自費出版の成功例:作家Francesca Catlow
今回は、自費出版から成功を収めた作家の一人、Francesca Catlow(フランチェスカ・カトロウ)を紹介します。
Francesca Catlowは、情熱的なラブストーリーを描くベストセラー作家で、代表作にはギリシャのコルフ島を舞台にした『The Little Blue Door』シリーズなどがあります。彼女はかつて自費出版に失敗した経験を持ちながらも、あきらめずに自らの作品を再出発させました。
新型コロナウイルスによるロックダウン中、フランチェスカは生まれたばかりの子ども、慢性疾患を抱える夫、けがをした母親の世話をしていました。そんな中で彼女は、小説を書くことを決意します。
「仕事ができない状況だったので、今が書くにはちょうどいいタイミングだと思いました。コルフ島への逃避を夢見ながら、夜中の4時に赤ちゃんに授乳しながら書き始めたのが『The Little Blue Door』です。そこから4週間、止まることなく第一稿を書き上げました」とFrancescaは語っています。
その後6か月にわたり、原稿の推敲や執筆、母の介護、赤ちゃんのおむつ替えに取り組みながら、彼女は『The Little Blue Door』を出版する準備を整えていきました。
しかし、伝統的な出版社の長い出版プロセスに耐える余裕がなかった彼女は、調査や戦略を練る間もなく、とあるバニティ・プレス(vanity press)に原稿を託します。
*バニティ・プレス(vanity press):著者が費用を全額負担して書籍を出版する形態の出版社。
この経験についてフランチェスカはこう語っています。
「自分の貯金をすべて使い果たしたのに、本の仕上がりはひどいものでした。それなのに、“あなたが作家として生計を立てたいなんて知らなかった”なんて言われたんです」
さらにひどかったのは、表紙が物語の雰囲気とまったく合っておらず、彼女の描いた世界観が無視されていたことでした。
その後の交渉により、フランチェスカは原稿の出版権を取り戻すことに成功します。
苦い経験を経て、彼女はまず表紙デザインの見直しに着手しました。
「二度と雑な仕事はされたくなかったし、自分にはデザインの知識もない。だからこそ、信頼できる実績あるプロを、信頼できるプラットフォームで見つけたかったんです」と彼女は言います。
Instagramで見かけた素敵な表紙をきっかけに、出版支援プラットフォームReedsyでデザイナーを探したところ、その表紙を手がけた本人に出会うことができました。
フランチェスカは表紙に対する明確なビジョンを持っており、デザイナーにそのイメージを伝えました。デザイナーもその要望に真摯に向き合い、物語の背景や細部を丁寧にヒアリング。結果、彼女の想いを反映した表紙が完成しました。
新しい表紙とマーケティング計画により、彼女の作品は初期の数百部から数千部へと大きく売り上げを伸ばします。現在では大手書店Waterstonesやインディー系書店でも取り扱われ、サイン会にも招かれるようになりました。このデザイナーはその後、フランチェスカの他の作品『Behind the Olive Trees』『Chasing Greek Dreams』の表紙も手がけ、いずれもAmazonのベストセラー入りを果たしています。
バニティ・プレスは、日本語では「自費出版専門の出版社」や「著者負担型出版社」とも訳されますが、必ずしもそのすべての出版社が質の低い仕事をしているわけではありません。
Francescaの失敗は、おそらく自分のビジョンを正確に伝えきれなかった点にあったのでしょう。
自費出版では、装丁や編集などあらゆる工程を自分で判断することが求められますが、他者の手を借りることでより良いアイデアが生まれることもあります。だからこそ、「このイメージは大切にしたい」「ここだけは伝えたい」という明確な意思を持つことが非常に重要です。
イギリスにはReedsyという出版支援プラットフォームがあり、デザイナーや編集者を探すことができます。日本でもCAMPFIREなどのクラウドファンディングを活用して出版費用を集めたり、応援者を増やしたりすることが可能です。その意味でも、SNSなどを通じたつながりづくりは、今後ますます重要になるでしょう。
欧米では、自費出版をきっかけに商業出版社との契約へとつながった作家が数多くいます。今後も時折、そんな成功例をご紹介していきたいと思います。
参照:Reedsyの記事:https://blog.reedsy.com/stories/francesca-catlow/