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2022年7月7日 第319号 World News Insight (ALUMNI編集室改め) 

発行:バベル翻訳専門職大学院 ALUMNI Association

「 気づいていますか、ショック・ドクトリン 」  

バベル翻訳専門職大学院(USA) 副学長 堀田都茂樹
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国際ジャーナリストである堤未果さんがその最新書籍「堤未果のショック・ドクトリン」で、政府のやりたい放題から身をまもる方法を説いている。

「ショック・ドクトリン」とはテロや大災害など、恐怖で国民が思考停止している最中に為政者や巨大資本が、どさくさ紛れに過激な政策を推し進める悪魔の手法のことである。日本でも大地震やコロナ禍という惨事の裏で、知らない間に個人情報や資産が奪われようとしている。パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口、マイナンバーカード普及の先にある政府の思惑など、強欲資本主義の巧妙な正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る必要を訴えている。

もともとは、カナダのジャーナリストであるナオミ・クラインが、米国の新自由主義の展開戦略について名づけた概念で、ソ連崩壊、天安門事件、9・11とイラク戦争、スマトラの津波、ハリケーン・カトリーナなどを契機として、アメリカ主導で新自由主義政策が導入されてきたプロセスを「ショック・ドクトリン」というキーワードを用いて言及したもの。大きな事件・自然災害・戦争などを利用して新自由主義的政策を一気に進める手法を、「ショック・ドクトリン」と名づけた。

堤さんは語る。
「2019年9月11日、 世界を永遠に変えたと言われる、アメリカ同時多発テロ事件を覚えていますか。当時私は、テロのあった世界貿易センタービルの隣に立つビルの20階にある証券会社で働いていました。炎が吹き出す窓から人が飛び降りる様子や、泣きながら逃げ惑う人々、轟音と共に崩壊する2棟のビルなどが、今もまだ、目に焼きついています」と。

けれど、私が本当に恐ろしかったのは、テロそのものではありません。 あの惨事を境に、アメリカという国が、極めてラディカルに、スピーディーに、根底から変えられていったことでした。

国連決議なしに、アフガニスタンやイラクに問答無用で軍事侵攻し、通常なら猛反対が起こるような、国内監視を合法化する法律が即座に成立し、あっという間に国中に監視カメラが取り付けられ、テレビもラジオも新聞も、連日横並びでテロの脅威と愛国心を煽り、専門家と呼ばれる人がテロリストの残忍さを警告する度に、銃の売り上げが右肩上がりで上昇していった。

一番ショックだったのは、こうした政府のやり方や、「テロとの戦争」への疑問や批判を口に出す人たちの言論が、次々に抑えこまれていったことである。

ある日突然キャスターが降板させられ、憲法学の大学教授が解雇され、人気ブロガーのブログはネットから丸ごと削除されてしまう。市民活動家たちがデモの場所に行くとすでに警察が待っていてその場で逮捕されるケースが相次ぐ一方で、そうしたニュースが報じられる中、署名用紙やアンケートに、名前や住所を書くことを躊躇する人が増えていった。教育や医療、福祉や公共サービスへの予算が大幅に減らされる一方で、巨額の戦争関連予算は繰り返し承認され、湯水のように使われます。政府やメディアの出す情報は戦争支持に偏ったものばかりで、実際に何が起きているかが見えない。

昨日までこうだったことが今日は180度変わってしまう。そんな、独裁国家でしか起こらないはずのことが目の前で起きていることに、それまで味わったことのないショックと失望、無力感を感じ、テロによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)も重なって、私は精神的に参ってしまいました。

強烈な違和感は、会社を辞めて帰国した後も、消えるどころか日に日に大きくなる一方でした。生活のために細々と通訳の仕事をしていたものの、何を信じたらいいかわからず、未来が全く見えなくなっていた。

そんな時、アメリカのアフガニスタン侵攻に刑事裁判形式で抗議する「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」を傍聴したり、戦時下のイラクから来日した医師たちの講演の通訳をしたりする機会がありました。その際に聞いたイラク社会の現状が、西側メディアで伝えられているものとは全く違うと知った時の衝撃は、言葉では言い表せません。

裏切られたような気持ちと共に、9・11以来ずっと、心の中でくすぶっていた違和感が弾け、私は再びアメリカに戻る決意をしたのです。

テレビの世界にいた父親、ジャーナリスト馬場康一氏、と同じ仕事は絶対選ばないという宣言を翻し、私が国際ジャーナリストになったのは、この「真実を知りたい」という切望感でした。
アメリカに戻り、9・11の爪痕を辿るように異なる分野の人々から、直接話を聞くにつれ、政府やメディアが差し出す情報と現実で起きていることのギャップが、明らかになっていきました。その内容をまとめ、2008年に上梓したのが、『ルポ 貧困大国アメリカ』。9・11後、明らかに新自由主義が暴走し、コモン(共有財産)であるはずの公共サービスが次々に商品化され、医療、教育、福祉、戦争までが民営化されたアメリカの格差社会について取材したものでした。

刊行した本を送ったニューヨーク在住の友人から連絡があり、その時勧められたのが、2007年に米国で刊行されたナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』の原書。

最初にこの本を読んだ時の衝撃は、今も忘れられません。そこに書かれていたのは、まさに
9・11で私が体験し、疑問を感じ、強めてきた違和感の正体に気づかせるヒントの数々でした。

歴史的事実を丹念に拾い上げながら、その点と点をつなげることではっきり見えてくる一つのパターン。しかもそれが「ショック・ドクトリン」という名で、「衝撃と恐怖」を利用した一つのメカニズムとして説明されていた。

版元の岩波書店から帯文を依頼された私は、迷わずこう書きました。
「3・11以後の日本は確実に次の標的になる」と。

起きていることを多角的に、俯瞰して見るスキルを身につけると、目に映る世界が本当に変わってしまう。少ない情報でも、未来が見えるようになると、主権者としての自分の立ち位置がクリアになっていくのを実感できる。

新型コロナウイルスによるパンデミックやウクライナ危機、気候変動や食糧危機など、今や世界中が、同時多発惨事に放り込まれていると言っても過言ではありません。

その著書「「堤未果のショック・ドクトリン」」で、今まさに日本を襲う一種の略奪行為を淡々と語っている。
・命につけられる値札―コロナショック・ドクトリン
・WHOを巻き込んだ製薬企業のワクチン契約で植民地化される
・パンデミックの裏でWHOが進める医療ファシズム
・脱炭素ユートピアの先にあるディストピア
・環境に優しい生き方が強制される
・地球を救う街は都市収容所         等々

堤さんは本書の最後で結びます。
「9・11以降のアメリカでは、テロとの戦いという‘無期限の緊急事態’を手に入れた政府と軍と警察がやりたい放題になりました。同じような違和感を抱いている国内外の人々が、辛抱強く政府や学校、役所などに声を届けたり、情報公開請求や裁判、市区町村レベルの条例などで、自分たちの最終決定権を一つ一つ取り戻していくこと。おかしいな、と感じる自分の直感をキャッチする感性を持ち続け、最後まで選択肢を失わないことが必要 」と。

肝に銘じたい。

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