第2回 〔日英〕リーガル翻訳能力検定試験
2) 第2回 〔日英〕医学・薬学翻訳能力検定試験
https://www.jta-net.or.jp/about_business_exam-2.html
◆第37回 フランス語翻訳能力検定試験フィクション分野 (仏日)
https://www.jta-net.or.jp/about_french_translation_exam.html
◆第37回 ドイツ語翻訳能力検定試験フィクション分野 (独日)
https://www.jta-net.or.jp/about_german_translation_exam.html
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情報提供 : 一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA)
●一般社団法人 日本翻訳協会● https://www.jta-net.or.jp/
・設立:1986年10月
・Mission:「翻訳に対する社会の認識を高めること及び翻訳に関する技術及び知識を増進することによって翻訳の水準を高めること並びに翻訳者を支援してその自立を促進することを通じて、世界の文化交流及び産業経済の発展に寄与することを目的とする。」
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