世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第75回
アメリカ書籍レポート - 4月
ベストセラーの中から気になった作品
柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)
3月20日に映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が公開されました。2021年の出版当時、その高い評価を聞きつけて日本語版を読み、さらに英語版オーディブルでも物語を味わった私は、すっかり作品の虜になっていました。映画公開を前に、改めて原書を手に入れようと久しぶりに買い物へ出かけたところ、書店やデパートでは大々的な再販プロモーションが展開されており、好きな作品が再び多くの人の目に触れていることが、とても嬉しく感じられました。
そのついでにデパートのベストセラー・コーナーものぞいてみると、ここ数年話題の作品が変わらずトップに並ぶ一方、思わず手に取りたくなる新しいタイトルもいくつか見つかりました。そこで今回は、そのコーナーで見かけた本と、3月のAmazonベストセラーの中から気になった作品をご紹介したいと思います。

The Psychology of Money(2020)
著者:モーガン・ハウセル(Morgan Housel) 邦訳:サイコロジー・オブ・マネー : 一生お金に困らない「富」のマインドセット 訳者:児島修
出版社: ダイヤモンド社(2021年12月)
作品について:
世界累計1,000万部を突破した、行動と心理から「お金」を読み解くベストセラー。本書の主張はきわめてシンプルで、「お金の扱い方は知識よりも“行動”がすべて」というものです。投資や家計管理はつい数式で語られがちですが、実際の意思決定は家庭や職場といった“感情が動く場”で行われます。その背景には、育ってきた環境、価値観、プライド、マーケティングなどが複雑に絡み合っています。
著者モーガン・ハウセルは、19の短いエッセイを通して「人はお金をどう考え、どんな心理的クセが判断を狂わせるのか」を鋭く描き出し、より賢く選択するための視点を提示します。お金との向き合い方を根本から見直したい人に向けた一冊です。
著者:
モーガン・ハウセルは、「コラボレーティブ・ファンド社」(The Collaborative Fund)のパートナーで、『The Motley Fool』および『ウォール・ストリート・ジャーナル』の元コラムニスト。ビジネス編集者協会のBest in Business賞を2度受賞し、NYTシドニー賞やローブ賞の最終候補にも選ばれた実力派の金融ジャーナリストです。現在はMarkel社の取締役を務め、家族とともにシアトル在住。
The Let Them Theory (2024) 著者:メル・ロビンズ(Mel Robbins) 邦訳:なし 出版社:Hay House LLC
作品について:
世界累計700万部超のベストセラー。作家メル・ロビンズによる自己啓発書『The Let Them Theory』は、「Let Them(好きにさせよう)」というたった2語で人生が変わる、と提案する一冊です。人間関係の悩みやストレスの多くは、「他人をどうにかしよう」としてエネルギーを消耗してしまうことから生まれる──本書はそこから自由になる方法を示します。
メル・ロビンズは、他人の意見や期待、行動をコントロールしようとする悪循環から離れ、「自分の気持ち・目標・行動」に力を取り戻すことの重要性を説きます。職場や家庭、人間関係、自己成長など8つの分野で、「レット・ゼム・セオリー」の実践方法をわかりやすく解説。比較や不安から解放され、自信を持って行動するためのヒントが詰まっています。
科学的根拠や心理学・脳科学の専門家の知見、著者自身の経験を交えながら、読者が自分らしい幸せや成功を築くための実践的ツールを提供する内容です。シンプルな原則を通じて、人生を前向きに再構築する力を与えてくれる一冊です。
著者:
メル・ロビンズは、人気ポッドキャスト「The Mel Robbins Podcast」のホストで、自己啓発分野を代表する著者・スピーカーです。最新作『The Let Them Theory』は2025年を代表する大ベストセラーとなり、著書は65言語に翻訳されています。他に、『魔法のハイタッチ』(訳:野口孝行、KADOKAWA 2023年)、『5秒ルール』(訳:福井久美子、東洋館出版社2019年)も出版。

Everything Is Tuberculosis (2025) 著者:ジョン・グリーン(John Green) 邦訳:なし
作品について:
世界で最も多くの命を奪う感染症・結核。作家ジョン・グリーンは、結核患者のヘンリーとの出会いを通して描くノンフィクション。2019年、シエラレオネの国立病院で出会った少年ヘンリーの姿を中心に、結核の歴史、科学、そして不平等が病を長く存続させてきた背景を重ね合わせる。
かつて詩人の病としてある種ロマンチックに描かれたこともあった結核は、いまや貧困・不正義と結びついた社会問題であり、治療可能であるにもかかわらず毎年100万人以上が命を失う。著者は自身の経験から、医療アクセスの改善と国際的支援の必要性を強く訴える。
個人の物語と社会の構造を丁寧に結び、感染症と人類の関係を深く考えさせる一冊。
著者:
ジョン・グリーンは『アラスカを追いかけて』(訳:金原瑞人、岩波書店2017年)『さよならを待つふたりのために』(訳:金原瑞人、岩波書店2013年)などで知られる受賞歴多数のベストセラー作家。弟ハンクとともに「Vlogbrothers」や教育チャンネル「Crash Course」などのオンライン企画も手がける。グローバル医療支援団体Partners In Healthの理事として結核対策にも取り組み、国連会合でもスピーチを行った。
Through Mom's Eyes (2026) 著者:シェネル・ジョーンズ(Sheinelle Jones) 邦訳:なし
出版社:G.P. Putnam's Sons
作品について:
『Through Mom’s Eyes』は、NBCテレビ番組 Today の人気ホスト、シェネル・ジョーンズが、著名人の母親たちから聞いた「子育てと人生の知恵」をまとめた一冊です。彼女は番組企画として、レディー・ガガ、リン=マヌエル・ミランダ、ステフ・カリー、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズなど、多くのセレブ達の母親にインタビューを重ねてきました。仕事と育児の両立、いじめの見抜き方、子どもに家のお手伝いをさせる工夫など、リアルで役立つアドバイスを聞き出しました。
本書では、それらのエピソードに加え、シェネル自身の三人の子育て経験をまじえながら、「母親が孤独にならないためのヒント」「つらい時期を乗り越える方法」「子育てに喜びを取り戻す考え方」を温かく紹介しています。
セレブの母たちの率直な言葉から、子どもへの愛、支え合う力、母親という存在の大きさを再確認できる、心励まされるエッセイ集です。
著者:
シェネル・ジョーンズは、NBC「Today with Jenna and Sheinelle」の共同ホストであり、著名人の母親に子育てのいろいろを聞く番組「Through Mom’s Eyes」のホストとしても知られています。Sirius XMのラジオ番組「Off the Rails」や、教育番組「Wild Child」の司会も務め、MSNBCの受賞ドキュメンタリーの製作総指揮も担当。ニューヨーク在住、3児の母。
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柴田きえ美 カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を学ぶ。これまでに日英・英日両方を含め7冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得。現在は、BTCで翻訳プロジェクトマネージャーとして翻訳に携わっている。
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