第6回 世界のライターズ・マーケット近況(2025年1月)
2025年の書籍トレンド
新しい年が始まりました。2025年の書籍トレンドについて注目すべきトピックを取り上げた記事がありましたので、そのいくつかをご紹介します。日本国内の事情にはそぐわない点があるかもしれませんが、海外での視点として、ライティングの手法やテーマ選びの参考になるかもしれません。
AI生成文学の台頭
これまでAI生成コンテンツは主にジャーナリズムやマーケティングで活用されてきましたが、2025年にはAIが執筆したフィクションやノンフィクション書籍が急増すると予想されています。これに伴い、AIが生成したコンテンツの権利は誰に帰属するのか、またAIによる著作であることをどのように開示すべきかについて、さらに議論が活発になるでしょう。
もう一つ注目されるのは、人間の作家とAIが協力してコンテンツを制作するハイブリッド作品の登場です。この協働により、創造性の限界が押し広げられる可能性があります。人間の直感と、膨大なデータを処理しアイデアを生成するAIの能力が融合することで、新たな物語の手法やジャンルが生み出されるかもしれません。
サステナブル(持続可能)な出版
2025年には、リサイクル紙や生分解性インクなどの環境に優しい素材を使用する出版社が増加すると予想されています。また、書籍をまずデジタル形式で発売し、成功したタイトルのみを印刷する「digital first, print later」の手法もトレンドとなっていくでしょう。
大衆小説のサブジャンルの進化
特に注目されているのが、気候変動フィクション(Climate Fiction=Cli-Fi:クリファイ)というジャンルです。また、非西洋文化にインスパイアされたファンタジー作品や、人種、ジェンダー、アイデンティティの問題に革新的なアプローチで切り込むSF小説が増えることも期待されています。
オーディオブックのブームが継続
オーディオブックは近年急成長しており、このトレンドは2025年も続くと見込まれています。音響効果や音楽、複数のナレーターを取り入れ、より没入感のあるリスニング体験を提供する「オーディオドラマ」もさらに増加する兆しがあります。
人間のナレーターが引き続き人気を保つ一方で、AI生成された音声による「AIナレーション」も、よりリアルでカスタマイズ性の高いものへと進化しています。この技術の進歩により、生産プロセスの迅速化と低コスト化が実現し、オーディオブックのさらなる普及とアクセシビリティの向上が期待されます。
BookTokの影響力が継続
ソーシャルメディアは以前から書籍のマーケティングにおいて強力なツールでしたが、TikTokの書籍関連コミュニティであるBookTokは2025年も引き続き影響力を持つと予想されています。出版社は新刊プロモーションの一環として、BookTokのインフルエンサーとの提携を深めていくでしょう。一方で、個々のインフルエンサーを超えて、BookTokの広範な読者コミュニティによる草の根的な書籍発掘アプローチが、トレンド形成において重要な役割を果たしています。
*ただし、米国でTikTokが禁止されると、BookTokを利用してマーケティング活動をしているライターにも大きな影響が及びます。今後の動向が注目されます。
村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。