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東アジア・ニュースレター

海外メディアからみた東アジアと日本

第178 回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教

中国経済は投資主導で驚異の経済成長を遂げたが、このモデルは根本的に不安定なもので、最近、製造業やインフラへの投資が減少し、起業家精神と生産性に富む民間投資の喚起が必要だとメディアが助言する。政府は失政が生み出した余剰生産への対応として「内巻」に奔走しているが、輸出による解決が望めない現状で国内にデフレ問題を引き起こしている。

台湾の頼総統は、国慶節の演説で「T-Dome」と称する防空システムの強化を打ち出し、民主的な台湾の現状維持と台湾海峡の平和と安定の確保を宣言した。またトランプ高関税の影響を大きく受ける層への支援策や防衛費増額の目標やタイムラインも明確にした。今後、対米関税交渉の行方や米政府による大幅防衛費増の要求への対応が注目される。

韓国の現代自動車在米工場が強制捜査を受け、韓国人従業員が多数拘束された。米国史上、単一地点における最大規模の一斉摘発とされ、メディアは、同社経営陣はトランプ大統領を懐柔しようと繰り返し試みたものの成果を上げられず、一斉摘発がその集大成となったと指摘。ただし、その対米投資姿勢はゆるぎないと伝える。

北朝鮮の金総書記が米朝首脳会談の再現に向けて秋波を送り始めた。金総書記は第1期トランプ政権時代に制裁措置解除と引き換えに自国核施設の一部廃棄を提案しており、今回もトランプ大統領に対して、核兵器計画凍結と引き換えに制裁措置の緩和を求めるとみられている。そうなると北朝鮮を核保有国として認めることになり、日韓両国にとって大問題となる。

東南アジア関係では、ベトナム株式市場が株価指数プロバイダーのFTSEラッセルによって「フロンティア市場」から「新興国市場」へ格上げされた。同国市場にとって構造的プラス要因となり、数百億ドル規模の資金流入の可能性が出てきた。格上げの一因として、米トランプ関税発動によるベトナム政府のビジネス・フレンドリー政策への転換が挙げられている。

インドの中央銀行であるインド準備銀行がルピー国際化推進措置を発表した。これは、公式基準為替レートの設定に主要貿易相手国であるUAEのディルハムやインドネシアのルピアを含ませる措置や地元銀行による近隣諸国企業へのルピー建て融資許容が骨子となっている。同時にロシア原油輸入取引でのルピー活用やドル支配修正の意図も含まれている。

主要紙社説・論説欄では、日本の自民党総裁選に関する英文メディアの報道や論評を観察した。大胆な政策ビジョンの提示や後続政権の安定を求めている。

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北東アジア                                             中 国

☆ 深刻化する経済危機

10月3日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナル論説記事は、世界各地でさまざまな経済的・政治的混乱が起きているため見落としがちだが、中国の経済危機がますます深まっていると、以下のように論じる。筆者は同紙論説委員で政治経済コラムを担当するジョセフ・スターンバーグ氏。長文につき、まず以下に要約文をまとめた。ご参考まで。

要約:投資主導の経済モデルは、今世紀初めの中国に驚くべき経済成長をもたらした。だが、そのモデルは根本的に不安定なものだった。最近における新たな懸念すべき傾向は、製造業やインフラへの投資も減少していることだ。非生産的投資への依存度減少は、安定した経済モデルに向けた第一歩だが、次のステップは起業家精神と生産性に富む民間投資の喚起であり、これが実現していないことが中国の経済的な苦境の原因だ。公式の経済統計に表れている消費の好調は消費者が白物家電や携帯電話などの製品購入に対する政府補助金による人為的な結果だ。経済に関する問題の解決策にはなり得ない。政策立案者はこの1年間、彼らが「内巻」と呼ぶ過当競争が引き起こす問題、とりわけ余剰の生産物への対応に追われた。余剰生産物をさばくために国内市場で激しい価格競争が起き、デフレの懸念が生じている。デフレになれば、実質的な購買力の向上が期待できるが、債務比率が高過ぎる中国では多額の債務を抱える企業の収益性と地方政府のバランスシートが悪化する結果を招き、経済にとって最も深刻な脅威となりかねない。

習主席は、地方・地域の自治体当局者と共産党幹部らに対し、デフレにつながりかねない過剰生産を引き起こす過剰投資を避けるため、補助金と刺激策の抑制を求めている。「反内巻」対策として最も目立つ動きだが、中国政府は動揺し始めている。今週、国有銀行の5,000億元(約10兆3,000億円)に上る直接融資という新刺激策が伝えられた。主に地方政府が実施する公共事業などのプロジェクトに約2兆元の投資を呼び込む可能性がある。経済のバランス回復には、こうした投資に歯止めをかける必要があるが、中国政府はまたしても補助金を出そうとしており、習氏は経済活動の集中的統制に動こうとしているようだ。過剰生産は、中国の経済政策運営の失敗が生み出した最も際立った影響だ。余剰生産を捌く輸出という選択肢が当面使えず、しかも、望ましい改革が期待できない状況では、しばらくは悪いニュースが出続けることだろう。

以下、本文:習近平国家主席が改革に抵抗するなか、経済失策の結果を輸出することで解決するのは一層困難になっている。政府が今週発表した9月の購買担当者指数(PMI)では、悲観的な見方は以前より若干弱まったものの同国の各産業が縮小モードにあることが明らかになった。同指数の調査は、中国経済を支配する大手国有企業の景況感を捉えたものだ。中小・民間企業を主たる調査対象とした別のPMI調査では、やや楽観度が高かった。ただ、こうした企業は、中国とその貿易相手国、特にドナルド・トランプ氏が政権を握る米国との貿易交渉次第で状況が浮き沈みする立場にある。こうした楽観が続くと考えてはいけない。

今夏、長らく中国の経済成長を主にけん引してきた固定資産投資は3カ月連続で減少した。不動産投資は何年も落ち込みが続いている。2020年以前に史上最大のバブルの一つとされた不動産市場を中国政府が抑え込もうとしているためだ。新たな懸念すべき傾向は、製造業やインフラへの投資も減少していることだ。直感に反するように聞こえるかもしれないが、ここまでは悪くないという感じだった。驚異的な規模の債務に支えられた投資主導の旧来の経済モデルは、今世紀初めの中国に驚くべき経済成長をもたらした。だが、そのモデルは根本的に不安定なものでもあった。不動産バブルはそれを警告する予兆の一つだった。もう一つの予兆は、増加する輸出への慢性的な依存であり、この状況がいずれ中国の貿易相手国の不興を買うことは確実だった。

中国政府が非生産的な投資への依存を減らすことは、より安定した経済モデルに向けた第一歩だ。次のステップは、国内消費および起業家精神と生産性に富む民間投資への転換であるべきだ。これが実現していないことが中国の経済的な苦境の原因だ。消費者は悲観的な見方に圧倒されているように見える。住宅価格の修正によって中間層の富が前例のないほど減ったことを考えると彼らを責めることはできない。公式の経済統計に表れている消費の好調さは、おおむね消費者が白物家電から携帯電話に至るまでの製品を購入する際に政府が出す補助金によって人為的にもたらされている結果だ。これは経済に関する問題の解決策にはなり得ない。

 この辺りから、中国政府は全くつじつまが合わない状況へと陥る。習近平国家主席をはじめとする政策立案者はこの1年間、彼らが「内巻(Involution)」と呼ぶものへの対応に追われた。これは、地方政府が経済データを良く見せるために過剰な生産を促し、余剰生産物をどこか別の場所に投げ売りする傾向があることを指す。中国以外の国々が中国による輸出の独占を嫌がる中、その「どこか別の場所」は国内になっている。余剰の生産物をさばくために国内市場で激しい価格競争が起き、デフレの懸念が生じている。別の世界であれば、激しい競争と価格低下が中国の家計にとって唯一の良い方向へと向かう道となる。デフレになれば、実質的な購買力の向上が期待できるからだ。しかし、債務比率が高過ぎる中国では、デフレの見通しによって多額の債務を抱える企業の収益性(と多額の債務を抱える地方政府のバランスシート)が悪化することが、経済の直面する最も深刻な脅威となりかねない。

 そのため、習氏は企業に対し激しい競争の中で値下げを回避するよう指示した。同時に地方・地域の自治体当局者と共産党幹部らに対し、もう少しあいまいな指示を出している。それは、デフレにつながりかねない過剰生産の原因となる過剰投資を避けるため、補助金と刺激策の抑制を求めるものだ。「反内巻」対策として最も目立っているのは、さまざまな産業分野において多くの小規模生産者をもっと強い価格決定力を持つ、より少数のより大きな事業体に統合するという取り組みだ。固定資産投資の減少だけを見れば、内巻を抑制する取り組みが機能している兆候が出ていると言えるだろう。だが、中国政府は既に動揺し始めている。今週、新たな刺激策のニュースが伝えられた。国有銀行からの5,000億元(約10兆3,000億円)に上る直接融資だ。これは主に地方政府が実施する公共事業などのプロジェクトに約2兆元の投資を呼び込む可能性がある。経済のバランス回復の希望を少しでも残すには、こうした投資に歯止めをかける必要があるが中国政府はまたしても補助金を出そうとしている。

 それが問題になるのは、経済のバランス回復が目標だと想定する場合だ。だが、習氏の目標はそれと異なり、経済活動を国家が集中的に統制することのように見える。政府の統制が強まれば強まるほど、望ましい結果を生むと考えているようだ。中国が過剰生産した商品を世界中の他の国々が輸入という形で吸収してくれることを習氏が期待できた状況下では、こうした中国の対応はもっと容易だった。この過剰生産は、中国の経済政策運営の失敗が生み出した、最も際立った影響だ。輸出という選択肢が当面使えなくなり、より望ましい改革が期待できない状況では、しばらくは悪いニュースが出続けることだろう。

以上のように、記事は中国経済は投資主導の経済モデルで驚くべき経済成長を遂げたが、そのモデルは根本的に不安定なもので、最近、製造業やインフラへの投資が減少していると指摘し、起業家精神と生産性に富む民間投資の喚起が必要だと主張する。中国政府は失政が生み出した余剰生産への対応として「内巻」に奔走しているが、輸出による解決が望めない現状では国内にデフレ問題を引き起こし、経済の脅威となっている。加えて、肝心の習主席が国家統制の強化や補助金政策に固執していると批判し、中国経済の自力更生に疑問符を付している。中国指導部は、経済再建には起業家精神と生産性に富む民間投資の喚起が不可欠との助言に真摯に耳を傾けるべきだろう。

台 湾

☆ 国慶節で防衛力強化を誓約する頼総統

10月10日、台湾は国慶節の祝賀会を総統府前で開催した。そこでの演説で賴清徳(ライ・チンテ)総統は、中国の脅威に直面し「T-Dome」防空システムの構築を加速させることを約束したと、同日付ワシントン・ポストが報じる。記事によれば、中国軍は近年台湾沖の空域や海域に定期的に戦闘機や軍艦を派遣し、この地域で大規模な軍事演習を行っている。こうした動きに対抗して頼氏は、台湾政府は高レベルの探知能力と効果的な迎撃能力を備えた厳格な防衛システムを構築すると述べた。彼が「T-Dome(台湾ドームの略称)という表現を用いたのは、イスラエルが開発したアイアンドームシステムへの言及であるのは明らかだったが、「T-Dome」が新たな防衛システムを指すのか、既存の取り組みの新たな名称なのかは直ちに明確ではなかった。国防省報道官に説明を求めたが即座には応じなかった。台湾国防部は今週の報告書で、中国軍のドローン開発・運用拡大に対応し、兵士にドローン撃墜訓練を実施するとともに、対ドローン兵器システムの調達を検討中と発表した。

また記事は、中国政府がこうした動きをする台湾政府と軍事支援する米国政府に対して反発していると報じ、さらに最近の米台関係の動向などについて次のように伝える。中国外交部の郭家驊報道官は10日、米国の台湾への武器売却と米台間の軍事関係を批判した。郭報道官は「賴清徳政権が軍事手段で独立を求め、武力による統一阻止を図ろうとする試みは、台湾を軍事衝突の危険な状況に陥れるだけだ」と述べた。他方、賴氏は台湾をアジアの「民主主義の灯台」と呼び、中国の一党独裁体制との違いを強調している。「民主的な台湾は現状を維持し、台湾海峡の平和と安定を守り、地域の繁栄と発展を促進するために努力する」と、20世紀初頭に建てられた総統府の前に設置された大きなステージから呼びかけた。

彼の演説の大部分は、ドナルド・トランプ大統領が今年、米国への輸出品に課した高関税に対する台湾の対応など、経済問題に焦点を当てたものだった。政府は、関税の影響を受ける企業、労働者、農業および漁業従事者を支援するため930億新台湾ドル(30億米ドル)の計画を開始している。「また合理的な税率を確保するため、米国との相互関税交渉にも積極的に取り組む」と頼氏は述べる。トランプ氏の名は出さなかったものの、同氏は、米国の関税はロシアとウクライナの戦争、中東の混乱、中国の継続的な軍事拡大など、世界がすでに直面している課題にさらに追い打ちをかけていると述べた。

賴総統はまた、国防費をGDP3%以上に引き上げ、2030年までに5%に達させることを約束した。「国防費の増加には目的がある。敵の脅威に対抗する明確な必要性であり、防衛産業を発展させる原動力である」と述べた。トランプ氏は台湾に対し、軍事支出をGDP10%に引き上げるよう圧力をかけており、アトランティック・カウンシルの研究員、ソン・ウェンティ氏は、「T-Dome」は台湾が防衛費を急速に増やしていることを米国に示すと同時に、軍事増強を本質的に防御的なものに保つことを可能にすると述べた。ソン氏はさらに「頼氏は米国が台湾に防衛費増額を求めていることを明確に認識しており、そのためGDPに占める防衛予算の割合という具体的な目標と具体的なタイムラインを明示したのだ」と付け加えた。

以上のように、頼総統は国慶節の演説で詳細は不明ながら「T-Dome」と称する防空システムの強化を打ち出し、民主的な台湾の現状維持と台湾海峡の平和と安定の確保を誓約した。またトランプ関税の影響を大きく受ける層への支援策を発表し、防衛費増額の目標やタイムラインを明確にしたことも注目される。この関連では、台湾の対米関税交渉や大幅な防衛費増額を求めるトランプ米大統領の要求に対する今後の動きなども注視する必要があろう。

 

 

韓 国

 

 対米コミットメントを堅持する現代自動車

去る9月、米移民当局はジョージア州にある現代自動車の工場に強制捜査を実施し、300人以上の韓国人ホワイトカラー労働者を手錠と足かせを掛けて拘束した。109日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、こうした現代自動車の状況について、同グループの鄭義宣(チョン・ウィソン)会長(54)は米国との結び付きを深める一連の積極的な動きでトランプ政権を懐柔できると期待していたが、これまでのところ、それは痛ましい誤算のように見えると、以下のように報じる。

これは、世界第3位の自動車メーカーがドナルド・トランプ大統領を懐柔しようと繰り返し試みたものの、ほとんど成果を上げられなかった1年間の集大成だった。代わりに現代自動車は、混沌とした状態に陥ることが多い米政権の経済・移民政策の実施方法を正確に予測しようとすることの落とし穴を示す、特に注目度の高い企業例の一つとなった。鄭氏はここ数年、祖父が創業した現代自動車を米国の消費者により深く浸透させようとしてきた。かつて10年保証と低価格で評判を築いていた現代自動車とその姉妹会社の起亜は、デザイン、技術、品質の各賞を次々と獲得した。今では現代自動車の営業利益の半分以上が米国から生み出されている。

この勢いを維持するため、鄭氏はトランプ氏が202411月に2期目の当選を果たした後、同氏を取り込むための企業の定石に従った。現代自動車はトランプ氏の就任式に100万ドル(15,300万円)を寄付した。関税導入を前に同社は3月、トランプ氏の2期目が終了するまでに実現する約210億ドルの対米投資を約束した。この投資により、鄭氏と同社幹部はホワイトハウスを訪問する機会を得た。トランプ氏はソーシャルメディアでこの投資を自身の関税が「非常に強力に機能している」証拠と称賛した。しかし数日後にトランプ氏が世界の自動車輸出に25%の関税を課すと発表した際、現代自動車も例外ではなかった。現代自動車はこれにひるむことなく、米政府での好意を勝ち取るためにさらなる措置を講じた。4月には人気SUV (スポーツタイプ多目的車)の生産をメキシコにある起亜の工場からアラバマ州の既存工場に移すと発表し、米国内での部品調達比率を高めることも約束した。

李在明(イ・ジェミョン)大統領が825日にホワイトハウスでトランプ氏と会談した数時間後、鄭氏も同席する中で現代自動車はさらに50億ドルの対米投資を実施すると発表した。それから数日以内の94日にジョージア州の現代自動車の施設で行われた移民摘発の捜索令状に署名がなされた。逮捕劇は、鄭氏の米国での最重要プロジェクトである76億ドル規模の製造複合施設「メタプラント」で展開された。これは米国史上、単一地点における最大規模の一斉摘発だった。約450人が拘束され、うち300人以上が韓国人だった。捜索令状によると、強制捜査の当初の標的は4人のヒスパニック系労働者だったが、結果的に同工場が韓国人労働力に依存している状況に世界的な注目が集まった。現代自動車の幹部は、全従業員を米国人にしたいと考えているが、米国人労働者は特に電気自動車(EV)バッテリーに関する必要な専門知識が不足しているため、それは現実的ではないことを非公式に認めている。この強制捜査により、同工場の建設は約2カ月遅れることになる。

現代自動車は韓国政府と米政府間の関税交渉において主要部分を占める。これは米国が数十カ国と幅広いディール(取引)を行う上での重要なバロメーターともなっている。トランプ氏との間でまだ署名されていない貿易協定は、主に韓国が米国に3,500億ドルを投資するという約束が柱となっている。その見返りに、トランプ政権は自動車を含む広範な品目の関税を25%から15%に引き下げる。摘発以降、現代自動車は未完成のジョージア州のバッテリー工場を含む260億ドルの対米投資へのコミットメントと、米国での生産拡大計画を公に再確認した。これに対し、韓国政府は同社を強く非難した。関係者によると、韓国政府は同社が貿易問題の早期解決にあまりにも公然と熱意を示すことで、トランプ政権との貿易交渉における韓国の影響力を弱める恐れがあると考えている。韓国の大統領府はコメントを控えた。

現代自動車は発表文で、韓国企業の米国事業を支援する韓国政府の取り組みを評価していると説明。来年、米国進出40周年を迎え、これまでと現在進行中の投資を合わせると総額450億ドルを超えると付け加えた。「これらの投資決定は現代の長期ビジョンに基づくものであり」、米国での持続的な成長と機会へのコミットメントを含むとした。鄭氏の考えをよく知る関係者によると、同氏の米国へのコミットメントは変わっていない。米大統領選のわずか数日後、鄭氏はスペイン生まれのホセ・ムニョス氏を現代自動車本社の最高経営責任者(CEO)に起用した。韓国人以外が同社のCEOに就くのは初めてだ。この人事は「パスポートより実績」の時代を切り開きたいという鄭氏の意欲を明確に示すものだった。日産自動車でカルロス・ゴーン氏の右腕を務め、現代自動車の米国事業を担当していたムニョス氏には世界的な知名度があった。

この人事はまた、現代自動車のビジネスにとって米国の重要性が高まっていることも反映していた。現在、米国で販売される新車の10台に1台以上が現代自動車製か起亜製で、EVの「アイオニック」、セダンの「エラントラ」、SUVの「スポーテージ」などが含まれる。現代自動車が発表した9月の米国販売台数は前年同月比14%増加した。

以上のように、米政府は突如ジョージア州にある現代自動車のバッテリー工場を強制捜査し、多数の韓国人従業員を拘束した。この工場は「メタプラント」と称される大規模製造複合施設で同社にとって最重要プロジェクトで、米国史上、単一地点における最大規模の一斉摘発とみなされている。現代経営陣は、トランプ大統領を懐柔しようと繰り返し試みたもののほとんど成果を上げられず、一斉摘発がその集大成となったと指摘する。また、混沌(こんとん)として掴みどころのない米政権の経済・移民政策の実施方法を正確に予測しようとすることの落とし穴を示す、注目度の高い企業例の一つとなったと評す。米国で営業利益の半分以上を生み出す現代自動車にとって散々な結果であるが、その対米投資姿勢はゆるぎないと記事は伝える。現に同社の鄭義宣(チョン・ウィソン)会長はバッテリー工場を含む260億ドルの対米投資へのコミットメントと、米国での生産拡大計画を公に再確認している。記事は、人事面でも米国事業を取り仕切っていたホセ・ムニョス氏を現代自動車本社の最高経営責任者(CEO)に起用したことを挙げ、現代グループで高まる米国の重要性を示していると指摘する。このことは現代グループだけでなく、韓国自体の対米存が抜き差しならない形で高まっている現状を示唆していると言えよう。

 

 

北 朝 鮮

 

☆ 米朝サミット実現に向けて秋波を送り始めた金総書記

トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と最後に会談したのは2019年のことである。わざわざ北朝鮮に赴き、同国に足を踏み入れ、金総書記と会談した。922日付ニューヨーク・タイムズは、金正恩総書記がトランプ大統領とは「良い思い出」があると述べ、米国が北朝鮮の核兵器廃棄を要求するのを止めれば、再び会談しない理由はないとの見解を示したと、以下のように報じる。

金氏のこの発言は、週末に北朝鮮国会で行った演説に含まれており、月曜日に国営メディアが報じた。トランプ氏が10月下旬に地域サミット出席のため韓国を訪問すると表明してから数日後のことだ。トランプ大統領は2018年と2019年に金氏と3度会談しており、ホワイトハウス復帰後も繰り返し金氏との再会談に意欲を示し、北朝鮮の独裁者との「良好な関係」を誇示してきた。北朝鮮側も金氏とトランプ氏の関係は「悪くない」と報じていた。しかし日曜日の演説は、米大統領が2期目を始めて以来、金氏自らが両者の関係に言及した初めての機会となった。この演説で金総書記は、「個人的には、トランプ米大統領について今でも良い思い出を持っている。米国が非核化への空虚な執着を捨て、現実認識に基づく北朝鮮との平和的共存を追求するならば、我々が米国と対話しない理由はない」と述べたのである。

金氏は韓国に対して最も厳しい言葉を残し、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領による南北対話の呼びかけを冷たくあしらった。「政治と防衛を外国に委ねる国とは決して統一しない」と述べ、韓国の米国との軍事同盟を名指しした。トランプ大統領の最初の任期中に韓国は3回の会談の仲介役を務めた。しかし、北朝鮮の核兵器計画の廃棄方法や、同国に課された国際制裁の解除時期については合意に至らないままとなっている。トランプ氏との交渉で、金氏は、石炭、鉄鉱石、繊維製品、水産物など北朝鮮の主要輸出品の禁輸措置など、最も破壊的な制裁をワシントンが解除すれば、自国の核施設の一部を廃棄することを提案していた。トランプ氏は北朝鮮の核計画のより広範な縮小を求めていた。

交渉決裂後、金氏は核兵器用燃料の生産と核搭載ミサイルの開発を強化。韓国を対話の相手として否定し、自国の核兵器を交渉のテーブルに乗せることは決してないと誓った。日曜日の演説は、この姿勢をこれまで以上に強く再表明している。「我々に非核化など決してありえないことを断言する」と述べ、自国の核保有国としての地位は「不可逆的」であり、制裁と引き換えに譲歩できないと主張した。

韓国のアナリストたちは、金総書記のコメントのタイミングに注目している。トランプ大統領は金曜日、ソーシャルメディアでアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議のために韓国を訪問し、そこで中国の習近平国家主席と会談すると発表した。韓国当局者は、金氏が慶州市で開催される APEC会議に参加する予定はないと述べている。2019年、金氏とトランプ氏は南北朝鮮の国境にまたがる村、板門店で急遽会談を行ったが。ソウルにある極東研究所のアナリスト、イ・ビョンチョル氏は、南北間の緊張関係を考慮すると、今回、このような首脳会談の実現は難しいだろうと語る。

しかしトランプ氏と金氏の友好的な交流は、外交再開の可能性を高めている。両者が再び会談する場合、金氏は核兵器計画の凍結と引き換えにワシントンが北朝鮮への制裁を緩和することを要求する可能性が高いとアナリストらは指摘する。そのような合意は、実質的に北朝鮮を核保有国として認めることになる。「金氏にとって大きな成果となるだろう」と李氏は語った。

金氏は初回交渉時よりも交渉力を増している。米中ロの緊張が高まっていることが追い風だ。中国とロシアはともに、米国主導の対北朝鮮追加制裁決議案に拒否権を行使してきた。ロシアのウクライナ全面侵攻後、金氏はプーチン大統領との絆を強化している。北朝鮮軍兵士と武器を供給し、プーチン氏の戦争遂行を支援している。昨年、ロシアと北朝鮮は同盟条約に調印した。今月初めには、金氏が習近平氏とプーチン氏と並んで中国政府の軍事パレードを観覧した。日曜日に金氏は、自国と米国の対立について「時間は我々の味方だ」と述べた。

以上のように、金総書記もトランプ米大統領との首脳会談再現に向けて秋波を送り始めた。金総書記の狙いは、北朝鮮の主要輸出品に対する禁輸措置の解除と自国を核保有国として認めることにあるとみられる。金総書記は既に第1期トランプ政権時代に制裁措置解除と引き換えに自国の核施設の一部廃棄を提案していたとされており、専門家は、金総書記が第2期のトランプ大統領に対しても核兵器計画凍結と引き換えに制裁措置の緩和を要求するとみている。その場合、北朝鮮としては自国が実質的に核保有国として認められることになり、金総書記にとって大きな成果となる。功を焦るトランプ大統領がそうした取引に応じる可能性が否定できない。日韓両国にとっては大問題となる。

 

 

東南アジアほか

 

 

ベトナム

 

☆ ベトナムを「フロンティア市場」から「新興国市場」へ格上げ

10月7日付ロイター通信は、株価指数プロバイダーのFTSEラッセルが7日、ベトナムを「フロンティア市場」から「新興国市場」に格上げすると発表したと、概略次のように伝える。

長年待ち望まれていた動きで、外国人投資家が東南アジアで最も好調なベトナム株式市場に数十億ドル規模の資金を投じる可能性が出てきた。格上げは26921日に有効となる予定で、グローバルなブローカーを通じた市場アクセスに十分な進展があるかどうかを確認するため、263月に中間審査が実施される。FTSEラッセルはベトナム当局が市場改革を進めてきた点を評価し、18年にベトナムを格上げ候補の市場リストに追加していた。共産党政権下のベトナムはここ数カ月、重要な改革を実現し、昨年はその一環として外国人投資家の株式取引について事前に資金を全額拠出する義務を撤廃した。これは格上げの重要な前提条件の1つだった。FTSEラッセルは今回の動きによってベトナム市場が国際基準に一致し、デリバティブなどの取引での相手方の信用リスクを指すカウンターパーティーリスクが低減し、投資家の信頼が強化されると指摘した。

このニュースについて108日付フィナンシャル・タイムズも、ベトナムが指数プロバイダーにより新興市場に格上げされたのは今回が初めてで、同国株式市場に数十億ドル規模の投資を呼び込む可能性があると、概略以下のように報じる。

FTSEラッセルは、中国、インド、インドネシアを含むいわゆる二次新興市場リストへの格上げ決定について、ベトナムの取引決済体制の改善を理由に挙げた。この格付けは3月の中間見直しを経て、来年9月に発効する。「フロンティア市場」からの格上げは、製造業が中国から移転する中でグローバルサプライチェーンの要となったベトナムにとって重要な時期に訪れた。FTSEラッセルのアジア太平洋指数政策ディレクター、ワンミン・ドゥ氏は「再分類はベトナム資本市場にとって構造的なプラス要因となる見込みだ」と指摘。「同国の開放性拡大、流動性向上、機関投資家の参加深化に向けた進展を裏付けるものだ」と述べた。ベトナム系ファンド運用会社ドラゴン・キャピタルのトゥイ・アン・グエン取締役は、格上げにより数百億ドル規模のアクティブ投資が流入する可能性があると指摘。FTSEラッセルは再分類に伴うパッシブ資金流入を10億~15億ドルと試算した。グエン氏は「従来はフロンティア市場に分類されていたため一部の機関投資家は投資できなかった」と説明。「今回新興国に分類されたことで彼らにとって投資が容易になる」。チャタムハウス(王立国際問題研究所)アジアプログラムのビル・ヘイトン上級研究員は、今回の格上げは「ベトナムにとって非常に重要」であり、「国際経済の一つとして扱われるための新たな一歩」だと述べる。

ベトナムは2018年からFTSEラッセルの格上げ候補リストに掲載され、格上げの要件を満たすため一連の市場改革を実施してきた。外国投資家の取引を容易にするため、規制を大幅に緩和し、一部の外国資本所有制限を廃止、取引の事前資金調達要件も撤廃した。韓国証券取引所の市場インフラも導入している。ドナルド・トランプ米大統領が「解放記念日」に関税を発動し、同国の輸出セクターのコストが上昇したことを受け、株価は急落したもののホーチミン株式指数のベンチマークは今年34%上昇し、アジアで最高のパフォーマンスを記録している。発表を受けて、水曜日の株価指数0.8% 上昇した。投資家たちは、トランプ大統領の関税発動を受けて、政府がよりビジネスに優しい政策に転換したことが、株式市場への信頼感の高まりにつながったと述べている。アジア・フロンティア・キャピタルのファンドマネージャー、ルチール・デサイ氏は、「ベトナムは、自国が米国に大きく依存していることに気づき、現在、その対応に全力を尽くしている」と語る。「ベトナムは、民間部門に重点を置き、インフラや国内投資への支出を増やすという、現場レベルでの改革を進めている」と述べる。

世界銀行は昨年、別の指数プロバイダーであるMSCIFTSEラッセルによる新興市場への格上げが実現すれば、ベトナムでの強力な改革が継続し、かつ世界的な投資環境が健全なままであれば、2030年までに同国に250億ドルの資金が純流入する可能性があると述べた。MSCIはベトナムをフロンティア市場に分類しているが、同国は2030年までにMSCIによる新興市場への格上げを目指している。同国はFTSEによる「先進新興市場」分類も同期までに達成すべく推進中であり、より厳格な基準を満たすための追加改革を計画している。海外からのベトナム投資は長年困難を伴ってきた。ダルトン・インベストメンツのポートフォリオマネージャーのオーウェンズ・ファン氏は、「投資家が市場参加に必要な識別番号を取得するには数か月を要し、非ベトナム人所有制限のため一部企業の株式では外国人投資家が割増料金を支払う」と述べる。また非ベトナム個人投資家の大半は、海外上場ファンドを通じて投資を行っており、FTSEは格上げ発表において「ベトナムでの取引におけるグローバルブローカーへのアクセス制限」を指摘している。

以上のように、有力株価指数プロバイダーのFTSEラッセルがベトナム株式市場を「フロンティア市場」から「新興国市場」に格上げすると発表した。これはベトナム資本市場にとって構造的なプラス要因となり、数百億ドル規模のアクティブ投資が流入する可能性が出てきたとされる。格上げの一因として、トランプ米大統領の関税発動によるベトナム政府のビジネス・フレンドリー政策への転換が挙げられているのが注目される。また別の指数プロバイダーであるMSCIは未だベトナムをフロンティア市場に分類しているが、ベトナムは2030年までの新興市場格上げを目指しているとされ、その動向にも注目したい。合わせ外国人投資家が支払う割増料金やベトナムでの取引におけるグローバルブローカーへのアクセス制限の解消などの問題への対応も注視したい。

 

 

インド

 

☆  ルピー国際化に向けて動き出す中銀

10月10日付フィナンシャル・タイムズは、同紙が発刊するインド・ビジネス・ニュースレターで中央銀行であるインド準備銀行(RBI)が通貨ルピーの国際化推進を検討していると概略以下のように伝える。

108日、RBIは政策金利を据え置いた。しかし、はるかに注目すべきは信用拡大と資本市場活動の深化を支援するため発表された一連の措置である。発表された22の改革の中でも特に重要なのは、RBIがルピーの国際化を推進し、特に近隣諸国との貿易における使用を促進する動きだ。RBIは関連機関と連携し、ルピーと他通貨(現在はドル、ユーロ、ポンド、日本円の4通貨)に加え、UAEディルハム、インドネシア・ルピアとの直接為替レートの設定を検討している。これにより、まずドルを介して換算するという複雑な手続きを回避する。

また、ブータン・ネパール・スリランカ在住の非居住者に対し、指定銀行によるルピー建て融資を認める方針も示した。これによりルピー建て取引決済の拡大が見込まれる。さらにRBI 8 月、外国銀行がルピー建て貿易決済用に開設する特別預金口座(ルピー・ボストロ口座)の資金運用範囲を中央政府証券に投資することを許可していたが、今般、これを社債・コマーシャルペーパー向け投資にも拡大した。インドがルピーでロシアの石油を購入する上での問題の一つは、ロシア政府がこの通貨でできることがほとんどなかったことだが、この動きによって、その懸念が緩和されることになる。インドは他のBRICS諸国ともルピー取引を推進している。これらの措置は、現時点ではごくわずかなものとはいえ、世界貿易のドル離れを図る試みの一助となるとみられる。

しかし、RBIの動きが実際に与える影響は限定的と思われる。世界外国為替市場におけるルピーのシェアは極めて小さく、完全な兌換通貨ではないため、政策立案者は引き続き慎重な姿勢を維持している。インドの近隣諸国でさえ、特に2016年に政府が突然、高額通貨の廃止措置を実施して以来、ルピーに対する信頼は低下している。水曜日の発表は、インドの貿易戦略に即座に抜本的な変化が起こることを示す指標として受け止めるべきではないだろう。しかし、これはトランプ米大統領を貶める試みであり、それ自体に価値がある。貿易交渉がまだ進行中の段階でインド政府が米国政府に対して自分の立場を貫くことは良いことだ。現時点でホワイトハウスは政府閉鎖対応に追われコメントできていないが、近々、深夜2時頃にトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)によって設立されたトゥルース・ソーシャルに(トランプ氏から)大文字の投稿が飛び出す可能性は否定できない。

上記報道のうち、非居住者向けルピー建て融資案件について526日付ロイター通信が以下のように報じており、これがブータン、ネパール、スリランカ向けについて実現の運びとなったと思われる。ロイター報道によれば、インド準備銀行は同国連邦政府に対し、国内銀行とその海外支店による海外の借り手へのルピー建て融資を認可するよう要請した。貿易のルピー建て決済を推進する狙いがあり、ルピーの国際化へ向け新たな一歩を踏み出した。関係筋によると、RBIが財務省に先月送った提案は、非居住者へのルピー建て融資はバングラデシュ、ブータン、ネパール、スリランカなどの近隣諸国で開始することを想定している。商工省の統計によると、202425年度にインドの南アジア向け輸出の90%はこれら4カ国向けだった。認可されれば、こうしたルピー建て融資が世界的に国境をまたがる取引の決済へと広がる可能性があるとしている。RBIは世界の貿易と投資におけるルピーの利用を広げる措置を講じている。そうした戦略の一環としてRBIは最近、非居住者によるルピー建て口座の開設を認可した。

以上のように、RBIが今回発表した措置には、公式基準為替レートの設定に主要貿易相手国であるUAEのディルハムやインドネシアのルピアを含ませること、地元銀行による近隣諸国企業へのルピー建て融資許容によるルピー使用拡大案などが含まれており、RBIがルピー国際化に向けて本腰を入れている様子がうかがわれる。同時にこの動きにはロシア原油輸入取引におけるルピー活用案やドルの圧倒的支配に対する挑戦の意図が含まれていることに注目したい。

 

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主要紙の社説・論説から

 

自民党の総裁選挙について

―課題は大局的政策ビジョンと安定政権の樹立

 

97日、自民党総裁兼首相の石破茂氏は辞任を表明した。これにより次期首相を決める意議がある自民党総裁選挙の幕が切って降ろされた。5人が立候補する混戦となったが、104日に開催された総裁選で高市早苗氏が新総裁に選出された。これに先立ち、主要英文メディアも選挙結果の帰趨について活発に報道し論評しており、以下にその要約をお伝えする。(筆者論評は末尾の「結び」を参照)

98日付米タイム誌は、「Why Ishiba Resigned—and What’s Next for Japan (石破退陣の理由と日本の今後)」と題する記事で石破退陣のニュースを多角的に伝える。記事は、石破氏が米国大統領ドナルド・トランプ氏との関税協定を締結した「今こそバトンを渡す」べき「苦渋の決断」をしたと述べていると、概略以下のように報じる。

石破氏が安倍氏以来3人目の「回転ドア」的な総裁となり、その退陣は同氏が率いる自民党が2回連続の選挙で敗北して以来、かねてから予想されていた。専門家は本誌に対し、自民党の指導者交代は日本だけでなく世界の他の地域にも波及効果をもたらすと指摘する。「絶え間ない変化は不安定を意味する」と、東京に拠点を置く地政学コンサルティング会社トランスパシフィック・グループの加藤代表は述べ、日本経済には競争力があるが、政治が「常に混乱している」ように見えると信頼を失うと付け加えた。日本国際問題研究所の客員研究員(a visiting fellow at the Japan Institute for International Affairs)、スティーブン・ナギ氏は、日本は1990年代後半から2000年代にかけての選挙制度改革後7年間で6人の首相が交代した時期と同様の「指導者交代期」に入っていると指摘する。「この時期は日本の政策立案にとって良い時代ではなかった。新たな指導者が新たな政策を打ち出すが継続性がなかったからだ。この意味で、大きな懸念材料だと思う」

候補の一人は小泉進次郎氏(44)2001年から2006年まで首相を務めた異色の政治家、小泉純一郎氏の息子だ。専門家は、彼の若さが自民党に世代交代をもたらす可能性があると指摘する。もう一人の有力候補は、自民党の保守派を代表する高市早苗氏だ。英国のマーガレット・サッチャーに例えられることもある。選出されれば、日本の初の女性首相として歴史に名を刻むことになる。また日本の歴史とジェンダー不平等の課題を考慮すれば快挙となる。そのほかに石破氏の後継候補として観測筋が挙げるのは、小林鷹之前経済安全保障担当相、石破氏の官房長官である林芳正氏、元自民党幹事長の茂木敏充氏らだ。しかしナギ氏は「いずれも持続可能ではない」と指摘する。「党内で幅広い支持を得られる人物である必要があり、同時に国民からも広く支持される人物でなければ、党が参議院や衆議院で過半数を確保できない」

テンプル大学ジャパンキャンパス・アジア研究教授のジェフ・キングストン氏は、自民党は「かつての政治勢力ではない」ため、支持率低下への対策が最優先課題だ」と指摘する。「基本的に自民党はリセットボタンを押す必要があることを認識している」と語る。「長年離反した有権者層との再接続を図らねばならない。党支持基盤の高齢化や都市部での支持が地方ほど強くない現状、そして地方の人口減少・高齢化問題にも対応しなければならない。自民党が巻き返しを図るには、何らかの構造的問題への対応が必要だ」。ナギ氏は、自民党が「前回選挙で健闘した政党(参政党を含む)との連立組成や政策取り込みを試みるだろう」と予測する。明らかなのは、自民党の支配体制が未踏の領域に突入したことだ。加藤氏は「小規模政党との連携は、自民党主導・自民党支配の政治の終焉を意味し、日本の政治は新たな段階へ移行している」と指摘する。

ナギ氏は、日本の指導部の頻繁な交代は他国にもリスクをもたらすと指摘する。日本は米国との強固な同盟関係からアジア太平洋地域で重要な地政学的役割を担っており、影響力拡大を積極的に図る中国に対する牽制力と見なされている。キングストン氏はさらに、中国とその軍事同盟国との明らかな接近により地域の安全保障情勢も悪化していると指摘する。「これは日本の指導者にとって懸念すべき事態の連鎖だ。国内の不安定さは、日本がインドや東南アジア、フィリピン、オーストラリア、米国を結ぶ接着剤や架け橋としての役割を果たせなくなる可能性がある。信頼できるパートナーと見なされなくなるからだ」とナギ氏は述べる。トランプ大統領が世界ほぼ全ての国に巨額関税を課したため、石破氏にとって米国との関係は特に困難な課題だった。辞任直前にトランプ氏と結んだ貿易協定はある程度の緩和をもたらすと期待されるが、多くの不確実性が残されている。特に気まぐれな米国大統領との対応をどう継続するかが課題だ。「これは非常に条件付きの合意だ」とキングストン氏は指摘する。「状況は全く解決されていない。依然として不明確な領域が数多く残っている。つまり『トランプ台風』は去っていないのだ」。

石破退陣を別な角度から取り上げたのが99日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルの「Japan’s Ruling Party Seeks Leader With Trump Appeal (日本版記事:自民党、トランプ氏に好印象与える総裁を模索)」と題する記事である。自民党議員らは日本の次期指導者を選ぶにあたり、ドナルド・トランプ米大統領と最も良好な関係を築けるのは誰かという問題に直面していると、概略以下のように報じる。

自民党議員らは日本の次期指導者を選ぶにあたり、ドナルド・トランプ米大統領と最も良好な関係を築けるのは誰かという問題に直面している。故・安倍晋三元首相の積極的な経済政策を支持する保守派の高市早苗氏か、あるいは、穏健派だが経験の浅い新世代の政治家でトランプ氏が好む活力と洗練さを備えた小泉進次郎氏か。両氏はアナリストや議員らの間で有力候補とみられている。自民党は次期総裁を選ぶにあたり、多くの西側民主主義国の既存政党と同様のジレンマに直面している。失望した保守層の票を取り戻せる右派候補を選ぶべきか、あるいは別の方向に支持を広げられる可能性のある中道寄りの指導者を選ぶべきかというものだ。

かつてロックミュージシャンを夢見た高市氏について、旧安倍派内では、保守票を取り戻せる人物との呼び声が高い。参政党のような新興政党は、インフレと移民の抑制を公約に掲げて保守票の一部を取り込んでいる。高市氏は対米協調・対中強硬派とされる。安倍氏と同様、靖国神社を参拝している。戦没者を慰霊する靖国神社は、日本を第2次世界大戦に導いた軍国主義的な天皇崇拝と結びついているため、参拝は他のアジア諸国の反発を招くことが多い。政府債務の増大が懸念されている世界経済において高市氏は、インフレが抑制されている限り政府債務と財政赤字は問題にならず、日本経済は政府支出の拡大・低金利・規制改革によって再生できるという考えを支持する稀有(けう)な存在だ。これは同氏が師と仰いだ安倍氏の処方箋「アベノミクス」の継続を意味する。

小泉氏は自民党内では穏健派とされるが、政府での経験は限られている。それでも44歳と若く、高市氏ほど物議を醸さない人物であることから、自民党が高齢化し時代遅れになっているという認識を払拭したい議員らにとって魅力的な存在かもしれない。サーフィン好きを公言する小泉氏は新世代の政治家として自身を売り込んでおり、過去には、気候変動対策は「セクシー」でなければならないと発言したこともある。石破内閣では農林水産大臣としてコメ価格の引き下げに取り組み、政府備蓄から大量放出することで一定の成果を上げた。小泉氏は父親の純一郎氏から独特の華やかさを受け継いでいる。純一郎氏は200106年に首相を務め、その流れるような髪型や、米テネシー州にあるエルビス・プレスリーの邸宅を訪問した際に当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領と共に「ラブ・ミー・テンダー」を歌うようなパフォーマンスで知られた。

アナリストらによると、高市氏はイデオロギー的にトランプ氏に近いとみられる。トランプ氏がゴルフ仲間で盟友の安倍氏を好意的に見ていたことから、安倍氏との近さもプラスになりそうだ。一方、小泉氏は比較的若く、活力があり、妻が仏日ハーフのフリーアナウンサーという華やかさを持ち合わせており、これらもトランプ氏が重視する要素だ。対米関係のかじ取りは熟練を必要とする。アナリストや当局者によると、日米関係はおおむね良好だがトランプ氏の関税政策に加え、日本など同盟国に対する防衛費増額要求によって緊張が生じている。日本が約束した対米投資5,500億ドル(81兆円)の実行時期・方法・対象や、米国に輸出される半導体や医薬品に追加関税が課される可能性は、今後の火種となり得る。今のところ総裁選への立候補を正式に表明したのは、茂木敏充元外相だけだ。対米関係の面では茂木氏に優位性があるかもしれない。第1次トランプ政権下の米国との通商交渉を担当し、トランプ氏と実際に協議した経験があるためだ。テンプル大学(東京)のポール・ネドー准教授(国際関係論)は、次期総裁にとって本当の課題は、効果的な統治だろうと述べた。自民党は内部分裂状態にあり、国会では少数与党のため、政策を実現するには野党に頼らざるを得ない。「物事を実現するには、誰が最も大きな政治的資本を持っているかにかかっている」と同氏は述べる。「最終的には結果を出さなければならない。」

9月22日付フィナンシャル・タイムズ記事「A woman or the next generation: is Japan ready for a different sort of leader? (女性か次世代か、これまでと異なる種類のリーダーを迎える準備が、日本はできているのか)」は候補者を高市氏と小泉氏の二人に絞って以下のように論じる。

自民党は来月、国内初の女性首相、あるいは19世紀以来最年少となる首相を誕生させ、政治史に名を刻む構えだ。いずれが選ばれても、長く政権を担ってきた与党に衰えつつある党勢を再活性化させる「成否を分ける機会」と多くの党員が捉える課題に向き合うことを迫る。過去70年のうちごく一部の期間を除き日本を統治してきた自民党は、保守派とリベラル派に分裂し、支持率を低下させている。月曜日から正式に始まった自民党総裁選の5人の候補者の中で、政治アナリストや国内メディアの世論調査、複数の自民党議員によれば、最有力候補は高市早苗氏と小泉進次郎氏である。

高市早苗氏は60代の強硬保守派で英国の故マーガレット・サッチャー元首相を師と仰ぐ。32年に及ぶ政治キャリアで幅広い閣僚職を歴任し、2010年代には日本の文化力を活用して国際的影響力を高める「クールジャパン」政策を主導した。対立候補はよりリベラルな小泉氏。44歳の農林水産大臣で改革派の元首相・小泉純一郎氏の息子である。2023年には、津波で壊れた福島第一原子力発電所近くの海岸でサーフィンを行い、放射能汚染への懸念を和らげようとした。アナリストらは、この争いが自民党を揺るがすジレンマを浮き彫りにしていると指摘する。保守層を強硬路線から引き戻すか、それとも日本の人口中央値である50.1歳より6歳若い小泉氏の下で刷新を図るかという選択だ。「党は、議会での過半数奪還のためには遅かれ早かれ総選挙が必要で、勝利しなければならないと認識している」と現職の自民党議員は語る。「他の総裁選以上にこれは党の存続をかけた戦いだ」。調査会社ジャパン・フォーサイト創設者のトビアス・ハリス氏は「今年の総裁選は少数与党という現実によって根本的に様相を変えた」と指摘する。政治アナリストらは、この選挙戦をかつての支配政党・自民党にとって屈辱的な「美人コンテスト」と評した。なぜなら、誰が勝利しても、予算や法案を国会で可決させるために直ちに小政党への取り込みを迫られるからだ。

両候補は週末の選挙運動開始にあたり、感情に訴える問題を避け、経済公約に焦点を当てた。故・安倍晋三元首相の信奉者である高市早苗氏は「日本が戻ってきた」と宣言し、日本を「再び活力ある日の出の国」にすると誓った。従来は財政ハト派と見られていたが、今回は「責任ある積極的かつ賢明な支出」を訴え、消費税引き下げは否定しつつ物価上昇への対策は約束した。アナリストらは、昨年行われた総裁選で石破氏に敗れた高市氏が、より現実的な姿勢を示す発言をしていると指摘した。彼女はこれまで、結婚した女性が法的効力を持つ姓を夫の姓とすることを義務付ける法律の改正に反対するなど、保守的な政策を推進してきた。批判派はこうした姿勢が、男女共同参画の画期的な成果として期待された彼女の登用を相殺すると指摘している。

一方の小泉氏は、改革派としての立場や規制緩和への見解を隠しているようだ。両候補とも穏健な立場に近づいている」と述べた。小泉氏は、日本がデフレ時代から持続的な物価上昇時代へ移行する中、「安心と安定を取り戻す」ための賃上げに焦点を当てた。提案にはインフレに対応した所得税控除額の見直し、大規模な公共投資、2030年までにサラリーマンの平均年収を現在の500万円(33,700ドル)からさらに100万円引き上げる方針が含まれる。ポピュリスト政党の重要課題に配慮し、外国人による土地購入の規制強化も約束した。小泉氏は「自民党を再統一し、政治を前進させる」と述べた。

さらに926日付フィナンシャル・タイムズは「Japan needs a vision, not just a leader (日本に必要なのは指導者だけでなくビジョンだ)」と題する社説で、自民党の次期総裁選では候補者は大胆な政策を掲げるべきだと、概略以下のように論じる。

与党・自民党の総裁選で2人の有力候補のいずれかが勝つことは、世界第4位の経済大国である日本の政治において、際立った瞬間となるだろう。104日に44歳の小泉進次郎農水大臣が勝利し首相に任命されれば、1885年に伊藤博文が就任して以来の最年少首相となる。保守派の重鎮、高市早苗氏が勝利すれば、日本初の女性首相となる。しかし、近年の多くの首相が短命であまり成果を上げられなかったことから明らかなように、小泉氏や高市氏が実質的な影響力発揮するのは容易ではない。

昨年10月に公明党との連立で維持していた衆院過半数を失ったことで、新たな自民党総裁は首相の座を確保するため、野党の分裂に頼らざるを得ない状況だ。少なくとも、元首相小泉純一郎の息子である小泉進次郎と、故・安倍晋三首相の側近だった高市早苗には、自民党政治家が政治の風向きを変えるための明確な手本がある。父小泉も安倍も、党と国家に対する明確な個人的ビジョンを提示し、それを実現するために既得権益層と激しく戦う覚悟を持っていた。小泉純一郎は郵政民営化を日本の改革能力の象徴とした。安倍は二度目の首相在任中、デフレ対策の財政支出と金融緩和を自由貿易の促進や女性の職場進出拡大と組み合わせることで経済への信頼を強化した。

しかし自民党の有力候補者たちには、こうした大局的なビジョンが明らかに欠けている。小泉氏は賃上げの推進と物価上昇に合わせた所得税の課税標準引き上げにより所得向上を優先している。これは理にかなっている。国民が現在の緩やかなインフレ率を生活水準の低下と結びつけて認識しないことが重要だ。首相の権威を効果的に活用して企業に賃上げを促し、都道府県に対し現行の最低賃金水準の引き上げをさらに強く求めることも有効だろう。小泉氏が現金給付を公約から後退させたのも正しい判断だ。しかし、これまでの選挙運動では、大胆な新経済政策の輪郭を見出すのは難しい。高市氏については、消費税減税要求を撤回したとはいえ、その財政姿勢はより懸念される。「アベノミクス」の信奉者として、彼女は金融緩和と財政拡大を声高に主張してきた。これは彼女の政治的師匠が掲げた旗艦政策「三本の矢」のうちの二つである。しかしインフレが戻り金利がプラスとなった今、財政の無責任さは正当化されない。高市氏は新たな矢を矢筒に収める必要がある。

経済運営に対する国民の信頼を取り戻すことが自民党にとって極めて重要だ。だが、常に幅広いイデオロギーを抱える党内の相反する衝動を調整することは、日本の首相にとって常に困難な課題だ。就任当初に明確な個人的優先課題を打ち出せなければ、日々の火消しに追われる危険性がある。小泉氏も高市氏も覚えておくべきだ。総裁選で大きなビジョンを示すのは難しいかもしれないが、当選すればさらに困難になるということを。

 

結び:以上のようなメディアの報道や論調について、次の3つの観点から論評してみたい。第1は、総裁選候補者の顔ぶれと当選者の見通しに関する見解、第2は、石破退陣の国内政局における意義、第3は、自民党総裁選が及ぼす国際的影響についてである。

1の総裁選候補者の顔ぶれと当選者の見通しに関して、メディアは5人の候補者について概略を紹介したうえで、有力候補として高市、小泉の両氏を挙げる。ここで注目されるのは、メディアが自民党は保守層の票を取り戻せる右派候補を選ぶべきか、別方向に支持を広げられる可能性のある中道寄りの指導者を選ぶべきかという西側民主主義諸国の既存政党と同様の問題を抱えていると述べ、誰が最も大きな政治的資本を持っているかが決め手となるとの指摘であろう。また対米関係は熟練を必要とし、トランプ米大統領と最も良好な関係を築けるのは誰かと問題提起し、高市、小泉の両氏と茂木氏をトランプ・メガネにかなう人物として挙げているのも注目される。いずれしても首班指名を受けた候補者は、最終的に結果を出さなければならないのはメディア指摘のとおりである。

2の石破退陣の持つ国内政局における意義についてメディアは、3つの重要問題を提起する。一つは、石破辞任が指導者交代期の始まりを意味するのではないかという懸念の表明、あるいは警告である。石破氏が安倍氏以来3人目の「回転ドア」的総裁となり、日本は2000年代にかけての7年間で6人の首相が交代したのと同様の交代期に入ったと述べる。特に新指導者が新政策を打ち出しても継続性がなかったという批判は、後述の国際社会における日本の信頼性毀損という問題との関連もあり、耳を傾けるべき警告である。絶え間ない変化は不安定を意味するのである。

二つ目は、自民党一党支配の時代が終わり、日本の政局が新たな段階に入ったという指摘である。自民党が2回連続の選挙で敗北し、小規模政党との連携を余儀なくされている。自民党主導の政治が終焉し、その支配体制が未踏の領域に突入したのである。このため今回の総裁選は、自民党にとって党勢を再活性化させる「成否を分ける機会」になり、党の存続をかけた戦いとなっている。三つ目は、その自民党が保守強硬派とリベラル派に分裂しているという状況である。高市、小泉両候補は、単に女性候補、次世代候補としてだけでなく、党分裂を象徴する存在ともなっている。

しかし、こうした状況のなか、自民党が支持率低下への対策が最優先課題と考えて守りの姿勢に転じれは、日本の政治から革新とダイナミズムが失われる。単にリセットのボタンを押すだけでなく、人口減少・高齢化問題など山積みの構造的問題に向けて大きな対策の絵を描くことが求められている。高市氏についてメディアはより現実的な姿勢に転じていると述べ、従来は財政ハト派と見られていたが、今回は「責任ある積極的かつ賢明な支出」を訴え、消費税引き下げは否定しつつ物価上昇への対策は約束しているなどと報じている。現実的姿勢への転換は理解できるとしても日々の火消しに追われるのではなく、アベノミクスの信奉者として既得権益層と戦う覚悟をもって第三の矢である成長戦略分野での大胆な新経済政策の提起を改めて期待したい。

3の自民党総裁選が及ぼす国際的影響についてメディアは、自民党の指導者交代は日本だけでなく世界の他の地域にも波及効果をもたらすと論じる。地域の地政学的環境が悪化するなか、日本はアジア太平洋地域で重要な地政学的役割を担っており、影響力拡大を図る中国に対する牽制力と見なされている。石破辞任直前にトランプ大統領と結んだ貿易協定にも多くの不確実性があり、この『トランプ台風』にどう対処していくかという頭の痛い課題も残されている。そのためには、まず国内政局の安定、すなわち安定政権の樹立が必須となる。さもないと、インド太平洋地域における米国との接着剤や架け橋としての日本がその役割を果たせなくなる可能性がある。単に対米協調を唱えるだけではすまない、日米同盟を揺るがす問題に発展しかねない。

以上、新総裁に期待されるのは、第一に日本が抱える構造的問題に積極果敢に取り組む姿勢を鮮明に打ち出し個人的優先課題を明確にすること、第二に政策の継続性と日本の国際的信頼の維持確保のために安定政権を樹立することである。新構造改革プランと安定政権、この二つが新総裁にまず求められる課題であろう。 以上

 

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主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、THE GUARDIAN(ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

バベル翻訳専門職大学院 国際金融翻訳(英日)講座 教授   前田高昭

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